photo by Go Itami

Contents Vol.3

注目のパラ水泳強化・育成指定選手たちに
ショートインタビュー

昨年末の強化合宿ではじめて着用したというGLINTの着用感をはじめ、水泳をはじめたきっかけ、そしてパリへ向けたいまのコンディションについて。日本パラ水泳連盟(JPSF)強化・育成指定選手たちに訊く。
※インタビューは、代表選考会を直前に控えた2024年2月に実施しています。

前田恵麻(17歳・JPSF育成指定選手)
所属:福工大附属高校
部門:上肢障害/S9、SB9、SM9
2022年アジアパラ競技大会成績:100m背泳ぎ 銅メダル/100m平泳 銅メダル

松永琴寧(17歳・JPSF育成指定選手)
所属:花咲徳栄高校
部門:下肢障害/S10、SB9、SM10
2022年アジアパラ競技大会成績:100m背泳ぎ 銅メダル

川渕大耀(15歳・JPSF強化指定選手)
所属:宮前ドルフィン
部門:下肢障害/S9、SB8、SM9
2022年アジアパラ競技大会成績:400m自由形 金メダル/200m個人メドレー 銀メダル/100mバタフライ 銅メダル

上園温太(18歳・JPSF育成指定選手)
所属:須磨学園高校
部門:下肢障害/S10、SB9、SM10
2022年アジアパラ競技大会成績:100m背泳ぎ 銀メダル

第一問「GLINTの着用感、もしくはスピード水着の特徴を教えてください」

前田恵麻さん「私はウエストと腰の幅の差が広い方なので、もともと体型的に合う水着がなかった。昨年末に試したGLINTも、足はぴったりなんですが、お腹はちょっとゆるくて。ただ、今回自分の体をスキャンしてもらえたので、体型にフィットした水着が届くのが楽しみです。GLINTの着用感としては、キツいわけでもユルいわけでもなく、程よいと感じました」

松永琴寧さん「まず驚いたのは、すごく着用しやすいこと。私の障害(下肢障害)の関係上、着ること自体大変なことも多いんですが、GLINTはスムーズでした。フィッティングに関しては恵麻さんと同じく、私も自分の体に合ったものを作ってもらえることになったので、それを期待して待っているところです」

川渕大耀さん「フィッティングはキツすぎずユルすぎず、ちょうどよかったです。キックを打つ時も変に水着に縛られている感じがしない一方で、股関節だけはしっかりホールドされている。そのバランスがよかった。僕は400メートルの自由形で戦っているので、とにかく体にストレスがかからないことが大切。着用した時の練習のタイムも良く、特に終盤、腹筋や体幹が落ちてきた時にも水着がサポートしてくれたおかげで、浮力を保つことができました」

上園温太さん「実は、みんながはじめてGLINTを試着した代表合宿に、僕だけ大学入試が重なって参加できていなかったので、水着自体はまだ試せていないんです。ただ、スピードの水着全般にいえることは、生地が薄くて軽いこと。最初は『着ると破れちゃうんじゃないか』と不安になるんですが、伸びた状態のままフィットしてくれる。僕の場合、左右の足の太さが違うんですが、それでも両方フィットしてくれます。そこらへんは他社の水着とぜんぜん違いますね。肌と一体になる感覚があります」

松永琴寧さん(左)と前田恵麻さん(右)。松永さんいわく前田さんは「いつも明るいのに、大事な試合の前には緊張して真顔になっている(笑)」のだそう。

第二問「水泳を始めたきっかけは?」

前田恵麻さん「私は4歳の時に事故で左手を切断してしまい、それから日常生活で右手ばかり使っていたら肩甲骨の大きさが左右で変わってしまったので、はじめはリハビリとして水泳を始めました。リオの前くらいかな、ある企業のCMをみたら陸上選手の一ノ瀬メイさんが出演されていて、同じ障害を持っている彼女がやれるなら私もやれるかもしれないと思えた。そこからスクールに入り、育成指定に入った時にはじめてパラを意識しました」

松永琴寧さん「小学校1年か2年の時に友だちからスクールに誘われたことが、最初のきっかけでした。私も当時入っていた『先天性四肢障害児父母の会』に西田杏ちゃんという強化指定選手が在籍されていて、彼女に影響されて自分も泳ぎをがんばってみようと思いました。今も私にとって水泳は、ただただ楽しいこと。これまで辛いと思ったこともないんです」

川渕大耀さん「水泳は幼稚園くらいからやっていたんですが、正直あんまり好きじゃなかった。スポーツは他にも、バスケットボールやサッカー、バレーをやっていて、運動神経は良かったんですが、水泳は練習もきついんですよね(笑)。水泳に本腰を入れたきっかけは、中学一年生の時に東京パラがあり、ずっと一緒に練習していた日向楓選手が出場したこと。僕は選考会すら出ることができなかったので、実力の差を痛感しました。また、当時400メートル自由形の世界記録を出した選手が、僕と同じく片足の選手だったことも影響しています。そこで、水泳でトップを獲りたいと。もともと負けず嫌いなので、やるからには負けたくないんです」

上園温太さん「幼い頃に病気がちで、まわりの子たちに比べても体が弱く、小学校には車椅子で通っていたくらいでした。そこで体力作りのためにスクールに通うことになったのが、水泳をやり始めたきっかけ。泳ぐことがとにかく楽しかった。そのうち、同じスクールの子たちとタイムを競うようになりました。そこから神戸楽泳会というパラの地元チームに入ったんですが、まわりの高いレベルに圧倒されました。中でも憧れていたのは、山田拓朗さんという選手。小学校5年生の時に、山田さんの試合が終わったあとすぐファンレターを渡して、『一緒に写真を撮ってください』ってお願いしたのを覚えています(笑)。高校は須磨学園に進学。そこの水泳部にはほとんど推薦の子しか在籍していなかったんですが、顧問の先生が『やる気があるなら入っていいよ』と言ってくださって。しんどい練習に耐えたおかげで自分を伸ばすことができたので、『上を目指してとことんやってみよう』という意思が固まりました」

川渕大耀さん(左)と上園温太さん(右)。上園さんは川渕さんのことを「自分が同じ歳の頃を思い出すと恥ずかしくなるくらい、彼は裏でものすごく努力している」と語る。

第三問「パリへむけて、いま感じていること」

前田恵麻「私は水泳に対してポジティブに考えることが苦手。ひとつでもダメなところを見つけたら、ぜんぶがネガティブになっちゃう。どれだけ練習しても納得いかないし、試合ではうまくいかない気がしてしまう。一生不安なんです(笑)。でも、最近になって練習拠点を変えて、新しいコーチがついたことにより、練習の精度が上がったことを実感しています。タイムも着実に良くなってきて、それが自信に繋がりました。だから今は、『本番で失敗してもいいんじゃない』くらい気楽に構えながら、日々の練習を積み重ねたいと思っています」

松永琴寧「私は恵麻とは真逆で、本番でもあまり緊張しないタイプ。試合に出た、タイムがよかった。本当にそれくらいしか考えていなかった(笑)。でも最近になって、最初からタイムを強く意識するようになりました。以前は泳いだ分だけベストが出ていたんですけど、いまはベストが出づらくなってきた。それくらい自分のレベルが上がってきたということだと思うので、今回はちゃんと緊張しながら試合に挑みたいです」

川渕大耀「去年の選考会では自己ベストを更新できず悔しい思いをしました。パリには、出場するだけでなく、自己ベストを更新してさらにメダルを獲得するくらいの気持ちで挑みたい。今の自分をキープしているだけでは世界と対等に戦えないので、今度は一皮剥けた姿をみせたいです」

上園温太さん「僕は、強いプレッシャーがかかっている時の方がタイムが良くなるタイプ。去年の同じ時期に開催された選考会でも、その時のベストを更新することができたので、今回も同じくらいプレッシャーがかかる環境という意味では、良いタイムが出せるんじゃないかと期待しています。また、去年は受験を控えていて勉強面で忙しかったんですが、今は受験が終わり学校に行かなくてもいいので、一日の体力を水泳に注ぎ込めている。最後まで準備を怠らず、選考会に挑みたいと思います」