続いて素材を変更してフルモデルチェンジした「EXPEDITION GRID FLEECE HOODIE」です。ロングスリーブシャツ1枚では肌寒い。けれども、厚めのフリースで行動するには暑すぎる。そんな時期に活躍する新開発のミッドレイヤーを2人の視点から読み解きます。
秋の山で快適に行動する秘訣は、動いているときの体温を頭に入れたウエア選びです。基本は薄着。出発前は肌寒く感じても、歩き出せば体温は上がり、そのとき厚着のままでは余計な汗をかくことになります。とはいえ、夏や初秋のようにTシャツやベースレイヤー1枚ではさすがに寒い。そんなときに重宝するのが薄手のテクニカルフリースです。
グリッド状のテクニカルフリース素材を使ったハーフジップスタイルのフーディは、クライマーやファストパッカーなら誰でも1枚は持っていると言われるほどの人気定番アイテムです。比較的運動強度の高いアクティビストに長く愛用されてきた一番の理由は、体の動きを損わないフィット感と、優れた温度調整機能にあります。
ストレッチ性の高い生地は体によくフィットし、クライミングのどんなムーブでもストレスを感じさせません。吸汗性に優れたグリッド状の裏地には適度な保温力があり、同時に蒸れを防ぐ通気性も備えています。それでも暑くなったときはみぞおち近くまで大きく開口するフロントファスナーを開けば、一気に冷気を取り入れてクールダウンできます。
逆に寒いときは、顎の髙さまであるファスナーを締めれば首回りをしっかりカバーし、温まった体の熱を逃がしません。さらにフードを被れば、バラクラバのように顔の周囲と頭部全体をサポート。ヘルメットにもしっかりフィットします。
「EXPEDITION GRID FLEECE HOODIE」は、このロングセラーの薄手テクニカルフリースフーディの素材を一新して登場したニューモデル。機能的なデザインと仕様を継承しつつ、素材の機能を大幅に向上させています。
今回、新たに採用されたのは8本の突起を持つ特殊なポリエステル中空糸で編んだ素材です。肌側はかさ高があって毛足の長いグリッド状に、表側はレイヤリングしやすいフラット面に仕上げ、擦れにも対応しています。
毛足が長いことで保温性はアップしつつ、突起のある中空糸が優れた速乾性を発揮。中空構造の糸だから同直径のポリエステル繊維の約半分の重量で収まり、着心地もよりソフトになっています。また従来のフリース素材に比べて極力毛抜けを抑えて環境負荷を軽減しています。
オーバーヒートタイプ(暑がり)
年間60日の山行をこなすAさんの場合
THE NORTH FACEに勤めるAさんは、年間50〜60日の山行を続ける登山好き。夏は沢登り、秋はクライミング、冬はアイスクライミングや雪山登山と通年で山行を続け、最近ではトレイルランニングも楽しんでいます。山行中は運動量が多いこともあって、かなり汗かきのオーバーヒートタイプです。
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この型のテクニカルフリースフーディは何年も前から素材をアップデートさせて登場していますが、私はそのたびに入手して着用してきました。以前の素材も快適に使えて良かったんですけど、やはり、環境に配慮してこの素材に変わったという事情もあると思います。長く使うほど洗濯時の毛抜けによるマイクロプラスチック問題が気になったのは事実ですしね。
これを夏や初秋の暑い時期に着ることはさすがにないのですが、それでも標高の高い山に行くときにはバックパックに入れていました。テントでも山小屋でも、ちょっと薄手のフリースがあると便利じゃないですか。
9月後半で肌寒くなってくると、以降の季節はこれを着て行動するようになります。天気がよく、そこまで風が強くなければ、真冬の雪山でもベースレイヤーとこれの2枚だけで行動することもあります。ちょっと寒いかなと思っても意外と十分ですし、風が止んだりするとかなり快適です。
以前の素材ではもっと保温力の高いものがありましたが、やはり蒸れ感は感じていました。今回の素材も保温性があるので汗はかきやすくなりますが、汗っかきの私でもそんなに蒸れた感じはないし、それで不快を感じたことはない。乾きも早いし、かさ高のあるグリッドという裏地の構造のおかげで、汗で濡れても肌当たりが悪くないのかもしれません。
私にとって、真夏以外は手放せない1着になっていますが、やはり、汗っかきの私でも暑すぎず、寒すぎない快適さ。だから行動中に何度も脱ぎ着する必要なく、ずっと着たまま動くことができるのだと思います。
ヒートロスタイプ(寒がり)
アルパインクライマーBさんの場合
同じくTHE NORTH FACEのスタッフBさんは、ヒマラヤ遠征経験のある経験豊富なアルパインクライマー。山行は通年でクライミング中心で、無雪期はフリークライミングとボルダリング、冬季は冬壁でのアルパインクライミングとアイスクライミングに傾倒しています。クライマーらしい痩身で体脂肪の少ない、寒がりタイプです。
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サンプルの段階から使っていますが、寒い時期はあれが一番の行動着です。僕に限らず、クライマーにとってはド定番の必須アイテムでしょうね。フリークライミングでもマルチピッチでも朝から着っぱなしで登れるし、フードが付いているからビバークのときも安心できますし。
今は軽量なダウンやインサレーションのような綿モノは必ず持つじゃないですか。だからフリースだったら、あのくらいの薄さで十分。今回は着ないだろうなというときでも、必ずバックパックに突っ込んでますね。
いつもは下にEXPEDITION DRY DOTを着て、その上にこれを着ることが多いですが、ドライメッシュアンダーの上に直接着ることもあります。冬山ではそうやっていますね。それでちょっと寒いなと思ったら、上にVENTRIX JACKETを着て行動するか、条件によってはシェルを着ます。
今回のアップデートで素材が変わりましたが、今はそれを実感しています。私は寒がりなので、以前のグリッド素材にはあまり温かさを感じなかったんですよ。でも、今回の素材はすごくいい。
あの素材、光に透かしてみると、意外にスカスカなんですよね。それでも保温力があり、抜けがいいから汗をかいても不快なムレ感がない。裏地にかさ高があって、タオル地に似たやわらかな肌触りもある。
個人的には、あの生地でもっとバリエーションが欲しいほどです。丸首とか、ハーフジップとか……。というわけで、自分のなかではイチ押しです。
“冬のアイスやバリエーション、雪山縦走時でも幅広く使用しています。瑞牆のマルチでも真夏の超暑い時以外は使用しています。着心地、肌触りが良く、前腕の圧迫もないため着用にストレスがない。旧バージョンよりも起毛が長く保温性が高い、なのに夏でも意外と涼しく、フロントファスナーが長めに設定されていて体温調節が容易。フードの形も良く、冬のほとんどの場合でバラクラバとして使えるので、別に持つ必要がない点も良いです”
佐藤裕介(クライマー・山岳ガイド)“汗抜けがとても良いのに保温性もあって、アルパインクライミングのミッドレイヤーとしての使い心地はとても良いです。メッシュ系ドライアンダー(「100 DRY」)と組み合わせればより快適です。深いラッセルのアプローチなど、激しい運動量を伴う冬山登山に使っていただきたいです”
馬目弘仁(クライマー・山岳ガイド)“全体的に非常に調子良いです。従来のグリッドフリースよりも毛足が長いので、ロフトがあるものの汗抜けの良さを感じる。肌触りも良く、着心地良い。生地とファスナーのカラーバランスも好きです。国内3,000mクラスの夏から秋山登山では、肌寒い朝夕の行動着として、秋から春はメインの行動着として。盛夏以外は年中着まわせるアイテムです”
上田幸雄(クライマー・山岳ガイド)Aさんのベースレイヤーは「EXPEDITION DRY DOT CREW」。上には「EXPEDITION GRID FLEECE HOODIE」を着て行動。バックパックには軽量な防水透湿性3レイヤーシェルの上下を常備し、休憩時の保温、稜線の風、不意の悪天候に備えます。
BさんはEXPEDITION DRY DOTとEXPEDITION GRID FLEECE HOODIEの組み合わせで行動。寒い時期にはアクティブインサレーションを重ね着し、ゴアテックス3レイヤーシェルをバックパックに常備。
LAYERING ITEMS IN THIS ARTICLE この記事のレイヤリングアイテム
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- Base-layer(Aさん)
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EXPEDITION DRY DOT CREW
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- Mid-layer(Aさん)
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EXPEDITION GRID FLEECE HOODIE
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- Pants(Aさん)
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BIG WALL PANT
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- In a backpack(Aさん)
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PANMAH JACKET
CLIMB LIGHT ZIP PANT
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- Base-layer(Bさん)
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EXPEDITION DRY DOT CREW
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- Mid-layer(Bさん)
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EXPEDITION GRID FLEECE HOODIE
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- Pants(Bさん)
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BIG WALL PANT
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- In a backpack(Bさん)
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VENTRIX JACKET
PANMAH JACKET
CLIMB LIGHT ZIP PANT
寺倉 力
CHIKARA TERAKURA
ライター+編集者。高校時代に登山に目覚め、大学時代は社会人山岳会でアルパインクライミングに没頭。現在、編集長としてバックカントリーフリーライドマガジン「Fall Line」を手がけつつ、フリーランスとして各メディアで活動中。登山誌「PEAKS」では10年以上人物インタビュー連載を続けている。
2021.10.20
WRITER : CHIKARA TERAKURA
PHOTOGRAPHER : -