1992年に誕生したヌプシジャケットの歴史を紐解く
ザ・ノース・フェイスのタグラインである“NEVER STOP EXPLORING(探究をやめない)”を体現するヘリテージモデルであるヌプシジャケット。その30年にわたるエクスプロレーションを証明するエポックメイキングな7つの事象をピックアップする。
1980年代半ば、シェルやインサレーション、アクセサリーらを効率的に連結することにより、過酷な気象条件下でのそれぞれの機能を相互的に高め合うことを目的とした“エクスペディションシステム”と呼ばれるレイヤリングシステムの開発が始まった。ヌプシジャケットはそのイノベーションの成果のひとつ。吸汗・保温・断熱・防風といったデスゾーンでの即応力が実装されたサミットシリーズのウェアリングシステムを構成するプロダクト群の一つとして1992年にデビューしたのである。ヌプシジャケットの名前の由来はヒマラヤ山脈エベレスト南西に連なる山嶺。チベット語での正確な発音は“ヌプツェ”で、“ヌプ”=西、“ツェ” =峰を意味する。
メジャーチャートに台頭してきたヒップホップクルーのSmif-N-Wessun(スミフ・ン・ウエッスン)、BOOT CAMP CLIK (ブート・キャンプ・クリック)、Wu-Tang Clan(ウータン・クラン)のメンバーやMASE(メイス)、Nas(ナズ)らがB-BOYファッションに取り入れ始める。フィーチャーされた理由は、マンハッタンやブルックリンの冬場でのMVのロケ撮影では氷点下も稀ではなく、防寒性が有用だったのと、ヌプシのフードが収納できる襟型がインナーのパーカに干渉せずに着こなせたなどなど諸説あり。1996年10月23日発売の『Tarzan(ターザン)No.245』にはニセモノ注意喚起のコラムが。ヌプシダウンジャケットをペアルックしたSAM(サム)と安室奈美恵がNYでパパラッチされたのは1997年のこと。
ミレニアムには日本のストリートシーンにも広く浸透。まずはSWAGGERがレプリゼントする恵比寿系がトリガーとなり、裏原系にも波及。2003年にラウンドハウス刊行のムック本『SWAGGER STYLE(スワッガースタイル)』には世界初のコラボレーションであろう、“ハーフドームロゴ”をゴールドで刺繍したヌプシが掲載されている。2005年8月に放映がスタートしヒットした海外ドラマ『プリズン・ブレイク』のウェントワース・ミラーが着用したのも火付けの一つかもしれない。素材面ではゴールドウインの光電子®ダウンを採用し、ジャパン独自の技術でアップデートされた。
ヌプシコレクションのフットウエア、ヌプシブーティーを本国USが2006年に発表。積雪期のキャンプ用テントシューズ(中綿入りの靴下)にアウトソールを付け、雪上で履けるようにデザインされた。日本企画は2008年が最初で、完全なジャパニーズラスト(木型)は2012年秋冬展開より。その後、BEAMSやatmosのセレクトショップ系の別注、後に展開されるHender SchemeとのWネームなどで認知と人気が定着する。
同年秋、現在もなお異常なプレミアム価格をアジテーションし続けている“Supreme®/The North Face® Nuptse Jacket”の1stモデル(レオパード柄)が発売される。A$AP ROCKY(エイサップ・ロッキー)、Drake(ドレイク)、カニエ・ウェスト、グッチ・メイン、フランク・オーシャンらの錚々たるセレブリティラッパーたちが様々なTPOで着こなしているのもセンセーション。
18FWコレクションで、インサレーションを再資源化したリサイクル素材であるグリーンダウンに全面リニューアル。これにより1966年のブランドの設立以来、モットーとしている自然を保護・復元、破壊抑止・改善する“トゥルーノース”の精神をさらに献身的に体現する。
デビューから30周年。テキスタイルの染色工程を省くことで環境負荷にも配慮したアンダイドヌプシジャケットを発売する。またヘリテージモデルであるヌプシジャケットの表地・裏地もそれぞれリサイクル素材にアップデートされたことで、従来から継続して封入されるグリーンダウンも相俟って、よりサスティナブルな製品へと進化している。