さまざまなタイプが取り揃うTHE NORTH FACEのベースレイヤー。 この膨大なコレクションのなかから、何をどう選んだら良いのでしょうか。そこでラインナップの考え方を詳細に解説しつつ、ご自身の目的や季節に応じた選び方のヒントをご紹介します。
PART. 1 ベースレイヤーのラインナップ
まずは、THE NORTH FACEのベースレイヤーにはどんなコレクションがあり、それぞれどんな特徴を持っているのか。企画開発担当者が直接解説します。
解説:小澤由紀子、千葉弥生(THE NORTH FACE企画開発チーム)
■なぜラインナップが多いのか
「用途や季節、体質の違いを重視」
着る季節やシチュエーションの違いはもちろんですが、体感温度や発汗量の違いといった体質の個人差にも対応できるようラインナップを考えています。
たとえば、ひと口に「春夏向けアンダーウェア」といっても、汗かきの人と寒がりの人では求めるものが違って当然です。また、低山のハイキングで使うのか、2,000m以上の登山で使うのかで、求める機能は変わってきます。
特にここ最近の傾向としては、汗冷え対策が進化しています。水分を吸収しない疎水性素材であるポリプロピレン(PP)や、糸の段階から撥水加工を施したポリエステル糸を肌面に使った「汗処理重視」のベースレイヤーです。
また、デザイン面としては、ベースレイヤーとしてレイヤリングに最適なアイテムはもちろん、単体でカットソーとして着られるものが増えています。
各コレクション別に特徴をご紹介していきましょう。
■保温性重視のコレクション
▶「Altime WARM」
▶「Altime HOT」
▶「Expedition HOT」
まずは、保温性を重視にフォーカスしたコレクションです。もともとは「WARM」と「HOT」という2つのモデルがありました。その名の通り、「温かい」と「より温かい」もので、光電子の輻射熱を利用して、行動しないときも温かく過ごせるベースレイヤーでした。
このモデルの速乾性を強化し、より行動的なアウトドアアクティビティでフィットするようリニューアルしたのが、
▶「Altime (オルタイム)WARM」と▶「Altime(オルタイム) HOT」
「Altime WARM」は、8本の突起を放射状に配列した異型断面を持つポリエステル中空糸を使った、軽量ながら保温性の高いニットです。
「Altime HOT」は同じ中空糸で編んだ起毛素材で、より高い保温性を発揮。また、汗をかきやすい背中と脇下には、起毛しない生地を採用して、温度調整しやすくしています。
いずれも、「いつでも、どこでも、だれでも」着用できる選択肢の広さが狙いで、レイヤリングのベースレイヤーとしても、あるいは単体のカットソーとしても着用できるデザインです。
ラボでの比較テストでは、従来製品よりも速乾性はアップしていますが、どちらかといえば、軽くて温かいというモデルです。
▶「Expedition HOT」は、もともと極めて寒い、寒冷地仕様として開発された寒冷地向けベースレイヤーで、高いかさ高を持つアクリル・ウール混紡の起毛素材を使っています。アクティビティ向けというよりは、低温下で停滞するシーンも想定した保温性重視モデルです。
■汗処理重視のコレクション
▶「FLASHDRY 3D」
▶「FlashDry」
▶「DRY」
こちらは保温性というよりも、まずは汗冷えを避けることを第一に考えたベースレイヤーです。肌面素材に水分を弾く素材を使うことで、汗冷えしづらく、吸収した汗は表面のポリエステル素材に拡散して速乾を促します。
▶「FLASHDRY 3D」は糸の段階から撥水加工を施したポリエステルニットを肌面に使ったカットソーで、
▶「FlashDry」は疎水性レイヤーと同じPPを肌面に使ったダブルフェース素材です。
いずれも考え方としては同じで、1枚で着ても汗冷えしないカットソー。薄手の「FLASHDRY 3D」は3シーズン使えますが、夏場に涼しさを求めて着るにも最適です。「FlashDry」は厚みがしっかりあるので、秋冬に1枚でも着ても温かく過ごせます。
これらは、社内の厳しい吸汗速乾基準とベタつき基準をいずれもクリアしており、汗が乾いた後もサラッと着ることができます。
一方、「DRY」は同じく肌面にPPを使ったダブルフェースの汗処理重視モデルで、ベースレイヤーとしての着用にフォーカスしており、体によくフィットしてレイヤリングしやすいデザイン。生地が薄手のため、発汗の多い夏場や、運動量の多い人は、肌面に後述する「100DRY」を重ね着するか、ある程度厚みのあるベースレイヤーとレイヤリングすると快適です。
■保温性+汗処理の両立
▶「Expedition Dry Dot」
「FLASHDRY 3D」と同じく、肌面に撥水糸を使ったベースレイヤーですが、素材が革新的なダブルニット構造になっており、ドット部分で点接結している表地と裏地はまるで2枚の生地のように離れていることが大きな特徴です。
肌面から吸収した汗は、ドット部分を経てスムーズに生地表面へ移行させて乾燥を促し、不快な汗冷えを防ぎます。さらにダブルニットがデッドエアを溜めることで、適度な保温性を発揮します。
秋から冬、春までの汗冷えを防ぐベースレイヤーとしてレイヤリングし、秋口や春のような比較的温暖な気候では、単体でも快適に着用できます。
■疎水性0.5レイヤー
▶「100DRY」
水分を吸収も保持もしないポリプロピレン(PP)100%素材を使ったメッシュアンダー。ベースレイヤーと肌面の間に着ることで緩衝面となり、汗を吸って濡れた生地が肌面に触れることを防ぎます。
大きめのメッシュ生地は高い通気性を備えますが、見た目のインパクトもあり、また、編み地にふっくら感もあるので、好みも分かれるところかもしれません。
けれども、疎水性の非常に高い素材の効果は絶大で、運動量の多いアクティビティでは通年を通して欠かせない存在になっています。
「FLASHDRY 3D」や「Expedition Dry Dot」のような、肌面に撥水糸を使った機能性カットソーの高いベースレイヤーと重ねると、さらにその機能を強化できるアイテムといえます。
■おすすめの具体例
「なにを、どう選んで、どう着るか」
寒い季節で、それほど運動強度が高くないとしたら、まずは保温性重視の
▶「Altime WARM」
▶「Altime HOT」
▶「Expedition HOT」
のなかから選んでいただくことをおすすめします。大汗をかくことはないけど、うっすら汗ばむ程度の行動なら、生地は乾きやすく、いつも快適に過ごせます。山やアウトドアに慣れていない方にもおすすめです。
次に、比較的行動時間が長くなる、あるいは、それなりの強度で動き続ける方は、汗処理重視の
▶「FLASHDRY 3D」
▶ 「FlashDry」
▶「Expedition Dry Dot」
がおすすめです。
もともと汗かきの方や、運動強度が高くて汗の吸収量に乾燥が追いつかないような場合は、疎水性0.5レイヤーの
▶「100DRY」
を下に重ねていただくと、より一層、汗冷えを感じにくい構造で着ていただけます。
また、各モデルともクルーやジップアップ、長袖、半袖など、スタイルの選択肢もあり、好みに応じてチョイスいただけます。
PART. 2 直営店ではなにをどうチョイスしているか
東京・原宿にある直営店「THE NORTH FACE Mountain」スタッフ、稲垣涼さんは冬はバックカントリースキー、グリーンシーズンは登山に没頭しているアクティビストです。その稲垣さんに、店頭での接客をイメージしながら、ベースレイヤーを選んでもらいました。
解説:稲垣涼(THE NORTH FACE Mountain)
バックカントリーと厳冬期登山は同じ考え方でベースレイヤーを選択
——この季節、THE NORTH FACE Mountainに来られるお客さんは、どんなアクティビティが多いのですか?
稲垣:滑る方が多いです。スキー場でのスキー・スノーボードから、バックカントリーまで。来店されるお客様の割合でいえば、ゲレンデ7割、バックカントリー3割ぐらいのイメージです。
——では、まずはスキー場で滑る場合のベースレイヤーを選んでください。
スキー場の場合は、リフトに乗っているときに体を冷やさないように、保温を優先したアイテムをおすすめします。汗処理系というよりは、あったか系ですね。
商品でいえば、▶「Altime HOT crew」保温を優先した中厚で、ゲレンデでのベースレイヤーには最適です。
——次に、バックカントリーを滑る人向けでは?
バックカントリーでは基本的に保温よりは速乾性、汗冷えを抑えるような選択になります。自分でも汗冷え対策には常に気を遣っていますし、お客様をご案内するときも、その点をしっかりお伝えするようにしています。バックカントリーを滑る方は、比較的経験者が多く、ベースレイヤーの知識をお持ちの方も多いです。それを踏まえてお話させていただいています。
——実際、どのようなアイテムが多いですか?
▶「Expedition Dry Dot」を1枚でという方もいらっしゃいますし、▶「100DRY」を重ねる方も。僕自身、絶対に汗冷えはしたくないので、冬だけでなく、夏も含めて通年で「100DRY」は欠かせません。微量の汗でも大量の汗でも、あれ1枚をはさめば、汗冷えはかなりに抑えられますからね。
——「100DRY」を強く推すときは、どんな状況ですか?
まずは発汗量です。お客様に「発汗は多いほうですか?」と聞いてしまいます。「多いです」という方には、特に「100DRY」をお勧めします。タンクモデルだったら重ね着してもそれほど気にならないので、ぜひ1枚挟んでくださいと。
——なるほど
あとは山の中での行動時間です。たとえば、白馬のようにゴンドラやリフトからアクセスして、スキー場トップから2時間くらいハイクアップして滑り降りる。そうした行動なら、そこまで「100DRY」を重ねなくてもいいかもしれません。逆にスキー場を経由せず、最初からフルハイクで1日中、ハイクとランを繰り返すような場合は、絶対にあったほうがいいですよ、とご案内します。
——それでも2枚は重ねたくないという人もいませんか?
たしかに、お客様によっては着る枚数を増やしたくない、という方もいらっしゃいます。その場合は、やはり「Expedition Dry Dot」シリーズですね。
——「100DRY」の上に重ねるベースレイヤーは何をご案内しますか?
僕がよくおすすめするのは、▶「Expedition Dry Dot」シリーズのZip Upです。襟が多少立ち上がっているぶん、Crewよりは多少温かいです。首元が隠れるだけでずいぶん違います。
——では、冬山登山ではどうなりますか?
基本はあまり変わりません。冬の低山、たとえば都内近郊の奥多摩や丹沢であれば、「FlashDry」か「Expedition Dry Dot」を1枚で着る。本格的な厳冬期登山であれば、バックカントリーと基本的に同じです。氷点下10度から20度といった同じ環境に身を置いて行動するわけで、そこは僕のなかで分けることはありません。
3月後半から残雪期の春山で着るベースレイヤーは
——では季節が動いて、3月後半から残雪期の春山になると?
春先の山は寒いのか温かいのか、よくわからない状況が多いです。日中は日差しがあって温かで、日が陰ったり、午後になると急激に気温が下がることがある。なので、発汗の多い人は「100DRY」をおすすめします。その上に着る選択肢としては、保温系ベースレイヤーはおすすめしていません。なぜなら、暑くなったときに対処が難しいからです。春の場合は「100DRY」の上には「FlashDry」や「FlashDry 3D」のような薄型の汗処理系カットソーを重ねて、保温の機能はミッドレイヤーに任せます。
——「FlashDry」や「FlashDry 3D」は春によさそうですね。
そうですね。この時期は夏を見据えた買い方をされる方も多いので、その点でもおすすめですね。特に女性の方は日焼けを気にされるので、「FlashDry」や「FlashDry 3D」のUVカット機能も考慮して、一番におすすめします。
——春の時期に、どうしても1枚で、という方には?
頼りになるのは、やはり、「Expedition Dry Dot」です。THE NORTH FACEブランドとしてベースレイヤーの概念を変えるような強烈なアイテムですしね。ただし、ベースレイヤーとしては価格帯もそれなりに高いので、もう少し出費を抑えたいという人もいらっしゃいます。そんなときは、ランニング系のアイテムから「GTD Melange Crew」あたりを選びます。トレランで使えるアイテムが、登山で使えないことはありませんし、夏のファーストレイヤーで主軸になる「FlashDry 3D」とともに、1枚で着るならランニング系の商品まで選択肢を広げます。
暑い盛りの夏山で着たいベースレイヤーとは?
——真夏の暑い時期は、なにを選びますか。
群馬や信州の山なら2,000m、東北や北海道なら1,000m以上のあたりがアルパインエリアとの境界線になると思います。その標高帯より低山だったら、夏はかなり蒸し暑いと思うので、「100DRY」とショートスリーブのカットソー。日焼けが気になる人はアームカバーをおすすめします。気軽に着脱できて、長袖よりも体温調節が楽です。
——では、アルパインエリアでは?
アルパインエリアでは、風が吹いていたり、太陽が雲に隠れただけで寒くなりますよね。ちょっとした天候変化にも対応力のある「Expedition Dry Dot」をおすすめします。樹林帯のアプローチではさすがに暑いと思うので、その場合は半袖のカットソーを着て、山小屋やテントに1泊した翌日、標高を上げる日に着替えていただくといいと思います。
——真夏も「100DRY」をおすすめしますか?
やはり大汗をかく季節なので、「100DRY」はかなり効果的ですよ。たとえば、1泊以上の縦走で荷物を減らしたいときには、カットソーは1枚で、その下に着る「100DRY」だけを着替えましょうという提案もしています。軽くてかさばらないですしね。また、山小屋やテントサイトに着いてから水でサッと洗っておけば、翌朝の出発までにはカラカラに乾いてくれるので、2枚持って行く必要もないかもしれません。僕はそうした使い方をしています。
まとめ「100DRY」を基本に、季節や用途に応じたアイテムを重ね着する
——まとめると、まずは「100DRY」を基本にして、上には季節に応じた厚みのベースレイヤーを重ねる。あるいは、単体なら、寒いコンディションは「Expedition Dry Dot」で、温暖になれば「FlashDry」系に移行していく。
そうですね。ただし、あえて言うなら「Expedition Dry Dot」を過信しすぎないほうがいいと思います。ダブルニット構造とはいえ、もとは1枚の生地なので、汗を吸収して飽和したときに、汗の行き場がなくなります。発汗の多い人は、最初から「100DRY」を合わせたほうがいい。1枚多くなるのを嫌がる気持ちもわかりますが、増やしたほうが汗冷え防止効果は高いなとあらためて感じています。
LAYERING ITEMS IN THIS ARTICLE この記事のレイヤリングアイテム
2021.10.20
WRITER : CHIKARA TERAKURA
PHOTOGRAPHER : -