風の動きを音として体験する日用品楽器
日用品演奏ユニット kajii 創さんと作るDIY楽器で、いつもと違う風を発見する
- FEATURE
- 2022.1.19 WED
風は私たちの暮らしの中で身近な存在です。けれど、あまりにも身近なために、風が私たちの暮らしの中でどんな働きをしているのかを意識することはあまりありません。
風にはどのような種類が存在し、それらは普段の生活や運動の中でどのように作用しているのか ?
愛知県大治町に拠点を置く日用品演奏ユニット「kajii(カジー)」のメンバーとして、茶わん、ペットボトル、ビー玉、ブルーシート、トイレットペーパーの芯など、身の回りにあるものを材料に、これまで100種類以上の楽器を独学で制作してきたkajii 創さんと一緒に、さまざまな風の動きを音として体験できる日用品楽器を作ってみました。
モノがふるえることで音は鳴ります。その振動が空気中で波になり、耳の鼓膜を振動させることで、音となって聞こえるのです。
では、どんな風が楽器として音を鳴らしてくれるのでしょうか?
#1 風が走る音が聞こえる蛇腹ホース
「ベルヌーイの定理」という、流体力学の基礎とよばれる法則があります。
この定理は、空気の流れが速くなると、その速くなった部分は圧力が低くなるために、まわりの空気が流れこむといった仕組みを説明したもので、羽のない扇風機から吹く風、高い建物が並ぶ街でビューと音を立てて吹きつける”ビル風”のような、日常における不思議な風は、この法則のもとに生まれているのです。
まず最初にご紹介する「風が走る音が聞こえる蛇腹ホース」は、この「ベルヌーイの定理」の仕組みを利用した、私たちの日常で見かける蛇腹ホースを使った楽器です。
この楽器は、ゆっくり回すと「ウーウー」と低い音が、速く回すと「ホーホー」と高い音が出ます。回転しているホースの中は、先ほどの「ベルヌーイの定理」によって気圧が低くなっており、周りの空気を取り込んで手元から先端へと風が駆け抜けていきます。この時、ホースの中を走る風が振動を生み、その振動の波長からさまざまな音が生み出されるのです。
また、振り回す速さだけでなく、ホースの長さや太さによっても音が変わっていきます。一般的には、太くて長いホースであれば低い音が、細くて短いものだと高い音が出るので、みなさんも色々な音にチャレンジしてみてください。
*蛇腹ホースは100円ショップやホームセンターで販売していますが、蛇腹が螺旋状になっているタイプのものでは音が上手く出ません。
#2 風の渦の音を奏でるペットボトルのうなり笛
次に紹介する楽器は、縄跳びで二重跳びをした時のビュンビュンという音や、強い風が吹いて電線をヒューヒューと音が鳴る時に発生するユニークな風を使った楽器です。
空気中を物体が動いて通過する時、その物体の両側には空気の渦ができるのですが、これを「カルマン渦」と呼びます。この渦の振動から音が発生するので、縄跳びや電線から音が鳴っているように見えるのです。
この楽器では、穴の空いたペットボトルを回転させることで、ペットボトルの内側と外側に分かれた渦によって生まれる空気の振動によって音を奏でます。
実はこの楽器、ジブリ作品の『風の谷のナウシカ』にて、主人公のナウシカが振って音を鳴らしていた蟲笛(むしぶえ)と同じような仕組みを持っており、2万5000年以上の歴史を持つ、世界で最も古い楽器とも言われています。
ペットボトルのうなり笛の作り方
必要な材料
・小さめのペットボトル (明治ヨーグルトR-1のようなサイズがおすすめです。フィルムケースでも可)
・紐 (今回は毛糸ですが、タコ糸でも大丈夫)
・結束バンド (100円ショップなどに売っています)
・厚めの紙 (3cm×4cmほどに切って使います)
・油性ペン (窓を開ける時に目印をつけます)
・カッターナイフ
・はさみ
・セロハンテープ
① ペットボトルの側面に、油性ペンを使って長さ2cm、幅5mmほどの窓を描き、カッターナイフで穴を開けます。
② 窓の反対側に、厚めの紙をL字に貼り付けます。これによって回した時の回転が安定します。
③ 結束バンドに紐を結びつけます。
④ペットボトルの蓋の部分に紐を結びつけた結束バンドを固定して、完成です!
#3 走って音を鳴らすビニール袋凧
風が強い日。追い風が吹けば走る速度は速くなり、向かい風の時は走るのが難しくなりますが、風を全身で感じながら走るのはとても楽しいですね。次の楽器は、走りながら切る風を受けて空を飛びながら音を鳴らす、ペットのような楽器です。
走ることで、ビニール袋が風を含んでふわっと浮き上がります。スピードを速くしたり、ゆっくり走ってみたり、手を高く上げて走ってみたり、紐を短く持ってみたり、いろいろな工夫をしながら凧と一緒に風の中を散歩してみましょう。
走って音を鳴らすビニール袋凧の作り方
必要な材料
・ビニール袋
・大きめのゴミ袋
・凧糸
・鈴
・セロハンテープ
・はさみ
① ビニール袋の持ち手にタコ糸を結びつけます。
② 先ほどのタコ糸の真ん中に鈴をつけたタコ糸をもう1本結びつけます。
③ ゴミ袋など、少し大きめの袋を縦長に切り、凧のしっぽにしてテープで固定します。
④ 完成です!
#4 日常の風の振動を大きくする筒の集音器
海で拾った貝を耳にあてて、海の音を聞いたことがある人も多いかもしれません。次の楽器は、普段の生活で使っているものを使ってそんな体験を再現してくれる楽器です。
仕組みは簡単。使い終わったサランラップやアルミホイルの芯、あるいは2-3個をテープで繋げたトイレットペーパーの芯を耳に当てるだけ。
耳に当てた瞬間「コォー」という不思議な音が聞こえてくるでしょう。
改めて、音は空気の振動によって生まれますが、その性質の1つに「共鳴」があります。例えば、体を動かすことでブランコを大きく揺らすように、外から同じ周期で力が加わると、力を受けた方の振動の幅が大きくなるという現象です。
私たちのまわりには予想外にたくさんの音の周波数を発生するものが存在し、筒の長さに応じて特定の音の波が重なり合うことで、その音だけを強めるため、このような音が聞こえてくるのです。
– 番外編 –
kajii 創さんがこれまでに作った「風」にまつわる楽器たち
吊るす楽器(チャフチャス)シリーズ
チャフチャスは南アメリカにあるアンデス地域で生まれた、木の実や動物の爪を束ねて作られる楽器ですが、kajiiさんは釘やストロー、鉛筆のキャップや安全ピン、さらにはマカロニやひまわりの種など、さまざまな材料で制作しています。
玄関やベランダなど、家の中の風がよく通る場所に飾っていると、風が吹き抜けた時に素材ごとに様々な音が鳴ります。
空き缶を使ったオルガン(通称、オルカン)
空き缶を使い、パイプオルガンの仕組みを取り入れた「オルカン」は、足踏みポンプで風船を膨らませ、そこから出る空気をバルブを通して空き缶の飲み口に噴射することで、軽やかな音色を奏でます。空き缶の長さはしっかりと音階が出るように調整されており、映像のように実際に楽曲を演奏することも可能。ライブでは参加したお客さんたちが空気を入れて、kajiiのお2人が演奏するなど、人気の楽器でもあります。
参考資料
『風の事典』山川 修治(著) ; 新野 宏 ほか共編 (丸善出版)
『歌うワイングラス (実験で楽しむ物理)』Robert Ehrlich (著) ; 右近修治 ほか共訳 (丸善出版)