01 | 新田あい
神戸といえば何を連想するだろう。交通の便がよく、カフェやベーカリーが点在していて、中華街や洋館など異国情緒も漂う港街。これまでにも何度か訪れたことはあったが、そんな神戸のイメージが今日から少し変わりそうだ。
春の陽気に包まれた神戸を案内してくれたのは、モデル兼ブランドディレクターとして活動している新田あいさん。待ち合わせ場所に向かうと、すらりと伸びた手足、そして人を惹きつけるオーラが遠くから見ても一際目立っていた。山に魅了され、遂には山道具のオリジナルブランドを立ち上げるまでに至った彼女の1日に同行した。
Interview
「無心になれる場所」
向かった先は、新神戸駅のすぐ裏にある山。新幹線を降りてたった数分歩いたところに、こんなにも自然豊かな場所があったなんて。小川を流れる水音や鳥の声が聞こえてくる。この日新田さんと一緒に歩いたのは、山登り初心者にも易しいなだらかなコース。
「山を登ると言っても、頂上まで行かずに帰ってくることもしょっちゅうですよ。少し景色が開けたところで休憩して、のんびりお茶してくるだけとか。しんどいことはできれば避けたいし、ゆったりとまわりの景色も楽しめるような低山の方が私は好きかな。でも高いところにはそこでしか見られないものもあるので、機会があったらぜひどちらも体験してみてほしいです」。
新田さんが山登りを始めたのは、8年ほど前にモデルの友人から誘われたことがきっかけだったという。「そもそもモデル業は、『高身長を生かせるんじゃない?』というお母さんの勧めで始めたんです。そこからまさか山登りにハマることになるなんてね」と笑いながら話してくれた。
「初めて山に登った時は、正直、そこまで衝撃的な感動があったわけではなくて。でもそれから何度目かの登山で、めっちゃきれいな笹の原っぱを見つけたんです!その笹原の景色が忘れられなくて」。笹原と木道を見るとニヤけてしまうという新田さん。魅力を熱弁する表情につられて、ついこちらも口角が上がる。
「初めて神戸で山に登って、海沿いに広がる街並みを見た時はやっぱり感激しました。こちらに住んでまだ2年なんですけど、街と自然との距離が近くてとても居心地が良くて」。山と港に挟まれたこの街は、なんだか新田さんが来るべくして来た環境のように思えた。
「最近は、近所の山なら週1くらいのペースで、朝出発して昼頃には帰ってくる、といった半日コースで登ることが多いです。午後は仕事や家事をしたりして。ずっとこういう生活をしたかったので、念願の夢が叶って毎日とても充実しています」。
笹原と出会いを機に登山にのめり込んでいったそうだが、当時のエピソードから、彼女の行動力が並大抵のものではないことが分かる。「まず夏は山小屋で働くようになったんですけど、そこで知り合ったシェルパさんにネパールを案内してもらって、海外トレッキングにも挑戦しました。そして今では山道具のブランドを立ち上げるまでになって…かなり面白い人生になってきました」。
神戸に拠点を設けてオリジナルブランド「Okara」のディレクターを務めながら、仕事によっては東京へ出向く、というのが新田さんの現在のワークスタイル。東京出張の際には、仕事の合間に高尾などへ山登りにも行くそうだ。ちなみに「Okara」というブランド名は、新田さんが以前飼っていたハリネズミの名前が由来。小人になった少年と動物たちの冒険を描いた児童文学「ニルスのふしぎな旅」などからインスピレーションを受けて、Okaraのアイテムにはどこかしらにハリネズミのモチーフが散りばめられている。
「大好きな山の中を、好きなアイテムを身につけて歩けたらもっと楽しいだろうな、と思ったのがブランドを立ち上げた動機です。山にも街にも馴染むものを作りたくて。おからくんと一緒にぜひいろんな場所へ出かけていただけたら嬉しいです」。
1年半前のブランド発表とともにお披露目したアイテムは既に完売し、現在は第2段のアイテム制作が進行中だ。「もっと早めにリリースするつもりだったんですけど、こういったご時世なので今夏まで延期になってしまって。店舗でのイベントはどういう風にしようとか、みんな来てくれるかなぁとか、最近はそういうことばっかり考えていますね」。
日頃デスクワークばかりの私にとって、短い時間とはいえ、今回の取材はかなりのデジタルデトックスになった。新田さんにそう伝えると、「私も山を登ると頭がすっきりするタイプで」と返ってきた。
「山登りやスポーツをしてるとアイデアが次々浮かぶっていう人もいると思うんですけど、私は全然そんなことなくて。登っている間は『疲れたな』『おなか減ったな』『きれいな景色だな』なんてことしか考えてないので、普段いろんなことを考えすぎてカチカチになってた頭が、ほぐれてすっきりする感じ。無心に歩くのっていいですよね」。
もし山登りをしていなかったら今頃何をやっていたのか、全く想像がつかないと話す新田さん。「いずれは屋久島やニュージーランドにも行ってみたいんです。今はなかなか海外に行けない分、国内のトレイルをたくさん歩いて魅力を発信していきたいと思っています」。山、始めてよかった!と何気なく放った一言が印象的だった。
手掛けているプロダクト
Okara / ai nitta
「こんなのあったらいいな」をカタチに。ブランドディレクターの新田さんが自らフィールドテストを重ね、納得のいくクオリティを追求しながら、山にも街にも馴染むアイテムづくりを行っている。国内の職人によるメイドインジャパンのものづくりもこだわりの1つ。
PROFILE
RECOMMENDED PLACE
FARMSTAND
神戸の観光地、北野に向かう北野坂の中腹にあるFARMSTAND。収穫したばかりの新鮮なお野菜や、手作りのデリや調味料が色鮮やかに並んでいる。野菜中心の日替わりランチがいただけるイートインスペースもあり、神戸の美味しいが詰まった楽しいお店。
白馬堂Rokko
六甲山の麓に店舗を構えるアウトドアショップ。六甲山を歩くのに適している山道具やハイキング企画だったりと地域に密着したお店。山と高原地図の製作もしている店主の浅野さんは六甲山のことならなんでも知っており、山帰りにふらっと立ち寄り情報交換するのが私の楽しみ方。今年の夏からOkaraの取り扱いも始まる。
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