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New Material and design which drives circular society
Robert Noble
Founder and Executive Chairman, Noble Environmental Technologies
Robert Noble
Profile

ロバート・ノーブル(Robert Noble)
Noble Environmental Technologies(ノーブル・エンバイロメンタル・テクノロジー)の創設者兼経営執行役会長。建築家、環境デザイナー、工業デザイナー、環境技術アントレプレナーなど多くの肩書きを持ち、環境保全のための取り組みが評価され、米国肺協会のクリーンエアー賞、エジソンアワード、米国肺協会をはじめとする多くの受賞歴を持つ。同社は植物の主成分であり、地球上で最も多く存在する炭水化物であるセルロースを素材とするデザインマテリアル「ECOR」の開発を行っている。

Summary

サステナブル、あるいは循環可能な社会の実現という課題において、私たちの生活を支える衣食住のアップデートはその変革の大きな一歩になるだろう。Noble Environmental Technologiesが研究開発を行うECORは、地球上で最も多く存在する炭水化物であるセルロースを原材料とする、様々な分野で活用可能な全く新しい建築資材である。
この技術の研究開発を行うNoble Environmental Technologiesの創設者、ロバート・ノーブルは、企業間の新しい関係性の構築とサステナビリティをより理解することこそが循環可能な社会を実現するための重要なカギだと語るが、彼の思い描くビジョンとは一体どのようなものなのか。

究極のデザイン・マテリアル

Noble Environmental Technologiesとはどのような会社ですか?

私たちの会社であるNoble Environmental Technologiesは、建築業界をはじめとする様々な産業のための環境テクノロジーを世界規模で商業化するために2005年に設立されました。現在はアメリカに本社を置きつつ、セルビア、オランダ、そして新しく中国に製造拠点とR&Dを持っています。そして、私たちが最初に商業化に成功したテクノロジーと素材はECORと呼ばれるものです。これは紙や段ボール、農業繊維、テキスタイルをはじめとする都市や農場、森林など様々な場所から生まれる廃棄物のセルロースを素材として、建築や家具、日常のプロダクトなど様々な領域で使用することができるパネルへとつくり変えます。私たちはECORを「究極のデザイン・マテリアル」と呼んでおり、100%リサイクル原料からできた完全に再利用可能な素材であり、土に還すことも可能かつ有害物質を含んでいません。また、高い強度を持つだけでなく、事実上、いかなる形や色、そしてテクスチャーをも実現することが可能なのです。ECORは本質的に循環可能であり、素材産業にパラダイムシフトをもたらすと考えています。

ECORはどのような問題意識から生まれたのでしょうか

私は建築家として、建物に含まれる有害物質に関して何年も懸念を抱いてきました。それと同時に、有害物質を含んでおらず、廃棄物から作られる素材を用いたデザインにも関心がありました。これまで、建築家たちはパネルを用いたインテリアデザインをする際に、非常に限られた選択肢しか持ち合わせておらず、合成樹脂やプラスチックなど限られた素材の中でクリエイティブになるように強いられてきました。その中で、建築家とデザイナーがコアとなる新しい素材の製造プロセスに関わることができるようになれば、現状のデザインの基準をひっくり返すことができるのではと強く感じていたのです。これこそが、ECORが究極のデザイン・マテリアルである理由であり、デザイナーには新しいカタチやテクスチャー、構造の可能性を、そして、建築物やインテリアには本当の意味での無限の組み合わせの可能性をもたらすことができるのです。
これに加え、私は長年の取り組みの中で、災害救助やホームレス問題など様々な人々に対する避難住宅の必要性を感じる機会に幾度も遭遇してきました。私はこれまでに、軽量かつ安価で組み立てが容易な建築システムを開発してきましたが、このシステムで使うことのできるパネルは可変的ではなく、コストがかかる上に有害物質をも含み、更にはその土地で生産できないため、効率的な建築システムに用いるのが困難なものでした。ECORはこうした困難な状況にソリューションを与え、避難住宅問題に対して世界規模で循環可能な解決策をもたらすことも可能なのです。

サーキュラリティーを実現するこれからの社会

建築 / 家具業界はどのような環境問題に直面しているのでしょうか?

建築産業も家具産業も同じ環境問題に直面をしています。 製造工程や建設の際に発生する有害物質や、リサイクルできない素材、わずかしか存在しないリサイクル可能な原材料、素材の使用や輸送の際に生じる膨大なCO2の排出、さらにはリサイクル不可能な廃棄物などの問題です。ECORはこうした問題に包括的な解決策を提供します。 この素材は有害物質を一切含んでおらず、100%リサイクル可能で、自然由来かつ、廃棄物の排出量も極少量です。さらには、あらゆる地域で製造できるため、輸送も最低限度で済むのです。

ECORを開発してから、社会の環境に関する関心に何か変化はありましたか?

もちろんです。私たちがビジネスを行なっている全ての国で環境への関心の高まりを感じています。実際、LEED(注 : 建築におけるアメリカの環境性能評価システム)のような環境基準や「ゆりかごからゆりかごへ」(*1)というアイデアのように、様々な共通認識が多くの産業で生まれています。私たちの顧客やパートナーは「サーキュラー・エコノミー」や「サステナビリティ 」といった新しい考え方に真摯に取り組んでいます。また、これらの考え方は、環境問題に取り組むパイオニアだけが積極的に取り組んでいるだけではなく、多くの国々の施策にも取り入れられています。例えば、私たちが生産拠点を持つ中国とオランダでも、サーキュラリティは政府のプログラムに採用されており、企業や政府の取り組む開発では公式責任として指定されています。

(*1)
「ゆりかごからゆりかごへ (Cradle to Cradle)」は建築家 ウィリアム・マクダナーと化学者 マイケル・ブラウンガートによって90年代に考案された完全循環型の設計思想。従来の「ゆりかごから墓場へ」という大量生産・大量廃棄型の経済モデルではなく、作ったものを原料として再利用できるようなサイクルを意味する。

廃棄物が素材へと生まれ変わるサーキュラー・エコノミーが浸透した社会では、産業やマーケットはどのように変化すると思いますか?

デザインは、作る側や使い手の環境に対する理解やマーケットが求める需要に応じて生まれます。つまり、そこに関わる全ての人が、サーキュラリティや環境、健康に対する理解を深めれば、それに応じてデザインはより良いものになり、良いデザインがさらなる環境への理解をもたらすでしょう。つまり、ライフスタイルがデザインに影響を与え、デザインがその姿勢や理念を更に発展させるのです。また、サーキュラーな視点によって素材もより循環可能なものへとシフトし、これまで以上に効率的で様々な用途を持ち、寿命を迎えた後でも容易に再利用できるようなマテリアルが増えると思います。そして、より少ないプロダクトだけが廃棄され、海や森林、大気の汚染は減少するでしょう。
例えば、私たちは「YourCOR」というシステムを持っていますが、この取り組みでは企業や施設などから排出された廃棄物を集め、それらを原料として生み出すECORを用いて、パッケージや家具、照明やディスプレイなど様々なものを作るができます。そして、これらの全てのプロダクトは使用後も再び新しいプロダクトのための原料になるのです。こうした仕組みは実際にAvery Dennisonやアムステルダムのスキポール空港などで実現をしています。

InnerWorkings(*2)や DSM-Niaga(*3)などと協働をしていますが、企業間でコラボレーションすることにはどのような価値があるのでしょうか?

完全に循環可能なモデルの実現には、そのエコシステム全体の協力とパートナーシップが不可欠です。企業は独立した状態では、存在することも完全な循環モデルを実現させることも不可能です。「完全に循環可能な社会」を作るためには、企業が「星座」のように全てのインプットとアウトプットを統合させる必要があります。この「企業間の星座」が実現すれば、より大きくより効率的で完全に統一された1つの生命のような存在になり、素晴らしい結果がもたらされるでしょう。私たちもまた、DSM-Niagaのような先進的な企業と密接に働くことで、私たちの会社のポテンシャルやサステナビリティは最大化されています。

(*2)
InnerWorkingsは世界的大手マーケティング実行企業。幅広い業種に向けて、包括的な企業向けアウトソーシング・ソリューションを提供する。


(*3)
DSM-Niagaは、Niaga社とDSMによって2014年に設立されたジョイントベンチャー。日常のプロダクトを再資源化を念頭に置いた素材構成で製品設計し、100%再資源化を可能にすることをミッションにしている。

自然原理への理解と敬意から生まれる循環可能なより良い世界へ

バイオテクノロジーやその他の最先端技術はどのように私たちの未来を変えると思いますか?

自然現象は循環可能な経済とデザインのためのベストなコンセプトモデルです。また、これらの自然原理は先端技術を用いた新しい素材やプロダクトに応用されるべきでもあります。また、現代の「バイオテクノロジーや最先端テクノロジー」は、これまで以上の広範囲に及ぶ新しい基準や仕様を満たす技術だと言えるでしょう。さらに、技術単体やそこから生まれるものだけではなく、作られるものをどのように修復するのか、そして、これらの新しいテクノロジーをどのように受容し活用するのかということも大切です。
例えば、ECORは産業廃棄物や活用されていない材料を極めてクリーンな製造工程で加工しています。そして完成したプロダクトもまた、ECORを用いた新しいプロダクトを作るためのプロセスにおいて再利用することができるのです。このように、どのような使用段階でも、未来のいかなる時であってもプロダクトは効率的な資源であり、完全に再生可能でなくてはいけません。これこそが完全な循環可能性なのです。

ECORとNoble Environmental Technologiesの最終的なゴールはなんですか?

私たちの目標はとても明確です。1つ目は、私たちの新しいテクノロジーによって、人体に影響を及ぼすことのないクリーンでサーキュラーなプロダクトを生み出すことです。2つ目は、ECORを用いた新しいシステムやプロダクトを作り、人々の生活に大きな変化をもたらすことです。これらの達成によって、人々の生活をより包括的に改善する、新しい建築モデルを生み出すことができるでしょう。

人間と自然はどのような関係性を築くべきだと思いますか?

自然の原理に対する人類の理解と敬意は最優先されるべきです。全ての人間は原則として自然界の生物であり、自然環境に依存しています。更に言えば、自然に対する理解をより深め、敬意を示すことによって、私たちの体験はより豊かなものになるでしょう。私たちが自然を想像した時、そこからは純粋さと美しさ、そして生命のエネルギーを連想します。こうしたイメージを私たちの活動や作るものに取り入れることは、充足感に満ちたものになるはずです。そうしたより良い世界を実現することこそが、私たちの目標なのです。