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山という異界
作家にとって、山は“人間の住む世界を超えた異界”である。それを描き出すために、F・スコット・フィッツジェラルドの『リッツ・ホテルくらい大きなダイヤモンド』(初出は1922年。日本語版では『ジャズ・エイジの物語―フィッツジェラルド作品集1』[荒地出版社1981年]に収録)での山は人間的な富と欲望の塊として登場し、かつそれが完膚なきまでに潰える必要があった。人間が所有できなくなり、人が消えた後の山とはどのようなものかという問いを読者の想像力に向けて発するために。一方のアーネスト・ヘミングウェイの『キリマンジャロの雪』(1936年発表。邦訳は角川文庫より1969年に刊行。現在は絶版)もまた、アフリカの平原までやってきたアメリカ人夫婦を通じて、大地でのたうち回る人間たちの戦争や結婚生活の破綻といった営みを冷徹に見つめながら、それをはるかに超えたところに存在し続ける山を描き込む。“生を超えるもの”としての山。それは死の危険と隣り合わせであるかもしれない。それでも、人は想像力をもってそこに登ろうと挑むのだ。自らの生の限界を見届けるために。──藤井 光(英文学者,翻訳家, 同志社大学文学部英文学科教授)
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山とブラックユーモア
リューベン・オストルンド監督・脚本の映画『フレンチアルプスで起きたこと』(2014年スウェーデン・デンマーク・フランス・ノルウェー合作、2015年日本一般公開)はレ・ザルクで起きた雪崩から家族より自身の安全を最優先した夫とその妻との関係をブラックユーモアで描く。彼らは必死だが、ひたすら引きの画で映しているため、覗き見している立場の我々にとってはそれがおもしろくて仕方がない。その模様はまさに『人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ』といったチャップリンの言葉そのもの。引き画のお陰でフレンチアルプスがよく見える。絶景なのだ。そんな景観の中、リビングやファミレスでよくやるような些細な小競り合いが続く。せっかく素晴らしい自然にいるのに。嗚呼、もったいない。我々は環境によって人生が変わると信じたくなる時がある。でも、この映画を観てみると、結局のところ人間はどこにいても変われないし変わらないと思い知らされる。それだからいいのかな、いいのか?……まあいいか。──枝 優花(映画監督, 脚本家, 写真家)
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NYストリート、
ヒーローが愛したダウンニューヨークの冬は寒い。スキーマスクを被ったメッセンジャー、地下鉄からの温かい排気が立ち上る換気口の上に座り込むホームレス、白い息を吐きながらバカでかいホットラテのカップを片手に早朝のオフィスに向かうエリートサラリーマン……。そんな街中で羨望の眼差しを集めるのは、いつの時代もクールなジャケットとタフなブーツをスタイリングした人々だ。前後に配置された真っ白の刺繍は、THE NORTH FACEをこの街の冬のアイコン足らしめた要因の1つだろう。後ろ姿でも一目で分かるロゴがストリートの視線を釘付けにするのに打って付けだった。また、暖かく、何より軽く動きやすいそのジャケットはグラフィティライターなど、都市の隙間をアクティブに駆け抜ける人々にも支持されている。
もうひとつの理由は、グレーのアスファルトによく映える黄色や赤といった原色のカラーブロック。1992年は同ブランドの顔とも言える“Nuptse Jacket”が誕生した年で、同年リリースのZhiggeによる『Rakin' In The Dough』のMVの中にも黄色い“STEEP TECH”や赤の“Lhotse Jacket”が登場する。この年にNYのシーンで高感度な人々を魅了したPOLO RALPH LAUREN、そのヴィヴィッドなアイテムに相性が良かったのが同じくプライマリーカラー使いのTHE NORTH FACEだった。翌93年Wu-Tang ClanがMVでレッドやイエローの“STEEP TECH”を着用。94年には東海岸ヒップホップの復権を世界中に印象付けた名盤『Illmatic』がドロップされ、このアルバムのインナースリーブに使われたポートレイトではNasがTHE NORTH FACEの“Bib Pants”を穿いている。そうして数多のヒーローが路上から生まれた90年代よりTNFのダウンジャケットは今も変わらぬストリートシーンのスタンダードとなっていった。──大橋高歩 (the Apartmentオーナー)CLOSE -
サステイナブルによる
都市環境の改善2020年。新型コロナウイルス(COVID-19)が世界的なパンデミックを起こし、感染症防止対策のために各都市の工場が閉鎖され、道路から車が消え、空の便の運航停止も余儀なくされた。それによってステイホーム中の人々の耳に飛び込んできたのは、川が澄み、山が見え、都市の環境が改善されたというニュースだった。インド北部のパンジャブ州ではロックダウンで大気汚染が大幅に改善し、都市部から200km近く離れたヒマラヤ山脈が数十年ぶりに見晴らせて、市民が喜んだとか。2020年。私たちは「何もしないこと」=「環境にいいこと」だと身を以て学んだ。すなわち、これからは環境問題と真摯に向き合ったモノだけが残っていき、それ以外が淘汰されていくことを知ったのだ。「流行っているから」という表層的な理由で“サステイナブル”という言葉を乱用することを止め、すでにある資源を再利用したり、リペアして使ったり、無駄なゴミを出さぬよう、新しいモノを必要としない生き方がこれからのニューノーマルな正義ではないだろうか。──平山潤(NEUT Magazine編集長)
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ヴァージンダウン
♻リサイクルダウン服を身に着ける人、その服を生み出している企業、どちらも自分が選んだものに責任と理由がつきまとい、世の中から厳しい目が向けられている。心から好きなもの、欲しいものを手にしてただ使えばよかったあの頃はとうに過ぎ去り、気候変動や環境汚染、そして人権問題を抱えるこの世界は、清廉潔白を求めるようになった。私たち、特に情報感度が高い若者たちは、これら政治的、社会的なテーマを透明性というキーワードで向き合っている。それが正しいことであっても、監視されるファッションには息苦しさも覚えてしまう。河田フェザーのリサイクルダウンは、もちろんサステナブルであるものの、それのみでは選ぶ理由にはならない。なぜなら、長生きする人が健康的であるように、ダウンは質が高くなければ繰り返し使えないから。リサイクルダウンであることは、美しい水と環境が育んだヴァージンダウンを受け継いでいること。身に纏うだけでは目に見えないダウンのクオリティが透明性によって認められれば、人は賢い選択ができるようになる。それもまた、地球の持続可能な未来に繋がるのではないだろうか。──小澤匡行(エディター, ジャーナリスト)
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命を繋ぐ
プロダクトテクノロジー極地において命を守る目的で研鑽されるプロダクト。その発展はGORE-TEXのテクノロジー躍進の歴史と言っても過言ではない。同社では生地に厳しい耐久試験を実施しており、環境チャンバーと呼ばれる特別な部屋(地球上の環境の約95%を再現可能)にて、新製品の性能試験が行われる。
デスゾーンにて機能する“HimalayanParka”では長くWINDSTOPPER®が導入され、今回記念すべき初登場の94年モデルをベースにマイナーチェンジした“ HimDown”もその技術を受け継いだ。GORE-TEX INFINIUM™ WINDSTOPPER®は防風性と透湿性を備え、水蒸気分子の900倍の大きさの孔が何十億個もある。つまり、汗の水蒸気は通し、風は通さない。水分や冷気からダウンを保護しつつ、長時間保温性を維持することができる。今回は一段と軽量かつ強靭な30Dリップストップナイロンを貼り合わせ、環境を顧慮したPFCECフリーの耐久撥水(DWR)加工が施されているのも言い添えたい。──ニッセンシュウ(日本ゴア ファブリクスディビジョン)CLOSE -
いつも冒険者とともに
マイナス50℃の極寒の中を突き進む。風速60mを超える猛烈な嵐の中で一夜を過ごす。誰も登ったことのないルートで8,000メートル峰の山々を制覇する。南極から北極まで今まで見たことない景色を発見しに行く。不可能だと思われた冒険に挑戦する人々をTHE NORTH FACEはプロダクトを通じ、支援してきました。
“Him Down Parka”は1994年に発売した“ Himalayan Parka ”のオリジナルデザインを踏襲しながら、当時のまま復刻はせず、現在の最新技術でアップデイトしています。ダウンはリサイクルながら高い保温性を持つものに変更し、表地のGORE-TEXは非フッ素撥水材にて自然環境に配慮。フードはあえてデタッチャブル仕様にすることで、ライフスタイルの様々なコーディネイトに合わせられるようになりました。一見重量感のあるルックスですが、とても軽く、温かい空気をラップアップしているような着心地のダウンジャケットです。──飯島和宏(株式会社ゴールドウイン ザ・ノース・フェイス事業一部)CLOSE -
TNFがファッションにも
享受される理由機能がスタイルを形作るのか。スタイルが機能を形成するのか。THE NORTH FACEのマーチャンダイズは間違いなく前者と言える。それも追随を許さない創造性で。しかしながら、キャパシティと機動性を最優先すれば、遠征や冒険などフィールドのプロフェッショナルやエキスパートユースにマウンテンフォークスのみ有用で、それ以外のシーンでは過剰性能と敬遠されるのが自明だろう。にも関わらず、TNFは以下の理由でストリートやモードにも侵食している。①ライフスタイルに迎合しないオーバースペックなるホンモノとしての魅力。②レッドやイエロー、ブルーといった山でのエマージェンシーカラーがオン・ザ・ロードでヴィヴィッドに映える。③前面左胸と背面右肩のいい意味で悪目立ちする位置にデザインしたインパクトのあるパーフェクトな完成度のロゴ(ブランド名はカリフォルニア州ヨセミテ国立公園で最難関ルートを意味する北壁=ザ・ノース・フェイスと、右側の3本ラインはそこの花崗岩のハーフドームがモチーフ)。④デイリーにスタイリングしやすいアーバンなオールブラックパターンをラインナップしていること。そして、⑤こんな作れるんだと感嘆するほどのステレオタイプに囚われない革新的なクリエティビティ。だからこそ、コム・デ・ギャルソンからもシュプリームからもハイクからもサカイからもメゾン マルジェラからもコラボのラブコールが後を絶たない。かつてファッションが社会情勢のカウンターだった頃、1960年代に創業して以来、“Never Stop Exploring”という社是が示す通り、アウトドアアクティビティの範疇を凌駕してのイノベーションはTHE NORTH FACEをして“ファッション”そして“スタイル”足るレーゾンデートルの証。──本郷 誠(エディトリアルディレクター, 出版プロデューサー, ファッションライター)
STAFF CREDITS
- Art Direction:Ren Murata[BROWN:DESIGN]
- Design:Ryutaro Takamoto[BROWN:DESIGN]
- Photograph:Erina Takahashi(Still)
- Model:Mac[STANFORD]
- Edit:Makoto Hongo, Shu Nissen
- Special Thanks:Yuko Yoshinaga[MAGIC HOUR]
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デスゾーンにも耐え得る仕様を
内包したカプセルコレクション−70℃にもなる極地圏やデスゾーン(酸素濃度が低く、人間が存在できない死の領域)での活動を可能にするエクスペディション向けのサミットウエアとして1994年に初登場した“Himalayan Parka”。そのオリジナルをモチーフに、先端技術でグレードアップさせたのが“Him Series”です。シンボリックなデタッチャブルフード仕様のダウンパーカの他、フリースのセットアップとキャップ、ヘビーウエイトコットンのロングTシャツを取り揃えています。──ザ・ノース・フェイス プレスルーム(株式会社ゴールドウイン ザ・ノース・フェイス事業一部)
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ヒムダウンパーカ
Him Down Parka
¥68,200(税込み)
- Color:
UNISEX ND92031
THE NORTH FACEを代表するエクスペディション向けダウンウエアである、ヒマラヤンパーカ。1994年に登場したオリジナルデザインをベースに、現代のテクノロジーでアップデートしました。表地は30デニールのGORE-TEX INFINIUMを採用し、高い防風性を追求。環境問題に配慮し、撥水材にはフッ素化合物を含まないPFCフリーを使用しています。中わたはリサイクルダウン。高度な洗浄技術により汚れやホコリを除去したクリーンなダウンが、高い保温性を確保します。携行に便利なスタッフサック付き。フードは取り外し可能で、より幅広い着こなしが楽しめます。
THE NORTH FACE ALTER 12月3日(木)先行発売
東京都渋谷区神宮前6-10-9原宿董友ビル 1F
03-6427-1180
ロングスリーブエクスペディションシステムティー
L/S Expedition System Tee
¥7,480(税込み)
- MENS Color:
- WOMENS Color:
Mens NT82034 / Womens NTW82034
エベレストに3回臨んだ
私がまず頼ったモノ
人間は極端な寒さや標高差に適応できない。そうした環境に身を置く時は死を覚悟しなくてはならない。寒さに体温を奪われ、酸素不足による息苦しさを感じながら、次のような考えが脳裏を過ぎる。「一体、何だって俺たちは危険を冒してまでこんな場所にいるんだ?」。1923年にジョージ・マロリー(イギリス人登山家。1886年生、1924年没)が記したシンプルな答えは「そこにエベレストがあるから(Because it's there.)」。私たちが高峰や極地に臨むのは自身の喜びのため、科学調査のためだ。身が竦むほどの危殆、飢え、乾き、日焼け、肌を刺す極寒、忌々しい岩、青白い氷と萎えた脚。そうした艱難辛苦が命懸けに値すると思う理由は、生き延びることができないようなデスゾーンに踏み込むことで、帰還した時に自分自身が何者であるか、自身の限界はどこなのかを学べるということに尽きる。そこに向かう際は、身を守るための装備や服装が必要になる。寒冷や低酸素状態にある際、防衛手段として真っ先に頼るべきはTHE NORTH FACEの“Him Suit”だ。1999年から2012年までの間、エベレストに3回挑んだ私がまず頼ったのも、タフさと快適さで遠征成功への希望を与えてくれる“Him Suit”だった。嬉しいことに私は1999年から今まで20年以上もその開発に関わり、進化の過程を体現してきた。最も一般的な水分補給用システムをジャケットの上部に備え付けているのはフィット感と機能性を常に念頭に置いているからだ。厳寒の状況下では寝袋のライナーとしても“Him Suit”を活用することができ、シュラフの中で緩めに着込み睡眠をとる。そうすることによって体内に蓄積されるエネルギーが倍増するんだ。現在はさらに機動的で軽量になり、私たちアルピニストを全面的に支えてくれている。驚くべきキャパシティを実現する“Him Suit”が一緒なら8,000メートル級への登頂が約束されるだろう。──コンラッド・アンカー(登山家, ロッククライマー, 作家)