『重要』ゴールデンウィーク期間中の出荷に関して
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        gwmaverick 毛七 Collection “もったいない”という想いが生み出す羊毛の輪廻 gwmaverick 毛七 Collection “もったいない”という想いが生み出す羊毛の輪廻

        Photographer Tomoaki Shimoyama
        Interview & Text Takayasu Yamada (THOUSAND)

        about Keshichi

        gwmaverick 2020 秋冬コレクションの中でも一際目を引くチェック柄のアイテムたち。ウールの温かみのある風合いに、ほかにはない独特のチェック柄が今季のコレクションの中でも特に人気を集めている。実はこのチェック柄のファブリックは、なんとリサイクルによって生まれたもの。

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        このファブリックにつけられたブランド名は『毛七 (けしち)』。アメリカのペンドルトン、フランスのドーメルのように世界には、いくつもの有名なファブリックブランドがある。では、日本のファブリックブランドは?と聞かれると答えられない人が多いはず。そんな中、日本発のファブリックブランドとして誕生し、近年注目を集めているのがこの毛七。

        国内はもとより、世界でも指折りの繊維産地として知られる尾州。愛知県尾張西武から岐阜県西濃の地域を指す知名の尾州は、木曽三川の綺麗な水や絹や綿花にとって大切な豊かな土壌に恵まれ、奈良時代から繊維産業が盛んな地域である。
        現代に至るまで、国内外のアパレルを支える企業や工場が集う土地が尾州だ。糸を紡ぐ紡績業から機屋、染色工場など、衣料品にまつわる様々な工場が集まるこの尾州。特にこの地で作られる尾州ウールは、イタリアのビエラ、イギリスのハダースフィールドと並び世界三大ウール地の1つとしても数えられるほど。
        しかし、それだけ大きな規模であるだけに製造段階で生まれる余りの生地や、使われなかった生地が発生し悩まされてきた歴史を持つ。そういった捨てられるはずだったウールの生地を再生する文化『再生羊毛』がこの地では50年以上も前から行われてきた。
        近年ではサスティナブルやリサイクルというワードが、ファッションシーンでもかなり重要になっているが、そんな言葉ができるずっと前から、この尾州では、日本人特有の『もったいない』という想いでウールの再生を繰り返し、貴重な資源を大切にしてきた文化がある。

        ファブリック名につけられた毛七という言葉は、ウールが70%の混率という意味だ。これは、毛七がファブリックブランドになる以前からこの地で呼ばれていた総称でもある。再生したウールは、そのままの100%の状態だと耐久性が安定せず、そこに15%のポリエステル、10%のアクリル、5%のナイロンを混ぜることで扱いやすい原料となる。そういった、再生ウールの総称として尾州では“ケシチ”と呼ばれてきた。
        この毛七の文化は、時代の変化によって今注目を集める『サスティナブルな生地』と呼ばれ、世界中から注目を集めるようになったのは最近のこと。決して羊毛が豊富に取れるわけではない日本で、羊毛を生み出すこの毛七という類まれな文化。gwmaverickでは、その世界に誇れる文化に敬意を称し毛七のファブリックを使用。そんな『毛七』が生まれる生産背景の一部を今回は紹介する。

        1. 色や混紡率を仕分ける
          一番最初の行程

          画像:色や混紡率を仕分ける一番最初の行程 画像:色や混紡率を仕分ける一番最初の行程

          再生羊毛の最初の行程は、まず仕分けるところから始まる。愛知県一宮に位置し、仕分けを専門に行う会社サンリードの工場には、近隣の工場からはもちろん、国内のアパレル企業から発生したウール生地、家庭から捨てられたウール製の古着が大量に集まってくる。それらを色別で仕分けを行うのが最初の段階だ。ここに集められているのは、ウールの混紡率が80%以上のものだけ。ウール製品自体が、衣料品の中でも2%程しか生産されていない中で、80%以上もウールの混紡率を使用しているものはごく僅か。

          画像:色や混紡率を仕分ける一番最初の行程 画像:色や混紡率を仕分ける一番最初の行程
          画像:色や混紡率を仕分ける一番最初の行程 画像:色や混紡率を仕分ける一番最初の行程

          それでも工場内にはすでに色別に仕分けられた大量の古着が山のように置かれていて圧巻の様子である。それらを注意深く見ると、正直まだまだ着れそうな服が多いことに気づく。物資が豊かになって、モノを大切にしなくなりがちな現代であるからこそ、綺麗な状態でも捨てられることが多いという現状だが、このサンリードが始まった70年前は古着の仕分けではなかったと代表の南さんはいう。「この仕事は祖父の代からやっています。ただ、扱うものが変わってきていますね。昔は高級品のセーターを捨てる人なんてまずいなかった。破れたら縫って使うわけですから。それでも、この辺りは昔から紡績や機屋も多く、そういった工場から余りが出ていたんです。『余った生地を捨てずに再生しよう』ということから私たちの仕事は始まっているんです。もったいないという想いが再生羊毛の始まりです」。羊毛は高く、貴重な素材。だからこそ再生して使用するのが当然のようにこの尾州という地では長年行われてきたのだ。

          画像:色や混紡率を仕分ける一番最初の行程 画像:色や混紡率を仕分ける一番最初の行程
          画像:色や混紡率を仕分ける一番最初の行程 画像:色や混紡率を仕分ける一番最初の行程

          色分けされたウールの生地や古着は、ネームやボタンなど違う繊維の部分を切り取る作業へと移る。この日も職人が慣れた手付きでスーツ地のネーム部分を裂いていた。慣れてくると感覚で、若干の伸び方や裂ける時の音によって混紡率がわかるようだ。この後行う反毛の行程へと移るために、必要のない部分をここで一つ一つ手作業で取っていく。海外でもサンリードのようにウールのリサイクルのために、古着を仕分ける業者はいくつかあるというが、こういった細かな工程における丁寧さに欠けたりすることが後のクオリティにも繋がっているようだ。仕分けの時点から丁寧さにこだわることが上質な毛七のファブリックに繋がっていく。

          画像:色や混紡率を仕分ける一番最初の行程 画像:色や混紡率を仕分ける一番最初の行程

        2. ウールを蘇らせる
          反毛という作業

          画像:ウールを蘇らせる反毛という作業 画像:ウールを蘇らせる反毛という作業
          画像:ウールを蘇らせる反毛という作業 画像:ウールを蘇らせる反毛という作業
          画像:ウールを蘇らせる反毛という作業 画像:ウールを蘇らせる反毛という作業

          サンリードをはじめ、仕分け業者によって色別に分けられたウールの生地がたどり着くのが反毛工場である。中に入ると普段目にすることのない大きな機械が陳列され、それらから発せられる力強い音がまさに工場らしい。ここでは生地をウールの原料に蘇らす反毛という行程が行われる。ここに運ばれてくるとまず、生地を裁断機にかけある程度まで細かくする。そして細かくなった生地に、特殊な専用の油をかける。これによって生地が柔らかくなるだけでなく、反毛機にかけて細かくなった時に、静電気で機械にくっつかなくなるような役目も果たしているようだ。油打ちされた生地は全体に馴染むようにおよそ2日程寝かされ、油が染み込んだ生地は、手でも簡単に千切れるくらい柔らかく変化する。

          画像:ウールを蘇らせる反毛という作業 画像:ウールを蘇らせる反毛という作業
          画像:ウールを蘇らせる反毛という作業 画像:ウールを蘇らせる反毛という作業

          無数の細かな針がついたロールが山のように並ぶホッパーと呼ばれる反毛機に、先ほどの油が染み込み柔らかくなった生地を流す。そうするとロールの山をいくつか越えていくうちに徐々に生地が分解されるように細かくなっていく。この行程によって6、7割程は、生地がほぐされた状態となるようだ。さらにそれをガーネットと呼ばれる反毛機にかけ、最終的に出来上がったのが原料となる。その原料は触ると、まさに羊毛らしい柔らかく弾力のある触感。少し前まで古着だった服が羊毛に蘇った瞬間だ。これを可能にするガーネットは、昭和50年代製で今では製造されていない。そんな貴重な機械を使い、手間のかかる行程が必要な反毛の作業。コスト面だけを考えると現代においては、原料から新品を作った方が良いという。「わざわざ生地を砕いて糸にして...という手間があるからどうしてもコストはかかってしまう。ですが、リサイクルする重要性や、毛七の伝統を伝えていきたいと思っています。昔の人は、ケシチというと古着から原料を作っていることでネガティブな印象を持っている人が多かったんですが、今ではリサイクルとして評価されている。さらにこの文化が広がっていけばと思っています」。

          画像:ウールを蘇らせる反毛という作業 画像:ウールを蘇らせる反毛という作業
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          画像:ウールを蘇らせる反毛という作業 画像:ウールを蘇らせる反毛という作業
        3. 毛七というファブリックが
          生まれる場所

          画像:毛七というファブリックが生まれる場所 画像:毛七というファブリックが生まれる場所

          毛七が生まれる尾州の中心地である愛知県一宮市。この地を見渡すと至る所で、ギザギザとしたノコギリ屋根の建築を目にする。これは、電力事情がままならない時代に、効率よく工場内に太陽光を取り入れられるよう窓のついた屋根を特徴的に配した織物工場ならではの作り。毛七のファブリックが生み出される、この新見本工場もそんなノコギリ屋根が特徴的な建物だ。ここでは、低速で手織りの感覚に近いションヘル織機や、レピア織機など生地を織るための工場。反毛によって蘇ったウールの原料は、その後、紡績工場を経て糸になり、やがてこの機織工場へと辿り着く。クライアントが求めるイメージに合うよう職人が長年の経験で、機織り機を調整し、糸を変え柄を仕上げていく。

          画像:毛七というファブリックが生まれる場所 画像:毛七というファブリックが生まれる場所
          画像:毛七というファブリックが生まれる場所 画像:毛七というファブリックが生まれる場所
          画像:毛七というファブリックが生まれる場所 画像:毛七というファブリックが生まれる場所
          画像:毛七というファブリックが生まれる場所 画像:毛七というファブリックが生まれる場所

          gwmaverickの毛七コレクションもこの工場から生まれたものだが、制作背景について職人の五藤さんに話を聞くと特殊な柄だっただけに困難な作業だったようだ。「最初、柄を聞いた時に間違えているんじゃないかと思いましたよ(笑)。一般的なチェックとは違って、柄の間隔がとても広いんです。普通の織り方だとこれほど大きな間隔では織れない。実現するためにイレギュラーな裏技を使いましたね。柄が大きければ大きいほど、織っていくうちに線が歪んできます。左右均等になるよう気を使いました」。チェック柄であって、パッと見チェック柄だとわからない。そんな独特なチェック柄の背景には、職人の試行錯誤が詰まっていた。毛七というファブリックは、数々の行程、人が関わり生み出されている。今シーズンだけではなく、来季2021年春夏のコレクションでも毛七のファブリックを使用した新たなプロダクトを予定しているため、期待していてください。