MATERNITY 2022 SS
#1
Machiko Yano
矢野 真知子
THE NORTH FACE / 事業一部 キッズグループMD
家族のかたちも、生活も変わる。
変化の毎日を快適にする選択肢を
THE NORTH FACEのマタニティラインを立ち上げた、キッズグループMDの矢野真知子。2013年に新卒でゴールドウインに入社した矢野ははじめ、自身が商品企画に携わることになるとは思わなかったと言います。大好きなアウトドアのそばで、営業職としてキャリアアップしていくと考えていた彼女が、企画部に異動しマタニティラインの立ち上げを担うこととなったのは、自身の妊娠・出産経験から。
「欲しい物がなかったから、作るしかなかった」進化をつづけるマタニティラインに込めた想いをお届けします。
― 原点にあるアウトドアへの想い
山が好きだった母を中心に、小さい頃から家族で山歩きをしてきた矢野。中学生の頃の遠足という名の北アルプス登山や大学生時代の友人らとの縦走などの経験が彼女をますますアウトドアの虜にし、ゴールドウイン入社後は同僚らとテントを担いで山に登るなど、さらなる自然の楽しみ方を見つけていきました。
配属された営業部では、大好きなアウトドア部門を担当し、2015年7月に結婚。営業の担当も増えて公私ともに充実していた矢野に、双子の妊娠が発覚したのは同年12月。産休・育休を経て、2017年の4月に営業部へと復帰しました。
「子どもを8ヶ月で保育園に預けて職場復帰しました。それまではアウトドアがメインの担当でしたが、子供がいる経験を活かしていければということで、キッズ店舗の担当になりました。
その頃、企画部の社内公募があって、受けてみたらとアドバイスをもらったんです。それまでは自分が企画をやるなんて全く考えたことがなかったのですが、子どもができたことで、子どものアウトドア体験を増やしていきたいという想いを持つようになっていました。せっかくの機会だからとチャレンジし、企画部に異動しました」
― 突然のマタニティ立ち上げ
子どもがくれるチャレンジの機会
当然ながら子育ても初めての経験で、さぐりさぐりで毎日を進んでいく中で、仕事も未経験の企画領域にチャレンジしていった矢野。MDアシスタントとして、企画業務を自分のものにしながら、半年後には帽子類やグローブなどのアクセサリーをメインで担当するようになりました。子育てと仕事、どちらも初めてのことばかりがつづく中で、あっという間に日々が過ぎていく。その頃、企画部の上司が「THE NORTH FACEのアウトドアの機能を生かしたマタニティ製品があればいいのでは」と構想しているとはつゆ知らず。
そんなマタニティラインに転機が訪れたのは2018年7月。THE NORTH FACEの2019年秋冬シーズンテーマが『#SHEMOVESMOUNTAINS』となったことでした。先にグローバルで展開されていた、初めて女性にフォーカスをあてたキャンペーンを、日本でもメインに据えることとなったのです。
「何年か前から女性向けの取り組みはしていたものの、シーズン全体のテーマが女性になることで、女性のスタイリングを展示会で並べたり、カタログでも女性をメインに据えたりと女性へのアプローチを押し出していくこととなりました。そのシーズンに向けた部内のキックオフの場で、マタニティをやるなら今じゃないか、やるなら矢野さんでしょうとズバッと言われたんです(笑)」
そのキックオフは、「次のシーズンはこういったラインナップでいきます」と、企画が進行しているものを共有する場。アウトドアやライフスタイル、キッズなど他のカテゴリーは、決まった方針を発表しているタイミングで、まっさらな状態の新しいカテゴリーそのものを立ち上げる打診がきたといいます。
展示会までは、半年を切っていました。しかし、ブランド全体が女性へアプローチしているこのシーズンのチャンスを逃したくもない。異例のスピード感で、コンセプト設計から製品開発を進めていきました。営業部に職場復帰してから1年余りの期間で、企画部への異動からマタニティラインの立ち上げと次々と舞い降りるチャンスの機会。そのどれもが、子どもがいたからこそ訪れた変化とも言えます。
― どうしても生まれる制限・我慢。
前向きに進む女性を応援したい
当時、企画部唯一の妊娠・出産経験者であったことから、自身の経験から生まれるアイデアをベースに、アウトドアブランドのTHE NORTH FACEならではのマタニティアイテムについて頭を悩ませる日々が続きました。まわりのママたちからも話を聞きながら、少しずつマタニティラインのイメージを膨らませていきます。
「想定以上に妊娠・出産が大変で、負担を軽減したいという思いがありました。また、しばらく山にも行けなくなりますし、好きなスポーツも我慢せざるを得ない。仕事も休まないといけないし、制限されることが多いのも事実です。
女性に向けたシーズンコンセプトを掲げていたこともあって、事業部署内の女性たちでTHE NORTH FACEの描く女性像について話し合いました。普通はペルソナをたてるなどすると思うのですが、しっくりこなくて……。時間をかけて話し合った結果、何か試練があっても前向きに進んでいく人、となりました」
子育ては親にとっても初めてのことだらけで、毎日が試行錯誤。子どもの体調不良などで仕事を休むといった制約も生まれるなど、多くの乗り越えるべきハードルが待ち構える挑戦の日々です。だからこそ、同じように妊娠・出産をきっかけに新しい挑戦をしていく人たちを応援したいと強く思えたのかもしれません。
― 機能とデザイン
本当に欲しいものをつくる
時間がないとは言え、マタニティラインの立ち上げに妥協しなかった矢野。トータルでコーディネートができた方がいいとの思いから、新規アイテムの開発を進めていきました。デビューシーズンは、秋冬。自身の出産が夏だったことから、妊娠期のメインが秋冬だった人からリアルな声を集めました。
「アウターの前が閉まらなくてメンズアイテムを代わりに使っていたり、本当に着たいデザインのものがなかったりと、いろいろな意見をもらいましたね。数ヶ月しか着ないと思うとマタニティアイテムのデザインを諦めてしまいがちですが、産後も着れるものだったらどうだろうとか、妊娠中でもゆとりを持って着用できるダウンコートとかを作りたいとか、実際に欲しいものを起点にアイテムを考えていきました」
ローンチコレクションで一番開発に難儀したのはマタニティダウンコート。通常、アイテムを作るときはベースにするアイテムがありますが、子どもを抱っこして上から着るもの自体が初めてで、型紙がない状態からのスタート。富山にあるゴールドウインのラボに協力を仰ぎつつ、設計チームとデザイナーとともに、集中して構想を形にしていきました。
「とはいえ、THE NORTH FACEらしいアイテムであることも大切にしたかったので、ダウンジャケットのビレイヤーパーカを参考にしています。元々クライミングのビレイ時を想定しているジャケットなのですが、保温性・防風性に優れていてはっ水機能もあります。妊娠中のお腹が大きいお母さんたちを守るためにも、盛り込みたい機能が一緒だったんです」
デビューコレクションで一番開発に苦労したというマタニティダウンコート。現行品はダウン入りの内襟がついて、保温性をアップ。利用者の声を元に、さらに快適に着用できるようアップデートを重ねています
レインコートの試作品を矢野の夫がテストしている様子。納得いくまで使い勝手を調整しました
子どもを背負うと自然の中での自由度がぐっと増します
― 雨の日の楽しみ方が変わる
自由を与えるレインコート
2019年秋冬シーズンに第一弾がデビューし、多くの方々に手にとってもらえたマタニティライン。立ち上げから1年半で、初のユニセックスアイテムであるMTYピッカパックレインコートを発売しました。前にも後ろにも連結できるベビーカバーによって、おんぶにも抱っこにも対応することができます。
「マタニティを立ち上げたときからユニセックスのアイテムは構想にありました。妊娠・出産は全ての人が自身で経験することではありませんが、子育てはあらゆる方に機会があります。産後に子供を抱っこして着用できるアイテムがレディース向けのデザイン、サイズ展開だけでは足りないだろうと思っていました。とはいえ、このレインコートは構造が複雑なことと、雨の侵入を防ぐ機能性と安全面の両立が必須なことから、かなりの開発期間を要しました」
「レインコートというアイテムを出したかったのは、子どもを連れてキャンプに行ったときにおんぶする機会が多かったからなんです。おんぶしていると料理もできるし、食器も洗いに行ける。子どもを連れてキャンプに行こうと思っても、雨だとキャンセルしてしまう方が多いと思うのですが、おんぶしたままテントを立てられたら、できることがぐっと増えると思いませんか? また、下のお子さんをおんぶして保育園に上の子を送るママの姿をたくさん見ていたのですが、みなさんポンチョをかぶっていて。ポンチョは中が真っ暗になってしまうので、一緒に雨を楽しめるレインコートをつくりたいと思いました」
― アイテムひとつで育児は変わる。
家族で楽しむ変化という冒険
THE NORTH FACEが培ってきた機能やデザインが生きる、本当に必要なものだけをつくることを、今後もマタニティの企画でぶれずにやっていきたいと矢野は語ります。女性の社会進出が叫ばれ、妊娠・出産を経て職場に復帰する母も増えてきているいま、THE NORTH FACEに限らず、マタニティの捉え方は社会全体で変わりつつある節目のときです。しかし、男性もさらに育児を担っていくにあたり、それを支えるアイテムやサービスはまだまだ不足しています。
「男性向けの育児アイテムが少ないのが実情です。デザインが、女性向けのフェミニンなものだったり子供向けのかわいいキャラクターものだったりがほとんどなので、男性含め家族で持ちたいと思える育児用品をこれからもつくりたいです。性別によって隔てられることなく、着たいものが着ることができるラインナップを用意していきたいですね」
育児は誰かひとりで担うものではなく、パートナーや家族、友人や職場の人など、まわりの人が支えたい・育児に参加したいと思ったときに、その後押しとなるアイテムがTHE NORTH FACEのマタニティラインでありたいと意気込む。妊娠・出産は確実に家族のかたちを変えていきます。我慢することや諦めることもゼロではないでしょうし、からだの変化は母体に負担を与えます。それでも、その試練を乗り越え変化をまるごと楽しんで前向きに進んでほしい。その願いを込めて、THE NORTH FACEは新しい冒険に向かう家族に、選択肢を提示します。
雨でも子どもとのアウトドアを諦めない。一歩踏み出してみれば、雨ならではの体験が待っているはずです
Interview & Text/Ayumi Yagi
Photo/Chiho Sawada
矢野 真知子
THE NORTH FACE 事業一部 キッズグループMD
好きなアウトドアやスポーツに仕事でも携わりたいと、2013年に株式会社ゴールドウインへ新卒入社。アウトドアブランドの営業職としてキャリアを積み、2015年に結婚、2016年に双子を出産。産休・育休を経て復帰後、企画部へ異動し、自身の妊娠・出産経験を活かして2019年秋冬シーズンにマタニティラインを立ち上げる。現在はマタニティやキッズのアイテム企画に日々奔走中。