ライフスタイルに雪山を感じ発信していく大人たちのクロス×トーク
2016.06.10
約50年間スキーウエアを作り続け、高度な技術を駆使し信頼できる製品を送り出してきたブランド・GOLDWIN。作りたいものを作る “ものづくり” へのこだわりがつまったスキーウエアに加え、ファッションブランドMARKAWAREのデザイナー・石川俊介氏を迎えたライフスタイルラインを今年からスタート。高い機能性を持ったスマートなデザインは、雪山を感じながらライフスタイルを楽しむ大人たちにぴったりのアイテム展開となっている。FEATURES第1回目は、そんなアクティブでスタイリッシュに人生を楽しむ大人なオトコたちのクロストーク。
photos: Takashi Akiyama text: Rie Watanabe
プロフィール
<左>
GOLDWIN商品企画
Gen Arai
新井 元
1967年9月20日生まれ
GOLDWINに1991年入社。商品企画職として取り扱いブランドでもあるTHE NORTH FACEといったアウトドアブランドにて20年以上に渡り商品企画に携わる。4年前より、スキーブランド・GOLDWINの商品を担当。今シーズンより、自らの経験を活かし、ライフスタイルにフィーチャーした新たなライン展開に挑む。
<中央>
写真家
Hiroya Nakata
中田寛也
1974年7月17日生まれ
武蔵野美術大学油絵科卒業後、ペインターとしての活動をはじめるが、徐々に写真家へと移行。幼い頃から競技スキーなどで親しんでいた、雪山をフィールドにスキーカメラマンとして活躍。ライディング写真をはじめ、自然の美しさを切りとった作品を残している。
<右>
MARKAWAREデザイナー
Shunsuke Ishikawa
石川俊介
1969年7月25日生まれ
都会的なエッセンスとカジュアルさが表現された、ファッショニスタたちから絶大な人気を誇るMARKAWAREのデザイナーとして活躍。今シーズンよりGOLDWINのライフスタイルラインのデザイナーとして商品企画に参加。私生活では毎月1週間は群馬・嬬恋村の小屋にこもったりするなど、生粋のアウトドア好きとしても知られる。
変化するものとしないもの
ユーザーを刺激する“ものづくり”への思い
新井:中田さんは競技スキーをやっていたからわかると思うんですが、スキーのウエアって競い合うことから生まれているから、パフォーマンスが美しく見えるように、きらびやかで目立つものが中心となっていますよね。僕自身はスキーを経験してきて、仕事でアウトドアブランドをやるようになってからは、ゲレンデではなく山へ入ることが多くなったんです。あの静寂な時間がたまらなく好きで……。だけど、またGOLDWINというスキーブランドに関わるようになって、久しぶりにゲレンデを滑ったら、50歳を前に技術的な向上にも欲がでてきてすごく楽しいんですよ。雪山を登っても、帰りはゲレンデを滑り下りることが多いわけだし、さまざまな角度からスキーを見ていて、本質的なものは一緒なんです。だから、“見せもの“ ではなくて、遊びの幅が広がるようなアイテムを作っていきたいと思ったんですよ。
中田:そうですね。派手さが勝るウエアは本当に多くて…… 。この前オリンピックを見ていてレスリングのウエアなんかは、やっぱりパフォーマンスを重視しているから、とても派手な印象を受けたんですよね。デザインの派手さでいえば、特に国産ブランドはそういう方向になりがちだから、GOLDWINが今回展開したワンピース(アルペンスキー競技ウエア)を展示会で見たときは、すごくカッコいいと思いました。あとは、スウェーデンのチームアウターウエアなんかは、賛否両論あるかもしれないけど、無地にワッペンというシンプルさに僕は衝撃を感じたし、すごく良いイメージだったんです。
新井:見せることも大切だけど、決して見せものではなくて、滑っている本人たちが、「カッコよくありたい」「良いパフォーマンスを見せたい」そんな軸を持っていることが大切で、そういう人たちがスタイリッシュに着られる商品展開を意識していかないといけない。機能性の面では、アウトドアに関わっていた視点から見ると、例えばポケットなどの機能を削ぎ、その代わりに防寒や防御性を高めたり、装飾物をなくして、軽量化を……、ということも必要なんですよね。
中田:僕はカメラマンなんでポケットに関しては「ここに欲しいな~」なんて感じることもあるけど、活動フィールドでもある、バックカントリーのシーンでは、軽量であることや高い機能性を兼ね備えていることは最重要なんです。それでいてファッション性が高いものを使いたいなって思います。
石川:僕は今回テクニカルな部分とかの知識がない状態で参加させて頂いて、実際にファッションの入り口から関わっているんですが、製品づくりのその先にちゃんとシーンというものがあって、それを洋服にどう落とし込んでいけるかというアプローチがすごく楽しくて……。GOLDWINというブランドを考えたときに、高い水準のテクニカルな部分をどのようにライフスタイルの洋服に注入できるかが僕にとっての最大のお題でもあって……。テクニカルなものをテクニカルなデザインでやってしまうとギアの世界になってしまうので、テクニカルなものをテクニカルな部分を見せずにシンプルな洋服に仕上げることを意識しています。パッと見はシンプルだけど、掘り下げていくとテクニカルなものがいっぱい入っているんです。
新井:Down Mountain Coatの内側のダウンだって、一見なんの変哲もないけど、素材自体良質なものを使用しているし、アウトドアでいうコールドスポット(冷たく感じる箇所)をなるべくなくすような構造で、普通はダウンとダウンの仕切りをそのまま縫製することが多いけれど、接着仕様のバッフル構造にすることで、各段に着心地がよくなっている。見た目の派手さやテクニカルな見栄えではなく、着心地へのこだわりを追及するためにテクニックを使っている。何よりこの素材やテクノロジーを内側に使っているというのが贅沢だし、着心地がとっても柔らかくなるんだよね。
中田:すごくカッコよくて、見たときに着たいなって思いました。
石川:中田さんみたいな人にすごくぴったりだと思うし、選んでもらいたいです。
新井:たくさんのユーザーに歩みよって、削ぎ落としながらも付加をしていくことが重要だし、そういった過程を大切にすることで、良いアイテムが生まれると思うんです。中田さんたちのような人は、雪山というフィールドであっても、環境によって使用するアイテムを変えますよね。なので、そういうときにブランドや商品としての立ち位置、個性をしっかりと持っていたいんです。ライフスタイルはそれぞれみんな違うと思うから、同じ世代で発信していくときに、ひとりよがりの開発ではなく、いろんな趣味嗜好を持った感性の違う人たちが、“こうありたい” みたいな接点から広がっていって、みんなのライフスタイルのひとつの道具として、“ギアとしてのスキーウエア” “ファッションとしてのライフスタイル” といったものづくりを今後もやっていきたい。
斬新なデザインとライフスタイルライン
スキーシーンへの挑戦
中田:今回展開されているスキーウエアのデニムパンツは、僕なんかが穿くのはすごく勇気がいる部分もあるんだけど、石川さんのような方が使って楽しそうにスキーをしていたら、カッコいいな~って感じると思うんです。
石川:それでコケまくっててもいいですかね?(笑)。僕は大学以来スキーをやっていないんですけど、今年はもう一度スタートしようと思っているんです! 50歳を超えている先輩が、昨シーズンスキーをやりはじめて、いきなりマッターホルンで夏スキーをやっている姿を見て、すごく刺激を受けて。
新井:ぜひみんなで行きましょう! スキーを嗜みながら、いいお酒を飲んで……、話を戻すと、そんなことを考えている大人たちも楽しめるアイテムづくりをしたいですね。
石川:そうですね。ファッションが好きで、夏はアウトドア、冬はスキーなどアクティブなライフスタイルを楽しむ人たちにぜひ届けたいですね。
新井:デニムパンツって新しいように見えるけど、本当はけっこう古い歴史があるんですよね。これ、日本で最初に展開したのは自社で取り扱っているブランド・THE NORTH FACEで、もう10年以上前のことだけど、岡山で撥水効果のある生地を開発して、表面は本当のデニム、裏地にはGORE-TEXを採用していて、僕は当時それを穿いてゲレンデへ行ったら「アイツなんだ!?」っていう反応だったのを覚えています。
中田:スキーの世界はそういった部分がありますよね。でも保守的というか、新しいことをすんなりと受け入れない、ちょっと閉ざされている感じはやっぱりイヤな感じがするときもありますよね。でも、きちんとそういった人たちのバックグラウンドを聞いたりすると、みんなスキーという軸があって、理解できる部分があるから、すごく興味がわいて魅力を感じることが多い。デモや競技スキーだと、どうしても長い歴史の中で、目立たなければっていうのがあるけど、ファッションから学ぶ自由っていうのは絶対にあった方がいいし、石川さんみたいな方がそういう感性を持ってアイテムづくりに携わるというのがすごく楽しみです。
新井:ライフスタイルのラインは、スキーをコアにしたブランドでありながら、そのコアさにあまり縛られるんじゃなくて、このブランドの背景ってなんだろう……、と思ったときに雪山があってスキーがある。「スキーのためのものなんですか?」って聞かれたらそうではなくて、そういう遊びが好きな大人たちが、旅や街で着られる、テクニカルでファッションとして楽しめるウエアを目指したいという経緯があって、石川さんにお願いしたんです。僕はどちらかというと、テクニカルオタクで、日頃から山で水が衣服内に入ってはいけない!とかそういうこと考えちゃうんだけど、石川さんは自由な発想を持っているから、ものづくりを一緒にするとなったときに、ちょうどいい塩梅だと思っているんです。
石川:先ほども言ったんですが、ライフスタイルに関しては、いかにテクニカルな部分を見せず、シンプルに着やすい洋服にするかっていうのを考えてデザインに落とし込むんですけど、デザイン上の特徴としては、例えばファスナー部分を見えなくしたりなどギアっぽさを消すことに注力しつつも、ギアとしてもきちんと使えるもの。さらに、コアとなる部分のスキーをどう表現するかっていうことでは、シュプールデザインという表現をさせてもらっているんですが、スキーで描くシュプールをイメージしたデザインを随所に落とし込んでいるんです。そうすることで、スキーというアイデンティティがそこに宿るような……、そんなアイテム構成にしています。
人生を楽しむ大人の1着でありたい
中田:長年スキーのシーンを見てきて、GOLDWINが発信するスキーウエアをはじめ、ライフスタイルの洋服は、新しいイメージもあるんだけど、さまざまな概念を取り除いて、実はスキーウエア以前のところで、シンプルな部分に戻っているとも思うんですよ。そういう意味では、僕は山で仕事をしているので、テクニカルのアイテムを着るんですけど、その反動だったりもあって、すごく着たいなって思うんですよね。いろいろなアイテムを楽しめるのが1番って改めて感じました。
新井:そうですよね。従来からあるスキーウエアの概念というのは、長い年月で作られてきたものだから、尊重するべきだし、学んでいくべき。ただやっぱり、“このシーンだから”という理由で自分の趣味じゃないものを着たいか着たくないかといったら、やっぱり着たくないと思うんですよね。ひとりの人間のパーソナルな部分として、自分に合ったスタイリングで、機能的で使い勝手のよいものを着たいなっていうのが僕の率直な感想で。スキーというスポーツも、ゲレンデを滑る、山を滑る、旅として楽しむ……。そういった人たちに対して、着たいなって思える世界観をどうやって作るかが大切。
石川:コアとしてまずスキーといった山の世界があって、そういう大人たちをイメージするなかで、雪山のシーンでも、普段使いもできる1着っていうのは僕もこだわっていきたくて……。例えばこのダウン(Down Mountain Coat)は、GORE-TEXなどテクニカルな部分を取り入れていて、冬場の都会のシーンでも着られるし、トリップのお供にも最適で、それでいて雪山でも使える。遊びを楽しむオトコの1着として取り入れてもらいたいんです。
新井:ガシガシ使ってもらいたいですよね。基本的にオトコのウエアってそういう感じじゃないかなって僕も思います。こういうシンプルなセーター(Fisherman Jumper)とかもそうなんだけど、デザインはちょっとゴツくて10年経っても20年経っても着られる1着。この前、これをスキーウエアと合わせるようなコーディネートをやったんですけど、すごく新鮮で良かったんですよ。
中田:ウールの特性っていうと重たさはあるけど、すぐ乾いたり、雪山で起こりうる凍傷にも効果があって、グローブのインナーにも利用されていたりしますし、雪が降ってくることを考えると、上にシェルがあるということで、理論的にはすごく納得できますね。
新井:スキー、アウトドア、ファッション……。境目なんて僕はないと思うんですよね。どこから発生したかの違いで、場面で発生する環境に自分はどこが近いかってところが大切だと思うんです。だから、いろいろな可能性にチャレンジしながら、昔はスキーをやっていたっていう大人たちが、またスキーをやりたいなと思ったり、スキーをやったことのない人たちがこれならやってみてもいいかも、街でこの服着たいな……、と感じたり。また、中田さんのような、いろいろな場所へ行く方たちのワンチョイスに選んでもらえたり……。そういった広い視野での感覚や遊び心を大切にしながら、スキー、旅、アウトドア、ファッション……、さまざまなライフスタイルに繋がっていけたらいいなと思っています。