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これからの時代の
ランナーに求められる
サステナブルとは?

浅野美奈弥(GO GIRL/美菜屋)
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後藤太志(THE NORTH FACE)

モデルであり、ケータリング業を営む浅野美奈弥さん。自身もランナーで、湘南国際マラソンを走ります。フルマラソン完走を機に、健康でアクティブな人生を送るようになった彼女と、大会のメインスポンサー、THE NORTH FACEで企画開発担当をしながら大会運営にも携わる後藤太志が、環境に配慮したマイボトルマラソン大会について語り合います。

フルマラソン完走の成功体験が自信に。

まず、浅野さんとランニングとのかかわりは?

浅野 2017年の名古屋ウィメンズマラソンに出ることになって、その数か月前から走り始めました。それまでスポーツはどちらかというと苦手だったんですが、4時間35分で完走できたんです。そのことを、みんなが褒めてくれたことがすごく嬉しくて、ハマりました(笑)。それから、フルマラソンは6回、ハーフは3回走っています。

後藤 僕は7、8年前の霞ケ浦マラソンが初のフルマラソン。その時が一番キツかったんで、初フルマラソンでハマって、約3年でそれだけの大会に出るというのはすごいですね。

浅野 私は16歳からモデルをやっているんですが、モデルとして本当の意味で認められたことがない? という感覚がどこか払拭できなかった。毎日オーディションを受けて、受かるのは10回に1回くらい。そんな日々の中で、フルマラソンを完走した時に、「すごいね」と周りに認めてもらえたことがとにかく嬉しくて、初めての成功体験でしたね。あまりに嬉しくなっちゃって、名古屋からの帰りの新幹線で、次の大会にエントリーしてました(笑)。

後藤 浅野さんのInstagram(@minami_asano)を見ると、主宰しているランニングコミュニティ「GO GIRL」では、谷川岳の麓などでも走っているんですね。

浅野 はい。「GO GIRL」は、走ったことで人生が変わった私自身の体験を、他の女の子にも経験してほしいと想い、始めました。女性限定のコミュニティで、20代から30代前半の約50名で活動しています。月に2回練習があり、そのうち1回はフルマラソン完走を目指してトレーナーと練習しているんですが、もう1回は遠征をしたり、ヨガをやったり、ランのトレーニング以外の活動もしています。

ケータリング「美菜屋」では、どんなものを出していますか?

浅野 モデルの現場に出るお弁当って、見た目がかわいくてすごくテンションが上がるんです。ただ、物足りず、後でお腹が空いてしまい、結局お菓子をつまんでしまうんですね。そうした経験を踏まえて、食べ応えがあって、栄養バランスの整ったものを作るように心掛けています。スポーツブランドさんの展示会やイベントでのケータリングには、ドライフルーツとナッツだけで作った〝エナジーボール″というスイーツだったり、リカバリーフードなど、ランナーとしての経験を活かしたアスリート向けのレシピを作っています。

モデル、ケータリング、ランコミュニティと、多方面で活動してますよね。

浅野 20代前半は、やりたいことはいっぱいあるのに、どうやっていいのかわからないとか、自信がなくてアクションを起こせずにいました。体調を崩したこともあって、ずっとモヤモヤしていたのが、フルマラソンを完走したことがすごく自信になって、スイッチが入ったんです。フルマラソンを走れたんだから、ケータリングもできるかもしれない。この体験を多くの人に広めたいからコミュニティを作ろう。発信力をキープするためには、モデルも続けていこうって。

初のマイボトルマラソン大会への期待や疑問とは

今回の湘南国際マラソンは、ランナー一人ひとりがマイボトルやマイカップを持って走る世界で初めての大会です。どんな経緯で、〝マイボトルマラソン″というアイデアが形になっていきましたか?

後藤 THE NORTH FACEが、湘南国際マラソン規模の大会をサポートするのは初めてです。気候変動や海洋汚染など環境問題への意識が高まりつつありますが、まだまだ、環境問題は難しくてとっつきにくいイメージがあると思うんですよね。環境のことを身近に感じて、小さなアクションを一人ひとりに持ってもらうために、スポーツアパレル会社として何ができるだろうと考えた時に、マラソン大会を通じて、意識を高めてもらえるんじゃないかと考えました。それで大会側に「世界で一番環境に配慮した大会にしたい。そのために、プラスティックカップや紙コップ、ペットボトルはすべてなくしませんか」と提案したんですが、最初は、「それでは、マラソン大会が運営できません」という反応でした。当然ですよね。長い間、大量にカップやペットボトルを使うことが、どのマラソン大会でも〝当たり前″でしたから。ただ、湘南国際マラソンは、ゴミの分別を徹底して行っていたり、もともと環境意識が高い大会ですし、運営側も大会後のごみの処理に労力をとられることに対して疑問を持っておられて、「できる方法を探してみましょう」と前向きに考えてもらえたんです。

浅野 実は、公園に紙コップを置いて練習しているくらい給水ポイントが苦手で……。道にコップがいっぱい捨てられていて、踏んでケガしそうで危ないとも感じてきたので、「自分でドリンクを持って走れるといいのに」と思ってはいたんです。なので、今回の〝マイボトルマラソン″という取り組みはありがたいですし、すごく楽しみです。

全ランナーがマイボトルを持って走るのがルールですよね。

後藤 はい、全員に持っていただきます。3時間以内の人は持たなくてもいいなど、例外を作るのはちょっと違うかなと。早いランナーにこそ、マイボトルを持って走ってもらい、マイボトルマラソンの存在を示してもらいたいですね。

浅野 走る側としては、まったく不安がないわけでもないんです。マイボトルを持つこと自体はすごくいいことだと思いますが、タイムに影響は出ないのかなって。

後藤 個人的な体験ですが、僕は400mlのマイボトルを持って走った大会でベストタイムを15分更新し、3時間を切るタイムで走れました。参加者が多い大会だったので、混み合う給水場でのタイムロスをなくしたかったのと、練習時に飲んでるドリンクでパフォーマンスをアップしたかったので、マイボトルを選びました。25キロ地点で一回給水したんですが、ランナーが止まっている給水ポイントのわきをスムーズに走れて、結果的にベストが出せました。これはもちろん、すべてのランナーにあてはまることではありませんが、場合によっては、浅野さんのように給水にストレスを感じていた方のタイムが縮まることはありえると思います。

浅野 マイボトルを満タンにしてスタートして、走り切れるならば、同じように配布されるマイカップの方は持たなくても大丈夫なんですか?

後藤 大丈夫です。ただ、コースの後半で、いろんな種類のドリンクを準備する予定なので、それらを少しだけ飲みたい方は、マイボトルのドリンクと混ざらないので、マイカップを持ってきてもらうと、いいかもしれません。

浅野 一回走ってみたら、「意外とマイボトルのほうがいいね」となるかもしれないですよね。

新しい時代におけるランニングのあり方とは

浅野さんは、もともと、環境問題への意識は高かったんですか?

浅野 正直、数年前までは特に考えることもありませんでした。でも、ケータリング業をやっていると、フードロスの問題に向き合わざるを得ないんですね。皮も食べられるのに捨てるのはもったいないなって。それで、野菜の皮やきのこの石づきなど、食材を無駄なく使った「アース弁」というのを作るようになったんです。正直、私ひとりがやっただけでは、環境という大きな問題は何も変わらないと思っていたんですけど、シイタケの茎の部分をご飯といっしょに炊いたり、えのきの石づきを煮たりするレシピをInstagram(@minami_asano)を見た人から、「作ってみました」って反応があるんです。自分が発信したことで、環境にやさしいアクションを起こしてもらえることがとても嬉しいですし、きっかけさえあれば、人の意識は変わると実感します。

後藤 環境問題を身近に感じて、小さなアクションを起こすことこそが大切ですよね。でも、急に「明日からマイボトル」と言われても、難しい。湘南国際マラソン大会をマイボトルで走ったことが、常にマイボトルを持ったり、無駄なものを買わないといったきっかけになるといいなと思っています。

浅野 走ることって、自己満足と思われがちなんですけど、環境を意識して走ることで、「自分のためだけに走っているわけじゃない」って意識で走れそうですよね。これが単純なことでいて、これからはすごく大切な気がしています。

今後、ランナーがどんな社会性を持って走れるか。まずは自分自身のために、コミュニティのために、街のために、そして地球のために。たしかにそうやって少しずつ広がっていくといいですよね。身の回りで誰かが走っていると、「あ、今日私も走ろう」って伝播していくのがランナーの習性だったりしますよね(笑)。それと同じように環境意識も連鎖していくといいですね。

後藤 さまざま競技のイベントに携わるようになって、ランニングは大会でのゴミの量を考えると、他の種目に比べて環境に対する負荷も、ボランティアの方々への人的負荷も大きいと感じます。コロナ禍で、何でも不要不急かどうか、という視点でものが語られるようになったじゃないですか。そうした時代に、ランニングという競技が、環境にいいことをするアクティビティだという認識で前進していけると、持続可能なスポーツとしてこれからも人々に選ばれていくのではないかと思うんです。まさに、これからの社会に対してランナーとしてどうあるべきか、それを模索していくことは、ランニング業界には必要になってくると思いますね。

(プロフィール)
浅野美奈弥(あさの・みなみ) 学生時代からモデルを始める。〝美しい〝菜〟を食べる。〝菜〟を食べて美しくなる。″という意味を込めたケータリングサービス「美菜屋」や、女性限定のランニングコミュニティ「GO GIRL」を主宰。ランナーとしては、サブ4を目指している。

後藤太志(ごとう・たいし) ザ・ノース・フェイス事業部アパレルグループ企画担当。トレイルランニングやロードランニングの機能的なプロダクトや、スポーツクライミングのユニフォーム開発などを手掛けている。学生時代は、自転車競技を行っていたが、社会人になってからはランニングをはじめ、トレイルランニングで100マイルや定期的にマラソンにも参加している。