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        interview 03

        自分を客観視し、より良く進化できれば、
        人生は深められる

        Marina Kanno | 菅野茉里奈

        ベルリン国立バレエ団デミソリスト

        バレエは身体芸術。完璧かつ華やかな舞台を支えるのは、ハードなレッスンを通じて得た強くしなやかな身体と精神だ。菅野茉里奈さんがバレエに情熱を注ぎ始めたのは、わずか4歳の頃。その後、16歳でロシアのバレエアカデミーに単身留学し、卒業後はウィーン国立バレエ団に入団。2007年に移籍したベルリン国立バレエ団で、現在はデミソリストとして活躍する。若くして親元を離れ一人世界へ飛び立った彼女は、パンデミック下で「自分を見つめ、弱さを受け入れること」の大切さを学んだと振り返る。バレエ団の拠点であるベルリン国立歌劇場のスタジオで、変化する世界と自身の人生、メンタルヘルスについて話を聞いた。

        ―新型コロナウイルスによるパンデミックを機に、さまざまなことが加速度的に変化しました。菅野さんご自身にはどのような影響がありましたか?

        4歳でバレエに出会い、自分をひたすらに信じて突き進んできましたが、パンデミックで舞台公演が禁止され、バレエができなくなったことで、完全に自分を見失ってしまいました。それまでも、人生経験も浅く何もわからない年齢で親元を離れ、海外留学したので、失敗や苦しい思いを何度も経験してきました。自分にも周りにも厳しい性格ゆえ、誰かに弱音を吐いたり心を開くことができなかったんです。メンタルに問題を感じても深く掘り下げず、自分の弱みに向き合うことなく隠して生きてきました。それが、パンデミックを機に露呈されてしまいました。

        -学生時代から多くのプレッシャーと闘ってこられて、精神的にも相当な負荷があったのではないかと思います。そこからどのようにして次のステップを見つけたのでしょうか?

        自分自身と向き合わなければこれ以上先に進めないと思い、心理学の本を読んで自身の精神に対する理解を深めました。自分の気持ちを書き出すジャーナリングの実践を通じて、抽象的な悩みやイライラの根本を客観視できるようになり、心身も安定していきました。また、身体的にも成長したいと思い、自宅にピラティスマシンを導入してトレーニングを始めました。私がバレエを習っていた時代は、残念ながらその裏側の厳しさをありのままに語ってくれる人がいなかったので、こうした心身のケアは全て自己流で行うしかなかったんです。弱さやコンプレックスも全て自分自身なのだと認識することで、過去の自分から解放される。それが、最近行き着いた答えです。

        -心と体はつながっていると考えますか?

        日々、そう感じています。精神状態が良ければ、疲れていても体は動くし、体は元気でも精神状態が悪ければ、動けなくなってしまいます。心身の両方を見つめてケアすることで、良いバランスを保つことができます。

        -バレエの現場ではどのような変化を感じますか?

        バレエダンサーは、身体的にも精神的にも一流のスポーツ選手と同じような強さが必要な仕事です。でも、特に日本では、習い事や趣味としてのイメージが強いためか、ダンサーというと煌びやかな側面にばかり注目が集まり、そのハードさはあまり知られていないように感じます。一方、最近はダンサーにもフィジオセラピストがつき、体のケアをしてもらえるようになってきました。そうしたことも奏功して、若いダンサーには自己肯定感を高く持っている人も多く、バレエとの向き合い方がヘルシーな方向へ変わってきたと感じることが増えました。私に関しては、自分だけではなく自分の所属するバレエ団をより俯瞰で見て、教育やサポートの役割も果たしていくことで、他のダンサーの幸福が自分にも喜びを与えてくれることを学びました。

        ―最近では日本でもメンタルヘルスの重要性が話題に上がるようになりました。海外でバレエを続ける中で、日本人としての意識に何か影響はありましたか?

        海外のバレエダンサーと一緒に仕事をしていると、日本人は感情を声や態度で伝えるのが下手なんだと感じることが少なくありません。声高に主張しないこと=日本人の美学という側面もあるかもしれませんが、思いを溜めすぎてはコミュニケーションになりません。自分の考えや気持ちを他者とシェアし合ってこそ自分の道が開けていくのだと感じますし、生きる上で大切な要素だと思います。

        ―菅野さんから今を生きる女性に伝えたいことはありますか?

        私は自分の経験から、責任を取ることができて初めて人生は自由になるのだと気がつきました。結婚して家族を持ち、マイホームを手に入れ仕事を全うすることが正しい生き方だと信じていた時代もあったと思いますが、人生は本当に短いし、私たちは他者のためである以前に、自分のために生きている。誰がつくったかもわからない社会規範や固定観念に振り回されて、何のために仕事をし、生きているのかわからなくなってしまうのではもったいないですよね。周りに流されるよりも、一度立ち止まって自分を見つめ、好きなことや、やりたいことをやって、言いたいことを言いながら、人生を楽しむ。私自身、そうやって生きていきたいと思っています。