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        個の“夢”から人類の“進歩”へ ── 宇宙飛行士のニュートラルな生き方
        星出 彰彦

        “PEOPLE” by NEUTRALWORKS.
        PEOPLE
        個の“夢”から人類の“進歩”へ ── 宇宙飛行士のニュートラルな生き方 星出 彰彦
        さまざまな分野で活躍する人々への「READY」な状態を紐解くインタビューを通じて、日々の活動のマインドシフトをサポートするメディア“PEOPLE” by NEUTRALWORKS.。
        3度目の挑戦で2001年に念願だった宇宙飛行士に認定され、現在に至るまで3度のミッションを成し遂げたJAXA宇宙飛行士 星出彰彦さんにインタビュー。宇宙と地球での生活を経験し、国際宇宙ステーション(ISS)における実験や保守、船外活動など忙しい日々を送る星出さんが今想うこととは。人生観やココロとカラダのバランスの保ち方、何度も諦めずに挑戦し続けるモチベーションについてお話を伺いました。
        CHAPTER
        01 何度も諦めずに挑戦できた理由は、“小さい頃からの憧れ”
        02 無理をせず、バランスを見極めながら心身と向き合う
        03 ユーモアを忘れず、良いチームワークを築くこと
        04 準備を欠かさない。訓練は余裕を作るプロセス
        05 星出さんにとっての「READY」な状態とは
        06 「READY」を作るためのアクション
        01
        何度も諦めずに挑戦できた理由は、“⼩さい頃からの憧れ”
        個の“夢”から人類の“進歩”へ ── 宇宙飛行士のニュートラルな生き方 星出 彰彦
        ── 宇宙と地上での忙しい生活を送られている星出さんですが、ご自身にとって「ココロもカラダも心地良くバランスが取れている」と感じるのはどのような状態ですか?
        宇宙にいる間は、ミッションに向けて集中しているのでココロとカラダのバランスがとれていると感じます。集中すべき仕事が絞れている状態なんです。地上だと生活やいろいろな仕事、プライベートなど、色んなことに気を配らなければいけないですよね。「お金を振り込まなきゃ!」とか。笑 それぞれやるべきことに対してバランスを保ちつつ、同時にやっている感覚です。宇宙だと、ミッションに集中できる環境に置かれます。宇宙でも地上でも、毎日行うルーティンのようなものは意識的に作っていなくて、自分の中で自然とオンオフを切り替えていますね。
        ── 3度目の挑戦で宇宙飛行士としてのキャリアをスタートされた星出さんですが、宇宙飛行士としての道を選択された経緯は何ですか?
        小さい頃に父の仕事の関係でアメリカに住んでいたのですが、当時NASAの宇宙センターへ連れて行ってもらったことと、SFの映画やアニメがきっかけで宇宙に興味を持つようになりました。ロケットの実物やSFを見て、子供ながらに「かっこいい!宇宙へ行ってみたい!」という気持ちが芽生えたのを覚えています。しかし、実際に宇宙飛行士になるためには、参考書や予備校はなく、手探り状態からのスタート。私は3度目の挑戦で宇宙飛行士になれましたが、いつも募集しているわけではないので、1度目は受験資格がないのに直接申込書を渡しに行きました。何度も諦めずに挑戦できたのは、小さい頃から持っていた「宇宙に行ってみたい」という憧れがあったからだと思います。訓練も上手くいくことばかりではなく苦労することもありますが、その想いがあったからこそ挫けずにここまでこれたのだと思います。これまで宇宙へ3回行きましたが、そこで経験したことの楽しさや充実感、一緒に働く人たちと絆を築けることが幸せ。そして、行って終わりではなく、「人類の発展に繋げられる」という想いが継続している感覚です。
        ── 自身の夢を叶えて進んでいく中で、「人類の発展のために」という考えになられた瞬間はいつだったのでしょうか?
        宇宙に行くこと自体が自分の夢だったわけですが、宇宙飛行士になる前から宇宙に関わる仕事(宇宙開発のエンジニア)をしていて、チャレンジングな仕事の楽しさとともに、この仕事自体が人類の役に立つんだということを実感しました。自分が好きなことをやらせてもらいながら、人類のための貢献ができているということにも幸せを感じています。
        02
        無理をせず、バランスを⾒極めながら⼼⾝と向き合う
        個の“夢”から人類の“進歩”へ ── 宇宙飛行士のニュートラルな生き方 星出 彰彦
        個の“夢”から人類の“進歩”へ ── 宇宙飛行士のニュートラルな生き方 星出 彰彦
        ── 宇宙と地上を行き来すると心身への負担も大きいと思いますが、そういう時のリカバリー方法はどのようにされていますか?
        国際宇宙ステーションは無重力状態なので、何もしないと骨や筋肉がどんどん衰えて足腰が弱くなってしまいます。地上に戻ってきた時に困らないよう、宇宙では毎日2時間運動する時間が設けられています。それによって地上に帰ってきてからも立てる状態になる。私の場合は、筋力よりもバランス感覚が影響を受けたりしましたが、地球に帰還後はインストラクターに診てもらいながら、状態に合わせたメニューで45日間毎日リハビリを行います。重力のある環境でも動ける体に戻していく感じです。メンタル面でのリカバリー方法は特に定めていませんが、ミッション前の訓練中は色んなことを学んで準備する期間なので、多忙なこともあります。そんな中でも、しっかり睡眠をとることを心がけていました。
        ── 45日間のリカバリー期間は、どのような心持ちでご自身と向き合っていますか?
        最初の数日間はマイナスからゼロの状態に一生懸命戻すという感覚だったかもしれません。帰ってきた直後はまだ重力に体が慣れていなくて疲れやすいのですが、日を追うごとにみるみる体が元の状態に戻っていくのが分かります。一週間ほど経つと自分の中ではもう元の状態に戻った感覚でいるのですが、実際はまだまだなので引き続きリハビリのメニューを組んでもらいます。その段階だと自分の中ではゼロには戻っているので、そこからいかにプラスに寄せていくかという意識ですかね。
        ── 健康管理で気をつけていることはありますか?
        宇宙飛行士は健康管理をするのも仕事の一環なので色々と気をつけていますが、若かった頃と比べると年齢を重ねるごとに感覚が変わってきているなと感じます。昔は徹夜ができたけれど、今は難しい時もあるので塩梅をみながら。どうしても無理をしなければいけない局面もありますが、無理をしすぎずにバランスを取ることが大事ですね。宇宙でも、余力を少し残しておかないと緊急時に対応できない。あとはやはり「睡眠」ですね。有難いことに、寝つきが良いのでどこでも寝られるのが自慢です。笑 地上では寝たい時に寝られますね。平均すると4〜6時間、多いときで8時間くらい寝ますかね。宇宙では管理されたスケジュールの中で睡眠時間もしっかり取られているので、その間に寝ています。
        個の“夢”から人類の“進歩”へ ── 宇宙飛行士のニュートラルな生き方 星出 彰彦
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        ユーモアを忘れず、良いチームワークを築くこと
        個の“夢”から人類の“進歩”へ ── 宇宙飛行士のニュートラルな生き方 星出 彰彦
        提供:JAXA/NASA/Norah Moran
        個の“夢”から人類の“進歩”へ ── 宇宙飛行士のニュートラルな生き方 星出 彰彦
        ── 多様な国籍やバックグラウンドの人と一緒に働いていらっしゃると思いますが、現場でのコミュニケーションで工夫されていることはありますか?
        一つは、「チームワークを大切にすること」です。2021年に私が国際宇宙ステーションへ行った時の7名のクルーは、アメリカ、ロシア、フランス、そして日本の4カ国の宇宙飛行士から構成されていました。仕事も生活も、常に一緒。彼らのことは宇宙に行く前から知っているので、家族みたいな存在。計画通りに作業が進まないなど、仕事上での難しい局面では必ず誰かが助けに向かっていました。自分の仕事だけに集中するのではなく、自分の手が空いた瞬間に誰かが手を差し伸べる。お互いに助け合うやりとりが何度もあって、そんな素晴らしいチームワークで仕事ができることが幸せだなと思っていました。もう一つは、「ユーモアを忘れないこと」です。これは過去の様々なミッションで学んだこと。宇宙での作業は危険なことや難しいこともありますが、日常の中でユーモアを交えながら和気藹々と過ごすことは、人間として大事だなと感じました。
        ── 宇宙に行く過程や、行かれてから学んだことや感じたことはありますか?
        地上では、エンジニアの方々が苦労されているのを一緒に仕事しながら見ているので、「宇宙に人が出ることの難しさ」を感じました。色んな技術の積み重ねがあって初めて宇宙に行くことができるということを学びましたね。一方、宇宙に行ってからは、人間が宇宙に出ていくことはもはや非日常ではなく、日常の延長線上なのだと実感しました。人類が宇宙へ行くことが珍しい頃は何も分からない世界でしたが、今は実際に宇宙空間でも人間が普通に生活したり仕事をすることは可能な時代なんです。食事は宇宙食が中心になるし、トイレも特殊なので地上通りではありませんが、人間は宇宙という環境に適応して生きていけるんだということは、宇宙に行って強く感じました。
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        準備を⽋かさない。訓練は余裕を作るプロセス
        個の“夢”から人類の“進歩”へ ── 宇宙飛行士のニュートラルな生き方 星出 彰彦
        ── 仕事に対するモチベーションやコンディションを保つために意識していることはありますか?
        「準備をすること」ですね。宇宙でのスケジュールは分刻みだからこそ、できるだけしっかり準備をして余裕を持って望むことを意識していました。地上での訓練もそういう準備の一環。例えば、何かを発表するときにプレゼンテーションの練習をして準備を重ねるのも同じことではないでしょうか。いきなりやると緊張して負のスパイラルに陥るかもしれませんし、想定外の質問に対応できませんが、事前に練習を重ねていると対処する余裕ができる。そういう意味では、ミッション前の訓練は余裕を作るプロセスだなと思います。心に安心感や余裕が生まれると、トラブルが起きても対応できる。ミッションに臨むチームも同じことが言えると思います。ミッションの準備状況を確認する会議で、それぞれの担当者が努力して準備をしてきていることが確認できると安心します。
        ── 実際に緊張やプレッシャーを感じることもありますか?
        実は緊張しやすい性質です。笑 訓練を何度も繰り返して積み重ねることで、スキルを身につける。それと同時に緊張に勝ち、平常心に近い状態になれる気がします。私の場合は、反復することによって平常心を身につけているのかも知れません。
        ── 今後の展望を教えてください。
        国際宇宙ステーションでの活動だけでなく、将来の月ミッションなど、人類が宇宙に出ていくための手助けをしていきたい。宇宙飛行士として月に行くということも、叶えたい目標です。私がこの仕事をしていることによって得られたものは「人」だと思っています。一緒に宇宙に行った宇宙飛行士をはじめ、関係者の方々も本当に素敵な人たちばかりで。周りの仲間に出会えたことは私にとってかけがえのない財産です。生まれ変わっても宇宙飛行士を目指したいです。
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        星出さんにとって「READY」な状態とは、どのような状態ですか?
        自分とチームの準備が整っている時。
        安心感と余裕を持てた瞬間が、自分の中での「READY」な状態です。
        個の“夢”から人類の“進歩”へ ── 宇宙飛行士のニュートラルな生き方 星出 彰彦
        提供:JAXA/NASA/Robert Markowitz
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        星出さんの「READY」を作るためのアクション
        個の“夢”から人類の“進歩”へ ── 宇宙飛行士のニュートラルな生き方 星出 彰彦
        01. 準備を整える
        長い宇宙飛行士人生の中で、しっかりと準備することの大切さを感じています。訓練などを通してしっかりと準備をしておくことで心に余裕が生まれ、スムーズに行動することができます。
        個の“夢”から人類の“進歩”へ ── 宇宙飛行士のニュートラルな生き方 星出 彰彦
        02. チームワークを築くこと
        宇宙飛行士って、一人では何もできないんです。宇宙に行くことすらできない。ロケットを作ってくれる人や訓練をしてくれる人など、様々な人のサポートがあって初めて宇宙に行くことができます。大きなチームで仕事をするためにも、みんなとの良いチームワークを育むことを大事にしています。
        個の“夢”から人類の“進歩”へ ── 宇宙飛行士のニュートラルな生き方 星出 彰彦
        03. 心身ともに リラックスする
        リラックスした状態で作業に臨むことを大事にしています。宇宙に行く前に隔離期間が設けられるのですが、そういった時間をうまく使ってリフレッシュする。心身ともにリラックスした状態でミッションに臨むようにしています。
        個の“夢”から人類の“進歩”へ ── 宇宙飛行士のニュートラルな生き方 星出 彰彦
        04. 楽しむこと
        訓練やミッションでは、難しくなかなか上手くいかないこともありますが、何事も「楽しむ」ということが結局は大切なんじゃないかと思います。
        星出 彰彦 Akihiko Hoshide
        1968年東京都生まれ。慶應義塾大学理工学部機械工学科卒業。UNIVERSITY OF HOUSTON CULLEN COLLEGE OF ENGINEERING航空宇宙工学修士課程修了。92年からNASDA(現JAXA)名古屋駐在員事務所において、H-Ⅱロケットなどの開発・監督業務に従事したのち、99年、ISSに搭乗する日本人宇宙飛行士の候補者として古川聡、山崎直子とともに選抜される。 2008年、スペースシャトル「ディスカバリー号」による1Jミッション(STS-124ミッション)に参加。12年、ISS第32次/第33次長期滞在クルーのフライトエンジニアとしてISSに124日間滞在。21年、ISS第65次/第66次長期滞在クルーとしてISSに約200日間滞在、ISS船長も務めた。
        個の“夢”から人類の“進歩”へ ── 宇宙飛行士のニュートラルな生き方 星出 彰彦
        提供:JAXA/NASA/Josh Valcarcel
        宇宙航空研究開発機構(JAXA)
        2003年に宇宙科学研究所(ISAS)、航空宇宙技術研究所(NAL)、宇宙開発事業団(NASDA)の3機関が統合して誕生。
        政府全体の宇宙開発利用を技術で支える中核的実施機関と位置付けられ、同分野の基礎研究から開発・利用に至るまで一貫して行っている。創立から10年の節目となる2013年に、経営理念を「宇宙と空を活かし、安全で豊かな社会を実現する」と定め、コーポレートスローガンに〝Explore to Realize〟を掲げた。2015年4月には国立研究開発法人となり、同法人の設立趣旨である日本全体の研究開発成果の最大化を目指し、新たな一歩を踏み出した。
        編集後記
        今回は日本からヒューストンにあるJAXAの駐在事務所に繋ぎ、宇宙飛行士である星出彰彦さんにお話をお伺いしました。貴重な機会にドキドキしながら迎えた取材でしたが、星出さんは終始笑顔でユーモアを交えながら話してくださり、取材中はずっと温かい空気が流れていました。小さい頃からの夢を叶え、宇宙飛行士としてのキャリアを重ねてこられた星出さんが「生まれ変わっても宇宙飛行士になりたい」と笑顔で語られる姿がとても印象的でした。挑戦と経験を重ねてこられた星出さんのココロとカラダへの向き合い方やチャレンジ精神、仕事に対する姿勢など、ここでしか聞けないお話がたくさん詰まっています。宇宙の貴重な写真とともに、ユーモアに溢れた星出さんの柔らかなお人柄も記事の中から感じとっていただけますと幸いです。
        Publication date: 2023.03.31
        Interviewer & Writer: Yukari Fuji
        提供:JAXA/NASA