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Sustainable Running Life #01
ランナー、料理家、モデル。浅野美奈弥のサステナブル・ライフ| 前編
ランコミュニティで仲間を見つけると輝きだす
ランナー、料理家、モデルという三つの顔を持つ浅野美奈弥さん。それぞれの仕事がいい相互作用を起こしている彼女のライフスタイルに迫る。前編は、ランナーとしての顔にフォーカス。走り始めた理由や主宰するランニングコミュニティ『GO GIRL』について話を聞きながら、ランニングを入り口にサステナビリティについて考える。
浅野美奈弥さんがランニングを始めたのは、2017年のマラソン大会出場を決めたのがきっかけだ。フルマラソンを4時間33分で完走したことが、その後のライフスタイルや仕事への向き合い方まで、決定的な影響を及ぼすことになったと振り返る。
「ゴールできた時の喜びは、モデルとして大きな仕事が決まった時の喜びとはまるで違っていました。42.195㎞を走り切るなんて、できっこないと思っていたことができた。これが、すごい自信になって自分の中に残っているんです。その成功体験が根っこにあるから、他のことでも挑戦を続けていけばいい状態でいられると、自分を信じられるんです」
フルマラソンを完走して東京に帰る新幹線の中で、次の大会を探してエントリーしてしまったというフットワークの軽さでもって、友人の三原勇希とランニングコミュニティ『GO GIRL』も立ち上げた。
「私と同じように、走ることで達成感と喜びを味わってほしかったんですけど、なかなかひとりでは始められない人が多いので、コミュニティを作ったんです。ちゃんと走ることに向き合ってほしくて会費制にしたのはいい選択でしたね。『GO GIRL』では強制ではないですが、1年の最後にフルマラソンを完走するのが目標です」
練習は週3回。平日は皇居か代々木公園で走り、週末は場所を決めず観光ランをした後、ビールを飲むことも。3回のうち1回は、ヨガや登山、バーベキューなどアクティビティを行い、飽きずに続けられるメニュー内容にしている。その甲斐あって、募集をかけると即定員が埋まる人気ぶりだ。立ち上げて4年目。メンバーからよく聞くのは、「大人になって共通の趣味の仲間が持てた」という嬉しい声。女性だけのコミュニティゆえの難しさもあるのではないか。そんな穿った見方をすると、「それが、全然ないんです」と微笑む。
「4期は50人近くメンバーがいるんです。私も、それだけいたら一人くらい調和を乱す人がいてもおかしくないと思うんですけど(笑)、輪に入りにくそうにひとりでいる人がいたら、『一緒に走ろう』って声を掛けたり、本当にいいコミュニティなんです。切磋琢磨しあう仲間ができて、みんなキラキラ輝き始めますしね。彼氏ができたとか、結婚しましたという報告を受けることが多いんですよ。私は恋バナが好きなので、『最近、恋愛はどう?』なんて聞いたりして(笑)。仲間と走る楽しさを見つけた人達が、どんどん前向きになっていく姿に私も刺激を受けますし、コミュニティを続けるモチベーションにもなっています」
環境の話題が自然と出てくるコミュニティ
秋のある週末、原宿にある「THE NORTH FACE Sphere」から外苑前をランする『GO GIRL』のメンバーたち。その和やかな雰囲気が、浅野さんの「本当にいいコミュニティ」という言葉を証明している。その日、彼女たちの手には、ランニングソフトボトルがあった。
「女性の手でもしっかり握れる柔らかさと、ポケットに入るサイズ感がよくて、走りながら邪魔だと思った瞬間は一度もありませんでした。口で先を軽く噛むと水が出てくるので、ストレスなく水分補給できました」
繰り返し使うことができるので、走るたびにペットボトル飲料を買うことへの罪悪感もない。『GO GIRL』のメンバーは、総じて環境への意識が高く、お茶を飲みながらでも、サステナビリティが自然と話題にのぼるという。
「ちょっと前までは、環境問題について話すのって少し勇気がいりましたけど、もう全然そんなことないですね。ランウェアにしても、機能性がさほど変わらないなら、絶対に環境にいいほうを選ぶ人たち。コミュニティの活動としても、自分達の走る環境のために、ゴミ拾いランをすることもあります」
マイボトルにドネーション。マラソン大会でできるSDGs
浅野さんは5年前の初フル完走以来、最低でも年1回はフルマラソンに出場してきた。2022年は、ニューヨークマラソンを完走した。
「毎回、走る前は『辛いのがわかってて、なんでまた走るんだろう』と後悔するし、走りながらも『やっぱり…』みたいな(笑)。それでもゴールした時の喜びは、その都度フレッシュな感動があって、辛かったことは全部吹っ飛んじゃいます」
ニューヨークマラソンでは、給水ポイントで紙コップがなくなるという事態に……。しかし、紙コップの代わりに手で飲むという初体験が、マラソン大会で紙コップは必ずしも必要ではないのかもしれないという気づきを与えてくれた。
「『手で飲んで』といわれた時は、さすがに驚きました(笑)。でも、地元のランナーは、なくなることを知っているから、マイボトルを持参して走っていたんです。それを見て、すごくいいなって思ったんですよね。ニューヨークマラソンでは、スタート地点でも、素敵だと感じた出来事があって。荷物を預けられると思い込み、間違えてスタート地点にリカバリーサンダルとか荷物を持って行ってしまったんです。そしたら、絶対に持ち込めないと言われて落ち込んでたら、『そこにドネーションボックスがあるから全部入れて』と指示されたんです。せっかく日本から持って来たお気に入りを捨てるのは嫌で仕方なかったんですけど、ドネーションと聞いて、それならいいやって。まだ使えるのに捨てなきゃいけないのと、誰かに使ってもらえるとでは、自分の手から離れることは同じでも、気分がまるで違うんですよね。日本でも広がるといいなと思った仕組みです」