平地に雪がちらつき出す10月下旬、半島を横切る知床横断道路全面通行止めの知らせが届く。地元の人にとって、それは長く厳しい冬に備えるサインだ。森の木々が鮮やかに染まり、マスやサケがひしめき合いながら河川を遡上した躍動の秋は別れを告げ、にぎやかだった森の動物たちも穴を掘り長い眠りに就く。
北海道の北東部にある知床半島は、周囲をオホーツク海に囲まれ、山と隣接する特異な地形ゆえに海洋からの影響を強く受ける。世界自然遺産に認められた独自の生態系も、海との関わりがとても深い。
冬、知床の主役はその海からやってくる。豊富な栄養素と、それを求めて回遊する多種多様な動物を引き連れ、1000キロ向こうのシベリアから知床の沿岸までやってくる。
今回、写真家の石川直樹は、知床沿岸に流れ着く流氷のはじまりに立ち会うため、厳冬のロシア・マガダンで身を切りながら「目で、肌で、身体で、流氷の息吹を受け止め」る旅に出かけ、逆に知床在住の小説家、伊藤瑞彦は、知床から「流氷が帰らなくなった世界」を想像してみせる。そして、宮古島出身のアーティスト、新城大地郎は知床の自然に存在する「静かな間」を雪混じりの墨と筆で表現した。
海も陸も山も白一色に包まれる知床の冬は、けっして誰にでも優しい顔をするわけではないが、防寒準備さえ整えば恐れることはない。一面の流氷に沈む夕日の色は、あなたがなぜここまでやって来たのかをあますことなく教えてくれる。