THE NORTH FACE MOUNTAIN

LAYERING THEORIES #12
2022 October

“INSULATION JACKET” IMPRESSION

秋冬シーズンに欠かせないINSULATION JACKETですが、天然のダウンに代わって、進化した化繊中綿素材を効果的に使った機能的な保温性ウエアが増えています。 行動中のオーバーヒートか、あるいは、停滞中のヒートロス。 不快で危険な2つの要素をコントロールする2タイプのINSULATION JACKETを掘り下げて解説します。

“INSULATION JACKET” IMPRESSION SCROLL TO DISCOVER MORE

秋冬シーズンに欠かせないINSULATION JACKETですが、天然のダウンに代わって、進化した化繊中綿素材を効果的に使った機能的な保温性ウエアが増えています。 行動中のオーバーヒートか、あるいは、停滞中のヒートロス。 不快で危険な2つの要素をコントロールする2タイプのINSULATION JACKETを掘り下げて解説します。

進化してきたインサレーション

「INSULATION(インサレーション)」とは「断熱」や「断熱材」を意味する言葉ですが、転じて、INSULATION JACKETとは中綿の入った保温性ウエアを意味します。現在入手できる一番軽くて保温力のある中綿素材は天然のダウンですが、ダウンは湿気や濡れに弱いという弱点があります。羽毛は濡れるとロフトがつぶれ、保温力を失います。

そこでアクティブな秋冬用アウトドア保温性ウエアで積極的に使われているのが、ポリエステルなどの化学繊維を使った化繊中綿素材です。濡れてもロフトを失うことなく保温力をキープするインサレーション素材ですが、重量あたりの保温力ではまだ天然のダウンには敵わず、今なお、進化の渦中にあります。

逆にいえば、現在、さまざまなアイデアや新技術を注ぎ込んで開発が続けられているのがこの分野であり、すでに天然ダウンの弱点を補うのみならず、ある意味、ダウンを超えた新たな機能性が光る化繊中綿ウエアが次々に誕生しています。

ザ・ノース・フェイスが提案する
2つの化繊インサレーション

▶「FL HYBRID VENTRIX HOODIE」
保温性と通気性を両立した通気する化繊中綿Ventrixに、通気性に優れた防水透湿素材FUTURELIGHT™を表地に採用したハイブリッドなアクティブインサレーションで、肌寒い空気のなかを比較的ハイペースで行動しても汗蒸れ感を感じさせない抜けの良さがあり、気温や天気、ルートや運動量の変化に左右されない適温を維持してくれます(詳しくは「LAYERING THEORIES #3」をご参照ください)。

▶「AGLOW DW LIGHT JACKET & PANT」
もうひとつが、この秋の新製品「AGLOW DW LIGHT JACKET & PANT」です。

こちらは、リサイクルポリエステル中綿PRIMALOFT Gold Insulationに、熱伝導率が低い断熱素材AEROGELを練り込んだもので、少量でも高い保温力を発揮し、ウエア全体の軽量性やコンパクト性に貢献しています。

さらに、表地と裏地にGORE-TEX INFINIUM™を採用したダブルウォール構造によって、ウエア内側からの湿気を遮断して、化繊中綿をドライで快適な状態に保ちます。

もともと、このダブルウォール構造は、防水性の高いビレイパーカとして開発された「AGLOW DOUBLEWALL JACKET」で誕生した新技術でした(「LAYERING THEORIES #5」ご参照)。

濡れや湿気に強い化繊中綿とはいえ、やはり、湿気を吸収することで多少の保温力低下は起こります。また、中綿が湿気をまとえば着心地も不快で、ジャケットの重量も増します。そこで、内側の生地に防水透湿素材であるGORE-TEX INFINIUM™を使うことで、中綿の濡れを外からも中からもシャットすることに成功しました。

降雪のなかを行動し、ビレイ時や休憩時に雪まみれのシェルの上からビレイパーカを羽織っても、ウエア内側も防水生地だから、何の心配も要りません。それが「AGLOW DOUBLEWALL JACKET」の大きな特徴でした。

このときに生まれた表と裏という2枚のGORE-TEX INFINIUM™を使ったダブルウォール構造は、単に防水性が高いことだけが利点ではありません。それは防水透湿性メンブレンで化繊中綿を包んだことで、従来よりも温かな空気をなかに溜め込んで逃がさないというメリットも生まれました。その結果、薄手の化繊中綿とは思えない保温力を実現したのです。

この「AGLOW DW LIGHT JACKET & PANT」は、基本的にはミッドレイヤーとして開発されたものですが、表地にGORE-TEX INFINIUM™を使っていることで、冬場のアウターとしても着用できます。防水透湿素材特有の生地の硬さはなく、着心地も快適で、非常にコンパクトに折りたたむことができます。

「FL HYBRID VENTRIX HOODIE」も「AGLOW DW LIGHT JACKET & PANT」も、いずれも保温性のあるミッドレイヤーとして活躍しつつも、防水性のあるアウターとしてそのまま着用することもできます。
基本的には、保温性を重視するなら「AGLOW DW LIGHT JACKET & PANT」、行動中のオーバーヒートを防ぎながら適切な保温力なら「FL HYBRID VENTRIX HOODIE」というのが、まずはレイヤリングのセオリーになります。

国際山岳ガイド
天野和明さんのインプレッション

天野和明さんのウインターシーズンは、山岳ガイドの仕事で厳冬期の八ヶ岳や西穂高岳に向かったり、石井スポーツ登山学校で中央アルプスなどに出かけ、あるいは、冬季バリエーションルートの登攀や、バックカントリースキーなど、冬山で幅広く活動しています。その際、昨シーズンから使っている「AGLOW DW LIGHT JACKET & PANT」がすっかり気に入っていると言います。

一番自分の求めるものにフィットする
化繊中綿ジャケット

使い始めたのは昨冬からです。まだ発売前のテスト用サンプルでしたが、今までいろいろなウエアを使ってきましたが、そのなかでも、一番と言ってもいいくらい気に入りました。

もともと僕は、冬山では化繊中綿ジャケットを使う頻度が圧倒的に多かったんです。ダウンも使いますが、冬山で使うとなると、やはり、濡れや湿気に強い化繊の中綿がいい。そのなかでも、中綿の厚みと温かさのバランスでいえば、プリマロフトが一番自分の求めるものにフィットすると思っていました。

「AGLOW DW LIGHT JACKET & PANT」はプリマロフトを使っていて、なおかつ、表地も裏地もGORE-TEX INFINIUM™。ただし、いわゆる3レイヤーのゴアテックスシェルと違って生地に硬さがないので、どちらかといえば、ミッドレイヤーとして着ていたことが多かったです。

それでも、アプローチではシェルを脱いで「AGLOW DW LIGHT JACKET」をアウターとして着て行動することも少なくなかったし、そのまま登攀したりもしました。天気が悪化してくれば、その上からシェルを着ればいいですしね。

軽くてけっこう薄手のわりには、保温力はあるほうだと思います。

大きめのサイズだったらシェルの上から着て、ビレイジャケットとしても使えると思いますが、それは寒さによると思います。たとえば、かなり低温になる厳冬期の八ヶ岳や北海道では、自分ならもう少し厚手のパーカを選ぶと思います。あとは表地が薄くてやわらかなぶん、アックスやアイススクリューなどの引っかけが怖いかな。

2つの中綿ジャケットの使い分け

「AGLOW DW LIGHT JACKET」を着ないときは、「FL HYBRID VENTRIX HOODIE」を使っていました。いわゆるアクティブインサレーションといわれる比較的新しい分野で、実はあまり使ったことがなかったんですよ。それで実際に着てみると、たしかに行動中ずっと着続けても蒸れにくいという実感がありました。

2つの中綿ジャケットの使い分けとしては、保温性を重視したいときは「AGLOW DW LIGHT JACKET」。たとえば、アイスクライミングや冬のクライミングのように、ずっと動き続けているわけでもなく、止まっていたり、ビレイしている時間があるようなときは、やはり、保温性が頼りになります。

また、秋から晩秋にかけての防寒着としても使えますし、軽量なので夏の高い山に持って行ってもいいと思います。

一方、ずっとラッセルが続くような雪山の縦走や、けっこう動き続けるような山行のとき、または真冬以外の発汗量の多めの山行では、抜けのいい「FL HYBRID VENTRIX HOODIE」を選ぶと思います。

LAYERING ITEMS IN THIS ARTICLE この記事のレイヤリングアイテム

寺倉 力
CHIKARA TERAKURA

ライター+編集者。高校時代に登山に目覚め、大学時代は社会人山岳会でアルパインクライミングに没頭。現在、編集長としてバックカントリーフリーライドマガジン「Fall Line」を手がけつつ、フリーランスとして各メディアで活動中。登山誌「PEAKS」では10年以上人物インタビュー連載を続けている。

2021.10.20
WRITER : CHIKARA TERAKURA
PHOTOGRAPHER : -

STOP PLAY