ジェンダー問題を抱えるスポーツは“投資を受けられない”?!
──近年になって、スポーツとジェンダーに関するニュースをよく見かけるようになりました。例えば、女子サッカー日本代表としてワールドカップ優勝を経験したこともある永里優季選手が男子チームに参加したり、悪いニュースだと女子選手への盗撮の問題なども取り沙汰されています。どうしてこうした機運が社会的に高まっているのでしょうか?
大崎 ひとつは「SDGs(持続可能な開発目標)」に取り組む企業が増えたことがあげられます。なかでも特に重要といわれているのが、ジェンダー問題なんです。その背景には、ESG投資(環境・社会・ガバナンスに配慮した、長期的視点に基づく投資)の急速な拡大とそれを推進する機関投資家の存在があります。ESG投資の柱の一つにジェンダー平等があり、管理職や役員の女性比率や、セクシュアルハラスメント対応、最近は男女間の賃金格差などもチェックされ始めているんですね。
──なるほど。選手の言動にスポットが当たりがちですが、組織や大会を運営する企業としても、事業を継続していくためにジェンダーギャップを見過ごせなくなってきているというわけですね。
大崎 例えばアメリカでは、女子サッカーのナショナルチームが訴訟を起こしました。自分たちの報酬が男子に比べて非常に低いと。そこで論点になったのが、成果ベースで見るか、商業ベースで見るか。成果ベースで見れば、アメリカの女子サッカーは世界一を獲得したことがある。でも、商業ベースで見ると、観客動員数や放映料は男子サッカーの方が多い。どういう価値基準で判断するかによって評価は変わってくるわけです。
小野塚 思い当たることがいろいろありますね。ただ、少しずつ改善されている動きも感じています。例えば、私の活動の場であるウィンタースポーツの世界では、これまでスキーとスノーボードで賞金額が違ったし、男女でも差がありました。それが去年から同額になった大会もあって。私はすごいなって思ったんです。同じリスクを背負って競技に取り組んでいるのに、どうしてこんなに違うんだろうと考えていたので。
大崎 あとは男女比率の問題も長い間放置されていました。なかでも目が及ばないのが、意思決定権を持っている指導者側です。男女は身体的に違うので、男性のために編み出されたトレーニングを女性がそのままやってしまうと、負荷がかかりすぎて無月経や骨粗相症になってしまう可能性があります。ほかにはセクハラが軽視され、見過ごされたりと、競技団体の理事に女性が少ないと起きる確率が高まってしまうんです。
小野塚 指導者に男性が多いという話も本当にそうで。とくに私が取り組んでいたスキーハーフパイプという競技は、日本でまだ浸透していないのでプレイヤーが育っていないんです。だから、女性の指導者もほとんどいなくて。スタッフに女性の栄養士さんがいるくらい。でも、女性にしかわからないことは絶対にあるので、そのバランスを取らないといけないんですよね。