寒い季節に欠かせない温かなダウンや化繊のインサレーションジャケットですが、冬山登山や冬季クライミングでは、行動中にもたびたび着用する機会があります。そこで表地と裏地の両面に防水性を持たせた超機能的なビレイジャケットが誕生しました。実際の雪山での効果について、ふたりのクライマーに聞きます。
ビレイジャケットは、その名の通り、ビレイ中のクライマーのために作られた防寒ジャケットであり、シェルの上に重ね着することを想定してデザインされています。
冬季クライミングのビレイヤーは、足下が不安定で狭いビレイポイントに立ち、絶え間なく降り注ぐスノーシャワーに耐えながら、低温下で長時間のビレイを強いられます。
ルートが難しいほど、また積雪や結氷などでコンディションが悪くなるほど、リードするクライマーの動きは遅々としたものになり、夏とは比べものにならないほど1ピッチに時間が掛かります。そんな過酷な条件下ではビレイヤー用防寒ジャケットが欠かせません。
そうした前提を理解したうえで、この新開発のAGLOW DOUBLEWALL JACKETをみれば、これが単なる化繊中綿の防寒ジャケットではないことがよくわかると思います。
湿気や濡れでロフトが低下するダウンと違って、湿気を帯びても保温力を発揮する化繊中綿は、冬山に最適な防寒用インサレーションです。ただし、濡れに強い化繊中綿といっても、冬山で使えばジャケット全体が湿気を帯びてきます。それは体に不快なだけでなく、保温力の低下にもつながります。
それを防ぐためにAGLOW DOUBLEWALL JACKETが採用したのが、非常に機能的なダブルウォール仕様です。防水性に優れたゴアテックスを表地と裏地の両面に採用することで、濡れや湿気から中綿を守ります。
吹雪や降雪、スノーシャワーから身を守るプロテクション性を備えつつ、同時に、裏地のゴアテックスが水分を遮断するため、降雪やラッセルで雪まみれになったシェルの上から、気兼ねなく重ね着することができます。
雪山のコンディションが厳しくなればなるほど、このダブルウォールのメリットは計り知れないものがあります。
——アルパインクライマー
馬目弘仁さんのインプレッション
馬目弘仁さんは、長く日本のクライミングシーンを牽引してきた屈指のアルパインクライマー。困難なヒマラヤの岩壁でのアルパインスタイルによるルート開拓に情熱を注ぎ続け、2012年には登山界のアカデミー賞と呼ばれるビオレドールにも輝いています。また、ザ・ノース・フェイス・グローバルアスリートとして、アルパインクライミングに特化した製品開発にも携わってきました。
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これまで海外や日本の冬山で活動してきたなかで、僕たちアルパインクライマーはビレイジャケットの表地と裏地が防水である重要性を訴えてきました。
そうして開発されたのが、このAGLOW DOUBLEWALL JACKETです。裏地に防水素材を使ったジャケットはなかなか目にしないと思いますし、ザ・ノース・フェイスとしても初です。
冬季登攀では、ビレイ中にアウターシェルの上からビレイジャケットを重ね着します。その際、シェルが濡れていたり、雪が付着していることが多いので、たいていビレイジャケットの内側が濡れてしまいます。またシェルに付いていた雪は体温ですべて溶け、中綿まで濡らすことになります。
その点、裏地が防水なら、シェルからの濡れや湿気を遮断してくれます。また、ビレイ中はずっとスノーシャワーを浴び続けるので、アウターとして表地の防水性も重要です。
さらにいえば、裏地の防水性は行動を終えてからも有効に作用します。1日のクライミングを終えて、テントに入りますよね。まずは濡れたシェルを脱ぎ、ザックからビレイジャケットを取りだして着込むわけですが、その際、裏地の水気をさっと拭くだけで、快適に着ることができます。僕らは冬山でなにかと便利な水泳用の速乾性タオルを使っていますが、手で払ってあげるだけでも、ぜんぜん違います。
冬山登山は湿気との戦いです。ダウンは濡れに弱いので、必ず化繊中綿のビレイジャケットを選ぶのですが、それでも行動中に着用し続けていれば全体的に湿気を帯びてきます。その状態でミッドレイヤーの上に着たり、シュラフに入るのはけっこう不快でした。
アルパインクライミングでは真冬でも分厚いシュラフは持っていけません。当然、ビレイジャケットの保温力も換算に入れてシュラフを選びます。その点でも、中綿を湿気から守ってくれるダブルウォールの防水仕様は非常にありがたいわけです。
ロフトがあるので収納サイズはそれなりに大きくなりますが、そこは想定済み。普段の僕は日帰りでも50Lくらいのザックを使うので、あまり気にしていません。クライミング中はザックにしまわず、ビレイを交代するときに、そのままパートナーに自分の着ていたビレイジャケットを脱いで渡したり、脱いだときもたたまずザックの隙間にぎゅうぎゅう詰める。そんな感じです。
デザインはすごく機能的で良いと思います。ヘルメットのまま被れるフードはよくできています。ビレイ中はスノーシャワーが降り続くのでフードは被りっぱなし。クライミングに限らず、通常の冬山登山でもそうですが、しんしんと雪が降っているなかでフードは脱げません。そうした冬山の現場を理解してしっかり作られていると思います。
僕の場合、冬季登攀でのレイヤリングは、ベースレイヤーにはドライメッシュの100 DRY、その上にグリッドフリースのワンピースのALPINESTYLE HYBRID ONEPIECEを着て、アウターはゴアテックスのハードシェル上下です。滝谷のように標高が高くて気温が低いところでは、フードなしのベントリックスジャケットや、プリマロフト系のベストを中に重ね着することもあります。
——ウィークエンドクライマー
川田翼さんのインプレッション
名古屋のTHE NORTH FACE直営店に勤務する川田さんは、かつてプロを目指したスノーボード好き。バックカントリーを滑るようになってからは通年の山に目が向き、今ではテント泊縦走からバリエーションルート登攀、クライミング、冬はバックカントリー、雪山登山、アイスクライミングと、季節ごとの山を幅広く楽しんでいます。
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AGLOW DOUBLEWALL JACKETは、昨冬のサンプル段階から使っています。印象的だったのは、2月の八ヶ岳でのアイスクライミング使ったときです。
このとき向かったのは、阿弥陀岳の南西面になる広河原沢左俣です。長い谷間を詰めて氷瀑に取り付くルートで、気温はマイナス10℃から15℃くらい。風はほとんどありませんが、ほとんど日が当たらず、かなり寒い1日でした。
前日に降雪があったばかりで、アプローチはほぼラッセル。ところによっては膝上くらいありました。赤岳鉱泉からのアイスクライミングルートと違って取り付きまでが長く、けっこうなハードワークです。
コンディション的には低温で雪はドライ。そのため、僕はハードシェルではなく、通気性のあるFL HYBRID VENTRIX HOODIEを着てアプローチし、体温調節的にはバッチリでした。
そのときのレイヤリングは、FL HYBRID VENTRIX HOODIEの下にEXPEDITION GRID FLEECE HOODIEを着て、ベースレイヤーはEXPEDITION DRY DOTです。DRY DOTは良かったですね。ラッセルで大量に汗をかいても、乾くのがすごく早い。快適でした。
汗をかきながらアプローチして体が温まったままで取り付きに付き、シェルの上にビレイジャケットを着てから、ロープやクライミングギアを取りだして登攀準備にかかります。
汗をかいた直後の低温下の日陰ですが、着た瞬間から温かいというか、体をラッピングするよう熱をしっかり封じ込めている感覚を覚えました。今までのビレイパーカと比べると、ダブルウォールの温かさの違いは実感できました。
このときは全体的にドライなコンディションだったのですが、一部の氷瀑で結氷状態が緩く、少し水っぽい部分もありました。そのためグローブは濡れ、シェルも手首から肘下まで湿ってしまったんですが、そんな状態でも、なにも気にせずシェルの上から着ることができるビレイジャケットはありがたいです。
冬山では、濡れに対して細かい部分まで気を配る必要はありますが、行動中はけっこうそれがストレスですよね。その点、ダウンと違って、いい意味で雑に扱える。これが裏地も防水生地であるダブルウォールと、化繊中綿のメリットだと感じました。
LAYERING ITEMS IN THIS ARTICLE この記事のレイヤリングアイテム
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- Base-layer(馬目弘仁さん)
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L/S 100 DRY CREW
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- Mid-Layer(馬目弘仁さん)
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ALPINESTYLE HYBRID ONEPIECE
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- Mid-Layer(馬目弘仁さん)
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VENTRIX JACKET
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- Shell Jacket(馬目弘仁さん)
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HYBRID SHEERICE JACKET
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- Shell Pant(馬目弘仁さん)
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HYBRID SHEERICE BIB
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- Belay Jacket(馬目弘仁さん)
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AGLOW DOUBLEWALL JACKET
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- Base-layer(川田翼さん)
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EXPEDITION DRY DOT ZIP HIGH
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- Mid-Layer(川田翼さん)
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EXPEDITION GRID FLEECE HOODIE
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- Mid-Layer(川田翼さん)
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FL HYBRID VENTRIX HOODIE
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- Shell Jacket(川田翼さん)
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FL L5 JACKET
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- Shell Pant(川田翼さん)
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RTG BIB
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- Belay Jacket(川田翼さん)
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AGLOW DOUBLEWALL JACKET
寺倉 力
CHIKARA TERAKURA
ライター+編集者。高校時代に登山に目覚め、大学時代は社会人山岳会でアルパインクライミングに没頭。現在、編集長としてバックカントリーフリーライドマガジン「Fall Line」を手がけつつ、フリーランスとして各メディアで活動中。登山誌「PEAKS」では10年以上人物インタビュー連載を続けている。
2021.10.20
WRITER : CHIKARA TERAKURA
PHOTOGRAPHER : -