「感謝の気持ちを持つ余裕が、
しなやかな生き方を作る」
高校3年生で、イギリスの名門「イングリッシュナショナルバレエスクール」に留学したウェザフォード美輝さん。卒業後もヨーロッパで踊りたくて、さまざまなバレエ団のオーディションを受けた。EU諸国の国籍以外のダンサーに与えられる契約は少なく、なかなかチャンスを掴めなかった。
「他の外国人のように、積極的に自分をアピールするコミュニケーション能力もなくて…。いろんな国に行ったはずなんですけど、当時の記憶がほとんどないんです。きっと苦しかったんでしょうね。スコティッシュバレエに呼ばれた時は本当に嬉しかったんですが、次のシーズンのコントラクトはもらえず、いよいよ自分の力不足を感じました。私の実力は、自分から『仕事をください』とお願いするレベルだったのに、黙っていてもあちらからくれるだろうという、若さゆえの傲慢さや頑固なところもありました」
凝り固まった心をしなやかにしてくれた、振付師の言葉。
帰国後はバレエ団に所属せず、フリーの道を選んだが、ヨーロッパと日本の違いに戸惑い、6歳から始めた大好きなバレエを辞めようとさえ思った。
「この見た目なので、あっちにいれば私は“アジア人”で、日本では“外人”に見られるんです。『その雰囲気だと日本で踊るのは無理』と言われても、どう受け止めればいいのか消化できず、フィットできず、バレエに関係ないバイトをしたこともあります。その時はまったく踊ることが楽しくなかったんですよね。でも、辞めたところで、私にできることはバレエしかないんです」
転機が訪れたのは、20代前半でダンサーとして出演したあるヘアショー。自分自身に納得できず悶々としていたウェザフォード美輝さんの心を、振付師が解き放ってくれた。
「『流されてもいいのよ』と言ってくださったんです。それまで、“ダンサーとしてこうあるべき”という意識に縛られていたんですが、私を必要としてくれる方がいるのなら、その方をもっと頼り、作ってくださる流れに乗せていただいてもいいんじゃないか。そう思えるようになったきっかけとなった言葉なので、鮮明に覚えています」
踊れること、紹介してくれる人、子供…すべてに感謝。
流れに身を任せてみる――。
心に背負っていた重荷を下ろし、気持ちがやわらかになり、またバレエを楽しめるようになった。教える子供たちにも、まずは楽しむことを伝えている。できることが増え、美しく踊れるようになれば、自信になる。生徒たちの喜びは、ウェザフォード美輝さん自身の喜びでもある。
「気持ちが離れていた時期もありますが、ここまで、踊り続けられているのは、ここまでいろんな方々が、さまざまな仕事を紹介してくださり、繋いでくださったから。そのことに感謝し、何を求められているのか最大限汲み取って、努力する。それが、私にとってしなやかな生き方に繋がっていくように感じています」
1年前、出産し、新たなライフステージへ。なかなか自分の時間を作ることが難しく、集中してレッスンを受けられなかったり、仕事と子育てのバランスに悩んでいる最中。
「でも、すべてに感謝することを忘れさえしなければ、せかせか気持ちが焦ったりせず、時間の流れもゆったりしていくように感じます。太陽の光や風の気持ちよさに気づく余裕も生まれます。子供には、私にとってのバレエのように、ずっと続けていける好きなことを見つけてほしいですね」
ウェザフォード美輝
6歳よりバレエを始め、国内のバレエコンクールで多数の賞を受賞。その後渡英しイングリッシュナショナルバレエスクールを卒業。イングリッシュナショナルバレエ、スコティッシュバレエで踊る。帰国後、フリーのダンサーとして数多くの舞台にソリストとして参加。CM、雑誌、イベントなど様々な分野で活躍中。