アクティビティウエアといえば、吸湿速乾性や軽量性、伸縮性にすぐれたポリエステルなどの化学繊維が選ばれがち。優れた機能性を発揮するものの、着心地の面では天然繊維に劣り、リラックスシーンではコットンやウールといった天然繊維が好まれる……というのが一般的な傾向だ。アクティビティにおいても、快適な着心地のウエアを着用することはできないか――「Goldwin」が探し出したのは、極上の肌触りと高い機能性を兼ね備えるハイブリッド“糸”。日本のものづくりの技術が編み出した“糸”で高機能アクティビティウエアを仕立てるまでの背景を追いかけた。
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化繊を選ぶか、ウールを選ぶか。「アクティビティ時に着用するウエアにどんな素材を選ぶのか」問題は、長くランナーやトレイルランナー、ハイカーを悩ませてきた。メリノウールは肌触りや消臭性、汗冷えのしにくさというメリットで多くのハイカーが支持するものの、速乾性や軽量性、耐久性では化学繊維が優れている。こうした双方の長所を活かすべく、多くのメーカーはウールと化学繊維をミックスした糸で仕立てた混紡素材を採用しているのだが、ウール・ポリエステル混の素材は毛玉になりやすい、肌触りはポリエステルと変わらないという弱点があった。
「屋外のアクティビティを楽しむユーザーに、リラックス・シーンで着用する天然繊維のウエアと同じくらい着心地のいいウエアを提供したい。そんな思いで、僕たちの理想をかなえる素材を探していました」と言うのは、Goldwin事業部の企画グループでパフォーマンスウエアのMDを担当する小林佑哉。そんな小林たちは、岐阜県の製糸メーカーで理想的な素材に出合う。それは「NIKKE AXIO®」という名前の糸だった。
「NIKKE AXIO®」は、ウールの繊維束の内側にらせん構造でポリエステル繊維を包み込むという、全く新しい手法で生まれた紡績糸(2種類以上の異なる素材を組み合わせた糸)。従来のウール・ポリエステルの交撚糸は、ウールの繊維束の外側にポリエステル繊維を巻き付けて交撚させていたが、「NIKKE AXIO®」は糸の表面にポリエステルが表れないため、極上の肌触りや質感はウールの風合いそのまま。ウールの内側にポリエステルを内包するので、汗冷えしにくい、高い吸放湿性、消臭性というウール由来の機能性を備えるだけでなく、ウールのみの糸に比べて速乾性や伸縮性、耐摩耗性が優れ、軽量性に富むというポリエステルのメリットも併せ持つ。つまり、ウールとポリエステルの長所を併せ持ちつつ、しかも肌触りや毛玉といった従来のウール混紡糸の弱点を解決したハイブリッドな糸なのだ。
「従来のウール・ポリエステルの交撚糸は、糸の表面にポリエステル特有のカサつき感が表れ、元のウール糸に比べると着心地が損なわれていました。ウールの繊維束の芯にポリエステルを入れることはできますが、ウールとポリエステルが分離しやすいという欠点がありました。『誰もやったことがない試みを』とチャレンジしたのが、このらせん構造です。これにより、ウールと化繊のメリットを併せ持ち、かつ、伸縮性に優れ、毛玉ができにくい
という、繊維構造による長所をも備えた糸になりました」(「NIKKE AXIO®」を開発した、日本毛織株式会社の岐阜工場長・安田智則さん)
「汗冷えしにくい、臭わないというメリットにより、近年、ハイカーの間ではメリノウールで仕立てたベースレイヤーが一般的になりつつあります。このようなウール由来の特性に加え、吸湿性や吸汗速乾性を備えた『NIKKE AXIO®』は、登山やトレイルランニングのような長時間のアクティビティ用ウエアに最適の糸だと考えました。そこで、この糸で製編したニット生地を使って『Goldwin』らしいアクティビティウエアを開発してみようということになったのです」(小林)
岐阜の製糸工場で紡績された「NIKKE AXIO®」は、毛織物の一大産地として知られる尾州産地のニット工場に送られる。世界3大毛織物産地の一つに数えられる尾州産地には、天然繊維から化繊まで、あらゆる糸の扱いに長けているニッターが集まっているが、そうした工場の一つでニット生地に仕立てられる。
「編みのプロの目から見て、他のウール糸に比べて『NIKKE AXIO®』はウールの毛羽立ちが少ない。さらにポリエステルならではの強さもあります。糸自体が強いので丸編み機にかけても糸切れが少なく、効率よく編みあげることができます」(宮田毛織工業・宮田貴史さん)
「NIKKE AXIO®」で編み上げた無染色のニット生地は、同じ尾州産地にある染色加工工場で染色加工と、風合いを整えてさまざまな機能をもたせる整理仕上げが行われる。生地を染色する工程で特殊な薬品を使い、吸水速乾加工や防縮加工、ピリング(毛玉)防止加工を施す。
「本来のウールには撥水機能があるので、液体の汗を吸うまで少し時間が必要です。そこで吸水速乾加工を施します。『NIKKE AXIO®』で仕立てた生地はポリエステルを内包していますが、ウールに対しては前処理段階、ポリエステルに対しては後処理段階という二段階での加工を施すことにより吸水速乾機能を付与するのです」(染色整理加工を担うソトーの日化工場長・奥村直規さん)
染色・整理加工を施したら開反(筒状のニットを開く)したニットを乾燥機にかけ、反物の幅を一定になるよう調整。さらに、圧力と高温の蒸気にかけるデカタイジングという尾州産地の工場ならではの工程で、表面をならす。この一手間を経ることで、生地表面になめらかな光沢が生まれ、型崩れもしにくくなるのだ。
こうして完成した生地を使った製品が、「Goldwin」の「ウールロングスリーブティーシャツ」「ウールティーシャツ」。優れた着心地と高い機能性だけでなく、色褪せのしにくさ、洗濯時に収縮や形状変化がないこと、耐ピリング性・耐久性といった品質においては、ザ・ウールマーク・カンパニーが定める厳しい基準をクリアし、高品質なウール製品を証明するグローバルな認証「ウールマーク」を取得しており、手入れが容易である点も含めてアスリートたちから支持されている。
「天然繊維と化繊のいいとこどりをした『ウールティーシャツ』が大好きです。肌に触れた感触、高い通気性や温度調節機能はウールそのもの。けれども、アクティビティ時に身体の動きを妨げない伸縮性の良さには化繊のメリットを感じます。なによりも、洗濯機にがんがんかけても型崩れせずへたらない!季節を問わずハードに動きたい僕にとって、完璧なランニングシャツなんです」(ディラン・ボウマン/プロトレイルランナー、レースディレクター)
「ウールのような天然素材で作られたシャツは、肌触りが柔らかなうえ、寒い時はあたたかく、暑い日には涼しく身体を保ってくれるから、ランニング時には欠かせないアイテム。このティーシャツはウールそのものの着心地と機能を備え、かつ化繊の軽量さや耐久性を備えているから、天候が目まぐるしく変わる山のなかで長時間の行動を強いられるトレイルランニングには最強だと思う。数日間を費やすラントリップや長距離のレースでは自分の汗の臭いが気になるシーンが少なくないから、消臭性が発揮される点もいい。気持ちよく走れることが、僕にとっては前に進むモチベーションになるんだ」(ゲディミナス・グリニウス/トレイルランナー、パーソナルコーチ)
第一線で活躍するアスリートたちも虜にする、「NIKKE AXIO®」製メリノウールシャツ。もちろん小林たち開発チームも、オンオフを問わずこのシャツを愛用中。特に細かな体温調節が必要になるこれからの季節、このシャツは真価を発揮する。
「速乾性や通気性に優れているので、夏でもウール素材をさらに快適に着ることができ、ランニングやトレイルランニング、トレッキングなどのシーンに最適です。日本のものづくりの高い技術が生み出した着心地を、ぜひフィールドでお試しください」(小林)