Emergency Jacket
NP11900 / ¥48,000
水に浮くほどの軽さにも関わらず、超高強度、耐摩耗性に優れたダイニーマ製のクライミングシェル。山岳地帯でのマルチピッチクライミングなど、天候が悪化しても後退できない状況で雨や風からクライマーを守るように設計された。パンツのポケットに連結・収納ができる。フードは片手でアジャスト可能。Summit Big Wall Kitに対応する。
Ventrix Hybrid Hoodie
NY31921 / ¥30,000
身頃と上腕部に中綿を入れた軽量で通気性のあるアクティブインサレーション。寒冷なコンディションで着用したまま登り続けることを想定し、脇と背面にはストレッチ素材を採用。背面の中綿にスリットを入れてより動きやすく設計されている。内側の胸ポケットに本体を収納できる。
超軽量でストレッチ性を備えたウインドシェルジャケット。Summit Big Wall Kitに対応し、ジャケットをパンツのポケットに連結・収納可能。壁の中での不意の落下や風での消失を防ぐ。パンツは酷使に耐える高強度のストレッチ素材を採用。厳選装備だけで極難の壁に挑むクライマーのための一着。
Cinder Pack 55
NM61700 / ¥25,000
クライミングアスリートの意見を取り入れて開発された、ワンデイフリークライミングに適したギアバッグ。防水性のあるタフな1000Dナイロンを採用。クイックドローなどギアを詰め込みやすい自立式で、バックルは壊れにくい金属製。フロントのアルミフックはボトルオープナーにも。
「朝キャンプ場を
歩いているだけで幸せだなーって。
越えられてよかった壁だなと思います」
自分の手と足だけで
1000mの大岩壁を登る。
フリークライミングでの「ノーズ」トライ。
ビッグウォールクライミングとは?
まず思い浮かぶのはヨセミテ国立公園にあるエルキャピタン。世界最大級の一枚岩で標高差1000mあります。そんな大きな壁を様々な手段を使いながらも自分たちの力だけで登るのがビッグウォールクライミングです。一般的なクライマーが壁の中で1泊以上しなければいけないようなものからビッグウォールというジャンルになると思います。
エルキャピタンは、一般的なクライマーなら一番登りやすいルートでも3泊4日ほどかかります。生活用具を全部自分たちで荷揚げしながら登っていく。例えば、岩に吊るして寝るためのポータレッジ、シュラフ、食料、燃料、そして水。ビッグウォールでは水が一切ないのでかなり重要です。荷物の半分くらいを占めます。荷物は2人でだいたい50kg。その荷揚げがすごい大変なんですが、それをなしにはビッグウォールをちゃんと登ったとは言えないんじゃないかな。気象条件や生活術、疲労度合いなどを全部自分たちの手でコントロールして、さまざまな困難を乗り越えながら目標のラインを登ります。
ビッグウォールでの1日
壁での生活はシンプルです。朝起きたらシリアルバーとかを食べながらコーヒーを飲んで登り始めます。アルファ米もいいんだけど、水分が入っている缶詰も効率が良くて、トルティーヤに挟んで食べたりしますね。夜になったら適当なところにポータレッジを吊るして、セルフビレイを取ったまま寝ます。生活全般を足場の悪い壁の中でやるんです。
そうそう、エルキャピタンでは排泄物を捨てたら罰金です。みんな持ち帰ることになっていて、継続的に快適なクライミングができるようにしています。携帯トイレを密閉容器に入れて一緒に荷揚げする。それが重い!(笑)結構大変です。
ビッグウォールフリー
ロープなどの道具は安全確保のためだけに使うけど、それを掴んで登るんじゃなくて自分の手と足だけで岩を登る。そういうフリークライミングを長年やってきて、それを1000mのおっきな壁でできたらすごい楽しいだろうなと。それがビッグウォールフリークライミングです。これは人間にはできそうにないんですよ。エイドクライミングならすぐ抜けられるけどフリーでやるのは負荷が全く違う。別次元のトライです。僕らが普段やっているクライミングが大きな壁でどれだけ通用するのか試してみたかった。それが今回の「ノーズ」のトライでした。
「ノーズ」(29ピッチ、5.14a)
ヨセミテバレーに入ってきて目の前に1000mの壁がドーンと現れる光景は、やっぱりいつ見ても感動します。「ノーズ」はエルキャピタンの一番目立った右側のカンテ。ここを登らずしてどうするんだっていうラインです。だからそこをトライするっていうのは、すごいドキドキすることです。
「ノーズ」はエルキャピタンの初登ルートで、エイドクライミングでは一番再登者を迎えています。1993年にリン・ヒルが初めてフリークライミングだけで成功しました。それはクライミングの歴史を塗り替える大偉業でした。でも再登者が10年以上いなくて、僕がトライする前までにフリーで登った人は4人しかいなかった、まさに伝説のルートです。2016年と2017年にトライしました。
「グレートルーフ」(20ピッチ目、5.13d)
核心ピッチの一つ「グレートルーフ」は、2016年は濡れていてトライさえできなかった。翌年トライしましたがクラックが細くて指が入らないですよ。リン・ヒルはすごくちっちゃくて指も細い。彼女の細い指を持ってしてなんとか登れる課題で男には無理!と言わせちゃうルートです。しかも足がすごく悪い。庇状になってるんで後ろ側を抑えたりいろいろなテクニックが必要でした。トライできるのは天候と食料的に3日間だけ。最終日にやっと本気トライにこぎつけたんですが今にも嵐が来そう。自分にとって極限のことをするのはすごく負荷が高い。疲れもあるしかなり寒かった。ここで決めきゃ後がないと言うところまで追い込まれていました。「グレートルーフ」を完登できた時は本当にギリギリ、今までやってきたフリークライミングでも最上位のトライでした。完登後あんなに絶叫したのは始めてでしたね。
「チェンジングコーナー」(25ピッチ目、5.14a)
フィジカル的に一番難しかったのは「チェンジングコーナー」。一年目は取りつきにデポした食料が他のクライマーやカラスに荒らされて食事もろくにできない状態でトライしました。自分にとって本当に難しいクライミングは体調も栄養も休養もしっかり摂らないとできない。でもそれをやらせてくれないのがビッグウォールです。2年目に体調を整えてトライすると1日目でムーブはバラせて、かなり光が見えました。でも嵐がきてトライできなくて。帰国の前々日、気温が下がる夕暮れを待ってトライして、最後の最後でなんとか登れました。
超えられた壁
ビッグウォールフリーって地上からやるのとは別で、時間的制約とか厳しい気象条件の中でやらなきゃならない。「ノーズ」は常にプレッシャーに支配された、心を削られるようなトライでした。でも完登した後は、朝キャンプ場を歩いているだけで幸せだなーって。また新しいことができると言う開放感が湧き上がってきました。越えられて本当によかった壁だなと思います。
YUSUKE SATO
1979年、山梨県生まれ。山岳ガイド。フリー、アルパイン、沢登りなど幅広いジャンル全てにおいて世界トップレベルで活躍するオールラウンドクライマー。2018年はインドヒマラヤの難峰セロ・キシュトワール北東壁を初登。