「クジラ岩は、シーズンに入ると20〜30人ほどの長蛇の列ができて、登るまでにも一苦労する、一番人気の外岩なんです。撮影の時には人がいなかったですが、本当に運がよかったと思います」。そう話す白數裕大さん、里子さんは夫婦でクライマー。出会ったのは現在の二人の職場であるクライミング施設の「Base Camp」で、当時女性のスタッフを探していたこともあり、お客さんとして来ていた里子さんを、裕大さんが誘ったことからだった。「Base Camp」では、施設の運営やスクールでのレクチャーなどを行い、裕大さんは大会の運営にも関わり、課題づくりなどにも携わっている。
休みの日には、雨でなければ大体ふたりで外岩に出かけているそうで、出勤前に朝練で行くこともあるとのこと。クライミングを中心としたライフスタイルだ。里子さんは絵を描くことを趣味にしており、クライミングのアイテムに描いたり、お客さんに頼まれて描いたりすることもあるそうだ。もう一つの趣味のお菓子づくりでも、ケーキに絵を描いて楽しんでいる。
裕大さんはクライミングをはじめて9年、里子さんは8年。裕大さんは大学時代に仲のいい友達がプロとしてクライミングをやっていたことがきっかけだった。ずっと陸上競技をしてきて、大学での学部はスポーツ科学部、ラグビーサークルにも入り、身体を動かすことが好き。そんな裕大さんさんだったが、クライミングをはじめた当初は、身体がまったくついてこなかったという。自信を失いそうになる反面、心のなかでは、できる、できないに関係なく、純粋に楽しんでいる自分がいたそうだ。
里子さんは、友人とアスレチック感覚ではじめてクライミングをしてみたところ、次の日の筋肉痛よりも、「楽しかった!」という気持ちが勝り、毎週通いはじめたそうだ。続けていくことで、できなかったことができるようになる繰り返しに、どんどんのめり込んでいった。
「課題に対して瞬間的に感じたこと、つまり自分がやるべきことをやっていくだけなんです。頭でっかちにならずに、オープンな気持ちでリラックスした状態が大切。岩に対して『戦う』という気持ちではなく、向き合って、溶け込んでいく。勝負ではないんです。岩にも自分にも向き合うことが醍醐味ですね」(裕大さん)
「人それぞれ登り方が違うところも面白いですね。いろんな年代の人たちが同じ課題で楽しめることも、他のスポーツにはない魅力だと思います。やはり、男性のなかで登っているとパワーが劣ってしまいますが、女性にしかできない登り方もあったりします。どうすれば登れるのか考えて、その登り方が岩とフィットして、登れた瞬間がとても気持ちがいいんです」(里子さん)
クライミングの魅力について話す二人の言葉は違えど、楽しさだけではない、登るという行為の奥にある意味は同じ方向を向いているように思える。話を聞いた次の日も外岩の予定が入っていた。