photo by Go Itami

Contents Vol.2

GLINT開発の裏側。
ジャパンフィットモデルの強みとは。

2024年3月18日、Fastskinシリーズ初のジャパンフィットモデルとして、GLINTが公式に発表された。すでに多くの選手に愛用されているグローバルのモデル・Valorをベースとして、日本人の体格や感覚に合うようアレンジされている。昨年末の代表候補の強化合宿は多くの選手が着用し、練習のタイムも軒並み上々だったという。

では、そのプロジェクトは、どのような経緯で立ち上げられたのだろうか。そしてGLINTは、実際どんな水着に仕上がったのだろうか。生産拠点である富山で開発にあたったチームのメンバー4人に、あらためて振り返ってもらう。

「スピード社のインターナショナル部門から日本独自開発のゴーサインが出たことが、GLINTに着手するきっかけでした。いま日本人選手に向けて何をやるべきか、そして限られた期間で何ができるのか。スピードにはすでに、世界中で広く知れ渡っているValorという製品がある。それなら、ゼロから作るのではなく、Valorの形をいかして日本人選手に合うジャパンフィットを考えてみようと。最初はValorのクオリティを再現できるかどうか、期待半分、不安半分の状態でした。(開発本部資材設計グループマネージャー:稲垣宗治さん)」

GLINTのベースとなるValorは、本国で数年をかけて開発された。

これまで国内でもValorを使用する選手は多く、その機能性の高さによってある程度まで定着していたものの、あくまで水着の設計は欧米選手を想定したもの。そんなValorを日本にローカライズすることには、2つの利点が挙げられる。

「まずは、欧米の選手とバランスが異なる日本人選手の体格にフォーカスできたこと。もう一つは、水着の供給が安定すること。これまでは、海外工場の都合で到着が遅れることもあり、また円安が影響して価格も高くなる一方でした。単にジャパンフィットというと地味に聞こえるかもしれませんが、選手にとって実はインパクトが大きいことなんです。(稲垣宗治さん)」

糸で仮留めした後、超音波で接着。そのあとシリコンテープで補強し、最後にプレスをかける。股部分のフィッティングは、選手の間でも評判が良い。

また、水着の新製品というと、新素材や最新テクノロジーのことが大々的に謳われるケースが多いが、GLINTの場合は「選手の声に寄り添って開発された」という点が何より重要だ。

「Valorをベースに水着の形がある程度できあがってから、大学生の水泳選手 を対象に着用試験を複数回行いました。『ここがきつい、ゆるい』という声を細かく拾っていき、実際に直すべきところと許容できるところを見極めながら、サンプルをアップデートしていく。あくまで個人の感想ですが、日本の選手たちは体に対して繊細な感覚を持っている。たとえば、GLINTの裾にはシリコンテープが貼られているのですが、テープ端が重なった仕様で着用してもらった際に、『肌に当たっている気がする』という指摘が入りました。股ぐり部分も同様で、少しでも空間があると水が溜まる感じがすると。本当に細かいところまで気がつくんですよね。なので、そのあたりの仕様は特に気を遣いながら調整していきました。GLINTは、選手のフィードバックによって詰められた部分が大きいんです。(開発本部 テック・ラボ R&DグループR&Dチーム:島公嗣さん)」

とはいえ、選手の体型、種目、性格によって、フィードバックにもバラつきが生まれる。また、その日のコンディションによっても感覚は変化するという。そこで選手の反応の「傾向」を明らかにするために、口頭だけでなく、アンケートで履歴を残すことを徹底した。最終的に完成するモデルは、男女別に1つずつ。日々選手に対応している担当者の声も参考にしながら、堂々とジャパンフィットといえるクオリティを目指した。

「基準は常にValor。そこにいかに近づけるか。選手にはGLINTとValorを目隠しの状態で比較してもらいながら、同じような反応、もしくはGLINTの方が良いというフィードバックが返ってくるまで、改善を続けました。(稲垣宗治さん)」

生地が伸び縮みした際の応力特性を計測するための試験。

ウィメンズ水着の肩紐の角度は、Valorと微妙に異なる。日本人に最適なフィット感を実現した。

GLINTはパターンや縫製の面でも、各担当者のこだわりと執念が詰まっている。それぞれの担当者が細かいポイントについて語ってくれた。

「GLINTの股下部分には、三角形のパーツがついています。見た目には伝わりにくいんですが、この切り替えを実現させるのが作業的にものすごく大変でした。でも、これがレーザー・レーサーの頃から継承されている、スピード特有の形です。(開発本部 テック・ラボ R&Dグループプロダクトチーム:前田一美さん)」

「パターンと縫製のせめぎ合いがありました。もっと縫いやすくパターンを変えることもできるんですが、それだと着用感が変わってしまい、Valorからかけ離れてしまう。現場の人たちから『これじゃ縫えない』と言われながら、『ではこれで何とか』と線を書き直す日々。正直みなさんとバチバチしたこともありますが(笑)、最終的にはベストな落とし所を見つけられました。(開発本部 商品研究部 パフォーマンスグループ:前田恵梨子さん )」

パターンは、縫製サイドと選手の声を参考に微調整を繰り返す。

日本人選手からのフィードバックを元に、Valorからさらに進化した新しいスタンダード。その裏側には、ここで紹介したこと以外にも、数えきれないほどの試行錯誤があったという。まずは第一歩。日本の水泳界にとって、GLINTは重要なターニングポイントになるだろう。