

GOLDWIN MOTORCYCLEの
高機能グローブが生まれる場所

Interview with
Matsuoka Glove
GOLDWIN MOTORCYCLEが展開する様々なアイテムのラインナップの中でも、使用者が最も多いモノ、それがグローブだ。快適なライディングをサポートするフィット感や、使い手のことを考えた機能性、もしもの時の安全性など、モーターサイクルのグローブには数多くの課題がある。だからこそ、GOLDWIN MOTORCYCLEのグローブ作りには信頼をおける技術を持った企業と共同で生産をしている。その企業こそが、香川県の東端に位置する東かがわ市を拠点とする松岡手袋株式会社だ。今回は、松岡手袋の代表である松岡大輔さんにグローブ作りの拘りについて聞いた。
操作性のいいフィット感に拘る
松岡手袋がある東かがわ市は、瀬戸内海に面した穏やかで美しい景観が広がる地域。この辺りは、かねてから手袋産業が盛んとなっており、国内のシェア90%を占めている手袋の産地である。松岡手袋が、この地に創業したのは昭和8年。最初は、普段使いに適した防寒用の手袋の製造からスタートをした。それがやがて、スキーブームなどの需要によりスキー用の手袋の製造へと広がり始め、今では、オートバイはもちろん、自転車や釣り、ゴルフなどのスポーツ手袋を幅広く手掛けるようになっていった歴史を持つ。松岡手袋が特許として持っている「エルゴグリップ」という技術は、これまでのグローブとは全く別の工程によって作られ、人体工学に基づいた製造方法となっている。指の形に沿ってパターンや縫製がされており、それによって生まれる格別のグリップ性能は、世界でもその技術を認められているのだ。
「手袋は、通常であれば掌、手の甲、両横のマチ、この四面の組み合わせで出来ています。四面で作るとパターンは真っ直ぐになりますが、真っ直ぐなパーツは曲げることでどうしても曲げ皺が出てしまいます。この曲げ皺があるままハンドルを握ったり、ゴルフのクラブを握ったりすると余分に生地を巻き込むことになるので、力の伝達がしづらくなり疲れやすくもなるんです。より握りやすいグローブを求めて開発をしたエルゴグリップは、縦のマチを無くして指の関節に沿って横向きに縫製をするようにしたんです。加えて、あらかじめ曲がったような感じに設計をすることで、更に握る時にかかる負担を軽くするといった技術です」。
GOLDWIN MOTORCYCLEのグローブでも、このエルゴグリップの技術は一部のモデルに使われているが、採用されていないグローブだとしてもフィット感は折り紙付きである。モーターサイクル用のグローブに必要な操作性の高さとフィット感の高さを求めて、GOLDWIN MOTORCYCLEでは、2014年から松岡手袋での製造を依頼することとなった。それまでは、ダボッとしたような大きなサイズ感が多かったグローブだが、松岡手袋と組むことによって手の形にあったものへと変化していく。
「モーターサイクル用のグローブに求められることは、まず操作性です。手とグローブがどれくらい一体となって、動きやすいものであるかということ。それに加え、防水性や冬用であれば保温性といった機能面や横転時の安全性能など、多々あります。フィット感だけを追求すれば、極端な話、ゴム手袋がその最たるもの。ですが、モーターサイクル用となると、今話したような様々な機能を加えていかないといけません。ほかのスポーツ用のグローブと比べてもオートバイ用に使われるパーツの数は、とにかく多いんです。足すだけであれば簡単なんですが、様々な機能性を持たせながらもシルエットやフィット感の良さを両立させていくというのが、モーターサイクルグローブの難しさであり、面白さであると思っています」。
そうしたグローブに求められる課題をすぐに設計や調整、試作などができるよう、この松岡手袋本社では、オフィスと工場が一体となっている。発注側からきた企画書をもとに、職人たちによって設計を行い生地を裁断し、縫い合わせることで実際のサンプルまで作ることが可能だ。取材当日も、コンピューターによってミリ単位でパターンの設計や調整を行い、手の形にフィットするよう何度も試行錯誤を繰り返す様子が見てとれた。驚いたのは、生地を縫い合わせる作業は全て手作業ということだ。「ウエア類に比べるとサイズが小さいうえ、複雑であるためにミシンで少しずつ手作業で縫っていく必要がある」のだと松岡さんは話す。量産は、提携している中国の工場で行われているが、そこでも一部、パターンを読み込ませて自動で縫える部分以外は、ほとんどが手縫いである。松岡手袋とGOLDWIN MOTORCYCLEが手を組んでから、今年で8年が経つが、この間にグローブはどう進化していったのか聞くと、松岡さんはこう答える。


2015年に松岡手袋の代表取締役に就任。国内外、様々なスポーツブランドの元へ訪れグローブの企画に携わる。松岡手袋のものづくりの歴史と革新性を持って、これからの時代のグローブを提案し続ける。
モーターサイクルグローブに
求められる様々な課題
「GOLDWIN MOTORCYCLEの方達と開発をするようになって気付いたことがあるんですが、それまではモーターサイクル用のグローブに関しても通常のグローブと同様の手のパターンで作っていたんです。ある時、GOLDWIN MOTORCYCLEの方から『指の部分が短い』と言われました。ほかのスポーツや、バイクウエアメーカーの方からは言われたことがないのに、何故だろうと追求をすると、バイクはハンドルに体重を預ける為に、指先がグローブの先端に詰まるということがわかりました。それからは、極端に指の部分を長くして今のパターンへとなっていきました。他には、万が一転倒した時のことを考えて付けたカーボンのパット、振動を抑えるための“アンチバイブレーション”、雨天時に活躍するシールドワイパーといった機能も徐々に加わっていきました。それらは、企画に関わる方たちが本当に普段からバイクを乗る人たちだからこそ思いつく機能だと思います。そんな中でもGOLDWIN MOTORCYCLEのグローブを作るようになってから、当初から必ず求められることが、親指と人差し指の間が90度に伸ばせること。この部分が直角にならないと、モーターサイクルグローブではないと言うことです。走っている最中でも親指でウィンカーのスイッチを押す為に、親指と人差し指が90度までスムーズに開く必要性があるんです」。
足に比べると、握る、離す、掴む、押すなど様々な運動が必要になる手。それを包むグローブは作る上で色々と考える必要があり、機能や素材が変われば設計も全て変える必要がある為に、作り手の試行錯誤が見て取れる。今期のGOLDWIN MOTORCYCLE 2022年秋冬シーズンでは、自然環境への負担を抑えた取り組みとして“Eco Friendly”をテーマとしたプロダクト展開をしている為に、グローブにも環境配慮型素材を使用した。
「一部の環境配慮型アイテムの中で、エコ保温材料であるプリマロフトを中綿として使用していますが、通常の綿よりも保温力が高い為にボリュームが出づらいんです。以前の綿よりも暖かいのにボリュームが少ないと、見た目や感触の温かみに繋がりませんよね。そういったところで見た目にもボリュームが出るよう工夫をしました。環境配慮の素材に変えたからといって、品質も損なわないよう意識をしています」。
グローブを付けたままでもタッチパネルを操作できるような仕様など求められる機能は、時代時代で様々。毎年のようにデザインのトレンドも移り変わる為に、日々の弛まぬ研究や開発が必要である。松岡さんは、これからのグローブ作りでもより良質なものを作っていきたいと意気込む。
「人の手は長さも太さも皆違います。そうした人それぞれの手にどうしたらグローブは合わせられるかがポイントなんです。私たち松岡手袋が拘っているのは、誰にでも合うフィット感です。これからも色々な人の手にはめてもらえるようなグローブになるよう研究をし続けていきたい」。






