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        好奇心と探究心を絶やさず、
        40年香りと向き合い続ける調香師の「READY」な姿勢
        堀田龍志

        “PEOPLE” by NEUTRALWORKS.
        PEOPLE
        好奇心と探究心を絶やさず、40年香りと向き合い続ける調香師の「READY」な姿勢 堀田龍志
        さまざまな分野で活躍する人々への「READY」な状態を紐解くインタビューを通じて、日々の活動のマインドシフトをサポートするメディア“PEOPLE” by NEUTRALWORKS.。
        調香師として40年以上の経験と知識を持ち、現在は日本香堂の主任調香師として様々な香りの世界を探究する堀田龍志さんにインタビュー。長年に渡って香りと向き合い続ける堀田さんの普段のココロとカラダの向き合い方や、「READY」な状態を保つための秘訣とは。今回は、堀田さんが大切にされている小石川植物園と日本香堂のラボにお邪魔し、お話を伺いました。
        CHAPTER
        01 決まった生活リズムが心身のバランスを保つ
        02 自然の中に身を置き、スイッチをオフにする時間
        03 経験と結び付けることで、香りの引き出しを増やしていく
        04 日々の新たなチャレンジが探求心を育む
        05 堀田さんにとっての「READY」な状態とは
        06 「READY」を作るための具体的なアクション
        01
        決まった⽣活リズムが⼼⾝のバランスを保つ
        好奇心と探究心を絶やさず、40年香りと向き合い続ける調香師の「READY」な姿勢 堀田龍志
        ── 普段の生活の中で、「ココロもカラダも心地良くバランスがとれている」と感じるのはどのような状態ですか?
        今日のバランスは、自己採点でいうと95点くらいですね。バランスがとれていると感じるのには3つ理由があって、「頭がスッキリしていること」と、「体が重くないこと」、あとは「ストレスがないこと」です。何か気にかかることがない時は朝の目覚めが良く、本当に気持ちが良いものです。
        ── バランス良い状態でいるために、意識的に実践されていることはありますか?
        睡眠と朝のルーティンを大切にしていますね。基本的に毎日夜の9時には寝て、朝の4時に起きます。4時過ぎから5時の間に朝食を食べ始めるのですが、この決まったリズムが自分のペースを作ってくれています。朝食も、毎朝同じなんです。ホットミルクティーとバナナ1本、トースト1枚、そしてヨーグルト。トーストにはバターをつける日もあれば、ジャムの日もあります。ヨーグルトには旬のフルーツを入れて食べていて、季節問わずパイナップルは必須です(笑)。食べる物をコントロールすることで、自分のリズムを自然と保っているのだと思います。
        いつも早朝に朝食を食べるので、10時半から11時半くらいが一番空腹な時間です。調香をする際には嗅覚が必要ですが、空腹の時は色んな感覚が研ぎ澄まされているので感度が良いんですよ。僕の場合、シビアな香りの評価をしなければならない時は、大体お腹が空いているその時間に見るようにしていますね。
        02
        ⾃然の中に⾝を置き、スイッチをオフにする時間
        好奇心と探究心を絶やさず、40年香りと向き合い続ける調香師の「READY」な姿勢 堀田龍志
        好奇心と探究心を絶やさず、40年香りと向き合い続ける調香師の「READY」な姿勢 堀田龍志
        ── 忙しい日々の中で、気持ちの切り替えはどうされていますか?
        心身をリラックスさせたい時は、小石川植物園を散歩することが多いですね。小さい頃は山や川に囲まれた場所で生活をしていたので、年を重ねるにつれて自然がある場所に惹かれるようになりました。特に針葉樹林の中を散歩するのが好きなのですが、ここに来ると都会にいることを忘れさせてくれるんです。
        木々が発散する香りの成分“フィトンチッド”には、心身をリラックスさせてくれる効果があると言われています。なので、針葉樹林の中を歩くとリラックスできるんです。香りって、まだまだ明らかになっていないこともたくさんありますが、体に良い影響をもたらしてくれるものがもっと沢山あるのではないかと思っています。歩きながら気になる植物を見つけた時には、香りを嗅ぐこともありますよ。
        ── 疲れた時や、休みたい時に意識的にされることはありますか?
        香りを嗅ぐことは神経を使うので、ものすごくたくさんの香りを嗅いだ後はどっと疲れてしまいます。本当に嗅覚が敏感な時でないと微妙な違いが分からなくなってしまうので、そんな時は一度香りから離れます。他の事務作業に時間を当てるなどして、気持ちを切り替えていますね。
        普段から香りに囲まれているので、休む時に香りを用いることはありません。嗅覚を意識して使うか使わないかで鼻のスイッチを切り替えているのですが、香りを嗅ぐと自然と鼻のスイッチも心身もオンの状態になるので、香りはない方が休めている感覚があります。
        03
        経験と結び付けることで、⾹りの引き出しを増やしていく
        好奇心と探究心を絶やさず、40年香りと向き合い続ける調香師の「READY」な姿勢 堀田龍志
        好奇心と探究心を絶やさず、40年香りと向き合い続ける調香師の「READY」な姿勢 堀田龍志
        ── ひとつの香りができるまでに、どのようなプロセスがあるのでしょうか?
        作りたい香りのイメージができたら、その香りを作るためのキーとなる原料を探します。それを軸に、周りを作り込んでいくんです。キーとなる香りを見つけるためには、知っている香りを思い出しながら頭の中を探しに行きます。香りの記憶を頭の中で整理してあるので、そこから引っ張り出してくる感覚です。時には原料が置いてある部屋へ行き、答え合わせをします。
        調香する前に、頭の中でイメージに必要な原料を整理し、どれくらいの比率で混ぜるかを考えながらレシピを頭の中で作り上げる。料理人と同じですね。例えば、森の香りを作る時には、訪れた時に見た景色や感じたことを頭の中で思い浮かべます。ちょっと青臭かったなとか、土臭かったなということを思い出して、それに合った原料を探してレシピに加えます。そうして作ったレシピをもとに、液体や粉末をブレンドして、微調整を加えながら香りを作っていきます。
        ── 数え切れないほどの香りを、どのように記憶しているのですか?
        香り作りには、自分の経験や体験が大きく影響していると感じますね。経験と結びつけて記憶していくことで、少しずつイメージができるようになっていく。そうして結び付けながら、香りの引き出しを増やしています。
        実は、香りを嗅ぎ分けて記憶することと、作ることでは感覚が異なるんです。作るためには感性が必要になってくるので、日頃から植物園や美術館へ足を運び、美しいと思うものに触れて、イメージを膨らませるようにしています。中でも一番ヒントをくれるのは自然。特に花は、いつもヒントを与えてくれる存在です。花は色んな面を持っていて、香りを嗅いだ日によって異なる印象を受けたりと、いつも新たな側面を見せてくれるんです。億劫になると新しいものは作れないと思っているので、できるだけヒントを探しに色んな場所へ足を運ぶようにしています。
        ── 納得する香りができるまでの苦悩はありますか?
        上手くいかないことは頻繁にあります。一発で上手くいくなんてことはほとんどないですね。何回もトライアンドエラーを繰り返しながら作っています。思うような原料がなかったり、ブレンドが上手くいかないこともあるので、試行錯誤しながらやっているのが現状です。なので、いつも香りを作る時には、2〜3個くらいのテーマを同時に行うんです。1つ目が行き詰まってしまったら2つ目をやってみたり。それを繰り返す中で新たなヒントを得ることもあるので、それを別のものに活かしてみたりと、自分の中で切り分けながら行っていますね。
        04
        ⽇々の新たなチャレンジが探求⼼を育む
        好奇心と探究心を絶やさず、40年香りと向き合い続ける調香師の「READY」な姿勢 堀田龍志
        ── 40年以上調香師としてのキャリアを築いてこられた堀田さんですが、それだけ長い時間香りと向き合い続けてこられた理由は何ですか?
        香りの世界に触れ、調香師とは思い描く香りを作ることができる仕事だと知りました。実際にその世界に片足を入れ始めた時に調香の面白さや魅力を感じ、のめり込んでいきました。調香師は、自分には天職のような気がしたんです。なのでこれまでどんなに忙しくても、嫌だと思ったことは一度もないですね。
        日々が新しいものへのチャレンジだと思っているので、新しい香りを作りたいという思いは、今もずっと変わりません。新しい原料などに巡り合ったときには、毎回ものすごく刺激を受けます。「これはこういう香りを作るときに使えるんじゃないか」「これを使ってこういうものを作ってみよう」といったワクワク感が、自分のエネルギーを保ってくれているような気がします。
        ── 香りと向き合い続ける中で、ご自身の中で変化したことはありますか?
        昔に比べると、色んなものに対して強い好奇心を持つようになってきたと感じます。色んな場所へ行ってみたくなったり、食べてみたくなったり。意識的にあらゆることにチャレンジしようとしているので、前向きに捉えると日々の楽しみ方が増えたような感覚ですね。
        ── これまで多くの香りに触れられてきた堀田さんにとって、香りの魅力は何ですか?
        一言で言うと「心地良い」ということですかね。香りを変えたときの心地良さや、何度も嗅ぎたくなるような香りに出会えた時の心地良さ。それが香りの魅力であり、自分の気持ちを保ってくれているのだと思います。
        05
        堀⽥さんにとって「READY」な状態とは、どのような状態ですか?
        心がリラックスできていて、嗅覚が研ぎ澄まされている時。
        好奇心と探究心を絶やさず、40年香りと向き合い続ける調香師の「READY」な姿勢 堀田龍志
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        06
        堀⽥さんの「READY」を作るためのアクション
        好奇心と探究心を絶やさず、40年香りと向き合い続ける調香師の「READY」な姿勢 堀田龍志
        01. ボジティブなマインドで過ごすこと
        極力ストレスを溜めないようにしています。僕は基本的に楽観主義者なんですが、落ち込むことや悩みがあっても、「これ以上考えても仕方ない」と思うことはその先を考えないようにしています。寝たら忘れちゃうんですよ。いつもポジティブ思考でいることは、僕のREADYな状態を作り上げてくれている気がします。
        好奇心と探究心を絶やさず、40年香りと向き合い続ける調香師の「READY」な姿勢 堀田龍志
        02. 仲間と食事をする
        仲間と食事をしたりお酒を飲むことは、僕にとって最高の時間です。最もストレスフリーになれる状態なので、そういう機会は自分から作るようにしています。気を許せる仲間と過ごす時間は気持ちがリラックスできるし、ストレス発散になっています。
        好奇心と探究心を絶やさず、40年香りと向き合い続ける調香師の「READY」な姿勢 堀田龍志
        03. 食べ過ぎないこと
        朝はいつも決まったものを食べますし、外食をすることもありますが、いつも食べ過ぎないように調整しています。お昼に食べすぎたら夜は軽めにしたりと、自分で食べる量をコントロールしています。
        好奇心と探究心を絶やさず、40年香りと向き合い続ける調香師の「READY」な姿勢 堀田龍志
        04. 7時間以上の睡眠をとる
        毎日の睡眠はとても大事にしていて、最低でも7時間は寝るように心がけています。ぐっすり眠れた感覚があると、翌朝の目覚めがとても良いんです。
        堀田龍志  Tatsushi Horita
        1975年大手香料メーカー入社。1981-82年パフューマーとしてフランス、ドイツ、アメリカなどで研修、1994年海外大手メーカーの日本支社に移る。1998年資生堂研究所香料研究室入社。香料研究室の室長や主任調香師(チーフパフューマー)として香りの開発に従事。2017年4月日本香堂入社。現在まで研究室に在籍し各種製品用の香料開発を担当。パフューマーとして40年以上のキャリアを持つ。フランス調香師会正会員、公益社団法人日本アロマ環境協会顧問、日本調香技術普及協会名誉理事を務める。
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        好奇心と探究心を絶やさず、40年香りと向き合い続ける調香師の「READY」な姿勢 堀田龍志
        編集後記
        この日の取材は、都内の小石川植物園からスタート。歩くたびに変化する草木の香りを感じながら、気になる植物があるとすぐに香りを嗅ぐ堀田さん。我々も香りを意識しながら歩いてみると、普段は何となく通り過ぎてしまっていた道にも様々な発見があり、自然の豊かさと香りの面白さを存分に感じることができました。日本香堂のラボでは、調香の様子を。白衣を身に纏った途端、表情がキリッと切り替わる堀田さんの姿も印象的でした。原料を0.002gといった単位で調香する繊細な作業を目の当たりにし、それすらも感覚で進めていく熟練の技に、チーム一同、思わず息を飲みました。今回特別に作ってくださった香りを嗅がせていただくと、夏の始まりを思わせる涼しげな香りから始まり、木々や草花、土の香りを感じ、植物園の中にいた時間を思い出させてくれるかのようでした。「まだまだ知らない香りがある」と語る探究心に溢れた堀田さんの香りのお話をはじめ、ココロとカラダの向き合い方や人生観などのお話を楽しんでいただけますと幸いです。
        Publication date: 2023.08.10
        Photographer: Yuka Ito
        Interviewer & Writer: Yukari Fujii
        撮影場所:東京大学大学院理学研究科附属植物園(小石川植物園)
        〒112-0001 東京都文京区白山3丁目7番1号