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CONTENTS NO.01 ABOUT SPORT CLIMBING
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01

ABOUT SPORT CLIMBING
Naoto Hakamada
2024.07.02

国際審判員の羽鎌田直人さんが案内する
3種目の違いと、数字で捉えるスポーツクライミング

認知度も社会的価値も高まる
スポーツクライミング

道具を使わず岩を登る「フリークライミング」に対して、人工壁を対象として、純粋に競技性を強調した「スポーツクライミング」。その始まりは、1950年頃の旧ソ連とされ、最初の国際大会は1989年のフランスで開催された。2021年に東京で開催された世界的なスポーツ大会で正式種目に採用され、一般的な知名度が上がった。
「これを機に、アスリートがスポーツとして取り組む〝スポーツクライミング〟というカテゴリーが広く認知され、社会的価値も高まりました」(羽鎌田直人さん 国際スポーツクライミング連盟(IFSC)国際審判員)

スピードが単独種目に
ボルダー&リードは2種目複合で競う

スポーツクライミングには、速度を競う「スピード」、設定されたルート(課題)の登れた数を競う「ボルダー」、登れた高さを競う「リード」の3種目がある。
「それぞれに特徴や面白さがありますが、見た目で勝ち負けがわかりやすいのは、純粋に速さを求める『スピード』でしょう。2人の選手が15mもの高い壁を駆け上がっていく様はとてもインパクトがあります。『ボルダー』は瞬発力が求められ、ホールド(突起物)からホールドに移る時のダイナミックな動きが魅力です。『リード』は持久系の種目と言われ、競技が始まる直前には、ルートを確認するオブザベーションを行います。この時、他の選手と話すことができ、ライバル同士が相談するという、他の競技ではなかなか見られない光景が繰り広げられます。このオブザベーションは『ボルダー』でも行われます。そもそも、地面から上へ垂直方向の動きで競うのも、スポーツクライミングならではの面白さです」

2021年の世界的な大会では、それら3種目すべてを行う「複合」で争われた。現在は「スピード」が単独種目と、「ボルダー」と「リード」の「2種目複合」がある。
「選手にとっては、より集中してトレーニングができるので、パフォーマンスアップが期待できます。これはあくまで個人的な考えですが、ゆくゆくは体操のように3種目それぞれが独立した上で、個人総合として3種目複合があってもいいのではないかと感じています」

採点方式にも変更がある。「スピード」は、予選も決勝も2人の選手が対戦し、勝ち抜き方式で競う。「2種目複合」は、ボルダーとリードそれぞれ最高100点、合計200点満点で争われる。それでは、知っていれば観戦をより楽しめる、スポーツクライミングの〝数字〟を紹介していこう。

BOULDER いくつ課題をクリアできるかルート(課題)の登れた数を競う

BOULDER

いくつ課題をクリアできるか。
ルート(課題)の登れた数を競う
5m
【ウォールの高さ】
ウォールの高さは5m以下と規定されている。そこに、スタートからゴールまで最大12手程度のホールドを使用するルートが複数設定されており、そのルートを制限時間内で何本登れたかを競う。最上部にあるトップホールドを両手で触り、安定した姿勢をとった時点で完登となる。
2 minutes
【オブザベーション】
競技が始まる直前に、全員で一斉に、すべてのルート対して2分間オブザベーションを行い、ルートの攻略法を考える。競技順が後ろの選手は記憶が薄れそうで不利に思えるが、トップ選手は、一度オブザベーションしたルートは忘れないと言われている。また、ライバルにも関わらず、選手同士がルートを相談し合う光景は、クライミングならではだ。
4 minutes
【1課題の制限時間】
1ルートにつき制限時間は4分間。ただし、予選と準決勝は5分間。ボルダーは制限時間内であれば、途中で落下しても何度でもトライできるので、より大胆な技が繰り広げられるのも観戦の大きな見どころだ。1度のトライで完登することを“一撃”と呼ぶ。完登数、ゾーン獲得数、そして完登とゾーン獲得に要したトライ数(アテンプト数)によって、順位が決定される。
LEAD どこまで高く登れるか。登れた高さを競う一発勝負の長距離走

LEAD

どこまで高く登れるか。
登れた高さを競う一発勝負の長距離走
12m
【ウォールの高さ】
リードクライミングのウォールは、「少なくとも12m以上の高さを持つ人工壁」と決められている。その間に最大60手程度にもなるルートが設定され、どこの高さまで登れたか=“到達高度”を競う。最上部の終了点にロープをかけたら完登=“TOP”となる。途中で落下した場合は、到達した高さ(ホールド数)が記録される。3種目中最も長い距離を登るための持久力と、いかに効率よく登っていくのかの戦略性が問われる。
6 minutes
【制限時間】
1本のルートにかけられる時間は6分間。2017年のIFSCルール改正で、準決勝と決勝が8分間から短縮され、予選からすべて6分間に統一された。制限時間内に、パンパンにはった腕や、ふんばりがきかなくなってきた脚を休ませて回復させるレストを、どのタイミングで入れるかも勝負の分かれ目となる。
1 try
【トライできる回数】
1本のルートで、トライできる回数は1度きり。制限時間内に何度でもトライできるボルダーに対し、落ちたら終わりの“一発勝負”なので非常にスリリングだ。トライ前には、実際に、もしくはビデオによるデモンストレーションでルートを確認できる。準決勝と決勝は、進出した選手全員で予めコースを確認するオブザベーションを行う。
SPEED 誰が一番速く登れるか。速度を競うクライミングの短距離走

SPEED

誰が一番速く登れるか。
速度を競うクライミングの短距離走
15m
【ウォールの高さ/ビル5階に相当】
ウォールの国際規格は高さ15m。幅は6m、傾斜は95度に前傾している。15mという高さは、日本だとビルの5階に相当し、目の前にするとかなりの威圧感がある。ウォールには同条件の2つのレーンが用意され、2人の選手が同時に、ほぼ呼吸せず6~8秒ほどで一気に駆け上がる。
4.79 seconds
【男子世界記録】
種目名通り、ウォールをどれだけ速く登れるか、シンプルにその時間を競うスピード。男子の世界記録は、2024年4月のW杯第1戦で、アメリカのサミュエル・ワトソン選手が、18歳という若さでマークした4秒79。日本記録は、大政涼選手の5秒07。女子の世界記録はポーランドのアレクサンドラ・ミロスラフが持つ6秒24。日本女子記録は、林かりん選手の7秒37。(2024年7月2日現在)
20 holds & 11 footholds
ボルダーやリードは、ルートセッターと呼ばれる専門家がルートをその都度設定するが、スピードの場合、国際スポーツクライミング連盟(IFSC)によって、ホールドは20個、フットホールド11個で構成された共通ルートが決められている。そのルートは、フランス人クライマーのジャッキー・ゴドフがデザインしたものが基準。

ART WORK BY Ayame Ono
TEXT BY Sakiko Koizumi
EDIT BY Kota Miguro