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        INTERVIEW FUMITAKA NOZAKI TRIAL RIDER

        努力の鬼、国内トップライダー
        野崎史高のこれまでとこれから

        オフロードバイク競技のトライアルで、トップクラスに位置する国際A級スーパー(IAS)。そのクラスでゼッケン4番を背負うのが、トライアルライダーの野崎 史高さんである。ゴールドウインモーターサイクルでは昨年から、野崎さんへのウエア開発や提供をおこなっている。11月上旬、2022年のシーズンを終えたばかりの野崎さんの練習現場へと訪れ、これまでとこれから、今シーズンの総評などざっくばらんに話を聞いた。

        野崎 史高

        埼玉県小川町出身のトライアルライダー。父親の影響で、幼少期からトライアルに触れる。自転車トライアルでは、世界選手権10歳以下で2度優勝を経験したのち、10歳の頃からオートバイへ移行。国際B級国際A級最年少記録で昇格。以後20年以上、記録が塗り替えられることはなかった。2001年YAMAHA発動機と契約。2002世界選手権へ行き、FIMトライアル世界選手権、Jrカップクラス、世界チャンピオン獲得。現在でもYAMAHA発動機の契約ライダー国内トップライダーとして活躍しながら、セミナーやスクールを通してトライアルの魅力をもっと多くの人に知ってもらう為の活動をしている。

        埼玉県比企郡小川町。秩父の山々に囲まれた、自然豊かでのどかなこの町にトライアルライダーの野崎 史高さんは住む。ゴールドウインモーターサイクルと野崎さんの関係は、かねてより競技用のグローブを専用に作っていたことに起因する。その繋がりもあって、2021年よりゴールドウインモーターサイクルがオフロード競技に力を入れることになり、野崎さんのスポンサーとしてウエアの開発から提供をすることへと繋がった。今回は、練習風景を取材させてほしいという依頼に対して、快く応えてくれた野崎さんの元へと都内から約1時間半車を走らせた。待ち合わせ場所である自宅近くの公園で待っていると、愛車の“ヤマハ トライアルバイク TYS250Fi”と“ヤマハ トレールバイク セロー250”を積んだ野崎さんが運転するハイエースが姿を現した。

        当日の練習場は、自宅からほど近い里山のコース。父親の友人でトライアルをしている方が所有している山を借りて、度々練習をしている野崎さんにとってお馴染みの練習場だ。練習場へと向かう途中、野崎さんが運転するハイエースの助手席に乗りながら話を聞き始める。

        ― 野崎さんがそもそもトライアルを始めたきっかけは何でしたか?

        「トライアルを趣味でやっていた父親の影響で、幼少期からトライアルが身近にある環境だったんです。僕がまだ三輪車に乗っている頃から大会へ行くのについて行き、影響されて三輪車でトライアルの真似をしていたようです。そんな環境の中で、小学一年生の時に自転車のトライアル競技を始めました。うちの母親が木工所を経営していて、そこの資材置き場が結構広かったこともあり、学校から帰ってくると毎晩そこで夜8時くらいまでひたすら練習をし続ける毎日。その練習の甲斐もあって、あれよあれよと世界選手権に挑戦ができるくらいにまで上達していきましたね。小学3年生の時には、自転車のトライアル世界選手権に出場しに世界4カ国を転戦して、10歳未満の大会で世界チャンピオンを獲れたんです。その翌年も同じく他4カ国を転戦し連覇をして。まだ、その頃は自転車を続けたかった気持ちもありましたが、いずれはバイクをやると決めていたので、世界も獲ったし早い方が良いんじゃないかと周りからも言われて、小学5年生になるタイミングでバイクへと移行した感じですね」。

        ― 知らない人からすると、トライアル競技は危なそうという印象がありますが、子どもの頃は怖くなかったですか?

        「めちゃくちゃ怖かったですよ。子どもの頃は今みたいに力がないから、アタックして落ちたらバイクを支えられなくて、バイクと絡んで落ちていったり、とにかく本当に痛い思いとか怖い思いを何度もしてきて。僕も含め、最初は大体のトップライダーは父親が強制的にやらせているんです。考えてみると、子どもの頃に『バイクに乗りたい』という子ですら珍しいのに、『トライアルをやりたい』という子はまずいないですよね。僕もそうでしたが、大会で勝ったりとか、練習を重ねて出来なかったことが出来るようになったりするうちに楽しくなってくるんです。なので今活躍しているトライアルライダーのほとんどが、きっかけは親の影響だと思います。そうじゃないと無理だと思う。幼い頃からやっていると、数をこなしているので、いろいろな経験や知恵がつきますよね。例えば、40代で初めても国際A級までは誰でもなれると思う。ですが、そこから先にあるスーパーA級になるには、やっぱり子どもの頃からやってないと無理なんじゃないかな」。

        野崎さんは今年で39歳。30年以上もトライアルを続けているということも驚きであるが、やはり途中で辞めてしまうライダーも多くいるという。そんな中、野崎さんはひたむきに日々バイクと向き合い続けてきた。今では、週に3、4回ほど練習し、週末はスクールやイベントに時間をかける生活が続いている。休みの日も洗車や点検などをしている為、バイクを触らない日はほぼ無いようだ。

        そうこうしているうちに練習場へと到着する。練習に関してはいくつかある練習場の中でも目前のレースコースをイメージしながら、どこで練習をするのが効果的かを考えて選んでいく。ここは沢のコースを想定した練習が出来るフィールドだ。ハイエースからバイクを下ろし、ライディングウエアに着替え、毎回欠かさないという準備運動を行って練習を開始した。

        野崎さんが頻繁に通うというこの練習場は、木々が生い茂る山の中。
        この日も鹿を狩る猟師と何度もすれ違うなど、自然の中で行うオフロード競技というトライアルならではの景色がそこには広がっていた。

        練習場に着くと慣れた手つきでハイエースからマシンを降ろす野崎さん。

        ハードに身体を動かす競技なだけに入念な準備体操は欠かせない。

        長く続けることが
        トライアルは大事

        ― この練習場は何度も来ていると思いますが、練習メニューは変えたりしますか?

        「いつも同じところを走る、っていうのはレース前だとやるんですが、普段の練習は変えることが多いです。そもそも、自然の中での練習なので、来る度に状況が変わっていることも多いんです。雨が降った後だと石の位置が変わっていたり、木が倒れていたり。同じことをやっていても条件が違うというのは自然を相手にするトライアルならではの面白さ。やっぱり、静かな自然の中で自分でコースを決めて練習するというのがトライアルの醍醐味だと思う」。

        ― 身の丈ほどある岩を飛び越えていますが、今ではもう恐れは無いですか?

        「痛い思いは何度もしてきましたけど、怪我を恐れていると良い練習にならないんです。トライアルは自然との戦いでもあるし、自分との戦いでもある。それに打ち勝っていかないといけないんです。練習も誰かが見ているパークとか華やかなところでやるということはあまりなく、今日みたいに誰もいないところでストイックにやることが多い。こういう岩を飛び越えるのも、1、2年で出来るようになるものじゃなくて、10年も積み重ねないと飛べないもの。それに練習をしたからといって、世界でも出来る人は限られていますね。今でこそこれぐらいの岩を飛べる人も増えてきましたけど、僕が20代の頃は岩を飛び越えられるような人は世界でも5、6人くらいだったと思う」。

        ― 野崎さんは今39歳で、スポーツ競技としては決して若いとは言えない歳のように思えますが、歳を重ねることでどう変化していきましたか?

        「歳を取るにつれて、上手くなるスピードとか勢いは明らかに鈍っています。10代、20代の頃に比べたら、1、2ヶ月練習したら出来たということが、今だと半年くらいかかったり。若い頃なら『怪我しても良いや』ってアタックしていたのが、『落ちたらやべーな、やめておこう』みたいなことを考えるようにはなりました。でも、若い子たちが勢いで行くところを僕らは知恵を使っていくから、例えば若い子が『まっすぐ行ける』と思っても、僕は『そのまま行ったら滑って失敗することもあるだろうから、リカバリーのことも考えておこう』という二手三手先を想定してアタックします。あとは、長く乗っていると疲れない乗り方も身に付いて来るから、ギアをニュートラルにして止まって手を休ませたりとかしていたり。それが出来ないと、がむしゃらに握り続けると疲れて腕があがってしまいます。そういう走り方だけでなく体の休ませ方を覚えたりと、一歩一歩の細かい積み重ねが経験値として後々生きてくるんです」。

        練習場の様子を見ながら、練習メニューを組み立てる。
        「目前のレース会場をイメージして、二段ステアがあればそれに似たパターンの石があるところで練習したり、沢がある会場だったら沢の練習をします」。

        空中で一回転するエアターンや、沢の中でのウィリージャンプなど様々なテクニックを練習で披露する度、取材班から歓声が上がっていた。

        ― 長く続けられることもトライアルの魅了なんですね。

        「トライアルは本当に他の競技に比べて年齢層が高いスポーツなんです。モトクロスだとどうしても40、50代だとかなり苦しくなって、60代くらいになると乗っている人もかなり少ないですよね。トライアルの場合は、60代もすごく多いんです。70代で乗っている人もいる。僕のスクールの生徒さんでも70歳を過ぎた方もいます。夫婦で乗っているんですが、昔乗っていたとかではなくて60歳を過ぎてからトライアルを始めたみたいで。その方は乗り続けているからとても上手になっています」。

        ― トライアルは飛んだり回転したり。一般的なバイクしか乗ったことのない人からしたらどうやっているのか理解し辛いですが、どう操作しているんですか?

        「トライアルをしたことがない人に何がどう起こって、どう飛んでいるのかを説明するのは難しい。実際にバイクに乗ってもらわらないとわからないですね。家族からも『なんでそんな危ないことをわざわざするの?』ってよく言われるんですが、トライアルをやったことがない人にしてみればそういう感覚だと思います。物理的に説明をするのは難しいですね。でも実際に乗ってみて、感覚として体験してもらえれば何となく難しさや体の動かし方がわかり、それが面白さに繋がると思います」。

        速く走ることよりも止まる、飛ぶという様々な動きがメインとなるトライアルでは、
        通常のバイクよりも空気圧は敢えて低く設定することでグリップ力を高めている。

        野崎さんの愛車“ヤマハ トライアルバイク TYS250Fi”。
        軽量化を図るために、フレーム以外のほとんどのパーツがチタンやアルミに交換された特別仕様となっている。

        結果やモチベーションを
        高めるため
        バイクやウエアへの
        拘りは欠かせない

        ― 野崎さんが乗っているトライアルバイクについて教えてください。

        「僕はヤマハに所属しているのですが、ヤマハにはトライアル専用のエンジンや車体はありません。その為、僕が乗っているバイクは今あるモトクロス用のエンジンをトライアル風に変えている特別な仕様です。トライアルは動きがすごく激しいから、シフトレバーに当たって、勝手にギアを変えてしまったりしない為に、シフトレバーをわざと長くして遠くにつけています。あとは、ステップが通常のバイクよりもだいぶ後ろについているんですよ。通常のバイクは座った時に足が楽な姿勢になる位置にステップがありますが、それだとトライアルの姿勢の場合、膝が前に行ってしまい苦しくなるので、敢えて後ろに付けているんです。あとは、僕のバイクの場合は前傾になりやすいようにステップに傾斜をつけていたりします」。

        ― オフロード競技にも関わらず、泥ひとつ付いていない。綺麗にされていますね。

        「トライアルも走る場所によってはすぐに汚れてしまうんですけど、車体の細々したパーツが光っているのが好きで、普段からよく磨いています。ブレーキとクラッチのレバーとかを磨いてバフ掛けして、鏡面仕上げでレース場に持って行ったりすると、みんなに逆の意味で『忙しいねー』って嫌味を言われます(笑)」。

        ― バイクもそうですが、ウエアにも拘りが見受けられます。

        「身一つでやるスポーツじゃなくて、道具を使うスポーツだから、バイクはやっぱり良いものを使った方がいい。トップクラスの選手はもちろんですが、これは初心者にも言えること。はっきり言って、技術があればどんなバイクでもある程度はできるんです。ですが、技術のない初心者があまり良くないバイクで始めると乗りづらくて仕方ないと思います。乗りやすいバイクで練習した方が覚える速度も速いので、初心者こそ良いバイクに乗った方が良いと僕は薦めています。ウエアもまさにそうで、夏場に暑いウエアを着てやるのと涼しいウエアでやるのとでは、涼しい方が体力の温存にもなって、トライ回数も増えると思うんですよ。僕のウエアも通気性を良くするためにゴールドウインの方に頼んで背中を全面メッシュにしてもらいました」。

        練習場は倒木もあれば、大きな岩もそこら中に転がるワイルドな場所。それらを一度も足を地面に着かずに飛び越えていく野崎さん。

        撮影のために大迫力のテクニックを連続して披露してくれるなど、野崎さんのホスピタリティの高さにはほかのライダーたちから人気を集める理由がわかる。

        ほぼ直角なんじゃないかと思えるほどの巨大な岩さえも登り切るテクニックに、取材班は空いた口が閉まらなかった。

        ― ゴールドウインモーターサイクルと開発したウエアは、どういう部分に拘って作ったのですか?

        「トライアルウエアって、今日着ているみたいにスパッツのような伸縮性のある生地で動きの邪魔せず、とにかく軽い、というのが前提にあるんです。ゴールドウインモーターサイクルでウエアを作るとなった時も、とにかくその2つに拘って欲しいと開発チームの方に伝えていました。このウエアは、富山にあるゴールドウインのテックラボという施設で開発を行ったものですが、全身に装置をつけてもらい、僕がトライアルを走っている姿勢で最も多かったパターンをベースに作っているんです。そうやって人間工学に基づきながら負荷がないように調整をしてもらいました。実際に作ったウエアを着て何度か乗ってみて、ここが気になるという意見を伝えて改良を重ねていった感じです。乗り続けていることで新しく気になることも出てきます。翌年にはまたそれを改良して。それの繰り返しですね。あとは、僕が好きなパープルカラーにしてもらったことも着る上でのモチベーションに繋がっています」。

        ゴールドウイン社創業の地である、富山県小矢部市にある研究開発施設“GOLDWIN TECH LAB (ゴールドウイン テック ラボ)”。ここでは、運動研究室や三次元計測装置などがあるスキャナー室、様々な気象条件を再現できる人工気象室といった研究設備を備えたほか縫製工場も揃うゴールドウインのものづくりの拠点である。

        ― ゴールドウインモーターサイクルもそうですが、野崎さんのウエアを見るとたくさんのスポンサーのロゴが配されていますね。

        「今現在、レース活動にご支援して頂いているスポンサー様のご協力無くしてレースや活動はできません。毎年支援くださるスポンサー様には心より感謝しています」。

        ― そのほかにプロとして長年第一線で活躍していく上で大切なことはありますか?

        「今、僕はスクールを企画して、僕が学んできた技とかを教えたりしてお金を頂いているんですが、そういう企画を自ら作っていくことも大切だと思います。トライアルのスクールのほかにも今、僕が力を入れているのがトレールバイク(セロー250等)を使ったトライアル。いきなりトライアルを始めるのは難易度が高いけど、トレールバイクであれば普段から乗っている人も多い。トレールバイクでも色々な技ができるので、これはトライアルの入り口が広がるんじゃないかと思って始めたんです。形になるまでは5年ほどかかりましたが、継続していくことに関しては僕は慣れているので続けてきたら、今では週末が埋まるくらいスクールができるようになりました。僕の大会に生徒が応援に来てくれたり、そういうことは本当に力になりますよね。こう言う形で応援下さる皆様の力もとても大切です。なんでもそうですが、長い目で見ることが大事で、何でも軌道に乗るまでは3年から5年はかかると思うんです」。

        野崎さんが企画するトレールバイクでのトライアルスクールの様子。

        ― 今年10月23日にスポーツランドSUGOで行われた全日本トライアル選手権の最終戦となる第8戦を終え、今シーズンに幕を閉じたばかりですが、今シーズンを振り返るとどういった一年でしたか?

        「例年であれば7戦レースがあるんですが、今年は大阪でシティトライアルという人工的にコースを作って街中でやるレースが追加されて8戦ありました。全体を通して言うと、優勝することもあれば、2位から5位まで渡り歩いてしまったので今年は波がありました。要因としては、自分の中で練習が不足している時には当然ながら成績が下がってしまいますし、最近乗れたなって思う時は優勝や2位という結果になりました。努力は嘘をつかないという言葉の通りで、自分のライディングがちゃんと出来れば結果が出るので、満足のいくシーズンではなかったけど、まだまだできる事は沢山あるなと感じたシーズンだったかな。来年は、より密に乗り込んで、目標の全日本チャンピオンを狙っていきたいですね」。

        ― そのほかにこれからの課題や目標はありますか?

        「トライアルはオフロードの競技の中でも比較的、燃料の消費量だったりタイヤの消費が少ないこともあるのですが、これからはバイクもガソリン車から電動車に移り変わっていく流れが出てきています。電動車はエンジン車に比べると軽量化もできますが、どうしてもまだ現状はパワー不足が否めません。ですが、最近の進化を見るといずれ電動がエンジンに追いついてくる可能性が高いと思っています。自然の中でトライアルをやるからこそ、自然と向き合っているところが多いので、そういう意味でも電気車両化は業界全体としてやっていくべき課題だと思っています。ここ最近であれば、自分はあと何年レースで戦えるかっていうことを考えることもあります。ただ、自分よりも先輩ライダーで今現役の全日本チャンピオン(小川友幸氏)って僕よりも7歳年上なんですよ。しかも、今年で10連覇しているんです。年齢的にも上の人が上の順位にいる状況なんで、まだまだ自分もやれるって思いますよね。あとは、さっきも話したようにイベント活動やスクールをし続けて、もっと多くの人にトライアルの楽しさを伝えていきたいですね」。

        セロー250のファイナルエディションとなる2020年式YAMAHA SEROW250 FUMITAKA NOZAKI SPECIALは、
        アンフィニグループから数量限定で販売した特別仕様車。

        練習後や試合後は洗車は欠かさない。「乗りっぱなしにしてしまうと謎のトラブルを起こしたりするんですが、乗った後に洗車をちゃんとすると故障箇所にも気付くんです。洗車しながら、覗き込んだりするからネジが緩んでいたり、ヒビが入っていたりに気付くことが多い。だから洗車って凄く重要。レース前だと、さらにピカピカに磨いたり、デカール貼り替えたりもします」と野崎さん。