THE NORTH FACE MOUNTAIN

LAYERING THEORIES #7
2022 JANUARY

“HIMALAYAN PARKA” IMPRESSION

8000mを越えるヒマラヤ高峰や北極圏、南極など極寒の地での着用を想定した、その名も「HIMALAYAN PARKA」。THE NORTH FACE最大の保温力を誇るこのハイボリュームのオーバージャケットの実力を理解するために、ヒマラヤ8000m峰登山のレイヤリングにフォーカスします。

“HIMALAYAN PARKA” IMPRESSION
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8000mを越えるヒマラヤ高峰や北極圏、南極など極寒の地での着用を想定した、その名も「HIMALAYAN PARKA」。THE NORTH FACE最大の保温力を誇るこのハイボリュームのオーバージャケットの実力を理解するために、ヒマラヤ8000m峰登山のレイヤリングにフォーカスします。

宇宙服のように膨らんだダウンウエアを着て登るヒマラヤ登山お馴染みのシーンを目にしたことがあると思います。高品質な軽量ダウンをふんだんに詰め込んだボックス状バッフル構造は、まるで極寒用スリーピングバッグのようなボリューム感を生み出し、一般的なダウンジャケットとは明らかに一線を画した無敵の保温力を想像させます。

このヒマラヤ8,000m峰登頂に挑む高所登山者に欠かせない超ハイボリュームのダウンウエアは、実はどのアウトドアウエアブランドでもラインナップしているわけではなく、THE NORTH FACEはその限られたブランドのひとつ。三浦雄一郎さんの3度のエベレスト挑戦をはじめ、これまでさまざまな冒険家やアスリートの遠征を支えてきました。

着用を想定しているのはデスゾーンと呼ばれる地上8,000m超の高所。防風性と耐水性、透湿性に優れた表地や、コールドスポットを限りなく軽減した構造に最高品質のダウンをふんだんに封入することで、ヒマラヤ高所や極地圏での行動する人の体を守り、現在市場で入手できるウエアとしては最高レベルの高い保温性を発揮します。

また、ジャケット内側にはグローブやゴーグル、保温ボトルなどを入れられる大型メッシュポケットを備え、低酸素状態の高所でグローブをしたまま迷いなく使えるポケットやフロントファスナーなど、ヒマラヤ登山の現場を熟知した仕様を備えます。

スリーピングバッグのように「最低温度規格」の表示があればわかりやすいのでしょうが、実際のところ、その保温性はヒマラヤ登山でどう機能しているのでしょうか。

エベレストをはじめ3座のヒマラヤ高峰に登頂した写真家の上田優紀さんと、8,000m峰6座をほぼ無酸素で登頂したアルパインクライマー、天野和明さんに、ダウンウエアを中心にヒマラヤ登山でのレイヤリングをうかがいました。

——極地を旅する写真家

上田優紀さんのインプレッション

写真家の上田優紀さんは、現在33歳。「見たことのない風景を人に届ける」をテーマに世界中の極地や僻地で作品を撮り続け、ここ数年はヒマラヤの高峰にフォーカスしています。これまで、2018年のアマダブラム(6,856m)を皮切りに、マナスル(8,163m)、エベレスト(8,848m)と3座のヒマラヤ高峰に登頂してきました。

身長168cmで50kg台後半という痩せ型体型は高所登山に有利な一方、体脂肪率が低いために、寒さへの耐性は低いタイプです。

僕はけっこう寒がりなので、ダウン系の防寒着は多めに持って行くほうだと思います。ウエア選びとレイヤリングはヒマラヤ経験者に相談しつつ、遠征のたびに修正を加えていきました。

ヒマラヤ登山では、HIMALAYAN PARKAのようなハイボリュームのダウンを着て登る姿を目にすると思いますが、実際のところ、あれを着るのはだいたい7,000mから上です。そこまでは日本の冬山登山と同じように、ゴアテックスのシェルを着て行動することが多いと思います。

エベレストのときは、ベースレイヤーは一番薄い化繊を着て、その上にもう1枚、EXPEDITION HOT CREWという厚めのベースレイヤーを重ねました。ミッドレイヤーには薄手のフリース。行動中はその上にゴアテックスのシェル上下を着ました。

標高5,300mのベースキャンプを出発してからキャンプ1(5,900m)までは、基本的にそのレイヤリングで、バックパックのなかにL3 50/50 DOWN HOODIEを入れて、休憩時やキャンプ1で着ていました。その上のキャンプ2(6,300m)では、もっと保温力のあるBELAYER PARKAに替えています。

行動中にハイボリュームのダウンを着るのはそこからです。僕の場合はパーカではなく、ワンピースタイプのHIMALAYAN SUITですが、ベースレイヤーとミッドレイヤーの上に着用しました。バックパックに入れてもそれなりに容量がかさむので、あらかじめ高度順応の際にキャンプ2までBELAYER PARKAと一緒に荷揚げしておきました。

キャンプ2からはウエスタンクームを1時間ほどアプローチするので、その間、スーツのジャケット部分は脱いで腰のところに巻き付けて、フリース1枚で歩きます。ローツェフェイスに取り付くと風がけっこう強くなってくるので、上着に袖を通して、しっかりファスナーも閉めます。

モコモコの外観にしては、動きやすくできていると思います。見てくれよりはスッと動けますし、登山の妨げにはなりません。また、ポケットに無線機を入れたときに、アンテナを外に出せるようあらかじめ穴が設けられていて、細部もよく考えられています。ポケットも多く、行動中はなにかと便利でした。僕はカメラのバッテリーを入れ、内ポケットにはお湯を入れた小さなナルゲンボトルを収めて、行動中に水分補給していました。

本当に寒さを感じたのはサミットプッシュの日です。7,900m、サウスコルの最終キャンプを夜中の23時半に出発し、8,500mあたりで東南稜の稜線に出るのですが、やはり風が当たると寒さを感じます。そのときはダウンスーツのなかにゴアのジャケットを着込んでいました。シェルとはいえ、1枚でも重ねると空気の層が増えるから多少は違います。

ほかのエベレスト登山者と違うのは、僕はしっかり写真を撮るので、止まる回数もけっこう多く、動いているときよりは寒さを感じやすいこと。カメラを構えるときはゴーグルを外し、グローブもアンダーグローブ1枚になるので、それを8,500mを越えた稜線で繰り返していると指の感覚も失われてくるし、厳しい寒さを感じました。

エベレスト山頂にいたのは20分間くらいです。風もそれほどでもなく、夢中になって写真を撮りました。気温は測っていませんが、天気予報の最低気温がマイナス30℃だったので、すでに日が出ていた山頂ではマイナス20℃から25℃くらいでしょうか。酸素ボンベをはじめ、いろんなものが凍っていたので、それなりに寒いはずなんでしょうけど、寒さは感じませんでした。それはやはり、あの圧倒的なダウンの量に尽きると思います。

——8000m峰6座登頂&ピオレドールクライマー

天野和明さんのインプレッション

国際山岳ガイドでありアルパインクライマーの天野和明さんは、名門として知られる明治大学山岳部出身。24歳でガッシャーブルムII峰(8,035m)登頂以来、ヒマラヤ8,000m峰6座に登頂、2座目以降はいずれも無酸素です。

その後はヒマラヤやアラスカの大岩壁でのアルパインスタイル登攀にこだわり、カランカ北壁(6,931m)アルパインスタイル初登で、登山界のアカデミー賞といわれるピオレドールに輝いています。

私が8,000m峰に登っていたのはけっこう以前のことで、2006年のチョー・オユー(8,201m)とシシャパンマ(8,027m)が最後です。そのときはダウンワンピースを着ていました。

それ以前はダウンの上下を着ていてそれで問題なかったのですが、その頃に登山家で所属先の先輩でもある竹内洋岳さんからダウンのワンピースを譲り受けたので、それを使ったのだと思います。

ダウンのワンピースを着るメリットは、ヒートロスがなくて温かなことと、それと上下別々に着るよりは軽くなるからだと思うんですよ。欧米の登山者を中心にワンピースが広まり、今ではヒマラヤ登山の定番的ウエアになりましたが、以前はもっと選択肢があったように思います。

基本的に、ダウンのワンピースはベースキャンプから着るのではなく、必要なのはサミットプッシュの日です。ただし、そのためだけに最終キャンプに運んでおくのはナンセンスなので、だいたいキャンプ2くらいからは着ているんですが、暑いからフロントファスナーは全開にして、上部に上がったら締めるといった感じでした。

私は寒がりですが、まだ今ほどメリノウールが浸透していなかったこともあり、化繊のベースレイヤーを2枚重ねで着て、あとはパワーストレッチ系のフリースにダウンベストを重ねて、最後にダウンのワンピースを着ていました。

けっこうな厚着に見えるかもしれませんが、ダウンなので動きやすい。基本的にクライミング要素が少なく、アイゼンを付けた足を高く上げることもありませんしね。

寒さはルート内容や天候、風によっても変わってきます。とくに風の強さは体感温度を下げる大きな要因だと思います。あとは酸素を使っているかどうか。私の感覚では、無酸素登山は寒さをより感じやすいように思います。

カランカ北壁のときのようなアルパインスタイルでのクライミングのほうが、むしろ、8,000m無酸素登山よりも寒かったです。それは気温というよりも行動の仕方かもしれないし、状況の悪いなかで行動を続けたからかもしれません。

アルパインスタイル登攀では、穂高岳の滝谷を冬に登るときのレイヤリングとそう変わらないんですよ。ベースレイヤーを着て、フリースパンツを穿き、寒がりの私はその上にダウンパンツを穿いて、ゴアのシェル上下を着て、プリマロフトのビレイジャケットをバックパックに。

カランカ北壁やスパンティーク北西壁のときは、その格好で何度かオープンビバークを強いられました。山頂が7,000m前後ですから6,300mを越えた地点です。たいていテントを張るスペースが見つからず、斜面を削った雪面に腰掛けたまま夜明けを待ちました。

アルパインスタイルですから、登下降用のフィックスロープもなく、登るも下るも困難なのは同じ。もちろん、下ったとしても安全な下部キャンプすらない。そうして状況が悪いなかを登って、変なところでビバークすれば、それは寒いですよね。テントを張って、靴を脱いで横になれれば、また違ったのかもしれませんが。

結局のところ、実際の気温よりは個人の感じ方の違いなのかもしれません。たとえば、8,000m峰で無酸素登頂を繰り返していた時代のラインホルト・メスナーの写真を見ると、けっこう薄着なんですよね。それもウエアの機能性も今ほど高くなかった時代に、ですよ。彼らがすごかったのか、それともやればできるのか。

8,000峰を新ルートで登ったカザフスタン人のデニス・ウルブコには何度か会っているんですが、彼もダウンワンピースは着てなかったと記憶します。ただ、マカルーなどの冬季初登では着ているんですよ。

2002年のローツェ西壁(8,516m)の無酸素登頂時にはTHE NORTH FACEのゴアドライロフトを使ったダウンジャケットで登頂しました。気温はマイナス35℃くらいだったと思いますが、ロフトがキープされて全然寒くありませんでした。天気は悪化傾向で、指呼の距離にあるギャチュンカン(7,952m)で山野井夫妻が悪天候にハマったのと同じ日です。

ヒマラヤの高峰登山では、高い保温力を持ったアウターウエアがあるかどうで大きな違いがあります。その点、HIMALAYAN PARKのような分厚いロフトに支えられたハイボリュームのダウンの安心感は格別ですし、やはり、ヒマラヤ登山のスタンダードアイテムとなったのも納得です。

LAYERING ITEMS IN THIS ARTICLE この記事のレイヤリングアイテム

  • Base-layer(上田優紀さん)

    L/S WARM CREW

  • Base-layer(上田優紀さん)

    EXPEDITION HOT CREW

  • Base-layer(上田優紀さん)

    EXPEDITION HOT TROUSERS

  • Mid-Layer(上田優紀さん)

    FUSEFORM GRID HOODIE

  • Shell Jacket(上田優紀さん)

    HYBRID SHEERICE JACKET

  • Shell Pant(上田優紀さん)

    ALL MOUNTAIN PANTS

  • Over Jacket(上田優紀さん)

    L3 50/50 DOWN HOODIE

  • Over Jacket(上田優紀さん)

    BELAYER PARKA

  • Over Jacket(上田優紀さん)

    HIMALAYAN SUIT

寺倉 力
CHIKARA TERAKURA

ライター+編集者。高校時代に登山に目覚め、大学時代は社会人山岳会でアルパインクライミングに没頭。現在、編集長としてバックカントリーフリーライドマガジン「Fall Line」を手がけつつ、フリーランスとして各メディアで活動中。登山誌「PEAKS」では10年以上人物インタビュー連載を続けている。

2021.10.20
WRITER : CHIKARA TERAKURA
PHOTOGRAPHER : -

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