BE WITH WATER MAG

Vol.1 市川 航平 選手

HELLY HANSEN のブランドコンセプトである、
「BE WITH WATER」~水と共にいきる~。
そんなコンセプトを体現する人たちの活動や考え方を紐解いた先に、見えてくるものとは。
市川航平選手を一回目のゲストに迎え、その魅力に迫ります。

PROFILE
市川 航平 選手 マッチレーサー

1990 年生まれ、東京都出身。
2015年 ISAFネーションズカップ・グランドファイナル6位。
2016年クリスマスマッチ優勝。
J/24 ミッドウィンターレガッタ優勝。チーム月光所属。

Q:セーリングを始めたきっかけは何ですか?

両親の影響が大きいのですが、自分が産まれる以前より、両親が浦安マリーナでキールボートをやっていました。その影響で、自分自身も小学校にあがる前から自然とセーリングをやっていく環境が整っていました。小学校1年生の時に、※OP(オプティミスト)級でセーリングのキャリアをスタートしましたが、自分から進んで始めたわけでもなく、初めの頃は泣きながら乗っていたことが今も記憶に残っています。特にOP級は15m/sオーバーの強い風でも乗れてしまう。台風が当たった江ノ島のレースでは漂流も経験し、怖くて楽しくない競技だと思っていました。実際、セーリング以外にも習い事でサッカーや水泳もやっていたので、サッカー選手になりたいと思っていましたしね(笑)それでも続けていくなかで、小学校5年生になって初入賞できるようになりました。ようやくコツが分かってきたという感じで、その辺りから意識が少し変わってきました。

Q:セーリングの転機は何ですか?

中学校2年生のとき、自分の価値観を変えるような転機を迎えました。結果が出始めたことで、OP級の日本代表に選出され、スウェーデンのヨーロッパ選手権に出場することができたのですが、その際に、海外のセーリングシーンを目の当たりにして、選手のマインドや空気感に触れたことで、価値観が大きく変わりましたね。それから競技を続けていくなかで、大学ヨット部卒業後にはマッチレースにも取り組みました。マッチレースは行く先々で使用する船が変わります。学生時代は決められた艇 種でレースをしてきましたが、キールボートでのキャリアをスタートしてからは、様々な船に乗り、スキルや経験値を広く積んでいきました。どんな場所でも、そしてどんな種類の船に乗っても速く走れるようになること、対応力を高めることが自分の掲げる目標の一つであり、自然というフィールドで戦う、セーリングの深く面白い魅力だと思っています。

Q:レースに向けた準備はどのようにしますか?

これからの冬の時期は、日本国内はオフシーズンになりがちですが、海外でのレースが控えている場合は、冬も関係なく練習を行っていきます。準備としては、海上での実戦的なトレーニングと陸上での肉体的なトレーニングの2つを行っていきます。同じレベルで高め合えるセーリングパートナーが常にいるわけではないので、海上では基礎的な練習の反復がメインで、マークをうって短いコースをきれいにラウンドするなど、基本動作の確認をすることを意識して行っています。肉体的なトレーニングは、乗る船の種類によって求められる適正体重も変わってくるので、ウェイト管理に重きを置いてトレーニングします。冬場などは気温が低く海上の寒さも増し、ケガをしやすくなる。高負荷なトレーニングだけではなく、ストレッチなどを交えた体の柔軟性を意識したトレーニングを重点的に行うなどして、コンディショニングしています。

Q:レースに参戦する際のルーティンはありますか?

自分の場合、ポジションとしては2つの役割を担うことが多いです。一つは、コースを考える役割のタクティシャン。もう一つは、舵を取るドライバーとしての役割であるスキッパー。どちらにも共通して行うルーティンとしては、天気図や風を読むこと、海の情報を見ることは欠かせません。風を読む。風や潮流、雲の流れなどからその日の傾向を予測し、コースイメージや戦略を練っていく。その情報を整理することこそが、勝利へと繋がるルーティンだと思っています。

Q:レースに臨むうえでのウェアの選び方について教えてください。

キールボートの場合、風や天候の変化を感じながら、柔軟に身体を動かせる状態づくりが大切です。そして、その状態を整えたうえで、集中力をキープすることがとても重要です。ドライな状態でいることが最も大事なので、中に汗がこもらないことや、はっ水性という機能が大事になっていきます。なかでも、オーシャンフレイはとても重宝して使っています。夏以外の3シーズンは使えるジャケットなので長く使えますし、薄さと軽さのバランスが いいのはもちろん、ポケットの中身が濡れないはっ水性もいい。レース参戦時には、マストアイテムとして、天気予報のデータをまとめたメモやハンドコンパス、ライバルの点数情報などは整理して常に装備していますので、アクセスしやすい複数のポケット配置は非常に使い勝手がいいですね。カラーリングは、所属チームが赤をメインカラーにしているので、赤いウェアをよく着用します。海外のマッチレースに出場すると、HELLY HANSEN のウェアを揃えて着用しているヨーロッパのチームやアメリカのチームもけっこういますけど、彼らが白とか黒を基調にして、シックに揃えているのも、最近はカッコイイなと思って見ています。あとは、チームの士気を上げるのに、統一色は欠かせないポイントですね。

Q:レース以外に海と関わるうえで感じていることを教えてください。

海のごみ問題は少し気にしています。最近よく耳にするプラスチックゴミへの意識は自分でも強くなってきましたね。海外のレースに参戦するとそれを特に感じますが、近年、海外の大会要項にも入っているのが、ペットボトルの持ち込みNGのルールです。その為、選手たちもステンレスボトル持参などに積極的で、ペットボトルはほとんど持っていません。大会でもらえる記念品もボトルで、ペットボトルを持ってきてしまった選手は詰め替えているなど、かなり意識も進んでいますね。また、趣味でもカイトサーフィンをやっているのですが、夏のビーチは特に、バーベキューで出たようなゴミなどが落ちていたりしますよね。海外のそういった状況と比べると、日本はまだまだだなと感じています。自分も海から上がってきたときに身近にあるゴミを拾うなどは、意識してやっています。あとは、自然環境の変化も肌感としてはありますね。特に、十数年前に比べて、夏の海風(シーブリーズ)が年々弱くなっている気がします。地表で温まった風と、冷たい海面の風との温度差で起こる現象なのですが、温暖化で海の温 度が上昇しているのか、風が吹き込みにくくなってきたような気がします。国や地域によっても違うとは思いますが、セーリングシーンでも風を受けながらのハード なシーンが少し昔よりも減ってきているような気もしますよね。そのような感覚からも、環境への配慮は欠かせないことだと思っています。

Q:今後の目標を教えてください

目標としては2つありますが、いま、自分が「月光」というチームに所属しています。早稲田大学の OB が戦後に創立した伝統的なクラブなのですが、今では、大学の垣根を越 えて、実力を兼ね備えた人たちがスカウトなどを通してチームに所属しています。マッチレースで海外に参戦できるのも、チームのおかげだと感謝しています。これからチームに入ってくる若い実力者たちにも、広い世界を見せるきっかけとして、自分 がチームから得た経験値を次の世代にも伝えながら、伝統を繋いでいきたいと思っています。もう一つは、オリンピックに繋がるセーリング活動です。既に取り組んでいるカイトセーリングも、パリ五輪からは正式な種目になる予定ですし、これまで積極的に転戦してきたマッチレースの経験を活かしチームレースにも力を入れていきたいと思っています。2対2で戦うチームレースは、パリ五輪の4年後に開催予定のロス五輪で、アメリカがオリンピック種目採用へ推し進めている種目で1対1で行うマッチレースの応用型といった感じです。マッチレースと違って、チームレースは最後まで攻防が激しく続き、ゴール直前で順位が入れ替わることもある。しかも、男女の性別も関係ない。そういった魅力をチームレースから感じています。様々なセーリング競技に取組みながら、オリンピックも視野に入れていければと思っています。

※OP(オプティミスト)級 全長
2.31m、全幅 1.13m の小さなヨットでOPの愛称で世界中の人々に親しまれているヨット

PHOTO by Junichi Hirai
FROM HELLY HANSEN

幼少期から、セーリングを通して海と共に生きている市川選手。

自然に挑む競技ならではのこわい体験も沢山されてきました。

だからこそ、真剣に海と向き合い、自然と対峙する知識や感覚を高めてきた結果、
若くして日本代表に選出され、海外にも渡るようになりました。
そこでの海外選手との出会いやその姿勢を見てくれる月光チームの先輩から後輩まで、
国内外問わず、様々な人との出会いを生んでくれたのだと思います。

次なる舞台での活躍も視野に入れながら、更なる高みへと挑む市川選手を、
これからも HELLY HANSEN は応援していきます。