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子どもの未来にできること
#LINA OHASHI_
MIKA NISHINO_
PROFILE
大橋リナ / LINA OHASHI
モデル
コロンビア出身のモデル。2017年に第一子、2019年に第二子を出産し、都心から海と山に囲まれた鎌倉に移住。次世代のことを考え、環境に配慮したさまざまな工夫をライフスタイルに取り入れた生活を送る。
PROFILE
西野美加 / MIKA NISHINO
ザ・ノース・フェイス ライフスタイルグループ マネージャー
ザ・ノース・フェイスを展開する株式会社ゴールドウインにて、2015年よりザ・ノース・フェイスのアパレル企画・MDを担当。また、同ブランドにおいて女性市場へ認知を広げるプロジェクトも担当している。
PROFILE
細川美和子 / MIWAKO HOSOKAWA
コピーライター/クリエイティブディレクター
コピーライター/クリエイティブディレクターとして、広告のフィールドで活躍。「#SHEMOVESMOUNTAINS」には、企画段階から参画しキャンペーンコピーを担当。これまでカンヌゴールド、ACCグランプリをはじめ数々の広告賞を受賞。

2019年冬、「#SHEMOVESMOUNTAINS」キャンペーンの一環として東京・原宿で開催された「#SHEMOVESMOUNTAINS EXHIBITION」。本エキシビジョンに併せて、キャンペーンに登場した方々を含め、さまざまな分野で挑戦を続ける8組16名が登壇したトークショーが開催された。モデル・大橋リナと、THE NORTH FACEでプロダクト開発を担う西野美加が語る「子どもの未来にできること」。ファシリテーターを務めるのは、本キャンペーンのステートメントを手がけたコピーライター・細川美和子。

細川美和子(以下細川) 先日、「#SHEMOVESMOUNTAINS」キャンペーン内でインタビューさせていただいた際、デザイナーのUlalaさんに大きな影響を受けたというお話がありました。彼女からどのような刺激を受けたのでしょう。

大橋リナ(以下大橋) Ulalaさんは、フェアトレードをコンセプトとした「See You Yesterday」というブランドを手掛けられていて、その他にも環境問題について自ら発信しています。私自身、出産を機にそういった問題に興味を抱くようになったのですが、環境や労働問題における彼女の姿勢にとても刺激を受けました。

細川 出会ったのはいつ頃ですか?

大橋 割と最近なんです。私の夫の友人の友人で。やりたいことがはっきりしていて、身近なことだけでなく、世界で起きていることに目を向けているのがすごいなと。私自身、子どもができて、なるべく豊かな人生を歩ませてあげたいと思ったときに、彼らが成長していった先に待っている地球ってどうなっているんだろうと疑問を抱いたんです。出産を機に、自分の子どもから見た未来という視点ができて、サスティナビリティ含め環境問題について調べるようになりました。それでいうと、ザ・ノース・フェイスには衣服の回収プログラムがあると伺いました。その取り組みについて詳しく聞きたいです。

西野美加(以下西野) 私は、ザ・ノース・フェイスの中でプロダクトの開発や設計を担っているので、今日は皆さんの知らないようなもの作りの側面について少しお話しできたらいいなと思っています。資源の循環という面で言えば、1960年代に生まれた「キャンプシエラシリーズ」というアウターがあるんですが、この製品はすべてリサイクル可能な素材を使っています。ダウンではなくポリエステルの中綿を採用しているのですが、例えば、ダウンは雨に弱い部分があって、濡れると身体を冷やしてしまう性質があるんですが、一方で化繊綿はその影響を受けにくいんです。かつ、リユースの観点から見ても使いやすい素材でもある。サスティナブルであることも重要ですが、アウトドアウエアとして有用な機能を持ちながら、環境にも配慮するという点はすごく気をつけていますね。回収プログラムは、着なくなった後、店頭の回収ボックスに入れてもらえば、次のプロダクトを生み出す資源として再利用される仕組みになっています。環境のことを考えると、もうモノはいらないっていう極論になってしまいがちですが、ひとつ買う代わりに、着なくなったウエアを循環させることでバランスをとっていくようなやり方です。

大橋 お話を聞くとすごく納得できる部分がありますね。ブランドの方々も環境問題に真摯に向き合おうとしているなかで、買う側の私たちも「どんなプロダクトなのか」ということを意識して選ぶことが重要になりますよね。消費者側もブランドの考えを理解した上で選択する時代だと思うので、私たちの意識も変わっていく必要がある。最近は、そんなことを考えながら買い物するようになりました。

細川 ブランドや企業の背景を調べたり。

大橋 そうですね。ものづくりの背景や環境への考え方を知ることで、モノに対しても愛着が湧くことがあって。今までは知らずに手にしていたものでも、実は環境に悪影響を与える生産方法がとられていたりして、何も知らず、そういう背景のものを自ら進んで選んでいるのは悲しいことだなって。

西野 基本的に、「サスティナビリティ」って言葉がひとり歩きして流行のように捉えられている部分もあると思うんですが、これからはそれが当たり前の世界になっていくと思うんです。なので、商品も単にサスティナビリティに配慮しているだけじゃなく、機能的なパフォーマンスは向上しながら、それが実はサスティナビリティ的な視点から見ても優れていることが重要なのかなと。「ハイパフォーマンス、ロウフットプリント」という言葉が腑に落ちますね。そうなったとき、この機能性は何のためにあるのか、環境への意識は具体的に何を指すのか、そもそも何のために作るのかというような理由を細かく考えていくことが大切で、今、そういう考えのもとに開発をしています。

細川 今どんなことに取り組んでいるのか、言える範囲で教えていただけますか。

西野 一例ですが、ペットボトルリサイクルの素材からなるポリエステルは、今、マイクロプラスチックが問題視されています。例えば、自然分解しないマイクロプラスチックが海上に溜まって、それを魚が食べることで生態系が変わってしまうことがある。そういった事態を変えていきたいと思って、生分解するポリエステルの開発に取り組んでいるところです。

細川 素材開発ももちろんですが、デザイン面でもロングライフで愛用できるものづくりを意識していると感じます。

大橋 そうですよね。マタニティラインのオーバーオールで感心したのが、ウエアの一部を取り外してベビーカーに取り付けられるようになっていたり、抱っこひもに子どもを入れている状態でもジップをすべて閉じれるような工夫がありながら、普通にファッションとして着ることができるデザインになっていたことです。私、海で遊ぶことが多いんですけど、風が強いときにも子どもをしっかり守ってくれて便利ですね。

西野 妊娠中だけしか着れないウエアは作りたくなくて。妊娠中も、出産後も使いやすくて普段着としても違和感のないデザインで作っています。一過性のもので終わらないものづくりは、いつも頭にありますね。大橋さんは、出産を機に、東京から鎌倉に引っ越されたと聞きました。

大橋 はい。海の近くに引っ越しました。それまでは全く気がつかなかったことなんですが、夏になると海のゴミがすごいんですよ。漂流したゴミを実際に自分の目で見ると、これがどんどん溜まってしまったらどうなっちゃうんだろうと率直に思って。今ですら、汚れている海が、自分の子供や孫の世代になったときにどういう姿になっているかを想像したら、今自分たちがもっと考えていかなければいけないと。

西野 やれること、やらなければいけないこと。いろいろありますよね。

大橋 そうですね。調べれば調べるほど、いろいろなことが繋がったり、逆に矛盾を知ったり。例えば、服を寄付するという行為も、フィリピンなど一部の国では、寄付が集まりすぎた結果、逆に焼却処分するような事態が起きていたり……。だから、ただやみくもに寄付すれば、誰かの役に立っているということでもなかったりする。自分の行為のその先までを理解した上で行動することが大切ですよね。今は誤った情報もたくさんあって、だからこそ、その情報の部分からしっかりと見ていく、自分自身で判断していく必要がありますよね。

細川 そうですね。寄付の話もそうですが、ご自身で実際の現場を見たいとおっしゃっていましたね。

大橋 はい。先ほどの海の話もそうですが、実際に自分の目で見て感じた方が、行動を起こそうって思えるんです。メディアで見たり、人から聞いたことと、自分がその現場を目の当たりにして感じることって全然違うと思うんですよ。たまにコロンビアに帰ることがあるんですが、コロンビアは貧困の差が激しくて、ストリートチルドレンがたくさんいる。日本で暮らしていると出会うことのない状況がたくさんあって、そういう体験が自分の中にすごく強く残っています。世界には、たくさんの国と環境があって、でもひとつの地球として繋がっている訳で。それは環境問題もそうですよね。だから、知りたいと思ったことは、なるべくその現場に足を運んで、自分の目で確かめていきたい。もう少し大きくなったら、子どもも一緒に、と思っています。

細川 子どもにも、いろんな体験をさせたいという想いがあるんですね。今、大橋さんが日々の生活のなかで心がけていることはありますか。

大橋 すごく小さなことですが、洗剤を環境に配慮したものに変えたり、消耗品はなるべく詰め替えにしたり、マイバッグ、マイボトル、マイストローを持ったり。お皿を洗うにしても、なるべく水で綺麗に洗い流すことで洗剤を少量で済ませたり。あと、鎌倉ってゴミの分別がしっかりしている地域なんです。最初は覚えるのが大変だったんですけど、そういった日々の細かな積み重ねを続けていくことですかね。

細川 ご夫婦でちゃんと取り組まれている。

大橋 そうですね。私のほうがちょっとうるさいかも。でも夫も意識するようになって、それを私たちが自然に続けていけたら、きっと子どもは見ていますよね。

細川 お話を聞いていると、無理のない範囲で、楽しみながら環境や未来につながる行動を意識されていますよね。大橋さんは、未来へ届けたいことってありますか。

大橋 今、大きなことを言うのは難しいけれど、少しでも、まわりの人が環境や子どもたちに残す未来について考えるきっかけを与えられる人になれたら嬉しいなという思いはあります。子どもを産んだからには、責任がある。子どもたちを大事にするのに、これからの環境のことを考えないのって変ですよね。私たちが環境に対して無責任な行動を続けていたら、自分の子どもに「未来はないよ」って言っているようなもの。この先、私に何ができるのか学んで行動し続けたいですね。