SPECIAL MESSAGE
AKIRA SASAKI
雪って
実はあたたかいものです
THE NORTH FACE キッズネイチャースクールの
親子スノーイベントへ
講師としてお招きした
THE NORTH FACEアスリートの佐々木明さんは、
雪上でのスキースクールを始める前に、
参加者の皆さんへ、
「雪育」と題し雪にまつわるお話をされました。
「雪って、実はあたたかいものです」
そんなイメージとは真逆の言葉に、
子どもたちは目をキラキラさせながら
聞き入っていました。
佐々木明さんの「雪育」には、
いったいどのような想いが
込められているのでしょうか。
雪育: 「雪ではぐくむ感性」
—雪育とはどのような活動なんでしょうか?
発足自体は仲間のスキーヤーによるものなんですけど、キッカケは北海道内の学校でスキー授業が減ったことに対するアクションだったんです。何かできないかと考えたんですけど、答えは出ず、じゃあスキー授業に乱入して子どもたちを楽しませようってところから始まりました。「今からこのコブ斜面で大破するかメイクするかギリギリのチョッカリをします」とか言って突っ込んで行ってましたね(笑)。
—それは面白いですね!
1本メイクして、「スキーやスノーボードという道具のポテンシャルってすごいですね」とつぶやいて去って行く。そんなおふざけみたいなことも含めて地道にやり続けていたら、札幌市の教育委員会から正式に雪育で授業をやってみてくださいと誘って頂けたんです。
—現在の雪育はどのような進展を?
雪育って決まった形を持っているわけじゃないんですよ。たとえば雪下野菜を掘って食べてみて、なんで雪下野菜は美味しいんだろう? って内容もあれば、雪上トレッキングすることもある。他にもウィンタースポーツには氷を滑る競技もあって、同じ水でも結晶の形や密度の違いでスポーツがこれだけ変わるという内容など、雪育と言いながら水や氷の話に広がってもいますね。あと、雪がなんで白いのかとか。
—楽しそうな内容ばかりですね。ところでなぜ雪は白いんですか?
宇宙から降り注いでくる光には様々な色があって、その中で水はブルーの光を散乱させるから、水に覆われている地球は蒼いし、雪もズボって穴をあけると青白いんですけど、雪印マークのように幾何学的な形をしていてる雪の結晶は、光の90%以上を通す、すごい透度なんですよ。その結晶の集合体に光が入ると光は屈折し合って、フラッシュの様に光るから目には白く写るんです。多重散乱っていう現象なんですけど、言ったら目の錯覚なんですよ。すごいですよね。もしこの世の中が光のない漆黒だとして、そこに雪が降って、自分の眼だけが普段通りに機能するとすれば、足元の遙か下に草や地面が見えて、まるで宙を歩いている感じになるんですよ。それが氷河の上だったら、足元のすべてが透けていてずっと下の方にマンモスが絶対眠っているよっていう話を真剣に小学生へしてます。
—そうした内容を通して、子どもたちに何を伝えようとしているんですか?
感性です。水の循環について触れ、北海道という島、この日本という列島がどれだけスペシャルかを伝えながら、自分たちの住んでいる土地に誇りを持つべきだという感性を育みたいんです。なぜかと言うと、地元の魅力を世代をまたいで伝えていくことでカルチャーとして根付いていくからです。彼らが大人になっていく過程で地元を誇りに思い、さらには日本を大切にしていくような人間に育ってくれたらと願ってます。
佐々木明とスキー: 「スーパーマンになれる場所」
—佐々木さん自身が雪に触れ続けてきたことで得たものとは?
アルペンスキーをやってきたから今があるんですけど、得たものといえば「スーパーマンになれる場所」ですかね。本当に信じられない瞬間がいっぱいあるんですよ。例えばレースに出ていた頃、コースは氷の斜面なんですけど、チェックしている時には「これ滑れないかも……」と思えても、本番でスタートするとバーンバーンって氷を切っていける。自分でもなぜできるのかわからないまま。レース人生の後半になってやっと理論を把握しましたけど、それまでは感性のみですよ。その時に、この2本の道具で俺はスーパーマンになれるんだっていうことをすごく感じました。スキーを履いたらポルシェよりも速いって。実際、谷川岳のドロップ直後の初速でいったらスキーの方が勝ってると思うんで。
—なんとも佐々木さんらしいエッジの効いたエピソードですが、そのピークの世界にまで通ずるスキーとの出会いは?
もともと母親がスキー好きで、レジャーのひとつとして3歳で始めました。けど本当に家族旅行ですよ。地元の函館方面から中山峠とかルスツへ行って、道中、長万部のドライブインで「かにめし」を食べるのがゴールみたいな感じで、楽しくスキーをやってただけですね。当時は大会といえばアルペンしかなかったんで、次第にそっちへ出場するようになったんですけど、ただ元気な滑りをして、平気でコースアウトするわけですよ。それで悔しがることもなく、レーシングスーツのままで滑って遊びまくっていたら、当時のサロモンコーチに「こういうやつが必要だ」って声をかけられたんですよね。
—スーパーマンとのギャップが大きくて意外でした。それでコーチにスキルを叩き込まれていったんですか?
それが最後までスキーの技術について教えてもらったことは一度もないんですよ。やるべきことはスキーを楽しむこと。雨でも吹雪でもどんな時でも楽しくスキーをして、レースは元気にスタートして誰よりも攻めきることだ、としか言われなかった。だから雪が降ってパウダーを滑りに行けば褒めてくれるし、ジャンプして頭から刺さってるのを見てお前は最高だ! みたいに育てられたんです。
—さらに意外ですね!
でもベースがそれだから今の自分があるんですよ。「好き」「楽しい」が何よりの上達条件というか。だからキッズネイチャースクールに講師として参加しても、大事にしていることは、当て込みとスプレーのデカさ。それが男前かってことです。スキーの巧さはそこにあるんだと。
—スプレーのサイズや形は、当て込みやターンの答えでもありますからね。
そうです。それが綺麗であるとかアートであるとか。要はスタイルですよね。アルペン競技は100分の1秒を競うものですけど、そこにカッコつける意識とか、スタイルとかって要素がないといけないと思うんです。結果だけではもはや足りない。だから子どもの頃から、スタイルやカッコよさ、そういったアンテナを張ることが今のアスリートには必要で、そうしたスタイルのある人間を育てていくべきだと思っています。世界を目指しているキッズにも、雪育に参加してくれるコンペティティブじゃない子どもたちにも同じ言葉でそれを伝えています。
—ちなみに雪育やキッズネイチャースクールに参加した子どもたちの反応は?
リピート率がほぼ100%なんで、楽しんでもらえてると感じています。ただ、雪にまつわる学びについては、リピーター相手には同じ話が通用しないんで、自分も学ばないとヤバイんですよ(笑)。
メッセージ: 子どもと共に触れたいかけがえのないモノ
—アルペンレーサーとして活躍し、現在はフリーライディングの世界に身を置きながら、自身でプロデュースする初の映像作品『Akira's Project』の公開を11月に控えている。佐々木さんの人生はどの時代を切り取っても雪と密接ですが、では、今現在の佐々木さんにとって、あらためて「雪」とは?
かけがえのないモノです。地球温暖化でどんどん雪が少なくなったり、一方ですごい降ったりするエリアもあるかもしれないけど、ひょっとしたら滑る時間は短くなっていくかもしれない。そう考えたら、今まで行ってないエリアにも行かないとな、とか、これまでよりも本当に真剣に滑り込まないといけないと思ってます。
—やはり直面されてますか?
白馬のベースに雪が付かないって、これまでの感覚ではあり得ないことですよね。でもそういう状況をまざまざと見せられた年でもあったし、今年の1月10日に骨折をしたうえ、コロナの自粛も重なって、シーズン28日間しか滑れなかったんですよ。だから余計ですよね、雪のあるうちにちゃんと滑ろう、大切に向き合って味わおうって思いを抱くのは。そして次の世代、その次の世代に繋がっていくことを真剣につくっていこうと思わされてます。
—大切にしていかないと本当に逃してしまうかもしれない。そう考えると、「雪育」とは雪で人を育み、雪を自然を育んでいるようでもあります。
そういうサイクルでありたいですよね。まさに雪と出会ったことで最初に与えられたスポーツがスキーで、それが天性の幸せになるツールだったわけです。雪とスキーに育てられ、そこからスノーボードに出会い、その先にサーフィンやスケートボードがあり、ニーボードにも出会って、いろいろな人にも出会えた。だから今現在の生き方に対する考えに至っているんですけど、雪からすべてが繋がっているんです。
—人生のサイクルは、まさに水の循環そのものですね。雪は壮大な物語に広がるということを実感しました。最後に、この冬に雪と触れ合って遊ぶであろう親子の皆さんへメッセージをお願いします。
雪は冷たいとか寒いとかっていうイメージがあるけど、実はあたたかいものなんですよ。ふっくらした雪の中に入った時には風から守ってくれたり、本当に音を吸収してくれるから自分の鼓動や息遣いを感じたりできるんです。実際にそうやって息子と雪に包まれて遊んでいた時、こんなことを言われたんです。「スキーとかスノーボードってスペシャルだよね。人生でずっと続けていけるライフスタイルだよね」って。当時9歳だった息子に、雪を通して自分自身が育てられたなと思いました。だから雪は子どもと一緒に体験するべきです。本当に大切な資源であり、子どもとの絆をつくれるあたたかいものですから。