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北海道 知床半島は、壮大な自然とその美しい景観で知られています。しかし、主にルシャ湾を中心に、知床の海岸沿いには多くのごみが漂着、堆積しています。
とくにプラスチックごみが多く、漁業由来の廃棄物である漁網やロープ、ブイ(浮標)などが大量に流れ着きます。これらは一度浜に堆積すると、波の作用によっても動きづらく、人力だけでは回収が困難。美しい景観を荒らすだけでなく、海洋生物の命をも脅かしています。
ヘリーハンセンは知床の海洋漂着ごみ問題に貢献すべく、海岸に漂着したブイを回収し、アップサイクルを通じて新たな価値あるものに変えるモノづくりを行っています。今回は、斜里町とリサイクル企業の株式会社マテック、繊維商社の豊島株式会社の協力を得て、知床の海岸で回収したブイからフリスビーを製作しました。
このフリスビーには、海にまつわるさまざまな思いが込められています。関わる人々へのインタビューを通じて、その背景や思いをお届けします。
美しい景観や動植物の生命をも脅かす、
知床の漂着ごみ問題
ーヘリーハンセン事業部長 古賀 淳史
「知床半島には大自然が広がっていて、緑も海も美しく、動植物もたくさんいます。でも、実際に海岸に足を踏み入れると、大量のごみが落ちているんです。初めて見た時は衝撃を受けましたね。」と語る古賀さんは、今回のプロジェクトの発起人。約2年前、知床半島の漂着ごみの実態に直面し、課題解決に向けてできることはないかと考えを進めていったといいます。
「知床半島の海岸には漁具が多く、ブイやプラスチックのバケツなどを多く目にしました。ルシャ湾では、大量のごみが漂着している海岸をヒグマが歩いている光景に衝撃を受けましたね。人工物と動植物が共存しているのではなく、生物が本来あってはいけないものに囲まれながら生きている。海岸に漂着したごみは美しい景観を荒らすだけでなく、生物の命を脅かす原因となっています。この現状を少しでも改善できないかと思ったのが、今回のプロジェクトの始まりです(古賀さん)」
2021年10月、ゴールドウインは地域や海の課題への取り組みの一環として、北海道 知床半島の斜里町と地域活性化に関する包括連携協定を結びました。連携する企業とともに、知床半島の海岸清掃を実施した際に、海岸漂着ごみ問題の深刻さを目の当たりにし、課題解決に向けて今回のリサイクルプロジェクトが始まったのです。豊島株式会社の協力により、斜里町が海岸に漂着したブイの回収を行い、株式会社マテックの技術によってブイをリサイクルし、フリスビーへのリサイクルが実現しました。
ブランドの取り組みや製品を通じて、人々の意識を変える
今回回収されたブイは、約850kg。そのうちフリスビーになる樹脂が得られたのは約450kg。これは一度の回収で運搬可能な量に過ぎず、日本各地の海岸では依然として大量の海岸漂着ごみが存在しています。現地では、斜里町ウトロに在住の有志「知床をきれいにし隊」が年に一度ルシャ湾を訪れ、また、知床での様々なごみ問題に取り組む「知床ゴミ拾いプロジェクト」が知床半島のその他の地域を訪れ、一般ごみを回収しています。しかし、海洋ごみは日々海岸に流れ着くため、一ヶ月以内にはまた同量のごみが漂着、堆積してしまいます。
実は海岸に漂着するごみのうち、約7〜8割が家庭から出ていると言われています。家庭ごみや街のごみ箱に積み重なったごみ、ポイ捨てなど、その原因はさまざま。普段の生活から出るごみが、結果的に海洋環境を悪化させてしまっているのです。
「ヘリーハンセンは、生活に欠かせない衣食住の「衣」を担っています。私たちの役割は、各地で問題になっているものをリサイクルして、それらに新たな価値を与え、ブランドやプロダクトを通じてお客様の意識を変えることだと考えています。海岸沿いに住む人々の多くがごみに対する高い問題意識を持っているように、海で遊ぶ人が増えれば、海のごみ問題に対する認識が高まり、意識も変化するでしょう。こうした人々を増やすことが、環境への影響を少しでも軽減することに繋がると信じています(古賀さん)」
フリスビーは、いわば誰もが経験したことのある遊びの一つ。年齢や場所を問わず、気軽に遊ぶことができ、一人ではなく誰かとコミュニケーションをとるツールにもなるのも、フリスビーの魅力です。
漂着ごみは、どの国から流れ着いたものなのかが不明であり、不純物が混ざっている確率が高いこと、さらには紫外線などによる劣化が多いことから、リサイクルのハードルが非常に高いのが特徴です。それでも、知床の漂着ごみに着目し、リサイクルすることに意義があると古賀さんはいいます。
「楽しく遊べるフリスビーを通じて、人々に海のごみ問題について考えるきっかけを提供できたら。この取り組みが日本のごみに対するアクションに繋がっていることに、やる意義があると感じています。今後も、知床のブイの回収は継続する予定です。ヘリーハンセンとしては、回収したブイをいかに生まれ変わらせ、さらなる価値をつけていくかが重要だと思っています。また、今後は回収を行なっている地域に還元できるようなプロダクトや、地域の特性を反映したモノづくりを進めていきたいですね(古賀さん)」
海岸に流れ着いたものはごみではない——大切な資源として生まれ変わらせる
ー株式会社マテック 石狩支店リサイクル技術担当部長 鈴木 寛
「これまでもプラスチックのリサイクルは行ってきましたが、漂着したブイをリサイクルできるのかは、最初は未知でした。どんな材質でできているのかも分からない状態からのスタートでしたが、普段取り扱っているものと大きな違いはなかったので、初めて見た時は、正直できると感じましたね(笑)。分析を進めていくうちに、PE(ポリエチレン)であれば使用できることが分かり、リサイクルを進めていきました(鈴木さん)」
株式会社マテックでは、自然から得られる天然資源を「第1の資源」、人間が作り出す加工物・加工原料を「第2の資源」、リサイクル可能なすべての物質や廃棄物を「第3の資源」とし、それらを積極的にリサイクルすることで、環境に貢献する取り組みを行っています。(会社のウェブサイトやパンフレット、そして石狩支店の壁面には「I♡RECYCLE®」というメッセージが掲げられている。これは、あらゆる物質や廃棄物を「資源」と捉えるポジティブな姿勢が、会社の文化として根付いていることを示している)
「弊社は『第3資源創造開発』を理念に、ごみは資源と捉えてリサイクルを行っており、地域貢献にも力を入れています。ですから、豊島さんから今回のプロジェクトについてお話をいただいた時は、心から協力したいと思いました。もう2年ほど前になりますが、話を聞いてすぐに東京まで会いに行きましたね(柄澤さん)」
漂着ブイがフリスビーに生まれ変わるまで
まず、斜里町によって知床の海岸に漂着したブイが回収されます。その後、ブイは総合資源リサイクル企業である株式会社マテックの釧路支店に運搬されます。そして、石狩支店に運ばれ、マテックの工場で分別作業をした後、洗浄・破砕が行われます。
「運ばれてくるブイには、様々な材質のものが含まれています。このフリスビーに使用したのは、PEと呼ばれるポリエチレンという素材です。その他にもABSやPP、塩ビ樹脂など様々な素材が含まれているので、分析器で判別し、素材ごとに選別します。その後、破砕したものを水に通すことで洗浄と異物除去を行います(鈴木さん)」
破砕されたブイを熱をかけて溶かし、フィルターを通して漂着ブイに付着していたゴミや不純物を除去します。綺麗な状態になったものを細かくカットしペレット状に成形します。これらの工程を経て、ブイはペレットに生まれ変わります。
「これらの工程に加えて、完成したペレットの性状を把握するために、ダンベル試験片と呼ばれるものを成形し、曲げや引っ張りの強さ、衝撃への強さなどを分析します。これにより、どのようなものに応用できるか、他の素材と混ぜればどのような製品に作り変えることができるのかを把握します(鈴木さん)」
マテックでは、このペレットを最終製品として納品し、その後成分調整を経てフリスビーへと製品化されていきます。
リサイクルを通じて、人々を笑顔にするフリスビーへ
「我々の使命は、流れ着いたものであっても適切にリサイクルすることで再び使えるものにすること」だと鈴木さんはいいます。ブイがそこにあれば、それはごみではなく、大切なプラスチック原料だと。
一方で、リサイクルをするためには、素材の価値をどれだけ高められるかが重要です。そのため、長年の経験によって培われたマテックの技術を駆使し、できるだけ環境負荷の少ない方法で質の良いものを作り、ごみをごみではない、価値あるものにする。このフリスビーも同様に、本来は廃棄されるはずだった漂着ブイをリサイクルし、人々を笑顔にするフリスビーへと生まれ変わらせています。
「リサイクルしたものがこうして形になることは、ものすごく感慨深いことです。実際に、私もフリスビーで遊んでみてすごく楽しかったですし、このフリスビーを通じて多くの人が笑顔になってくれることはもちろん、一人ひとりが海について考えたり、ごみを捨てないという意識を持つきっかけになれば嬉しいです(鈴木さん)」
Message
ヘリーハンセンは、斜里町、株式会社マテック、豊島株式会社と共に、知床半島の海洋漂着ごみの現状をどのように伝えていくべきかを考え、今回は知床に漂着したブイをリサイクルし、フリスビーを製作しました。今も課題として残り続ける海洋漂着ごみが、3社の協力によって人々を笑顔にするプロダクトに生まれ変わったのです。
このフリスビーを手にとってくださる方々が、家族や友人との楽しい時間を通じて、海の環境問題やごみについて少しでも考えるきっかけになることを願っています。
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- ¥¥2,200 (税込)
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HH×FRISBEE PRO CLASSIC
北海道・知床半島の海岸沿線に漂着をしたブイをリサイクルしたフリスビー。
海流によって運ばれてくる栄養素が知床の豊かさの源となっていますが、その一方で、多くの海洋ごみも同じように海流に乗って知床の海岸へ漂着し続けています。海岸の景観だけではなく、紫外線劣化による漂着ゴミのマイクロプラスチック化や動物の誤飲などによる生態系への影響など、様々な環境課題を生じさせています。漂着ブイをリサイクルしたこのフリスビーには「元々は海で使うためのものとして命を吹き込まれたブイだからこそ、また海で遊ぶものへと産まれ変わらせたい」「海や水辺で遊ぶことにより、海洋環境の現状にも目を向けてもらいたい」という思いが込められています。
*FRISBEEはWham-Oの登録商標です
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Words
- 海洋漂着ごみ問題
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海洋漂着ごみは、陸や船からの不法投棄だけでなく、道路や川へのポイ捨て、屋外に放置されたごみなどが雨や風によって川を経由し、海に流れ、海流や風によって海岸に流れ着いたごみを指します。漂着ごみの大きな特徴は、その発生場所と漂着場所が異なる場合が多いこと。そして、一度海に流出したごみは、波や紫外線などの影響を受け、5mm以下のマイクロプラスチックになり、自然分解されることなく、数百年間以上もの間自然界に残り続けます。漂着ごみは景観を悪化させるだけでなく、海洋生物が誤飲することによって命を落とすなど、生態系にも悪影響を及ぼしています。
- ルシャ湾 / 北海道 知床半島
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ルシャ湾は、知床半島の先端部からオホーツク海に向かって突き出すように位置する岬です。開拓の手が入っておらず、秘境が残ると言われています。秋にはカラフトマスやシロザケの遡上が見られ、それを狙って野生動物、特にヒグマが頻繁に姿を現します。そのため、安全なベアウォッチングスポットとして有名。また、天然記念物のオジロワシやウミウ、ヒメウ、エゾシカなども現れ、時にはイルカやシャチ、クジラ、アザラシに出会うこともあります。
- 包括連携協定
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「包括連携協定」とは、自治体が抱える様々な課題に対して、企業がノウハウやサービスを提供し、互いに協力しながら解決を目指す取り組みを指します。2021年10月、ゴールドウインは北海道・知床半島の北側に位置する斜里町と「地域活性化に関する包括連携協定」を締結。この協定は、「アウトドアを、文化に」という理念のもと、知床国立公園の魅力向上や子ども向け自然体験の充実、自然と共生するサステナブルな社会実現などを目指し、地域活性化に取り組んでいます。
≪自然と共生する社会の実現へ≫ ゴールドウイン 斜里町と「地域活性化に関する包括連携協定」締結