東海自然歩道スルーハイク記

東海自然歩道スルーハイク記

知る東海自然歩道スルーハイク

#01

全線
調査ハイクで
見えてきた
東海自然歩道の
ポテンシャル

50年前に誕生した東海自然歩道の
現状と魅力を知るために、
2023年に東京から大阪までのルートを
つないで調査ハイクした
トレイルブレイズハイキング研究所の
長谷川晋さん、鈴木栄治さん、
丹生茂義さんという
長距離ハイカーたちの目には、
現在の東海自然歩道は
どのように映ったのだろうか?

長谷川晋(以下:長谷川) 東海自然歩道の現状を知って紐解くために、全線を3つの班に分けて調査を行ったわけですけれど、実際にトレイルが通っていて歩けるのか? 通れない場合は迂回路が設定されているか? そして標識やトイレ、補給スポットの有無などをチェックポイントにしつつ、歩いて楽しいと感じられるのか? という点も大切にしました。各班ともに25日前後という行程でしたね。

実際に歩いてみてどんな印象でしたか? 

鈴木栄治 すずき・えいじ/歩いて旅するのが好き。2016年アパラチアン・トレイルを夫婦で全線踏破。信越トレイルクラブで働く。

鈴木栄治(以下:鈴木) 1班は東の起点である高尾山口から愛知県の三河大野まで調査をしました。高尾山周辺は東海自然歩道の中でも一番人が多いエリアだと思います。でも、高尾山頂を抜けるとムードが変わって自然の中を歩いていくことができますね。このルートには丹沢エリアが含まれていて、ここの山歩きが東海自然歩道の中で一番キツイと言われていますけど歩きがいがあって楽しいと思います。

長谷川 そして、富士山エリアですよね。

鈴木 東海自然歩道ルート上で唯一の国立公園を抜けていきます。富士五湖、樹海、高原というように富士山を感じながら楽しいルートが続いていきます。そして静岡の中部を越えていくと茶畑と里山の連続になるんです。山と集落の人の営みのコントラストがとてもよかったです。ただ、静岡市のあたりで数年前の台風の影響で道が崩れていて大きく迂回の必要が出る箇所がありましたね。本線に戻ることはできますけどね。その後、静岡西部から愛知のルートは昔の街道跡がルートになっていて、緩やかな低山と、林道と舗装路がつづく人里エリアを歩くという感じですね。

トレイルの開通状況などをチェックしながら歩き続ける。

長谷川 全体としてはどんな印象でしたか?

鈴木 東海自然歩道のモデルともなって、僕自身もスルーハイクした経験があるアパラチアン・トレイルとの類似点でもある自然と人里のコントラストが豊かで、迂回路はありましたが、楽しく歩くことができましたね。

長谷川晋 はせがわ・しん/トレイルブレイズハイキング研究所所長。
著書に『LONG DISTANCE HIKING(TRAILS)がある。

長谷川 2班は愛知、岐阜、三重を担当したんですど、愛知エリアは全体的に道標やトイレが充実していたんです。東海自然歩道の開通時に地元の東海銀行がお金を出してたくさん立てたらしいんですよね。そして、東海自然歩道用に歩道橋が造られていたりと力の入れようをすごく感じました。でもね、2班のルートは開始ししてからいきなりきつめのアップダウンがあってなかなか距離を進めなくてハードでしたね。東海自然歩道の中でも大きな山場の一つだと思います。山に上がった時に見ることができる山の連なりは見事ではありますけれど、ハイキングビギナーには厳しいかもしれません。それと、東海自然歩道のルート設定の特徴が見えたんですけど、下町に出そうなんだけどまた山のほうにルートをとるんですよ。そういうセクションが多い印象です。山と町とがつながる感じがロングトレイルの良さでもあるのに、それを体感させずに山歩きをさせている印象はありましたね。

丹生茂義(以下:丹生) 町や自然の雰囲気はどうでしたか?

長谷川 木曽川を越えるとガラリと印象が変わりましたね。県が変わるというより藩が変わるってすごい大きいなと感じました。街のつくりが変わるんです。道標のデザインも変わるから、最初は道標がないぞ!って焦りましたね(笑)。県境にすこしルートが途切れるところはあるのですが、とても歩きがいのあるルートでした。

丹生茂義 にゅう・しげよし/アメリカ三大トレイル(AT、CDT、PCT)全てを踏破したトリプルクラウナー。

丹生 3班は三重をスタートして西の起点である大阪までのルートですね。三重はずっと低山歩きを繰り返す感じで、一言で言えば、ワイルドっていうか、すごい好きで面白いですね。ルート上には無人直売所みたいなのがたくさんありました。柿の季節だったので、柿を買って食べながら歩いたりとかっていうのが楽しかったですね。

長谷川 ルート上にそういう楽しみがあるのもいいですよね。旬の味覚も味わえるなんて。

実施された調査ハイクは各班25日前後の行程だった。

丹生 京都に入ると、宇治のあたりでお茶畑が広がってきて日本らしい景色の中を歩きました。一旦京都に入ってまた滋賀の方に行くんですけど、滋賀は距離で言えば短いのですがすごくよかったですね。山歩きもすごい楽しかったし。琵琶湖の雄大な景色と比叡山。山歩きも楽しかったですけど、歴史や文化にもに触れることができるエリアですね。近畿エリアで感じたことは町と山の近さですね。奈良、京都、大阪のルート上に現れる町が、規模で考えたらすごく大きいのに、ちょっと外れたらすぐに山があるという環境なんです。その印象がすごく大きいですね。街から山へのアクセスがいいから、セクションで歩きたい人にもとても向いているエリアだと思います。累積標高は結構あるんですけどキツイっていう印象はありませんでした。そして大阪・箕面に入るわけですよね。京都ではなく大阪に西の起点を置いたというのが、当時の背景ですよね。都市が無計画に広がっていってたのを止めるっていう役割が東海自然歩道にありましたからね。

東京から大阪までのルートを調査ハイクしたことで見えてきことはありますか?

長谷川 何よりもまず、50年間管理していただいてありがとうございます!に尽きるかなと思うんです。東海自然歩道をつくっていなかったら太平洋側の都市化はどうなっていたんでしょうね。確かにいま見てみるとってところはありますけれど、50年前によしつくるぞ!って言ってつくった意志、思いの強さを感じられてとてもいいですね。今は今でしか楽しめない楽しみ方がある。東海自然歩道が持ってるポテンシャルの割に、歩いてる人が少ないと正直に思います。「東海自然歩道って大変なセクションもあるけれど、ワイルドで楽しいらしいよ!」と噂になってくれたらいいですね。課題はいくつもあるのですが、それらの課題が整理されたら歩く人がもっと増えるんじゃないかと思います。ものすごくポテンシャルが高いロングトレイルであることは間違いありません。