撮り手から見た滑り手の姿。241Familyの斎藤哲と美谷島豪、彼らと時間を共有する機会の多いフォトグラファー原田岳が綴ったSide Story。
先日241 Familyのインタビューに同行させてもらった。
いろんな会話を聞いている中で、彼らがはまっている事や伝えたい物事、大切な話をしている時の顔は本当に良い表情をしていた。時に照れたり、笑ったり、真剣な眼差しで話に夢中になっていた。
長野菅平にGreen.lab という地場産で営むスノーボードブランドがある。241の哲と豪君の2人はそのGreen.labのライダーとしても活動をしている。出会った頃の2人はとても若く、豪君に至っては16歳?だったかな。Green.labは皆ファーマーで生活にエコロジカルであり個性的。彼らからたくさんの刺激をもらう事が多い。ここ数年、僕は食べる物に少々はまっていて、子供が産まれたからかもしれないが、安心安全で責任の持てる食ベ物に興味がわいてきている。簡単に言えば自給自足。滑る時や山や旅先で撮影する時に持って行く飲み物や行動食、そういった物をセルフメイド出来たらなんて素敵なんだろうと考えるとついついニヤニヤしてしまう。そんな生活感だから、当然山行や撮影には少々重たくても楽しむために生鮮物や大きめの鍋、フライパンを持って行ってしまう。決してキャンンプではないのだけれど、それぞれ食事をシェアすれば楽しみも膨らむし、過ごす時間も格別。そういった楽しみを共有して普段より近い距離で会話をする事で互いの考え方や、滑る事への姿勢や熱い思いも聞けたりする。
去年の4月に皆既月食があって"皆既中に滑りたいね"と豪君に相談してみた。
「昼ぐらいから上がって、周辺見て飯でも作りながら夜まで待機しますかね」と流石な答えを返してくれた。それならそうと僕はモチと小豆でお汁粉作戦。
豪君は生麺に生野菜に果物。互いに楽しむには十分すぎる食材を用意してその日のミッションに臨んだ。この日はリフトアクセスで行けるという事もあって背中が割とでかく、ガチャガチャと滑りに行くにはあまり聞かない音が鳴っていた。きっと周りから見ると大分浮いていただろう。豪君とのミッションはこの日がはじめて。オープンマインドで人柄の良い豪君、人見知りで口ベタな僕でも割とすぐに仲良くなれた。日頃から飲み物も自然に近しいというか体に易しい物、あと果物もよく携帯している豪君は、「アルファ米や行動食だけでも良いけど、山行自体やその日を楽しむには体が一番調子よくないと楽しくないですから。その日の行動や滑るラインにも影響するし、食べ物には特に気を使ってますかねー」と答えてくれたのを覚えている。その通りかもしれない、体やメンタルが調子よくなければ正しい判断を瞬時に出来なくなる可能性もあるし、滑る事に関して言えば正しい判断が出来なければ、取り返しのつかない事になりかねない。詳しい事はわからないけど、多分そうなんだろう。そとは小雨、視界不良。ちょっとしたアイテムを作って、明るいうちにいろいろ様子をうかがい少々撮影。天気は中々晴れてはくれない。まぁしょうがないという事で、月食が始まるまで大人3人が楽しむにはまぁまぁ狭いスペースに戻る。
まな板を出して野菜を切る。なかなかな大きい鍋とガスで飯を作る。最近流行のUL"ウルトラライト"なんか気にもせず、自己流ライトを駆使して少々標高の高い所での宴を楽しむことにした。月食が始まる頃には晴れるであろうという淡い期待もむなしく曇天模様。夜になりかなり冷え込んできたが、しっかり食事を捕った体は熱を帯びてすごい暖まっていた。暗がりで多少の月光はあったのだが、ほぼほぼ見えない細めのアプローチから飛び出すと、真っ暗でピンポイントのランディングというなかなかテクニカルな具合。ランディングするごとに会話を交わしてイメージをすり合わせていく。月食が始まると豪君はがっちりプッシュして撮影を楽しんでいた。結局天気が読めなくて撤収しようと少し戻ってみると雲がスーッと抜けていった。時間は21時前。最大食が21時で月食時間は12分間。皆既中に滑る事なんか今後一切出来ないかもしれない。周りには緩―い斜面なのか道なのか良くわからない広い面しかない。だけどまだ皆既月食中。緩い面をゆっくり滑ることにして、明るくて暗い不思議な空間の中、ヘッドライトを点けた2人が右から左にうねって行き、そしてまた折り返す。100m は無いであろう難しい平たい面を転ばないようにゆっくりと滑る2人の軌跡をファインダー越しに感じることができた。
その後、あまり会話もせず雲が晴れた空を見上げ、以外と疲れたなーとしみじみ思いながら皆既月食の時間を楽しんだ。周りは雲海、もしかしたらしっかり見られたのは僕らだけかも?という良くわからないラッキー感に浸って、いうまでもなく真っ暗な帰り道をガチャガチャ響かせながら暗闇滑走を楽しんだ。
麓に降りる頃には日をまたぐ時間帯で腹も減っていた。あーだ、こーだいろいろ言いましたけど、結局は腹が減ったからと大手牛丼チェーンに吸い込まれてきっちりおいしく頂きました。まぁ、無理なく臨機応変に。つい粘ってしまって帰りが遅くなり車で待たせていたシャカは少々車中でやらかしていたけど、まぁしょうがない、この日は大目に見る事にした。
そうそう、僕は大きな白い犬と暮らしています。いつも連れ回しているので、ボーダーコリーと暮らしている哲の所に行く時もシャカをよく連れて行く。ゆったりとしたベテランの"ブラック"は若くてしつこい"シャカ"を適当にあしらっている。なんとも微笑ましい。牧場で暮らす哲の生活感は個性的で感心させられる事が多い。大変な事も多いと思うけど牧場ライフはとてもワイルドで魅力的だ。241 のウェブページに載っているサンセットミニランプの写真は、記録的な少雪だった昨シーズンだからこそ写せた画かも知れない。普段ならとっくに埋まっている哲の家の前にあるミニランプ。少雪の昨シーズンは埋まる事も無くつねに丸出しだった。丸出しだけどすばらしい夕日が差し込み、遥か向こうに北アルプスが並んでいる。撮る事も好きな哲はファインダーの中の世界を僕に伝えようとするし、僕の世界も理解してくれようとしている。夕日の入り方とか背景とか、撮る角度とか撮る側の事をすげー気にしてくれる。この日のミニランプでの新雪セッションは写していてとても楽しかったし、過ごしている時間がとてもすばらしかった。ブルースカイだった空は次第にオレンジ色に染まりはじめ、時間の流れをいきなり早めていく気がした。ゆっくり流れていた空気はすこし引き締まった空気に変わる。新雪パウダーなのになぜにミニランプという感じだけどメンバーやロケーションでライダーも気持ちが乗ってきていた。ドロップの声、エッジとコーピングのこすれる音、メイクの後の気持ちのいい瞬間。すばらしい自然光のミニランプセッションでテンションは上がり、ドロップする本数も増え高さも増していき、呼吸する音と吐き出す息の白さが、合間合間で訪れる静寂を強調していた。心地のいい緊張感だし何より景色がすばらしい。ついついうっとり魅入ってしまう。暖色から始まる空のグラデーションは何色とも言えない色彩で深い藍色に染まって暗闇の世界を作り出し、終わりの時間が見え隠れしてきた。所謂本番という時間は凄く短くて、そのタイミングで画を残すのは凄く難しい。それまでに出来ていても、いざ今のタイミングっていうときにメイクできなければ、まぁまぁな作品になってしまう。この日は夕日が奇麗になるであろうと予想のもとセッションしていた。
"百万ドルの夕景"と言ってもおかしくない菅平からのマジックアワーを写したかった僕はフィルムのカメラを持ってきていた。フィルムだと後々面倒くさがられるけど、なんだが写る色はとても暖かくて奇麗な気がする。ルーペでフィルムを覗く行為も好きだし、何よりポジフィルムの中の世界は桁違いの彩の世界が広がっている。目視が利く日没まで哲はアプローチし続け、菅平ブルーと言われる深い青空と共演していた。
豪君に哲、個性的な彼らとの過ごす時間を創造するとワクワクする。できればまたそうした時間を過ごしたい。色褪せる事無い素敵な作品を1枚でも多く残せるように、みんなに飽きられないように、またくる冬に備えよう。
Text&Photo:
写心家/信州登山案内人
原田岳