THE NORTH FACE
2018 Spring and Summer
behind the scene ASAMI USUDA Actress IN KYOTO & NARA Vol.1

待ち合わせは、早朝の品川駅だった。オーバーサイズのジャケットを着用し、リュックひとつという軽装で現れた臼田あさ美。どこかインドアなイメージのある臼田だったが、旅慣れた姿に少し驚いた。今回の目的地は、京都と奈良。古き良き伝統が息づく古都への1泊2日の旅。
「えっ! 荷物少ないですか? そんなことないですよ。でも、個人的に旅は身軽なほうがいいと思っています。旅の目的がオシャレをして素敵なレストランに行きたいとかであれば違うんでしょうけど。私は旅慣れていることもあってか、リュック一個で、多分一週間はいけると思いますよ。旅先によっては、昼は暑くても夜はものすごく冷える場所もあるので、オシャレをするというよりは、これとこれを重ねたら暖かいとか、かさばらないから丸めて入れておこうとか、そういうことを出発前日に考えながらパッキングを楽しんでいます。  ひとり旅をしているイメージはあまりないかもしれないですけど、やっぱり退屈なのは嫌なんです。東京にいると、仕事を含め基本的な生活のペースって同じになりがちじゃないですか? 会う友達も、それに行く場所もある程度決まっているとなると、“どこか”知らないところへ行きたいって気持ちになります。実際にその“どこか”へ到着してから思うのは、特に国外となると、現地での一つひとつの判断が重要になってくるということ。今どこに行けばいいのかとか、今何を食べるのがいいのだろうとか。外国語のメニューだと、どれが美味しいのか、それ以前に何が書いてあるのか分からないこともありますから。
でも、その“チョイス”を楽しんでいる自分がいるんです。この前行ったパリ旅行でも、物価が高いから、どのパンを買えばいいんだろう? とか結構悩んだりもしました。ある意味、試されている。普段東京の生活ではあまり気にならない、食べるとか、寝るといったすごくシンプルなことを旅に出ることによって改めて考えさせられる。それは、大きく言えば自分と向き合っていることに繋がると思うんです。  私、台湾が好きで、すでに5〜6回は訪れているんですけど、いまだに台北に滞在したことがないんです。台中や台南とか、南の方にいつも行っていて、そこには友達もたくさんいるんです。またあの人に会いたいとか、暑い日にあそこのかき氷が食べたいなぁとか思ったり。台湾だけに限らず、あそこで会ったあの人にまた会って話をしたいなとか、あそこで食べたあれがおいしかったからまた行きたいなっていうことが増えることが、本当の豊かさなのかなと私は思います。それこそ、今はSNSが流行っていますし、技術も進歩して、日本にいながらあたかも旅をしたかのように感じることができるようになりましたけど、やっぱり身銭を払ったり、そこでちょっとだけ失敗したり、または苦手だった食べ物が旅先ではじめて美味しく感じられたりといった実体験にはかなわないと思うんです。
 私にとって一番印象深い旅は、5年前に行ったインドひとり旅。お仕事をしていると、海外へ行く機会はあるのですが、現地を案内してくれる方がいらっしゃったり、マネージャーを含め、ケアをしてくれる方がいるので、『旅しました!』という感じとはまた違うんです。けれど、このインド旅行は、本当にたったひとりで。たまたま2週間休みができたので、急に思い立って出発しました。でも、そんな軽い気持ちで行ったのが大きな間違いでしたね(笑)。そもそも英語以前に、常識が通じないというか……。電車で移動していたのですが、駅には駅名さえ書かれていないし、電車もまったく来ない。当然、時刻表もなくて、この電車に何分乗ったらどこに着くのかもものすごく曖昧です。寝台特急にも乗りましたが、目的地まで7時間で着くって言われていたのに10時間かかって。車内ではずっと不安でした。インド滞在中は、その日の出来事を綴った日記を毎日書いていました。数日経った後に、“なんとかなるでしょ”と振り切って考えるようになっていましたが、それでもなんとかならない瞬間がたくさんありました。だけど、『来るんじゃなかったぁ〜』とは一度も思いませんでしたね。だって、インドでの経験があるからこそ、ほかの国へ行くときも、それに自分の国ですらさらに楽しく思えるようになりましたから。
 今回訪れた京都はよく仕事で来ていますが、奈良は小学校の頃の修学旅行以来でした。いい意味で派手じゃない。ポップじゃないっていうか……。奈良も京都と同じように観光地ですし、実際に奈良の街を歩いていると海外から来ている観光客をたくさん見かけました。けれど、人に染められていない部分がまだ残っているというか、自然な感じが残っているところにすごく魅力を感じました。それこそ、当時小学生だった私は、奈良の楽しみかたをまだ知らなくて退屈に思っていたけど、歳を重ねてようやく奈良の魅力に気づくことができたように思います。年齢を重ねることって素晴らしいことだなぁと思うことができました。  昔と比べると、行き当たりバッタリの旅行が許されるようになったと思います。それこそ、はじめて海外旅行へ行ったときは、一時間毎に計画を立てたりしていたけれど、当然そんな計画通りに物事が進むわけがなく、それをストレスに感じていました。でも、逆に今は自分の想像だけで収まらないのが、旅の楽しみになっているというか。想像を裏切られれば裏切られるほどおもしろい。だから、思い通りを望まなくなりましたね(笑)」
臼田あさ美 | 1984年10月17日生まれ、千葉県出身。モデルとしてデビュー後、女優として活動を開始。映画では『色即ぜねれいしょん』『桜並木の満開の下に』『愚行録』など。ドラマでは、大河ドラマ『龍馬伝』『問題のあるレストラン』『家売るオンナ』『銀と金』などの話題作に出演。主演映画『南瓜とマヨネーズ』が公開中。映画『終わった人』6月9日公開予定。
出演 臼田あさ美/写真 金川晋吾/衣装 森上摂子/ヘアメイク 根本亜沙美/デザイン 前田晃伸/編集 kontakt

THE NORTH FACE
2018 Spring and Summer
behind the scene ASAMI USUDA Actress IN KYOTO & NARA Vol.1

待ち合わせは、早朝の品川駅だった。オーバーサイズのジャケットを着用し、リュックひとつという軽装で現れた臼田あさ美。どこかインドアなイメージのある臼田だったが、旅慣れた姿に少し驚いた。今回の目的地は、京都と奈良。古き良き伝統が息づく古都への1泊2日の旅。
「えっ! 荷物少ないですか? そんなことないですよ。でも、個人的に旅は身軽なほうがいいと思っています。旅の目的がオシャレをして素敵なレストランに行きたいとかであれば違うんでしょうけど。私は旅慣れていることもあってか、リュック一個で、多分一週間はいけると思いますよ。旅先によっては、昼は暑くても夜はものすごく冷える場所もあるので、オシャレをするというよりは、これとこれを重ねたら暖かいとか、かさばらないから丸めて入れておこうとか、そういうことを出発前日に考えながらパッキングを楽しんでいます。  ひとり旅をしているイメージはあまりないかもしれないですけど、やっぱり退屈なのは嫌なんです。東京にいると、仕事を含め基本的な生活のペースって同じになりがちじゃないですか? 会う友達も、それに行く場所もある程度決まっているとなると、“どこか”知らないところへ行きたいって気持ちになります。実際にその“どこか”へ到着してから思うのは、特に国外となると、現地での一つひとつの判断が重要になってくるということ。今どこに行けばいいのかとか、今何を食べるのがいいのだろうとか。外国語のメニューだと、どれが美味しいのか、それ以前に何が書いてあるのか分からないこともありますから。でも、その“チョイス”を楽しんでいる自分がいるんです。この前行ったパリ旅行でも、物価が高いから、どのパンを買えばいいんだろう? とか結構悩んだりもしました。ある意味、試されている。普段東京の生活ではあまり気にならない、食べるとか、寝るといったすごくシンプルなことを旅に出ることによって改めて考えさせられる。それは、大きく言えば自分と向き合っていることに繋がると思うんです。  私、台湾が好きで、すでに5〜6回は訪れているんですけど、いまだに台北に滞在したことがないんです。台中や台南とか、南の方にいつも行っていて、そこには友達もたくさんいるんです。またあの人に会いたいとか、暑い日にあそこのかき氷が食べたいなぁとか思ったり。台湾だけに限らず、あそこで会ったあの人にまた会って話をしたいなとか、あそこで食べたあれがおいしかったからまた行きたいなっていうことが増えることが、本当の豊かさなのかなと私は思います。それこそ、今はSNSが流行っていますし、技術も進歩して、日本にいながらあたかも旅をしたかのように感じることができるようになりましたけど、やっぱり身銭を払ったり、そこでちょっとだけ失敗したり、または苦手だった食べ物が旅先ではじめて美味しく感じられたりといった実体験にはかなわないと思うんです。  私にとって一番印象深い旅は、5年前に行ったインドひとり旅。お仕事をしていると、海外へ行く機会はあるのですが、現地を案内してくれる方がいらっしゃったり、マネージャーを含め、ケアをしてくれる方がいるので、『旅しました!』という感じとはまた違うんです。けれど、このインド旅行は、本当にたったひとりで。たまたま2週間休みができたので、急に思い立って出発しました。でも、そんな軽い気持ちで行ったのが大きな間違いでしたね(笑)。そもそも英語以前に、常識が通じないというか……。電車で移動していたのですが、駅には駅名さえ書かれていないし、電車もまったく来ない。当然、時刻表もなくて、この電車に何分乗ったらどこに着くのかもものすごく曖昧です。寝台特急にも乗りましたが、目的地まで7時間で着くって言われていたのに10時間かかって。車内ではずっと不安でした。インド滞在中は、その日の出来事を綴った日記を毎日書いていました。数日経った後に、“なんとかなるでしょ”と振り切って考えるようになっていましたが、それでもなんとかならない瞬間がたくさんありました。だけど、『来るんじゃなかったぁ〜』とは一度も思いませんでしたね。だって、インドでの経験があるからこそ、ほかの国へ行くときも、それに自分の国ですらさらに楽しく思えるようになりましたから。  今回訪れた京都はよく仕事で来ていますが、奈良は小学校の頃の修学旅行以来でした。いい意味で派手じゃない。ポップじゃないっていうか……。奈良も京都と同じように観光地ですし、実際に奈良の街を歩いていると海外から来ている観光客をたくさん見かけました。けれど、人に染められていない部分がまだ残っているというか、自然な感じが残っているところにすごく魅力を感じました。それこそ、当時小学生だった私は、奈良の楽しみかたをまだ知らなくて退屈に思っていたけど、歳を重ねてようやく奈良の魅力に気づくことができたように思います。年齢を重ねることって素晴らしいことだなぁと思うことができました。  昔と比べると、行き当たりバッタリの旅行が許されるようになったと思います。それこそ、はじめて海外旅行へ行ったときは、一時間毎に計画を立てたりしていたけれど、当然そんな計画通りに物事が進むわけがなく、それをストレスに感じていました。でも、逆に今は自分の想像だけで収まらないのが、旅の楽しみになっているというか。想像を裏切られれば裏切られるほどおもしろい。だから、思い通りを望まなくなりましたね(笑)」