知るロング・ディスタンス・ハイキングの世界への誘い
ロング・ディスタンス・ハイキングは
歩く距離が長い分だけ物語がある。
ロング・ディスタンス・ハイキングの世界へと
誘ってくれる本をハイカーたちが
セレクション。
アパラチアン・トレイル3500キロを歩く
ロング・ディスタンス・ハイキングの
本質だと思うんです。
東海自然歩道はアメリカのアパラチアン・トレイルを手本にしていますし、まずは『メインの森をめざして』です。この本は自然描写よりは筆者の内面描写が多いのが大きな特徴ですね。ロング・ディスタンス・ハイキングは自然体験や文化体験を深めていくことで自己を探求するという面がありますし、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて手本となるアメリカのアウトドアカルチャーって、都市生活のカウンターとして起きているものがほとんどなので、カウンターアクションとして考えると、必然的に内面の描写になるのでしょう。私小説的にどんどん自分との対話になっていくのですが、それこそがロング・ディスタンス・ハイキングの本質だと思うんです。
ビート文学があるんでしょうね。
次はジャック・ケルアックの『禅ヒッピー』です。アメリカにおけるロング・ディスタンス・ハイキングの世界への入り方って、登山よりも旅の流れで入る人の方が多いんです。この「旅」という文脈を掘り下げた時にヒッピーカルチャー、そしてその根にあるビートカルチャーにたどり着くと思うんです。ビートは経済活動や都市生活に対するカウンターアクションで、1920年代生まれの作家たちの文学運動ですが、彼らは旅を楽しみ、その過程で山にも登り、深い自然体験をする中で、すごく手垢がついた言葉で言えば、自分探しをした世代だと思うんです。そう考えると、アメリカのロングトレイル文化の基礎として、ビート文学があるんでしょうね。
新たな視点を得るためには最適な本です。
ロング・ディスタンス・ハイキングの醍醐味に、ずっと自然の中を歩くのではなく、人の営みに触れるという点があり、これが登山と大きく異なる点です。東海自然歩道でも歩く速度で観察していれば、東京から大阪へと異なる土地の民俗に触れながら、まだまだ発見できるものがあると思います。歩きながら土地を見る新たな視点を得るためには最適な本です。東海自然歩道沿いにも必ず人の営みがありますが、土地固有の民俗文化にフォーカスして、異文化として受容できるセンサーが自分に備わっていたら、人里に出るたびにラッキーですよね。舗装路を歩くことや街を通ることがネガティブな事象ではなくて、むしろ旅を深めていくポジティブな事象になってきます。