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FAMILY TRAIL RUNNING #01

ひとりで楽しむ、子どもと楽しむ。ビギナーのためのトレイルランニング入門|前編

親子で楽しむファミリートレイルランニング THE NORTH FACE ATHLETEの鏑木毅さんを講師に迎え、親子でトレイルランニングを楽しむフィールドイベント「FAMILY TRAIL RUNNING」が行われた。コロナ禍以前は不定期に実施されていたものの、実に4年ぶりの開催となったファミリーイベントの模様をご紹介しよう。

美しい広葉樹林が広がる、神奈川県厚木市北西部の「飯山白山森林公園」に集まったのは、小学3年生から6年生までのキッズと&保護者たちの9組19人。保護者の走力レベルは「ULTRA-TRAIL Mt.FUJI(現FUJI)」完走済みの100マイラーから去年の秋に始めたばかりという初級者、トレイルランニングは今日が初めてというまったくのビギナーまで、実にさまざま。イベント参加の理由も「親が夢中になっているアクティビティを子どもにも体験してほしい」、「自然のフィールドで遊ぶ経験を親子で共有したい」、「子どもと一緒に、憧れの鏑木さんと走ってみたい」と、こちらも色々である。

今日のイベントでは鏑木さんのレクチャーを受けながら、公園内に設けられたハイキングコースをたどり、約4時間かけて距離約6km・累積標高500mをのんびり走る。大人にしてみればイージーな距離だが、急勾配の木段や坂道が連続し、アップダウンはなかなかのもの。子どもたちにとっては未知の冒険になりそうだ。

疲れない登り方 スタート地点の広場から、「男坂」と名付けられた急な木段を使って白山(284m)まで一気に登る。「水はこまめに摂って」、「途中で立ち止まったり、休憩したり、自分にとって快適なペースで」、「足元ばかりではなく周りの景色や自然にも目を向けて」と、鏑木さんから子どもに向けてアドバイスが送られる。階段の途中で一息ついたところで、さっそく登り方のレクチャーが行われた。

「ガニ股で木段を駆け上がってきたキッズもいたけれど、ガニ股だと太ももの筋肉が疲れてしまいます。ここで、なるべく疲れない登り方に挑戦してみましょう」

STEP❶
トレイルランニングは「山を走るスポーツ」だと思っているかもしれませんが、登る時は走らなくていいんです。もし息が上がってしまっていたら、それはオーバーペースになっている証拠。鼻で呼吸できるペースを守り、周りの景色を楽しみながらゆっくり進みましょう。

STEP❷
木段をあがるときは両足が平行になるように意識して。つま先をやや内側に入れて脚を上げ下げしてみましょう。このとき、お尻を使っている感覚があるといいですね。なるべくお尻や太ももの裏側を使って、太ももの前面の筋肉を下りのためにとっておきましょう。

STEP❸
膝に手を添えながら登ると足への負荷を軽くできます。

トレイルランニングの装備 急な木段を元気に登りきるとそこは白山頂上。頂上に設けられた展望台には、横浜や新宿方面を見渡す素晴らしい眺望が広がっている。ここでしばしの休憩。各自、行動食や飲料を摂り、息を整える。その後、展望台下の日陰を利用して、鏑木さんによるトレイルランニング必携装備のレクチャーが行われた。

「トレイルランニングでは、揺れにくい構造のランニング専用バックパックが便利。このなかに行程中に必要なものを入れておきます。装備で欠かせないのは飲み物と食べ物。山の中にはお店も自販機もないので、必要なものは自分で持っていきます。これは出し入れしやすい外ポケットに入れておきましょう。

食べるものはおにぎりやパンでもいいですが、トレイルランナーはこのようなジェルを使います。今日は3、4時間分の行動をまかなうジェルを持ってきましたが、このジェル1つがごはん1膳分のカロリーに相当します。ジェルのメリットは摂ってすぐにエネルギーになること。エネルギーが切れてしまうと動けなくなるので、切れてしまう前に補充しましょう。

そのほか、バックパックの中にはレインウェア上下、ヘッドランプ、ポイズンリムーバー、もしものためのサバイバルシートとクマ除けスプレー、ファストエイドキットが入っています。実際に広げてみましょう」

子どもたちは鏑木さんの装備を広げ、サバイバルシートの効果やジェルの味わいを体験した。

スピードを楽しもう! 山の下り方 休憩の後は白山展望台から桜山に至るコルを駆け抜ける。ここでは木の根や岩など障害物を除けながらの実践的な走り方を学ぶ。

「ロードとトレイルのいちばんの違いは、障害物のあるなしです。まっすぐに走らず、上半身を左右にスイングさせながら障害物をよけてみましょう」

桜山(280m)の先にはお待ちかねの下りが待っている。安全に楽しく下るためのポイントを、鏑木さんが指南する。

「トレイルランニングのいちばんの楽しみは下りです。なぜ辛い登りを上がるのか、それは下りを楽しむため。ここは思いっきり楽しんで下ってみてください。安全に走り降りるためのコツがあるので、みんなでやってみましょう」

STEP❶
上体はやや前をキープ。斜度のきつい下りでは体が自然と前に進むので腰が引けてしまいがちですが、後傾姿勢になると滑って尻もちをつきやすくなります。視線は足元ではなく斜め前方に向けるといいでしょう。

STEP❷
着地はサイドステップの要領でシューズを横に滑らせるとうまく減速できます。スピードをコントロールしながら、楽しく駆け降りてみましょう。

レクチャーを受け、子どもたちが鏑木さん流の下り方を実践。鏑木さんは一人一人の走り方をチェックしてアドバイスを送る。初めはぎこちなかったサイドステップも、繰り返すことで見違えるほど上手になった。

「いまはうまく駆け降りられないかもしれませんが、繰り返すことで山をこなす脚力と心臓ができあがってきます。そうなったらしめたもの。トレイルランニングがぐんぐん楽しくなりますよ」

楽しめば、辛いことも乗り越えられる。 鏑木さんいわく、大切なのは「楽しむ」という気持ちだ。

「僕自身、レースでつらくなったとき、『楽しもう』という言葉を念じるように唱えています。ものすごく辛くてやめたくなったときに、『楽しもう』という気持ちをもっていると気持ちをうまく切り替えることができ、心に余裕が生まれます。そうすると辛いことも乗り越えることができるんです。

『楽しもう』は、トレイルランニングに限らず、これからのみんなの人生にプラスになる魔法の言葉。なにか辛いことがあったとき、『楽しもう』という言葉を思い出してみてください」

WRITER PROFILE

鏑木 毅
Tsuyoshi Kaburaki

2009年世界最高峰のウルトラトレイルレース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(通称UTMB、3カ国周回、走距離166km)」にて世界3位。また、同年、全米最高峰のトレイルレース「ウエスタンステイツ100マイルズ」で準優勝、48歳で南米パタゴニアでの「ウルトラ・フィヨルド」にて準優勝。現在も世界レベルのトレイルランニングレースでの挑戦を続けている。 2011年11月に観光庁スポーツ観光マイスターに任命される。2022年、関西大学客員教授に就任。 現在は競技者の傍ら、講演会、講習会、レースディレクターなど国内でのトレイルランニングの普及にも力を注いでいる。

Photograph: Eriko Nemoto
Text: Ryoko Kuraishi
Edit: Ryo Muramatsu