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RUNNERS’ AWARENESS OF SUSTAINABILITY

ランナーと環境問題を結ぶ“湘南国際マラソン”

ロードランナーの環境意識とは? 世界初のマイボトルマラソンがスタートして2年目。第18回を迎えた湘南国際マラソンでは、前年より参加者が4,000名増えた中、ゴミ排出量は約3割減という報告があがった。

この参加ランナーたちの環境配慮への意識が向上したことを証明する貴重な数字を耳にしたとき、そもそもアスファルトの上を走るロードランナーの環境意識はどのようなものなのか、と思いを巡らした。

気候変動による雪不足と向き合うスキーヤーや、トレイル整備を日常とするトレイルランナーなど、自然の中に身を置くアスリートたちにとって、自然環境の変化は身近な問題だ。そこにきて、ロードランナーと環境問題とは? ゴミを出さない近未来型の湘南国際マラソンを通して、そのトピックについて考えてみたい。

「やっていけないことを極力なくす」が始まりだった 湘南国際マラソンがスタートしたのは2007年。海沿いに延びる国道134号線を封鎖して実施するフルマラソン、実装の壁が高いことは容易に想像できるだろう。現在も事務局長として大会運営に関わるランナーズ・ウェルネスの坂本雄次さんに当時の苦労話を聞いた際、こんなことを話してくれた。

「第1回目から変わらず念頭に置いているのは、“やってはいけないことを極力なくそう”という精神です。たとえば、参加者のみなさんが走ったり、歩いたりしながら行うパフォーマンスにしても、ほとんど制約を設けていません。障がいをお持ちの方も大会に参加できるように、短い距離ではあるもののラウンドウォークを作りましたし、応援にくるご家族、地元の方々、ボランティアで参加してくださる方々と、湘南国際マラソンに関わるすべての人たちに、この大会を〝表現の場″として楽しんでいただける大会にしたいと思ったんです」

国道134号線は、湘南を訪れる観光客にとってのメインストリートである一方で、地域にとっては生活に根づいた道である。湘南エリアを象徴する国道がゴミで埋め尽くされるという光景は、大会が生まれて15年後に “やっていけないこと”の一つとして位置付けられた。

以前は、毎年約2万5000人のランナーに対し13ヶ所の給水ポイントを設け、31,500本のペットボトル、50万個もの使い捨てカップを用意していた湘南国際マラソン。フィニッシュ後に配布していたペットボトル26,000本も撤廃し、2022年に行われた第17回大会より、コース上には200mおきに給水ポイントが設置され、マイボトル携帯して出走することが義務付けられた。

結果、CO2削減効果は合計約6トン。これを500mlのペットボトルに換算すると、約17万本分を削減したのと同等の効果が見込まれるそうだ。

シリアスランナーが感じた「マイボトルマラソン」の現実 今大会にチームで参加したRETO RUNNING CLUB。現役のプロランナーが市民ランナーの目標達成をサポートするという枠組みのランニングクラブで、主宰者はプロランナー神野大地さんが務め、フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんやスプリントコーチの秋本真吾さんらも参画し、新しいカタチのランナーコミュニティとして注目が集まるクラブだ。

昨年に続き、マイボトルマラソン2度目の参加となるRETO RUNNING CLUBチームマネージャーの高木聖也さん。サブ2.5の記録をもつエリートランナーの彼にとって、湘南国際マラソンは参加する意義のある大会だと話してくれた。

「正直なところ、僕自身はじめはマイボトルマラソンに懐疑的でした。でも去年走ってみて、”意外にありだ!”と感じたんです。今年はチームで参加を決めたものの、一定の不安はありました。目標達成をモチベーションに走るシリアスランナーたちにとって、マイボトルマラソンはどうなんだろうって。結果的には、大会を通して環境問題について考えるようになったとか、競技面でも、給水ポイントが多いことでかえって自分のペースで補給できることが良かったとか、マイボトルを腰に入れて走っても意外と気にならなかったというメンバーが多くて、この大会で自己新を出せたというメンバーもいたほどです。これまでチームとして環境に配慮したことや社会貢献的なことをやってこなかったのですが、ゴミ拾いやシューズやウェアを回収して再利用してくれる機関に送るなど、小さなことから始めてみようとも考え始めています」

ランナーが「環境について考える」きっかけに レースを走り終えたRETO RUNNING CLUBの一部のメンバーたちと「ランナーができる環境配慮ってなんだろう」というテーマで、少しの話をする機会を得た。

初参加となったマイボトルマラソンの感想とあわせて紹介していこう。

「はじめは、マイボトルはタイムロスになるんじゃないかと思っていました。個人的には、それでも給水をそこまでする必要もなくて、腰に入れているボトルも全く気にならなかったんです。あとは自分のタイミングで補給できるのは、プラスだと思いましたね。あとはやっぱりゴミがない道を走るのって気持ちいいですね。いつもマラソン大会に出た後は、(スポーツドリンクを飲んだ後の紙コップの影響などで)靴がベタベタになるので。それがないのも、すごく嬉しいことだと気づけました(竹輪耕一さん)」

「私は今回、タイムを狙ってエントリーしたんです。それで一緒に走ってくれたメンバーが給水をサポートしてくれました。走っていて、いつでも補給できるのは、すごくメリットがありましたね。給水所で水を取り逃がす心配もないですし。あとはマラソン大会といえば、ゴミ箱から溢れ出る紙コップが当たり前の光景になってしまっていますけど、今日は道がとても綺麗で、海沿いなことも相まって、とても気分が上がりました。おかげでタイムが縮まり、自己新でゴールすることができました(大島千鶴さん)」

「ランナーとしていろいろなマラソン大会に出るようになると、自然豊かな土地や美しい景色のコースを走ることが増えていきますよね。自然の恩恵を受けて楽しむ一方で、その大会によって大量のゴミが生みされてしまう。その矛盾に、この大会を走ることで気づけて、綺麗な道を走ることが気持ちのいいことだという当たり前のことを改めて感じられたのが良かったと思いますね。ランナーとして環境を意識することは日常的にはなかったのですが、できることがあるなら少しでもやっていきたいなと思いました(杉田侑菜さん)」

最後に、チームマネージャーの高木さんのこの言葉が記憶に残った。

「普段ランニングをしていて、環境を意識する機会ってほとんどないと思うんです。だからこそ、“ランナーとして地球のためにできることがある”という視点を与えてくれる大会というのはすごく価値があると思います。湘南国際を走ることで、ランナーとしての意識が変わる。環境について考える。そんなスタートラインに立つきっかけを与えてくれるんだと思います」

Photograph: Shinji Yagi / Mishio Wada
Text&Edit: Ryo Muramatsu