Letter from Vivien SANSOUR
自然との本来的な
関係性を語る
古来からの種子
自然との
本来的な
関係性を語る
古来からの
種子
ヴィヴィアン・サンスール (Vivien Sansour) は
パレスチナを拠点に活動するアーティストであり、
古くからその土地だけで栽培されてきた野菜の種を保存し、
次の世代に継承するためのプロジェクトに取り組んでいる。
エアルーム種 、伝統種、在来種など、
栽培されてきた経緯などに応じて様々な呼び方が存在するが、
これらの種は、長い年月をかけて栽培される土地の気候風土に適応し、
現在に至るまで一度も絶やされることなく受け継がれてきた自然の恵みである。
植物の多様性の保護にとどまらず、種が受け継いできた文化の記憶の継承や
地球との本来的な関係性の回復、普遍的な人と人の繋がりを探究する彼女の実践は、
環境の未来に対しても新しい視座を示してくれるだろう。
VIVIEN SANSOUR
エルサレム出身。現在はパレスチナのベツレヘムとアメリカのロサンゼルスを拠点に、アーティスト、ストーリーテラー、研究者、自然保護活動家として様々なプロジェクトに取り組む。イメージやスケッチ、フィルム、土、種、植物を用いて、古来から伝わる文化的な物語を現代的な表現を通じて再活性化させ、文化的/政治的な行為として種の保存と農業生物の多様性の保護を提唱している。2014年には、地域農家との共同作業の一環として、パレスチナ・エアルーム・シード・ライブラリーを設立し、シカゴ建築ビエンナーレ、ロンドンのV&A博物館、アイントホーフェンで開催されるダッチ・デザイン・ウィーク、ヴェネツィア・アート・ビエンナーレなど、国際的な舞台で展示を行っている。また、食文化史家、料理人として、絶滅に瀕している作物を「過去の遺物ではなく、生活文化の一部として食卓に戻す」ための活動にも取り組んでいる。このプロジェクトでは、アンソニー・ボーデインやサミ・タミーミーなど権威ある賞を受賞した料理家とのコラボレーションを実現している。https://viviensansour.com
古来から受け継いできた
種を通じて歴史や
世界とつながる
古来から
受け継いできた
種を通じて歴史や
世界とつながる
— パレスチナ・エアルーム・シード・ライブラリーとはどのような組織ですか?また、この取り組みを始めたきっかけを教えてください。
パレスチナ・エアルーム・シード・ライブラリーは、自分自身の歴史と私の民族の物語の一部を汲み上げる試みとして、数年前から始めた活動です。伝統種(*1)の多くは、私たちの祖父母が実践していた栽培方法と同じように、消滅しつつあります。しかし、私たちが残酷な政治的現実の下で生きる中で、種は何世代にもわたって私たちに恵みをもたらす存在であり、自然と共に進化し、人類が食べることを可能にしてきたエアルーム種の恩恵を享受してきました。このような栽培システムの衰退や品種の消滅、そして私たちの文化の喪失を目の当たりにしたとき、私たちの未来を守るためには、この歴史を保護することが急務であると理解しました。そこで私は、種を扱うプラットフォームとして、また、これらの古来から伝わる物語を新しい形で伝えるために、シードライブラリーを立ち上げました。
*1)伝統種
一般的には、各地の気候風土に適応しながらその土地で古くから作
られてきた品種(野菜)を意味する。
パレスチナの埋立地でモロヘイヤの葉摘みのために集まるコミュニティの人々。
— あなたのプロジェクトはパレスチナから始まりましたが、どのように世界に広がったのでしょうか?
パレスチナにおける活動では、リアルな関係性の構築や自分自身のコミュニティの理解に多くの時間を費やしましたが、同時に自分自身や自分の世界観についても事細かに考えました。世界を旅しながら他のコミュニティの一員となることで、自分自身をよりよく理解するとともに、特に私たちに農作物を供給しながらも、計り知れない困難に直面している世界各地の農家の人たちの困難を自分事として捉える機会を得ることができました。このようなコミュニケーションと和やかなアプローチによって、私たちは新しいグローバルデザインにおけるパートナーになれると同時に、経験を通じた知識の交換を行うことができるようになります。さらに、アート、ストーリーテリング、音楽、農業、種の共有、実直な対話などを含めることで、このライブラリーは、世界のあらゆる場所や、地球上での私たちのつながりと歴史を尊重し、尊厳ある生活を送るために同じように取り組んでいる人たちの中に居場所を見つけられるようになったのです。
— 種を文化遺産として守り、農業そのものに疑問を投げかけるあなたのさまざまな活動は、どのように反応があり、受け入れられてきたのでしょうか?
私は世界のあらゆる場所で人々から心温まる歓迎を受け、胸を打たれてきましたが、すべての始まりであるパレスチナでは、特に素晴らしい反応を得ることができました。パレスチナに住むパレスチナ人や世界中に移り住んだ人々が、自分たちの物語を書き、種や一族との関係を伝え続けているのです。グアテマラ、カリフォルニア、パレスチナなど、どこの国の人であってもです。種を交換し、世界中の種の保護者に敬意を表することで、私たちは他の方法では接続できなかった場所と接続することができます。パレスチナがどこにあるのか知らない人もいるかもしれませんが、私たちがつながり、喜びや痛みの心を持ち、困難と闘い、祝福する人間としての経験を話すと、真の絆が生まれます。なぜなら、心がまだ目を閉じていない人は皆、これらのことに共感するからです。植物の素晴らしさは、私たちが誰であるかを思い出させ、感情の寛大さを刺激してくれることです。そのため、私たちは世界のあらゆる地域へこのことを伝えているのです。
派生プロジェクトとして2018年から取り組んでいるTravelling Kitchenでは、
現地で収穫されたものを使った料理を振る舞いながら、コミュニティの人たちと
生物や文化の多様性、その土地の伝承などについて対話を行っている。
この惑星の種、
土壌の住民として
この惑星の種、
土壌の住民として
— あなたの取り組みは自然の多様性を守るためにとても重要な役割
を果たしていると思いますが、それ以外に予期せぬ広がりを感じた
ことはありますか?
もちろんです。アラビア語では子供を「Zaree’a」と言いますが、
これは文字通り「植物」という意味です。また、私たちは伝統種を
「土を知る者」と呼んでいます。この2つの概念は、私の旅の中で
非常に重要な意味を持つようになりました。これらは、私たちは自
然環境から切り離された存在ではなく、実は私たち全員が人類の種
であるということを強調しています。つまり、私たちの生命と、世
界やコミュニティの健全性は、互いにリンクしており、私がパレス
チナで行っていることと、日本で誰かが行っていることが切り離さ
れることはありません。私たちは皆、この惑星の土壌に住む住民で
あり、こうした具体的な理解によって世界を全く新しい方法で見る
ことを可能にします。未来の世代のために、より優しい空間をデザ
インするためには、さらなる勇気と謙虚さが必要なのです。
— 人類の歴史の中で、農業はどのようなものだったのでしょうか?
また今後どのようになっていくと思いますか?
農業について学べば学ぶほど、そのルーツは暴力的であることがわ
かります。自然の景観を変え、それを支配することで発展してきた
のです。そして何よりも重要なのは、人間の生存に対する大きな不
安の結果として発展してきた、ということです。私たちの未来への
挑戦とは、自然をより信頼することができるフードシステムを構築
することであり、これこそが生き延びるための唯一の道であると考
えています。現在のフードシステムではわずかな間しか生き抜くこ
とはできないでしょう。その後のことを考えなければいけません。
だからこそ私たちは、支配するべき、自分たちと切り離された対象
としてではなく、私たちの一部として土壌との関係性を思い出さな
ければいけないのです。食の未来は、私たちがこの問いにどのよう
に答えるかにかかっているのです。
最新プロジェクト、「Public Garden Project」では、自然があるがままでいられる場所作りに取り組んでいる。
多様性と平等に溢れた
自然環境のために
多様性と
平等に溢れた
自然環境のために
— この地球の未来を持続可能なものにするために、私たちはどのよ
うに地球と関わっていけばいいのでしょうか。
私たちは静かに耳を傾けなければなりません。今こそ地球の声に深
く耳を傾ける時なのです。
— 未来の世代に残したい、あなたの理想の風景はどのようなもので
しょうか?
私の理想の風景は、多様性と平等に溢れた風景です。そこでは、動
物や鳥、植物、そして人間のためのスペースが平等に確保されてい
ます。自然をコントロールしようとするのではなく、自然があるが
ままでいられる場所です。今、私はパレスチナでそれを実現するた
めのパブリック・ガーデン・プロジェクトの立ち上げに取り組んで
います。私たちはすでに活動を開始しており、このプロジェクトに
参加したい方や支援したい方、詳細を知りたい方はウェブサイトを
ご覧ください。
www.viviensansour.com