THE NORTH FACE®
CONTENTS NO.02 HOW TO SPECTATE SPORT CLIMBING
CONTENTS NO.
02

HOW TO SPECTATE SPORT CLIMBING
Gen Hirashima
2024.07.02

国際ルートセッターの平嶋元さんに聞いた
課題のトレンドやスタイル、競技の見どころ

2021年の世界大会から世界的にも注目度があがったスポーツクライミング。世界各地で開催されているワールドカップも盛り上がりを見せている。ただ、どんなスポーツでも言えることだが、観る側にも知識があったほうがより楽しめる。とくにクライミングは、人間離れしたムーブに目を奪われがちで「すごい!」ことは分かっても、そこから先がややハードルが高い。ここでは、国際ルートセッターである平嶋元さんに、スポーツクライミング観戦で、どこに注目するとより楽しめるかを伺う。国際ルートセッターとは、その名の通り国際大会でルートを考案する仕事。当然、クライミングに対する知識は豊富だし、課題の作り手こそが観戦のツボを抑えているのでは? 平嶋さんによる「すごい!」の先の一手に手が届く、クライミング観戦ガイドです。

BOULDER
選手の個性が光る創意工夫系

大会によって多少の偏りはあるものの、ここ最近ではバランス系、コーディネーション系、パワー系の3種類に分けられます。それぞれムーブやスピード感なども違うので、その差に注目するのも良いと思います。
ボルダーで面白いのは、選手ごとの個性が出るところ。ある選手の正解が他の選手の正解とは限らない。同じ課題なのに、まったく違うムーブでクリアしてしまうこともあります。また、制限時間内であれば何度でもトライできるので、選手が試行錯誤を繰り返す過程も見どころです。ラスト数秒でクリアしてしまうという逆転劇もありますからね。最近のトレンドとしては、ホールドが大型化していることが挙げられます。大きいホールドを使うことで、動きが立体的になりました。以前は、基本的に観客は選手の背中を見続けることになっていましたが、大型化してホールドが壁から張り出したことで、選手を表に向けることも可能になったし、壁を自在に動きまわれるようにもなりました。
壁そのものの美しさ、というものにもルートセッターとしては注目してほしいですね。パッと観客の前に現れたときに、インパクトがあるかどうかも意識しているし、ホールドのチョイスも熟考します。見た目だけではなく、その壁をクライマーがどう登っていくのか、動きの美しさもイメージしているので、ひとつのショー、アートという見方もできると思います。

BALLANCE
BALANCE
バランス系/ちょっとのミスが命取り

いちばんハラハラドキドキするのが、このバランス系かもしれません。基本的に足場が悪く、ちょっとしたことで落ちてしまうので、重心の位置がとても重要になってきます。最近では身体を180度回転させるようなムーブをさせる課題も増えてきました。選手がお客さんの側を見るので、会場も盛り上がります。選手もイチかバチかなところがあるので、メンタルも試される。それが果たして正解なのか、動きの読みも重要になってきます。

COORDINATION
COORDINATION
コーディネーション系/まるでニンジャなスピード感

最近よくみるのが、大きなホールドの連続移動です。基本的には横にピョンピョンと飛びついていくような動きが多く、スピード感もあって、まるでニンジャのような動きをするので、今回紹介する3つのパターンの中では一番派手かもしれません。最近はツルツルとした新しいタイプのホールドが増えてきていて、見た目通り滑るんですがそれをあえて使わせるような課題もあります。トップ選手ですら、それを嫌がる様子なんかも観客としては見どころかもしれません。

POWER
POWER
パワー系/観客も思わず腕に力が入る!?

パワー系に関しては、コーディネーション系との差別化が難しくなってきていますが、コーディネーション系が横移動だとすると、パワー系は強傾斜の壁に対して、上に向かって体を引き上げていく感じです。瞬間的な最大筋力をいかにだせるか、とういうような力強さを演出するような課題が多いですね。ホールドにしがみついて、上半身をブルブルさせながら捻り上がる感じや、イチかバチかで上に飛び上がる瞬間は、観ている側も思わず手に汗にぎってしまいます。


LEAD
目まぐるしい順位の変動に注目

LEAD

リードは落ちてしまったらそこで終了なので、一発勝負という緊張感があります。スタートからゴールまで一手一手積み重ねていく姿は感動的ですし、もっとも練習を裏切らない種目だと思います。ちょっと持久系のスポーツを見ている感覚もありますね。
観るポイントとしては、得点ゾーンを理解するのが大事だと思います。ゴールまでの最後の10手は4点。そこから下10手は3点という感じで、上に上がれば上がるほど点数が上がる。ただし、最後の10手はひとつひとつの難易度が強烈に高い。だからそのエリアに入ると1手登れるだけでも順位が目まぐるしく変わって行くので、観ている側も興奮します。選手からすれば1手とれれば順位がひっくり返るので必死です。
トップを取れば100点ですが、最近のルートセットの傾向では完登できるのはごく稀です。誰が一番上まで上がれるのか、というシンプルな構図も見やすさのひとつだと思います。


SPEED
出るか新記録&新ムーブ!?

SPEED

次のワールドレコードを誰が出すのか? 世界記録への期待感がある種目です。コースが固定されていて、その中でタイムを競う感じは陸上競技などにも通じるものがあるかもしれません。
いまの世界記録は4秒79。数年前までは5秒切るのが不可能と言われていたので、その進化のスピードがすごいです。ムーブ的には出きっている感もあるんですが、本番に向けて温めている選手もいるので、もしかすると、とんでもないムーブが出てくるかもしれない、というワクワク感もあります。
現在は、インドネシアが超強豪。暑い国だからボルダーやリードに向かないという理由もあって、競技人口が多いんです。また、課題が決まっていて、道具もあまりいらないから、幼少期から取り組みやすい。勝敗がわかりやすく、まるでレースのように観客も熱狂するので、インドネシアではスピードが大人気です。ただ、現在の世界記録保持者はアメリカの選手。インドネシア一強から変わり始めているタイミングで、どの国の選手も強い。番狂わせなんかもありそうな予感がしますね。

平嶋 元

日本を代表する国際ルートセッター。国内外の数多くのボルダー主要大会でルートセットを担い、競技シーンを牽引してきた。

ILLUSTRATION BY Akane Fukazawa
TEXT BY Takashi Sakurai
EDIT BY Kota Miguro