2021年2月11・12日に白馬コルチナ国際スキー場で開催されたJAPAN FREERIDE OPEN 2021。国内スノースポーツにおけるフリーライドの祭典に、ザ・ノース・フェイスアスリートの小野塚彩那と佐藤亜耶が参加。母となって初めての大会となった小野塚と、ディフェンディングチャンピオンとして臨んだ佐藤は、それぞれ優勝に輝いた。フリーライドの大一番で見せたその滑りと、大会で抱いた想いを2人に語ってもらった。
スキー オープン女子優勝 小野塚彩那「母になって初めての大会」
私はこれまで、アルペンスキー、基礎スキー、ハーフパイプと様々なカテゴリーの大会を転戦してきました。ハーフパイプ選手を引退し、このフリーライドに転向しました。タイムや技の難易度だけでなく、総合的な技術が問われるフリーライドは、山の総合格闘技のようなものです。試合では何か一つに長けていても勝つことができません。総合的な判断力や技術が問われるのです。また、本当の自然の中で滑るがゆえに、様々なリスクも伴います。そのリスクの中で、自由に自分の思い描くラインやジャンプをしながら滑り降りて行くことが、フリーライドの最大の魅力だと感じています。JAPAN FREERIDE OPEN(JFO)は、年齢問わず誰でも楽しめるフリーライディングの大会だと思います。JFOはプロもアマも関係なく、ジュニアカテゴリーもあるため、親子で参戦することも可能です。今回、母になって初めて出場した大会ですが、純粋に自分の子どもが大きくなってから一緒に出場したいと思いました。12月に息子を出産し、産後2ヶ月でこのJFOを復帰戦に選びました。産後1ヶ月時点で通常の生活に戻っていいと言われたときには、雪上に復帰すると決めていました。私にとっての通常はやはり雪の上ですから。ただ、母になったから、滑っていないから、子どもがいるから、出産直後だからということを理由に負けたくありませんでした。女性にとって、妊娠・出産は人生の一大イベントです。ましてや、体が資本であるアスリートという職業は妊娠・出産で大きくパフォーマンスが変わる出来事だとも思います。
産後一ヶ月で通常の生活に戻ってもいいと言われて、雪上に復帰すると決めました。私にとっての通常はやはり雪の上です”
正直、出産前と比べてフィーリングは大きく変わっていました。それは当然のことながら、オフシーズンのトーレニング量は出産前の2割ほど。しかし、“出産後”に結果を残すことで他の女性ライダーにも希望を持って欲しかった。大丈夫、やればできると。実際のところは、表彰式で呼ばれるまでは優勝したのかどうか、気が気ではありませんでしたが(笑)優勝しながらこんなことを言うのはおこがましいですが、滑りの内容としては、満足のいくものではありません。トレーニング不足が露骨に滑りに出てしまいました。正直なところ、半分から下は滑り降りることに精一杯で、ゴールしてからもしばらく立ち上がれなかったほど。表彰式になっても本当に自信がなく、名前が呼ばれた時は本当に嬉しかったです。産後2ヶ月ちょっとでの大会でした。これから徐々に感覚を取り戻せていけたらと思っています。
スノーボード オープン女子優勝 佐藤亜耶JFOは勝つことよりも「自分の好きなように滑る」を優先できる大会
まずはコロナ禍の中で、開催にご尽力いただいた関係者の皆さまに感謝いたします。ありがとうございました。私が初めて出場したフリーライドの大会は、JFOでした。フェイスチェックの仕方もよく分からなければ、ザックを背負って滑ることにもまだ違和感があった頃です。そんな時に、JFOに参加している選手たちが、自分自身の滑りはもちろんのこと、他のライダーの滑りまで楽しんでいる様子を見て、これなら私も挑戦できそう! と感じ、緊張しながらもエントリーをしたことを覚えています。初めてのフリーライドの大会では、思い通りのランができませんでした。どこで何をするか考えているうちにゴールしてしまい、「やってやろう!」という意気込みは達成できなかったんです。2回目に出場した際はその悔しさをバネに、また山の滑りの経験値が上がっていたこともあり、思い描いていたランで優勝することができました。今回で三度目の出場となり三連覇がかかっていたのですが、それほどプレッシャーを感じずに滑ることができました。それは、JFOが勝つことよりも「自分の好きなように滑る」というフリーライド最大の魅力ともいえる点を、一番に優先して挑める大会だからであると感じています。
三年前に初出場した時の私と同じように、JFOの出場をきっかけにフリーライドの魅力に引き込まれたライダーがいることを、嬉しく思います”
今回のスノーボード女子の出場者の中にも、初めてフリーライドの大会へ挑戦する選手がいました。スタート前にすごく緊張している様子だったので、「私もそうだったけど、滑り終わった時には楽しかった! って思えるはずだから、滑り終わった自分を想像しながら頑張ってね」と声をかけたんです。滑り終わった時に彼女が「すごく楽しかったです!」と話しかけてきてくれ、三年前に初出場した時の私と同じように、JFOへの出場をきっかけにフリーライドの魅力に引き込まれたライダーがいることを、嬉しく思いました。フリーライドには、私がこれまでやってきたスロープスタイルやハーフパイプのように、すごい技を決めたから優勝、というわかりやすさがないんです。技の難易度だけでなく、ライン選びのセンスやその選手の個性が問われる。そこが面白いところです。コースを見れば、大筋のルートは分かります。でもそれ以外に行けるところはないのか、自分だからこそ行けるオリジナルなラインがないか探すことが、私のフリーライドの大会での楽しみです。今大会は難しいコンディションでしたが、楽しく最後まで滑り切ることができたことにまずは安堵しています。そして、優勝者としてはこれからスノーボード女子のレベルをもっともっと高くするために、優勝ランのレベルをさらに上げていきたい。そんなこれからの目標も獲得できた実りある大会となりました。ありがとうございました。
PROFILE:
小野塚彩那 (AYANA ONOZUKA)新潟県南魚沼市に生まれ、2歳からスキーを始める。世代を代表する選手として活躍し、ソチオリンピックでは正式種目となったスキーハーフパイプで銅メダルを獲得。ワールドカップ2度の総合優勝、世界選手権優勝などスキーハーフパイプにおける日本の第一人者として活躍。2019年からはフリーライドを主戦場にその滑りに磨きをかけている。
PROFILE:
佐藤亜耶 (AYA SATO)新潟県津南町出身。3歳からスノーボードを始める。幼少期よりフリースタイルを中心に活動し、13歳でハーフパイプのプロ資格を取得。ハーフパイプやスロープスタイルのコンテストで注目を集める。近年はフリーライドに活動の軸足を移し、JAPAN FREERIDE OPENでは3連覇を果たした。