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        地球と向き合い続ける写真家の、自然体な在り方
        高砂淳二

        “PEOPLE” by NEUTRALWORKS.
        PEOPLE
        海を見る高砂淳二さん
        さまざまな分野で活躍する人々への「READY」な状態を紐解くインタビューを通じて、日々の活動のマインドシフトをサポートするメディア“PEOPLE” by NEUTRALWORKS.。35年以上にわたり海の生き物や地球の神秘を撮影し続け、写真家として第一線で活躍を続ける高砂淳二さんにインタビュー。長年地球環境や生命と向き合い続けてきた高砂さんの思いや写真との向き合い方、そのニュートラルな人生観とは。今回は、高砂さんの長年の友人である山崎由紀子さんが運営する、千葉県館山市のダイビングショップ「マナティーズ」を訪れ、お話を伺いました。
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        海の美しさに魅せられ、自然写真家の道へ
        ── 世界中を巡る生活を送られていますが、ご自身にとって「ココロもカラダも心地良くバランスが取れている」と感じるのはどのような状態ですか?
        朝目覚めた時に、「嬉しい」と感じる瞬間ですね。考えることが多い時は、朝起きた瞬間にそのことが浮かんでしまうこともありますが、何も考えずにすっきりとした気持ちで目覚めることができた日は、ココロとカラダのバランスがとれていると感じますね。仕事が夜遅くまで続くこともありますが、そんな時は眠る時も頭が回転し続けている感覚があります。できれば夕方くらいには仕事に区切りをつけて、ビールを飲んでぐっすり眠れるのが理想ですね。
        ── 写真家として第一線で活躍する高砂さんですが、海の写真を撮り始めたきっかけは何だったのでしょうか?
        大学で電子工学を学んでいたものの、自分に合わず、3年生の時に思い立ってオーストラリアを訪れました。その時にダイビングを始めてみたのですが、すごく気持ちが良くて、海の美しさに圧倒されました。海を見ただけで生き返ったような心地になって、小さい頃に砂浜で遊んでいた時の記憶が蘇りましたね。ちょうどその頃、仲間が水中写真を撮っているのを見て「こんな職業があるんだ」ということに気付きました。もし水中カメラマンになれたら、「一生自分の好きな海をフィールドにして仕事ができる」と思い、それから水中写真を撮るようになりました。
        ── そこからどのようにして写真家の道を歩まれたのですか?
        写真家になるために必要なステップを逆算して、必要なことを一つずつ確実にこなしていきました。ダイビング雑誌のフォトコンテストに応募して入選したり、出版社に売り込みに行って入社させてもらったり。一度決めたらとことんやり抜くタイプなので、好きなことを仕事にするために全力で努力しましたね。
        02
        自然との調和が引き寄せる、美しい瞬間
        カメラを構える高砂さん
        ⼭崎由紀⼦さんが案内してくれた館⼭の⾹(こうやつ)にて、取材当⽇に⾼砂さん撮影のウツボ。
        ©Junji Takasago
        山崎由紀子さんが案内してくれた館山の香(こうやつ)にて、取材当日に高砂さん撮影のウツボ。
        ── 高砂さんの写真には、世界の海や大地が一瞬だけ見せる奇跡のような美しい瞬間が切り取られており、心が震えるような感動があります。自然の写真を撮る際に意識していることを教えてください。
        自分がその瞬間に心から感動したことを写真に収めるよう意識しています。例えば、海に潜った時に水の感触が心地よいと感じたら、その感覚を写真に収めようとしますし、生き物と出会って「この表情が素敵だ」と感じた時は、その表情が写るようにシャッターを切ります。また、撮るものをあらかじめ決めて行くことはほとんどなく、その場で出会った風景や感動した瞬間にシャッターを切るようにしています。それはなぜかというと、事前にイメージを固めてしまうとその枠からは出られなくなってしまうから。偶然の出会いや予期しない出来事に感動して、その感情がのるように撮ると、不思議なことに写真に表れるんですよ。感動をそのまま写真に収めているからこそ、見る人にもその感動が伝わるのかなと思いますね。
        2001年にハワイを訪れた際、先住民から多くのことを学びました。特に“アロハ”という言葉には、愛や慈悲、優しさなど多くの意味合いが込められていて、ハワイの人々が最も大切にしている言葉です。彼らは「人や生き物だけでなく、海や自然に対してもアロハの心で接しなさい」と教えてくれました。それ以来、自然と向き合う際には自らが自然の一部として溶け込むこと、自然に「お邪魔する」という気持ちで接することを心がけています。
        人間と自然、そして動物は、まるで鏡のような存在です。こちらが緊張していると、絶対に上手くいきません。調和するためには、まず自分自身がリラックスすることが大切です。リラックスした状態でコミュニケーションをとると、生き物が周りに集まってきたり、突如虹が現れたり、思いがけない出会いや自然の美しい瞬間を引き寄せることがあるんです。自然と調和することで、より豊かな瞬間が生まれると信じています。
        ── 感動的な瞬間を写真に収められた時、どのような感覚がありますか?
        まさに“自然からの大きなプレゼント”ですね。
        「Wildlife Photographer of the Year 2022」で優秀賞を受賞したユウニ塩湖とフラミンゴの写真も、天候や出会いなど、すべてのコンディションが完璧に整った瞬間でしたね。それはもう、「素晴らしい瞬間に出合わせていただいた」という感覚でした。
        03
        仕事とプライベートの境目を越えて楽しむこと
        ── 自然と地続きの暮らしをされている印象がありますが、高砂さんのオンオフが切り替わる瞬間はどのような時ですか?
        皆さんが考えるオンの時間に近いのは、打ち合わせや原稿を書く作業の時かもしれませんし、自然の中で撮影している時はオンの時間だと思われるかもしれません。オフというと朝のウォーキングやビールを飲む時間、映画鑑賞、ストレッチなど、好きなことをしている時間はとてもリラックスできる大切な時間です。
        でも実際にはオンとオフの境界は曖昧で、自然の中で撮影をしている時は、まるで遊んでいるかのような感覚でとにかく楽しいんですよ。その感覚は、朝公園を散歩している時間とも地続きのような感覚です。
        ── 天候など自分ではコントロールできない状況に直面した時、どのように対処していますか?
        イルカの撮影に行ったのに姿が見えない、天候が急に悪化するなど、予期しない困難に直面することも多々あります。そんな時は、写真家として最善を尽くし、自然と調和できるように努めますね。その後は、結果を受け入れるしかありません。過去に難しい場面を何度も経験しましたが、その分良いことも沢山あったので、段々と割り切れるようになりましたね。
        一方で、時々最終日のマジックとも言える奇跡が起きることがあります。それまでは全くうまくいかず、「今日で終わりだ」なんて思うんですが、最後の最後に思いがけない奇跡のような瞬間に出会うことがあるんです。その時の感動は、言葉にできないほど幸せなものですね。振り返ると、好きなことを仕事にできて本当によかったと思います。ずっと楽しめているし、趣味もなくならなかったから。自然と向き合い続けてきたことで、ますますその魅力を感じています。
        04
        地球環境とのより良い向き合い方を伝えていきたい
        ── 高砂さんにとって、“自然”とはどのような存在ですか?
        自然は、まさに“興味と魅力の塊”ですね。沢山の自然を見てきたことで、私自身も大きく変わりました。海の近くで育ったこともあり、海を見るだけで心が落ち着くんですよね。足を入れてみると、体内の毒素が抜けていくような感覚を覚えます。その瞬間、「ここに来てよかった、ありがとう」と思える。そんな存在ですね。
        普段の暮らしの中でも、自然の魅力を感じる瞬間はたくさんあります。よく散歩する公園では、足を踏み入れた瞬間に森の香りが漂い、夏にはセミの声が響きわたります。雨が降った翌朝は、公園に朝日が差し込むと地面が温まって湯気が立ち上るという、神秘的な光景に出会うこともあります。そういう自然の香りや音、光、そして青々とした葉っぱたちに出会うたびに、心から嬉しくなるんです。いつもそんなことに意識を向けながら散歩を楽しんでいますね。
        自然にはまだ未知の部分が多いからこそ、どう向き合っていくべきかを常に考えています。自然の中に身を置くと、人間は生き物の中でも特別な役割を担っていると強く感じます。僕たち人間は大きな力や知恵を持っていますが、それをどう使うかが重要です。与えられた力や知恵を活かして素晴らしいものを生み出すことも、他の生き物に共感して行動することもできます。だからこそ、力や知恵を正しく使うことで、自然との関係をより良いものにしていきたいと思っています。
        ── 今後はどんな未来を見据えていますか?
        僕らの周りに対する意識を変えながら、地球を持続可能なものにしたいと考えています。二酸化炭素の削減やプラスチックの削減といった具体的な対策ももちろん重要ですが、それだけでなく、地球や海、大地とどう向き合っていくかを見つめ直すことが大切だと思っています。自然や生き物に対して、愛情とリスペクトを持つことが大切です。
        例えば、土壌にいる微生物が地球の循環を支えていることを理解すれば、除草剤の使用を控えるといった具体的な行動に繋がります。また、キッチンから海への繋がりを想像することで、洗剤の量や質のことを考えるようになるなど、少しの意識が地球全体の変化を促すと信じています。今後は、こうした意識や知識を広める活動を進めるとともに、自らもそれを実践し続けたいと考えています。
        05
        高砂さんにとってREADYな状態とは、どのような状態ですか?
        体の力が抜け、前向きな気持ちになれている時。
        カメラを持った⾼砂さん
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        高砂さんの「READY」を作るためのアクション
        自然豊かな公園をウォーキングする高砂さん
        01. 毎朝自然豊かな公園をウォーキングすること
        朝、自然が豊かな公園をウォーキングしています。たとえ気分が少し波立っていても、ウォーキングをすることで頭がすっきりとクリアになります。公園で偶然出会った美しい景色を写真に収めたり、鳥の声に耳を傾けたりすることもあります。
        ストレッチをする高砂さん
        02. ストレッチをしてカラダをほぐすこと
        疲れが溜まっている時は、体のどこかが固くなっていることが多いんです。そんな時は、ストレッチをして体を伸ばしてほぐすようにしています。そうするとすごく気持ちがいいし、リカバリーされる感覚がありますね。体が楽になると、心もほぐれるような気がします。
        瞑想をする高砂さん
        03. 瞑想をすること
        事務所のサンルームで窓を開け、朝日を浴びながら立って瞑想をすることが多いですね。気分やエネルギーが上下している時でも、瞑想をすることでバランスが整うような感覚があります。
        ビールを注ぐ高砂さん
        04. ビールを飲む時間
        いつも家の屋上で空を見ながらビールを飲んでいますが、少し夕焼けが見えるだけでとびきりの晩酌ができるんですよ。特に外出先で海を眺めながらお酒を飲めた時は、格別に美味しく感じますね。
        高砂淳二 Junji Takasago
        写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。
        熱帯から極地まで、地球そのものをフィールドに撮影活動を続けている。国内外で写真展多数開催。TBS「情熱大陸」、NHK「おはよう日本」をはじめ、テレビ、ラジオ、雑誌等のメディアや講演会などで、自然の大切さ、自然と人間の関係性、人間の地球上での役割などを幅広く伝え続けている。「この惑星(ほし)の声を聴く」「night rainbow」「PLANET OF WATER」など、30冊あまりの著書を発表。ロンドン自然史博物館「Wildlife Photographer of the Year 2022」自然芸術部門で最優秀賞を受賞。海の環境NPO法人OWS(The Oceanic Wildlife Society)理事。
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        高砂淳二 Junji Takasago
        “PEOPLE” by NEUTRALWORKS. MOVIE について
        今回の高砂淳二さんの取材を収めた“PEOPLE” by NEUTRALWORKS. MOVIEを公開しています。
        Web上では表現しきれない空気や時間をお届けできればと思っています。

        前編
        後編
        編集後記
        この日の取材は、千葉県館山にてスタート。高砂さんと長年の友人である山崎さんが運営するダイビングショップ「マナティーズ」を訪れ、高砂さんと一緒にダイビングスポットや自然の散策を楽しませていただきました。どこにいても、風の心地よさや木漏れ日、鳥の鳴き声など、自然の美しさや小さな変化をすぐに感じ取り、心が動いた瞬間を写真に収める高砂さんの姿が印象的でした。何度も心動かされてきた高砂さんの写真の数々は、ご自身が引き寄せた奇跡の瞬間からなるものだと知り、自然や生き物の奥深さや魅力を改めて実感しました。「自然は興味と魅力の塊」と語る高砂さんの自然との向き合い方やニュートラルな考え方、そしてその温かく柔らかいお人柄も、ぜひ記事の中で感じていただけますと幸いです。
        Publication date: 2024.9.27
        Photographer: Yuka Ito
        Interviewer & Writer: Yukari Fujii