THE NORTH FACE®
CONTENTS NO.03 THE STORY ABOUT THE UNIFORM DEVELOPED FOR 2024
CONTENTS NO.
03

THE STORY ABOUT THE
UNIFORM DEVELOPED FOR 2024
2024.07.09

アスリートファーストと地球環境への配慮を追求した
クライミング用公式ユニフォームができるまで

この夏、THE NORTH FACEが日本、アメリカ、オーストリア、そして韓国の代表に選ばれたクライマーたちに提供するのは、これからの脱炭素社会の実現を目指して世界で初めて実用化された、CO2由来の新素材が採用されたユニフォームだ。開発コンセプトとして掲げた「EMOTION OF CLIMB」、「BETTER THAN NAKED」、そして「NEW CIRCULATION」という3つの軸に沿い、デザインを担当したTHE NORTH FACEのアメリカと日本のチーム、および素材の開発を担ったコンソーシアムの担当者から聞いたユニフォームの開発ストーリーをご紹介しよう。

クライミング用公式ユニフォーム

EMOTION OF CLIMB

クライミングを愛するすべての人にサプライズを届ける
ダイナミックに描いた山々のグラフィック

まずは、日本代表チームのためにデザインされたユニフォームをご覧いただきたい。パッと目をひくのは、全面に施された鮮やかなグラフィック。今回のユニフォームを製作する上で開発者たちが意識したのは、従来のユニフォームの概念を覆すような、驚きと感動を伴うデザインだ。日本以外にアメリカ、韓国、オーストリアの代表チームのために製作されたユニフォームはいずれも、「気づきと驚き」をデザインコンセプトに掲げている。各国の特徴的な風景や風土を象徴する山の姿をグラフィカルにプリントしたもので、これまでのユニフォームにはなかった大胆なグラフィックが、サポーターに視覚的なインパクトを与える。

「これまでのユニフォームはそれぞれのスポーツにおけるスタンダードな表現や各国の普遍的な価値観に則ってデザインされることが多かったと思います。そうした方向性もリサーチしましたが、今回のユニフォームデザインにおいてはTNE NORTH FACEというブランドのDNAでもあるカウンターカルチャー的な要素や、既存の価値観を打ち壊すような反逆的な精神をもう一度表現したいと思ったんです。私たちが心を動かされたのは、たとえば、1992年の夏、リトアニアのバスケットボールチームがバルセロナで披露した、これまでとはまったくスタイルの異なるユニフォームです。マイケル・ジョーダンやマジック・ジョンソンらを擁する、アメリカの“ドリーム・チーム”と準決勝で対戦したリトアニアチームは、ユニフォームによって、いかにも“場違いな”エネルギーを表現していました。同様に、ブランド初期のTHE NORTH FACEも常に、一般的ではない、既定路線から外れたものごとにインスピレーションを得ていました。今回、私たちもこのような反逆的なアプローチでデザインしてみようと考えたのです」(THE NORTH FACE / USA)

グラフィック グラフィック グラフィック グラフィック

今回、TNE NORTH FACEが製作したユニフォームには、全面にその国を代表する山-日本の富士山、韓国の漢拏山(ハラルサン)、アメリカのデナリ、そしてオーストリアのグロースグロックナー-のグラフィックが施されている。そのタッチは大胆にして個性的。「いかにも」といったわかりやすいグラフィックでないところがポイントだ。
「日本には瑞牆山のような素晴らしい岩場がたくさんあり、クライマーにはそちらの方が馴染み深いかもしれません。そちらもグラフィックのモチーフの候補にあがりましたが、スポーツクライミングをまったく知らない方に見ていただく機会ということもあり、多くの観客の共感を得られやすい富士山を選びました」(THE NORTH FACE / JAPAN)

どういうタッチで描くかについては、それぞれの国のスタイルや個性を念頭において仕上げていった。たとえば、今回の富士山のイメージは、伝統的な木版画で描かれるフォークアートのような姿だ。木版という工芸がいかに対象物の本質的な美を写し取っているかを意識して、これまでにない富士山を描いている。朝焼けを思わせる色調は、“日出国(ひいずるくに)”と縁起のいい“赤富士”との掛け合わせから。ユニフォームを目にした観客が応援したくなるような、快活さを強調した。
「同様に、アメリカのユニフォームは迷彩柄を思わせる有機的なラインでダイナミックに表現したデナリ。躍動感のある線は、どこか星条旗のストライプを思わせます。漢拏山のアートワークはもっと明確で、この漢拏山は韓国の国旗にある、万物を創造する陰陽のバランスを表しています。ヨーロッパアルプスの一部を成すグロースグロックナーはさまざまなエネルギーに満ちていますが、同時に芸術や音楽の都である点をイメージしながら製作しました」(THE NORTH FACE / USA)

いずれもその国を代表する名峰でありながら、一見するとそれとはわからない。目の前にいるクライマーがこのユニフォームを着用していても、そのグラフィックが何を表しているのか、観客には伝わらないかもしれない。
「ところが、クライマーが壁に張り付き、高みをめざして登っていくと、ユニフォームに描かれた山の頂きがはっきりしてきます。クライマーが遠ざかるにつれ、グラフィックの意味するところが明らかになる。そんな婉曲的な表現で、4つの山の個性を捉えています」(THE NORTH FACE / USA)

BETTER THAN NAKED

いかなるムーブも妨げない!
設計&パターンで、パフォーマンスアップに貢献する

サプライズをもたらすのはグラフィックだけではない。さらなる動きやすさを追求すべく、デザインやディテールもアップデートした。アスリートが着用するユニフォームには、高い機能性が求められるからだ。開発チームが念頭に置いたのは、クライミングに求められるムーブを阻害するような、ネガティブな要素をすべて排除すること。
「アスリートのパフォーマンスの向上に必要なのは、軽量性、しなやかさ、あらゆる動きを妨げないストレッチ性を備えたウエアです。我々は、こうした機能性を最大限に引き出すデザインや設計を行いました」(THE NORTH FACE / JAPAN)

まずはボルダーとリード。それぞれの競技特性と、競技時のアスリートの動きや筋肉の活動を徹底的に解析してニュートラルポジションを算出。ユニフォームの着用がもたらすストレスを限りなく排除し、集中力を低下させないパターン設計を行った。
「トップスの肩から背面にかけて、ストレッチメッシュ素材の切り替えを配し、全体的な通気性の向上を図りました。腹部には動きを妨げないストレッチ性を備えた超軽量の布帛素材を使っていますが、この布帛素材はせり出したホールドにひっかかりにくい仕様になっています。ボトムについては、ダイナミックな腰回りや脚の動きに追従するよう、腰部に、高い通気性とストレッチ性を確保した4wayストレッチのメッシュニットを採用。脚部にはストレッチ性を兼ね備えた超軽量の布帛素材を使用しています」(THE NORTH FACE / JAPAN)
さまざまな素材を効果的に組み合わせたパターンと設計で、設計コンセプトに掲げた「MOTION」「LIGHT STRONG」「COOLING」を実現している。

ユニフォーム
ユニフォーム
ユニフォーム
ユニフォーム

NEW CIRCULATION

二酸化炭素そのものを素材の原料にする未来へ
脱炭素時代実現に向けたポジティブなメッセージ

大胆なグラフィックと機能的なデザインを支える素材もまた、革新的である。肌触りは、一般的なスポーツアパレルに採用されるポリエステル繊維。その実、世界最先端のカーボンリサイクル技術が生み出した、世界初の新素材だという。

気候変動対策として、CO2排出削減への取り組みが進むなか、世界中のあらゆる産業が注目する「カーボンリサイクル技術」はご存知だろうか。CO2を資源として有効活用するこの技術を使えば、理論的には、化石燃料由来の化学品、たとえばポリエステル繊維やペットボトルなどの原料をCO2から製造することが可能になる。この技術を活用した世界最先端の研究・開発の一つを、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業として2020年から進めてきたのが、三菱商事、千代田化工建設等によるコンソーシアム*だ。
*出典:「CO2 を原料とするパラキシレン製造に関する開発に着手」

このコンソーシアムは、CO2を原料としてパラキシレン(ポリエステル繊維やペットボトル用樹脂などに加工される化合物)という素材を製造するためのカーボンリサイクル技術の開発を行っている。もしこの技術が実用化されれば、気候変動の要因とされてきたCO2をむしろ原料として活用することができることになる。たとえば、年間約4,900万トンの需要があるパラキシレンの全量をCO2由来に切り替えたとすると、なんと年間約1.6億トンのCO2を有効活用できる試算だ。

あらたに設けたパイロットプラントでCO2由来のパラキシレンの試験製造を行ってきたが、ついに、その製造に成功したのが昨年、2023年のことだ。
「通常のパラキシレンは、石油から精製された後、複数のプロセス・事業者を経て製造されます。私たちが開発中のカーボンリサイクル技術を使えば、石油からではなくCO2と水素から、たった1プロセスでパラキシレンを製造できるようになります。将来的に商業化された際は、CO2は大気から、また水素は水から作ることが可能となります。つまり大気と水からカーボンネガティブなポリエステルを製造することを目標にしています。このスポーツクライミング用公式ユニフォームに使われているのは、その技術開発のなかで製造された、世界で唯一のCO2から直接合成したパラキシレンのサンプル。同じく脱石油素材であるリニューアブル・バイオ由来の原料とあわせてポリエステル繊維に仕立てています。脱炭素社会実現への第一歩となる画期的な素材を、単に『新原料開発に成功しました!』というような事業報告ではなく、この素材開発へのチャレンジが意味することをメッセージとして広く世間に伝えていく為に、何か象徴的なプロダクトに対して提供したいと考えておりました」(三菱商事地球環境エネルギーグループ次世代エネルギー本部水素インフラ開発部 岡本麻代さん)

将来的なイメージ

そこで誕生したのが、THE NORTH FACEとのコラボレーションだった。世界的なスポーツ大会でアスリートたちが着用するユニフォームとあれば、多くの観衆の目に留まる。世界に向けて、脱炭素社会に向けた力強いメッセージを発信できる。また、大きな“壁”を一つ一つ乗り越えていくというスポーツの意義と、この素材開発にまつわるチャレンジは、どこかリンクするところもある。実際、新素材開発の意義と実現までの困難を知ったTHE NORTH FACE / JAPANのユニフォーム開発担当者らは、この素材が意味することをより多くの人に知ってもらいたいと考えた。

「わたしたちTHE NORTH FACEは、脱炭素社会実現に向けた取り組みを行っています。今回、コンソーシアムからナショナルチームのユニフォーム素材としての提案をいただき、こうしたメッセージを表現する機会としてこれ以上のものはないと感じました。この新素材をユニフォームに取り入れることは、脱炭素社会に向けたメッセージになるだけではありません。環境配慮を可能な限り追求したユニフォームは、アスリートにとっても大きなモチベーションになると考えたのです」(THE NORTH FACE / JAPAN)

ユニフォーム
ユニフォーム

CO2を原料としたパラキシレンはまだ技術開発段階であり、製造されたサンプル量はごく少量であったため、実際のユニフォーム製作にあたってはマスバランス方式*を適用し、植物残渣などのリニューアブル・バイオ原料を活用した。

*原料から製品への流通・加工工程において、バイオ原料等の特定の特性を持った原料がそうでない原料と混合された場合に、その特性を持った原料の投入量に応じて製品の一部に対してその特性を割り当てる手法
*CO2を原料にした新素材は日本代表と韓国代表のユニフォームのみに採用されています。

「バイオ由来品に関しては、今回はサトウキビ廃糖蜜を原料に、インドで製造されたバイオ由来エチレングリコールを使用しています。バイオ原料である植物は、成長する過程において光合成により大気中のCO2を吸収するため、製品を焼却する段階で発生するCO2と相殺され、石油由来原料に比べて排出量が低くなります。また、リニューアブルナフサという原料は、植物油や動物脂肪などの再生可能資源から、近年注目を集めるSAF(持続可能な航空燃料)を製造する際に生じた副生物となります。石油由来原料を代替する3つの原料を、長いバリューチェーンで繋いで加工することで、衣服という最終製品に利用できる形になったのです」(岡本さん)

「ご存知の通り、現在のアパレル業界ではペットボトルなどを原料にしたリサイクルポリエステル繊維を製品に使うなど、環境に配慮した取り組みが進められています。このユニフォームに採用したCO2由来、及びリニューアブル・バイオ由来の新素材は、今後、アパレル産業の脱石油化を促進する環境配慮素材の大きな柱となる可能性を秘めています。今回の取り組みでは、このユニフォームをきっかけに、試合を観戦する多くの人に気候変動を自分ごとに捉えてほしい、環境に向けた取り組みに参加してほしいという思いがあります。実用化に向けてはまだいくつもの課題がありますが、困難を一つずつクリアにしながら、脱炭素社会に向けて前進していきたい。それがユニフォームに込めた私たちのメッセージです」(THE NORTH FACE / JAPAN)

PHOTO BY Shinji Yagi
TEXT BY Ryoko Kuraishi
EDIT BY Anna Hisatsune