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LOCAL RUN PERSPECTIVE

ユニークなランニングシティ京都の魅力

ローカルランナーたちの日常風景から浮き彫りになること 街がランナーの走るモチベーションを醸成させることはできるのかー

そんな唐突な問いに「できる」と答えられるランナーは少なくない。エビデンスに基づくものではないものの、ランナーと相性のいい街は確かにある。たとえば、京都はそのひとつ。あの通りを越えたら、あの森を抜けたら「空気が変わる」、そんな不思議な体験を京都という街は、至る所で体感させてくれる。歴史的な建造物、文化遺産がひしめき、歴史の中で引き継がれてきた風習やしきたりも多い古都。この街が持つポテンシャルは、身ひとつで駆け抜けるランナーたちにも等しくもたされる。

京都をランナーの視点で見立て直したら、どんな新しい解釈が浮き彫りになるのか。この土地に暮らすローカルランナーたちの日常風景を垣間見ることで、ランニングシティ京都の魅力を再発見してみたい。

京都一周トレイル®の功績 京都府の伏見区に暮らし、「THE NORTH FACE」に勤務する大桐崇道さんと、同じく伏見区に暮らし、大阪・堀江の「THE NORTH FACE」に通う北村麻莉子さん。どちらもランナーであるふたりが、京都という都市のランニングを語る上で欠かせない要素に、「京都一周トレイル®」の存在をあげている。

京都の東南にかけて伏見桃山から比叡山、大原、鞍馬を経て、高雄、嵐山、苔寺に至る全長約84キロのコースと、豊かな森林や清流、田園風景に恵まれた京北地域をめぐる全長約48.7キロのコース。この2つのコースからなるのが「京都一周トレイル®」だ。とくに全長約84キロのコースは、京都市内を5つのパートに分け、ひとつなぎで楽しめるようなトレイルで、ローカルのランナーやハイカー達から愛され、日常的に親しまれている。

「私の普段のランニングコースには、千本鳥居で有名な伏見稲荷大社があるんです。昼間は観光客が多くてとても走れませんが、朝夕は地元ランナーをよく見かけます。そのコースからも京都一周トレイル®へは簡単にアプローチできて、京都一周トレイル®のコースの中で、最も初心者におすすめだと言われる東山コースの一部に当たるのですが、その先には清水寺や興福寺、哲学の道などの観光名所が連なっているんです(北村麻莉子さん)」

京都一周トレイル®のなかでも、世界的な文化遺産が密集する東山コース。鉄道の駅やバス停などを起点に部分的に楽しむこともでき、山を歩く、または走る最中で離脱し、名所にふらっと立ち寄ることも容易だ。都市と自然をシームレスに結ぶだけでなく、そこに文化遺産や観光名所もあることで、ランナーやハイカーに独自の景観をもたらしている。

ローカルの市民ランナーが捉える伏見区のローカリズム 「京都御所の周辺こそ、京都たる京都。生粋の京都人からすると、伏見は京都じゃない、そんな冗談を言われることもあります(笑)。そんな感覚がローカルの共通認識として刷り込まれている中で、改めて伏見の魅力ってなんだろうと考えると、京都人の暮らしが観光名所の隣で見え隠れする部分なんじゃないかなって思うんです。伏見稲荷の表参道であっても、一本路地に入るとそこは別世界、京都人の日常風景が広がっているんです。そのコントラストは街を走っていて、いつだって新鮮に感じられます。(北村麻莉子さん)」

幕末の名残が残る伏見は、「水と歴史の街」と言われる。坂本龍馬が定宿としていた寺田屋など、偉人にまつわる物語も数々眠り、綺麗な地下水を保有する京都市の中でも「金名水」「銀名水」「白菊水」など多くの名水伝説を持つ。さらに、酒蔵がひしめき、京都一の酒どころとしても名高いエリアでもある。特に酒造業が栄える伏見桃山エリアに自宅を持つ大桐さんは、走ることにハマった理由を、このように話してくれた。

「近所の酒蔵に勤めていた祖父の時代からこの地に暮らし、僕もこの土地で生まれ育ちました。それでもランナーになるまでは、近所に点在する歴史的なスポットには目がいかなかったんです。それが走り始めたことで、いわゆる観光名所ではないものの、歴史的に貴重な遺跡が街角や里山にたくさんあることに気づきました。もともと歴史が好きだったこともあって、ランの途中であっちも、こっちも気になるスポットを巡るようになりました。次第に色々と調べるようにもなって、歴史がつながっていく面白さと、走る体験がリンクするようになったんです(大桐崇道さん)」

日常の中に冒険を生み出す姿勢 「伏見、そして京都の魅力は、身近な自然で冒険ができること」だとふたりは口を揃える。

街に連接する里山をつなぐ京都一周トレイル®で、日常の中の冒険を楽しんでいるという大桐さん。100マイルレースに向けたトレーニング期間では、帰宅ランの一部でトレイルに入ることもあるというが、そんな暮らしの延長に「冒険を見つけ出す姿勢」は、近所を走るロードランニング時にも良いインスピレーションとなっているそうだ。

「十石舟という遊覧船が渡る宇治川で、“うなぎが釣れるらしい”と風の噂で聞きつけたんです。近所を走っていると、いろいろ見聞きするようになるんです(笑)。それ以来、近所でうなぎ釣りを始めました。難しい漁なので、そんなにたくさんは獲れないんですが、仕掛けも手作りしたりして。自分の中では走ることを通して、毎日をどう冒険するか探究するか、そんな姿勢を身につけることができたように思いますね。うなぎに辿り着けたのもランニングの賜物だなって思っているんです(大桐崇道さん)」

どんな街にも歴史があり、物語が眠る。なかでも京都という街はそんな物語とランナーとが出会えるきっかけが数多く点在するのだろう。それはトレイルでもあっても、ロードであっても。いずれにしても京都がユニークなランニングシティであることに変わりはない。

Photograph: Arata Funayama
Text&Edit: Ryo Muramatsu