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LOW
CARBON
EATING

私たちの日々の食事は、
アウトドアフィールドと
つながっている

──これからの低炭素な
食生活について考える

「環境保護」というと、大きなアクションを思い浮かべるかもしれません。しかし、地球温暖化の原因とされる温室効果ガス排出のおよそ3分の1が、私たちの毎日の食生活からきているといえば、どうでしょう? 少し見方を変えれば、私たちは食べることによって、アウトドアフィールドを守ることもできるのです。

私たちの食生活は、
気候変動にどんな影響を
与えていますか?

地球温暖化の大きな要因とされている、世界の温室効果ガス排出量の3分の1は、“食べもの”に関係しています。肉、魚、野菜、さまざまな食材の生産から加工、輸送、消費にいたるまで、何かしらの温室効果ガスを排出しているのですが、中でも特に大きなインパクトを持つのが、エネルギー大量消費型のフードシステムと、食品ロスです。

reference:
Nature Food(2021) M.Crippa,E.Solazzo,D.Guizzardi,et al.“Food systems are responsible for a third of global anthropogenic GHG emissions”

世界の温室効果ガス
排出量のシェア

土地の利用:農地を拡大するために森林を伐採するなど。
農場生産:この多くは牛の飼育に関係しています。肥料の生産や牧草地の管理、牛のげっぷやおなら、排泄物、農機具によるエネルギーの燃焼、農業廃棄物の焼却など。
サプライチェーンのプロセス:加工、輸送、包装、小売など。
食品ロス:規格外や賞味期限・消費期限・販売期限を過ぎたもの、食べ残しなどの廃棄。

フィールドで出合う動植物のように、
食べることで、少しでもサイクルの一部に加わりたい

KOM-I × 山戸ユカ

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フィールドで出合う
動植物のように、
食べることで、
少しでもサイクルの一部に
加わりたい

KOM-I × 山戸ユカ

MEAT

食肉の環境負荷は、
どれくらい?

食べものの中でも、特にカーボンフットプリント(生産から廃棄までのプロセスで排出された温室効果ガスの全体量)の上位にあたるのが食肉であることは、最近よく耳にすることです。 国連食糧農業機関(FAO)によると、世界が排出する温室効果ガス全体の14.5%が畜産によるもので、中でも牛肉や牛乳を生み出す牛が最も多く、65%を占めています。

大規模な畜牛を行うには、トウモロコシなどの飼料を栽培するために、広大な土地とエネルギーと大量の水が必要になり、その分、化学肥料や除草剤などもたくさん使います。現在、世界で15億頭いるとされる牛のげっぷやおならや糞尿、飼料栽培に使用されるチッ素肥料からも、二酸化炭素の25倍以上の温室効果ガスであるメタンが放出されています。

reference:
国連食糧農業機関(FAO)

解決方法としての
プラントベースな
食生活

気候変動を抑えるために、私たちにもできる効果の高い解決法のひとつが、プラントベース(植物性食品中心)の食生活にシフトすることです。これからますます世界人口は増加し、低所得国の経済が成長していくと、さらに肉と乳製品の消費量が大きくなっていくと言われています。

しかし、すべての人がビーガンにならなければ解決できないのか、というと、そうではありません。牛肉を食べる頻度をできるだけ減らし、肉を食べるなら、より環境負荷の少ない鶏肉や豚肉を選ぶことで、2050年には66ギガトンの温室効果ガスを削減できるという予測が立ちます(食生活の変化で26,7ギガトン、回避される森林伐採で39.3ギガトン、合計66ギガトン)。プラントベースな食生活は、影響の大きな気候変動の解決策なのです。

すべての畜牛が
ダメなのではない

ちなみに、気候変動の悪のように言われている牛肉ですが、すべてがダメというわけではありません。牛を飼育場に入れる畜産方法は多くの温室効果ガスを出しますが、「管理放牧」であれば環境負荷を減らすことができます。

「管理放牧」とは、移動する習性のある草食動物の群れが、原野でしていることを模倣した畜産方法。同じ場所で連続して放牧するこれまでの方法だと、“過放牧”となって土がやせてしまうため、計画的に家畜を移動させて草を食んだ場所を回復させる、自然の循環に沿った畜産のあり方です。

SEAFOOD

この先、食べられる魚が
減っていくかもしれません

肉と比べて、魚はカーボンフットプリントが低いとされています。しかし、温暖化による海水温の上昇や酸性化、陸からの汚染(プラスチックごみや農薬・化学肥料など)、乱獲などで、海の生態系が崩れ、これまで私たちが食べてきた魚介類は、最悪の場合、今世紀末には最大でおよそ24%まで減少すると言われています。

また、WWFの「生きている地球レポート」(2015年)では、世界の海洋生物の数は、1970〜2012年の間で、ほぼ半減(49%)したと報告されています。

reference:
IPCC「海洋・雪氷圏特別報告書」(2020)
WWF「LIVING BLUE PLANET」(2015)

海がやせていく、
その原因は?

原因 1

温暖化で、
海水温度が上がっている

海水温が上がることで、魚の生息域が変わっていきます。日本においては、実際にブリやサワラの水揚げが北上しており、2050年には日本周辺のサケの回遊ルートがなくなるという予測があります。

また、サンゴ礁と同様に“海のゆりかご”とも呼ばれ、稚魚が成長するための隠れ場所として重要な役割を担う藻場が消失してしまう「磯焼け」と呼ばれる現象は、アイゴやウニの食害のみならず、海水温の上昇が関わっていることがわかってきました。

reference:
SEAFOOD LEGACY TIMES

原因 2

海が酸性化していく

人間が排出する二酸化炭素のうち、およそ半分が大気に留まり(これが温暖化の原因)、残りの半分を、陸(森林など)と海とが吸収しています。

しかし、排出される二酸化炭素の量が増えすぎていることから、海の酸性化が起こっています。この海の酸性化は、何に影響するのでしょう? 動植物のプランクトン、サンゴ礁、甲殻類など、さまざまな海洋生物の繁殖などに影響がおよび、海の生態系に大きな変化を起こしています。

各数値は炭素重量に換算したもので、黒の矢印及び数値は産業革命前の状態を、赤の矢印及び数値は産業活動に伴い変化した量を表しています。2000~2009年の平均値(億トン炭素)を1年あたりの値で表しています。 source:
IPCC(2013)気象庁ウェブサイトの資料をもとに作成
各数値は炭素重量に換算したもので、黒の矢印及び数値は産業革命前の状態を、赤の矢印及び数値は産業活動に伴い変化した量を表しています。2000~2009年の平均値(億トン炭素)を1年あたりの値で表しています。 source:
IPCC(2013)気象庁ウェブサイトの資料をもとに作成

原因 3

海洋プラスチックが
魚の量を超える

今、町にあふれるプラスチックごみの9割が、リサイクルできておらず、毎年800万トン以上のプラスチックごみが海に流れています。

海の中で細かい破片となったプラスチックごみを魚が食べて、生態系に影響を与えていくだけでなく、いずれはそれを食べる私たちの体に戻ってきます。このままプラスチックごみを海に流し続けると、2050年には海のプラスチックごみが魚の量を超えると言われています。

原因 4

獲りすぎで、
魚が減っていく

世界では34.2%が、乱獲や混獲(必要のない魚まで獲ってしまうこと)されていて、日本においても、この30年ほど漁獲量は減少し続けてきました。一方、日本人の魚の消費量は、世界第3位。およそ半分を輸入に頼っています。こうしたことから、獲りつくすのではなく資源を守りながら必要な分を獲る、持続可能な漁業を進めていくための新しい漁業法が2020年に施行、70年ぶりに改定されました。

海を守るために、
私たちにできること

野菜のオーガニック認証のように、魚にもエコラベルがあるのは知っていますか? 環境や魚たちの回復の速度に合わせた持続可能な漁業で獲られた水産物につけられる「MSC認証」(海のエコラベル)。水質汚染や生態系を乱すなどの問題も潜んでいる養殖にも、持続可能な養殖のエコラベル「ASC認証」があります。国連食糧農業機関(FAO)の新たなレポートでは、2030年には、世界の水産物のうち養殖が占める割合は、現在の46%からさらに増加すると予測されており、どちらの認証もニーズが高まってきています。

そして、すでによく知られていることですが、使い捨てプラスチック製品をできるだけ選ばないことは、海だけでなく、私たちの健康にも関わっています。

海の生きものたちの“集合住宅”でもあるサンゴ礁は、
私たちの食卓をも支えてくれている

喜界島サンゴ礁科学研究所

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海の生きものたちの
“集合住宅”でもある
サンゴ礁は、
私たちの食卓をも
支えてくれている。

喜界島サンゴ礁科学研究所

PLANTS

“土”に目を向けると、
大きな解決策が見えてきます

現在、世界中の人間が住める土地の半分は、農業に使われています。そして、農業に使われている土地の77%が、家畜を飼育するための牧草地や、飼料を栽培するための農地として使われています。飼料作物を効率よく栽培するためには、大きな土地と、化学肥料や殺虫剤など、たくさんの薬品が必要。そして、この化学物質が、土を劣化させる大きな原因となります。

大気中に放出されすぎてしまった二酸化炭素を吸収してくれるのは、陸でいえば植物と土です。そして、土には植物の5倍もの吸収能力があります。ただし、劣化してしまった土には、吸収能力がありません。土を肥沃にすることは、植林よりもずっと効果が高い方法です。

reference:
Our World in Data Hannah Ritchie and Max Roser (2013) - "Land Use"
田中優『地球温暖化 電気の話と、私たちにできること』(扶桑社BOOKS新書)

地中の“微生物”が
救世主

地中には、目には見えない無数の微生物がいます。植物は、根から微生物に栄養を与えることで、微生物により多くの栄養分や水分を集めてもらい、それを吸い上げ強く大きく育っていきます。微生物の働きは、それだけではありません。地中に大きな網のように菌糸を張りめぐらせることで、土壌を侵食されにくくし、水を浸透しやすくする。植物と微生物のやりとりが、土を肥沃にしていきます。

農業の敵とされる“害虫”が発生するのは、この複雑な地中の生命システムが、化学肥料や殺虫剤によって崩れてしまうから。こうしたことが、近年ようやく科学的にも明らかになってきたことで、土壌の手入れをしっかりと行えば、農家は化学肥料と手を切ることができると言われています。

reference:
デヴィッド・モンゴメリー『土と内臓 微生物がつくる世界』(築地書館)
マーリン・シェルドレイク『菌類が世界を救う』(河出書房新社)

“耕さない”農業を
知っていますか?

もともと、大気中の炭素分のおよそ半分は、人間が農業や採掘などで土を掘りおこし、土に蓄えられていた炭素を放出させたり、燃やしたりしたことから排出され、地球温暖化が始まりました。土壌の中の微生物たちに最大限活躍してもらい、地中に炭素を隔離するには、農薬や化学肥料を使わないことだけでなく、「耕さないこと」で、より大きな効果が得られます。

これは、「リジェネラティブ・アグリカルチャー(環境再生型農業)」と呼ばれています。この農法は、大気中の炭素を減らすだけでなく、現在、世界で起こっている土壌侵食と水の枯渇のために使われている年間約46兆円※(4,000億ドル)のコストを削減していきます。

reference:
ポール・ホーケン『ドローダウン』(山と溪谷社)
※2022年2月16日のレート、1ドル115円で換算

家も畑も、アップルパイを焼くように─
タイニーハウス・コミュニティの実験

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FOOD LOSS &
WASTE

私たちは、つくった食べものの
3分の1を捨てています

“食品ロス”は、大きく2つに分けられます。ひとつが、消費される前の「FOOD LOSS(フードロス)」。畑で捨てられる規格外の野菜や、漁獲中や港で捨てられる、値がつかなかった魚などのこと。もうひとつが、小売店やレストラン、家庭から出る「FOOD WASTE(フードウェイスト)」。これには、つくりすぎによる食べ残しや賞味期限切れの食品などが含まれています。

このフードロスとフードウェイストを合わせた世界の食料廃棄量は、年間およそ13億トン。つくった食べものの3分の1もの量を捨てているということになります。

食べものを生産するプロセスにおいてたくさんの温室効果ガスを排出し、これを食べずに廃棄するプロセスでさらに排出するという現象が、世界中で起こっているということ。特に、高所得国では、35%以上の食料が、消費者によって廃棄されています。

reference:
井出留美『食料危機 パンデミック、バッタ、食品ロス』(PHP新書)
ポール・ホーケン『ドローダウン』(山と溪谷社)

飛行機や車と
比べて、
どれくらい?

世界の食品ロスからの温室効果ガス排出量は、飛行機の排出量のおよそ6倍、自動車からの排出量に匹敵するほどのインパクトを持っています。

世界の温室効果ガス
排出量のシェア

日本はどれくらい
食品ロスを
出しているの?

農林水産省が、昨年公表した食品ロス発生量は、年間570万トン(2019年)。その内訳は、事業から出るもの(食品製造や外食、小売など)が54%、家庭から出るものが46%という割合でした。これは、毎日大型(10トン)トラック約1640台分を廃棄していることになります。

日本はほかの国と比べても、生ごみを含めたごみを焼却処分している割合が特に多いため、ごみ焼却に必要なエネルギーや焼却施設の維持費などのコストは年間2兆円(私たちが支払う税です)を超え、焼却する際には多くの温室効果ガスを排出しています。

reference:
井出留美『SDGS時代の食べ方―世界が飢えるのはなぜ?』(ちくまQブックス)

キッチンから、
フィールドを守る

形が不揃いであったり、少々の虫食いがあったり(むしろ、虫も食べたいほどおいしいということ!)、という野菜も少しずつ活用されるようになりつつあり、混獲(漁獲対象ではない小さな魚まで獲ってしまうこと)を減らすための漁業者たちの試行錯誤や、未利用魚を捨てずに活用するレストランなど、その生産プロセスで食品ロスを減らす取り組みがさまざまに広がってきています。

では、私たち一般消費者はどうでしょう? オーガニックの食材を選び、プラントベースを意識した食生活にすること。生産者から野菜を直接買うことで、不揃いの野菜も手に入れられます。そして、冷蔵庫を整理し、買いすぎない、つくりすぎないこと。ベランダや庭にコンポストを設置し、焼却に大きなエネルギーを必要とする生ごみを減らすことも、最も身近でインパクトの大きな環境保全になります。

Illustration: unpis
Edit & Text: Eri Ishida
Design: Masaki Yato
Supervision: Rumi Ide

GREEN IS GOOD

不用になったアイテムを
回収してアップサイクルする「GREEN CYCLE」、
環境負荷を抑えた素材を採用する「GREEN MATERIAL」。
そして、長く大切に使い続けられるものづくりと
リペアをサポートする「GREEN MIND」。

THE NORTH FACEは、
環境への負荷を減らすためのプログラム「GREEN IS GOOD」のもと、
循環型のアイテムをつくっています。