Ayako SuwaARTIST/FOOD CREATION
Wearing L/S Flower Logo Onepiece
循環する
ギフトエコノミーの世界
金沢21世紀美術館の「好奇心のあじわい 好奇心のミュージアム」や資生堂ギャラリーの「記憶の珍味 諏訪綾子展」。欲望や好奇心、進化をテーマに“あじわうこと”の可能性を拡張するアーティストの諏訪綾子さん。「ここでの生活をきっかけに、私の中で大きな変化が起きています」という山梨県の道志村にあるアトリエと、隣接する養老の森を訪ねた。
- AYAKO SUWA
- AS
- THE NORTH FACE
- TNF
(TNF)
わざわざこの道志村にアトリエを構えた理由を教えてください。
(AS)
東京と道志村の2拠点で活動するようになったのは2019年からです。もともとは都内で移転先を探していたのですが、なかなかいい物件に巡り合うことができず、ある時「森の中がいいかも」というひらめきがあったんです。石川県の自然が豊かな場所で生まれ育ったこともありましたし、自分の中にある“野性”を試したいと思ったからです。
(TNF)
諏訪さんが言う“野性”というのは?
(AS)
野性というのは、人間がもっと動物的だったころの、本能的に感じる直感や生きる力のことを意味しています。当初は頻繁に東京と山梨を往復する予定でしたが、パンデミック以降すっかりここが生活の拠点になっています。
(TNF)
アトリエに到着するまで住所がなさそうな道のりを走ってきましたが、生活する上で困ったことはありませんか?
(AS)
困ってばかりですよ。ここでの生活は自然に振り回されています。天気も気まぐれですし。予測していなかったことばかりで予定通りにいかない。そうなると予感に頼るしかないんです。そうすると、「これから雨が降るかも」「ここからは危なそう」といった直感が鍛えられるんです。
(TNF)
インフラが設備され計画的に物事が動く東京の生活とはまったくことなりますね。
(AS)
森の中では、自然と向きあわざるを得ません。それこそ大変なことばかりですが同時に、ものすごく贅沢で自由なことだとも思います。
(TNF)
では、こちらの生活にも慣れましたか?
(AS)
まだまだ、というか、たぶんずっと自力では生きていけないと思います。アトリエを構えたばかりの時、畑の墾地に大きな石があったんです。自分たちでは到底動かせない大きな石でした。それを知った地元の方々が、私たちが山仕事を手伝う代わりにその石を重機で動かしてくださったんです。東京であれば、仕事を委託したりサービスを依頼したりしてその代金を支払う、となると思うのですが、大して戦力にもならない私の山仕事を引き換えに、力を貸してくださった。そのお礼に東京から持ってきていたワインを差し上げると、今度はお返しに新鮮な鹿肉をくださったんです。お礼を持っていったはずなのに、またいただいてしまった……。そうやって終わらないギフトと気持ちの循環から、村の方にたくさんのことを学びました。ひとりではできないことも、感謝することや思いやりが生み出すとてつもない可能性を体感しています。
物々交換する
ように地元の人と
の交流するなかで
身につけた知恵
諏訪綾子
(TNF)
「何かいいことをすればいいことがきっと返ってくる」と、おばあちゃんから教わったのを思い出します。この利他的なマインドが今は重要な気がしています。実際に今回諏訪さんに着ていただいているザ・ノース・フェイスのアイテムも地球に対して もっと人が“ケア”できることありますよね、そのケアをすればもっと美味しいものが食べられるかも、もっと楽しいアクティビティができるかもしれないですよ、というメッセージが込められています。
(AS)
そうですね。人の気持ちの循環はここでの生活で気づいた大きなことです。ここでは、薪の割り方や山菜の食べ方、山水の引き方や養蜂の知恵など、まさに人間の野性ともいえる、自然と共に生きる智恵が生活に根付いています。そしてそれがお金ではない価値によって循環し共有されている。村の方たちとの交流するなかで受け取るギフトがたくさんあるんです。与え合い、分かち合うことで循環する、まさに「ギフトエコノミー」の世界ですよね。そんな中で、私はなにを返礼して循環の一員になれるのか、ものすごく考えさせられました。
(TNF)
ここ道志村での暮らしは、とても理にかなっているように思います。古来のライフスタイルなんでしょうが未来的です。昨年末に私設美術館のKAMU kanazawaで、「TALISMAN IN THE WOODS」という新作を発表されていました。タリスマンも、またその“循環”を象徴するものであると。
(AS)
森の中には間伐された木の枝葉がたくさん落ちています。東京から来た私の目にはとても美しく映るのですが、山仕事をする人にとっては邪魔なもので、廃棄物でもあるんですね。私はそれを“もったいない”と感じ、杉や檜の枝葉をアトリエに持ち帰り、魔除けやお守りでもあるタリスマンを作ることにしました。ちょうど緊急事態宣言の時に、東京の友人にこのタリスマンを贈りだしたんです。するとその返礼に、森にないものが東京から届く。それをまた地元の人たちにお裾分けする。お金は全然使っていないにもかかわらず、東京という都市と森の間にいい循環が生まれたんですね。
(TNF)
今こうしてストーブやヒーターの前ではなく、捨てられるはずの葉っぱを着火剤に、間伐した丸太を薪にした焚き火をしながらお話を聞いていると、人の優しさの循環だけではなく、自然の循環の中にいることを感じます。
(AS)
森がひとつの生命体としたら私たちはその一部であるということ。今の時期道志村はかなり冷え込みますが、このアトリエではエアコンやヒーターを使うことなく、薪ストーブを使って生活しています。部屋を暖めるのも、コーヒーを淹れるのも、いただいた新鮮なお肉を焼くのも……。またこのアトリエの近くには水源地があって、そこから直接引いてきた山水で生活しています。道志川に流れる水は、横浜市に住む各家庭に水道水として供給されていくんです。このようにして当たり前にあることには、源となるものがある。ここで生活をしていると気付かされることです。どこにいても自然の恩恵を受けて私たちは生活しているのだと。
諏訪綾子さんについてもっと知りたい場合は@ayakosuwa_foodcreation へ