つまり音景は、音が描き出すランドスケープを意味する。
空の色、街の明かり、行き交う人々…都市の景色は、
刻一刻と変化して、その瞬間にしか存在しない。一方、音楽における
インプロヴィゼーション(即興演奏)は、そのときその瞬間のグルーヴが生まれる。
このプロジェクトでは、各々のアーティストが、
自分の住む都市の音をフィールドレコーディングし、その音に対して
即興で音楽を演奏し、音景を作っていく。
服をまとい、景色の音を奏でるアーティストたちとともに、
THE NORTH FACEが描く「SOUNDSCAPE」を全4回に渡ってお届けする。
12月7日(金)には、東京・青山にて本企画の完全招待制のスペシャルイベントを開催!
応募に関する詳細はこちらから。
東京から札幌、そして横浜へと舞台を移した今回の「SOUNDSCAPE」。前回のKUNIYUKI TAKAHASHIさんからバトンを受け取ったのは、クラシックの枠にとどまらず活躍の場を広げている新進気鋭のチェリスト・河内ユイコさん。18世紀後半に現在のスタイルが確立されたとする、弦楽器・チェロ。民族的なパーカッション、先鋭的なアンビエントが重なった今回の楽曲に、どのようなチェロの音色が重なっていくのか。河内さんの音楽史を通して、その音景に迫っていく。
「チェロに出会ったのは、オランダで暮らしていた9歳の時。インターナショナルスクールの先生が高さのある大きなチェロを演奏している姿を見て、“かっこいい”と思ったんです。それから20年近く演奏しているチェロの魅力は、人間の声の音域に近いという点。チェロだけでアンサンブル(=合奏)が成立するくらい音域が広いんです。今回の「SOUNDSCAPE」では、その振り幅の広さが伝わるように演奏しました。普段の演奏ではチェロという楽器が持つ優雅さは崩さずに、自分の人生の中で経験してきた音楽から影響を受けたものを落とし込むことを意識しています」
クラシックマナーを尊重しつつも、モダンな解釈を取り入れた河内さんの演奏スタイル。国内外のソウル、ファンクやエレクトロニックといったダンスミュージックなど、ジャンルの垣根なくインスパイアを受けることもあるという。
「色々な音楽を聴きますが、流行り廃りを追いかけるわけではなく、自分の根幹にある好きなものを大事にしたいんです。その一つがダンスミュージックで、それがあるからこそ曲に対してほかのチェリストとは違ったアプローチができているんだと思います。父がバッハからロックまで本当に様々なジャンルを聴いていたので、その環境で育ったことが今の私の演奏に大きく影響したと思っています」
ほかにもオランダで暮らす前に住んでいたシンガポールでは、多種多様な民族、文化と触れ合った河内さん。彼らが奏でる民族音楽と、日本古来からある民謡には音階的な繋がりも感じていると語ってくれた。そんな彼女だからこそ、青山さんのビート、KUNIYUKIさんのアンビエントにも自然と共鳴できたようだ。
「人間って古来から何かを伝えたい時に、音を使ってコミュニケーションを取ってきましたよね。だからこそ景色を取り巻く環境音から音楽を作り出すという今回のプロジェクトって、ごく自然なことだと思うんです。特に“ビート”に関しては、音楽において原始的で非常に民族的なもの。だから2人が作った音源を再生して、エスニックなビートが流れた時にはどこか嬉しくなっちゃって。さらには先鋭的なアンビエントも重なってきて、音楽に広がりが生まれてくる。そこに落とし込まれるチェロの音色として、人間味を感じるメロディやアクセントとなる演奏を意識しました。フィールドレコーディングをした横浜は、みなとみらいのようなおしゃれで近未来的な地域もあれば、港や工場などインダストリアルな一面を持っていますよね。多様性のある演奏ができるチェロだからこそ、そんな二面性を持つこの街を表現できたんだと思います」
人々が往来する華やかさを持ちつつも、開港150年以上という工業・商業においても長い歴史を持つ横浜という街。そんな横浜の港に強く吹く潮風や、激しくうねる波を長さ70cm、重さ80gほどの弓1本を使って、奏で分けている。
「今回のプロジェクトの話を聞いた時に、チェロの多様性をプレゼンテーションできたらっていう思いもあったんです。チェロに限らず弦楽器は弓を動かすスピード、左手の指の押さえ方やヴィブラート、そして弦をはじくピッツィカートと呼ばれる奏法など、挙げ始めたらキリがない程ありとあらゆる表現方法があります。そして、それらを用いて様々な表現や効果をつけることによって、幅広い表現ができるんです。そんなチェロの魅力を楽曲を通して感じてもらえたら嬉しいですね」
小気味好いビートを色付けるアンビエントに河内さんのストリングスが加わることで、より一層完成度が高まった今回の楽曲。耳を傾ければ、これまでフィールドレコーディングを行ってきた都市や自然の様子が“音景”として頭の中に浮かび上がる。そんな楽曲制作において大役を担った河内さんが、日々の洋服選びにおいて欠かせないルールを教えてくれた。
「ライブや演奏会などでは、やっぱり演奏家としてクラシックマナーを守ったドレスやワンピースといった服装は欠かせないんです。その分、普段着る洋服に求めるものは、楽で可愛くておしゃれなもの。今回着用しているビッグシルエットのセーターとパンツはセットアップになっているので、シンプルだけどおしゃれに見えるのがいいですよね。それぞれを単体で着用できるのも嬉しいです。見た目以外に洋服に求めるものは、機能性。自分の身長くらいある大きなチェロを背負って移動しているんですが、それでもかなりの重さがあって。そんな時に今回のような通気性やストレッチの効いた洋服を着ていると、演奏前の負担にならないから助かるんです。ダウンコートも薄くて軽量なのに、とっても暖かくて。透湿性もあるので、屋内外で寒暖差のある都心部での移動が多い私には嬉しいですね」
チェロの重さは、約7kgと楽器としては大きなもの。河内さんにとって本番前のストレスは極力避けたいのところ。洋服における機能性はアスリートだけではなく、アーティストにとっても高いパフォーマンスを発揮するために欠かせないようだ。
「ほかにも普段から洋服に関してはギャップを楽しんでいるような気がします。普段着ではインパクトのある柄もの同士を合わせることもあれば、反対に今回のようなシンプルな無地のアイテムだけで楽しむことも。さらにはチェリストとしてスイッチの入るドレッシーな舞台衣装、純粋におしゃれを楽しんでいる普段着。そこにギャップがあることで演奏にもいい影響が生まれています」
河内ユイコ / YUIKO KAWAUCHI
東京音楽大学付属高等学校を経て、同大学をチェロ首席で卒業するなど、20年近いキャリアを持つチェリストとして活動。その一方で、ファッション雑誌にもモデルとして起用される一面も。 作曲家でありピアニスト・後藤 望友とのユニットRetrospectiveとしても活躍。電子音も織り交ぜた前衛的かつポップな響きを残す、ニュージャンルのオリジナル曲を次々と発表し、クラシックに限らないチェロの可能性を発信している。
完全招待制
スペシャルイベント開催!
開催日時 12月7日(金)OPEN18:00〜CLOSE 21:30 予定
開催場所 WALL&WALL OMOTESANDO (東京都港区南青山3-18-19フェスタ表参道ビルB1)
入場料金 無料
参加人数 200名(抽選にて決定)
出演者 青山翔太郎、KUNIYUKI TAKAHASHI、河内ユイコ (SOUNDSCAPE出演順・敬称略)