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Transgrancanaria
ラス・パルマスの新しい朝(前編)
「THE NORTH FACE Transgrancanaria」が、スペインのカナリア諸島にあるグランカナリア島で開催された。「カナリア」は、冬が終わりに近づく2月の北半球で、トレイルランニングシーズンのスタートを飾ると言われているレースシリーズだ。”Kids”から”Classic 126k"まで9つのレースからなる2025年の「カナリア」には、どんな人々がいてどんな光景が広がっていたのか——前編(本稿)と後編(4月上旬公開予定)のロングリードでお届けする。

かくして拍手は鳴り止まず
レース翌日の朝、大会のハブとなったエキスポ会場でクロージングセレモニーが行われた。
入賞したランナーたちが性別や順位にかかわらず一緒にステージに上がっていく。
”Marathon 47km”で、女子2連覇を飾ったジェニファー・リヒター(米、THE NORTH FACE ATHLETE)の笑顔が見える。脅威的なスピードで”Classic 126k”で優勝したカレブ・オルソン(米、NIKE)、2位、3位となったジョン・アルボンとジョシュ・ウェイド(ともに英、THE NORTH FACE)も、穏やかな様子だ。彼らがVective Pro 3.0を履いてトレイルを走る様子は、とても軽やかな印象だった。
”Kids”まで含め、全カテゴリー約30名近くの入賞選手が思い思いにステージに並ぶ。スクリーンには、ローカルのボランティアチームの笑顔の写真が何枚も映し出される。
2人のMCがスペイン語と英語で選手と大会に関わる全ての人を称えると、オーディエンスの大歓声と口笛が共鳴した。かくして拍手は鳴り止まず、みんなでその日が作られた。
「カナリア」の朗らかで温かなセレモニーは、多様性に溢れた祝祭を大切にするトランスグランカナリアのコミュニティを象徴するものだった。

「カナリア」を走る楽しさ
マルコ・オルモ(伊)やリジー・ホーカー(英)といったレジェンドや、パウ・カペル(西、THE NORTH FACE)、コートニー・ドゥオルター(米、SALOMON)など現役のスターランナーたちがグランカナリア島を走り、ローカルのコミュニティと共にこのレースの「顔」になってきた。
2025年のトランスグランカナリアの祝祭には、トップクラスの選手に加えて様々な「顔」のランナーが70の国や地域からやってきた。大会参加者の総数は、過去最多となる約5300人になったという。57%がカナリア諸島の外からやってきたランナーたちだ。
日本から参加した鏑木毅、土井陵に加えて、THE NORTH FACEチームの一員としてグランカナリア島を訪ねた中村真記子(マーケティング担当)は、こんなことを語った。自身もトレイルランナーとして久しぶりに"Half 21k"のレースに参加した後のことだ。
「ハーフのカテゴリーで印象的だったのが、黄色いTシャツのチームでした。ベルギーから来た人たちで、20代〜50代まで幅広かったです。トレイルをあまり走ったことはないようでしたが、エイドステーションで一緒に暑さをしのいだり、フィニッシュしたら残りのメンバーを迎えて盛り上がっていました。競争というよりも、自然の中で皆でレースを体験することを楽しんでいました」
「知らない人と感動をシェアしたり、助け合ったり、そんな発見に溢れたレースでした。暑くてバテましたが、私も最後まで走り切ったのは、みんなのように楽しくフィニッシュしたいと思ったからでした!」
火山地帯や木漏れ日溢れる森、サボテンのグリーンと桜吹雪のピンクが混ざり合うトレイル、山と人の共存を象徴する石畳の道、アフリカ大陸と青い海を遠くに望むたくさんのピーク——コミュニティに支えられ、ランナーたちはこの土地にしかない道を共に進んでいく。
ランナーはもちろん一人で進んでいるが、それと同時にみんなと走ってもいると思うようになる。

女性とグランカナリア
「みんな」には、こんなランナーもいる。ケイトリン・ガービン(米、THE NORTH FACE)だ。「カナリア」に来たのは5回目だと言う。
「今回は”VK El Gigante”(5km、1060mアップ)に出る予定でしたが、結局走りませんでした。昨年娘を出産して、今はレースに戻りつつある時期です。なので、コンディション次第かなと思っていました」
「でも、夫や娘と一緒に山に行ったり、チームとトレーニングをしたり、コミュニティにもまた会うことができて良かった。レースでは仲間を応援し、サポートクルーをさらにサポートしました。走らなくてもレースに参加できるファミリーのような感覚があります。この島とコミュニティとのコネクションを感じるから、ここに戻ってくるんだと思います。ちなみに去年、娘はこの時期お腹の中にいたので、2回目の参加ですね(笑)」
人それぞれ、人生のステージがある。妊娠や出産、怪我や誰かのケアのため、あるいは他にどんな理由があっても、誰であっても、レースに色々な関わり方をすることができる。それが「カナリア」だ——レースに関しては、出産からほどないランナーがエイドステーションで授乳することができたり、性別による賞金の差はなく、平等に定められたりしている。
ある時にはレースを走り、またある時にはサポートや応援をする側になる。大会側も、女性やすべてのランナーが平等に走ることができるように必要な取り組みをどんどん採用していく。
「カナリア」がもたらしているものは、誰もが自分なりにレースを楽しむことができるようになるための、あるいは走らない人をもコミュニティの一員として包み込む、たくさんの人々の具体的なアクションなのだ。
早朝のスタートライン
ケイトリンは、ウェスタンステイツをはじめ各国のレースで活躍し、トランスグランカナリアでは2019年に”Classic”で女子2位になった。2020年には”Classic”で優勝している。
「ロングレースは年に2回くらい出ます。バイオエンジニアリングのPh.D.や仕事でアプローチしてきたのと同じように、トレイルランニングについても科学的に考えるほうだと思います。「カナリア」で良い結果を出すことができた時も今も、基本的には計画を立て、分析をして、トレーニングをしていくという自分のアプローチは変わらないと思います。そうやってまたレースシーンに戻ってこようと思っています」
女性であり、トップクラスのレーサーであり、一人の娘の母親にもなった彼女に、ともう一度聞いてみた。「カナリア」について何か印象に残っていることは? 「自分が走った2022年のスタートラインですね」と彼女は言った。
「私が経験したような光景が、写真や映像、メディアを通してもっと伝わっていって欲しい。そして、同じような取り組みがもっと増えて欲しい——あの時、ラスパルマスのビーチで輝いているスタートラインの最前列にまず女性ランナーが並んで、その後ろにみんなが並んだんです。それを見た女性たちが「自分にもあんなふうにスタートラインに立てる」と思ってくれると良いなと思います」
ケイトリンが優勝した2020年の”Classic”のスタートラインには、彼女を含めて全部で7名の女性ランナーが最前列に並んでいる。後ろにパウ・カペル、ディラン・ボウマン(米)、パブロ・ビジャ(スペイン)といったトップランナーたちがいるのが見える。
グランカナリア島の北部、ラスパルマスの夜更けのスタートラインから、ケイトリンは新しい朝に向かって笑顔で走り始めた。
<後編>へ続く——サラ・キーズ、フェルナンダ・マシェール(THE NORTH FACEアスリート)、Mt. FUJI100ほか——。

Photography by Florian Keller, Jordan Manoukian, Colino Livero, and Tom Stephens
THE NORTH FACE RUN 2025 SPRING/SUMMER COLLECTION
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