Episode.03haru. HIGH(er)magazine 編集長
3東京藝術大学在学中に「同世代の人たちと一緒に、物事を考える場をつくること」をコンセプトに、インディペンデントマガジン『HIGH(er)magazine』を創刊。本誌で、政治や性、フェミニズムなど、固定概念を捉え直すようなテーマを扱ってきたharu.さん。コロナ禍を経て気候変動についてもより関心を強めているという彼女とともに、海洋ゴミ問題が深刻化している長崎県の五島列島・福江島で高校生たちとビーチの清掃活動を行い、環境問題について話し合いました。
長崎市の西、約100キロの海上に浮かぶ62もの島々からなる五島列島。透き通るコバルトブルーの海と美しい砂浜、そして、潜伏キリシタンにまつわる集落や教会など固有の景観を生みだす歴史的資産が2018年に世界文化遺産に登録されたことで、より観光地としての人気を集めています。しかしその反面、津島海流最上流の影響を受けて漂着する海洋ゴミの問題は、国内の他の漂着地と同様に深刻化。近年、マイクロプラスチックの問題が浮き彫りになったことで、市民によるさまざまな清掃活動が立ち上がり、行政がドローンを用いた調査事業を展開するなどの取り組みが行われています。そんな状況の中で、2018年に長崎県立五島高校の有志の生徒たち(当時、高校2年生)が自主的に立ち上げたのが「マイプラ」という海洋ゴミ問題をプラスに解決してくための研究プロジェクト。海岸の清掃活動をはじめ、回収したゴミでアートのオブジェやアクセサリーを制作、五島市内の高校生が集まり気候変動や海洋ゴミについて意見を交わす「五島市高校生環境シンポジウム」を開催するなど積極的に活動し、第4回全国ユース環境活動発表大会でも環境大臣賞を受賞しました。「マイプラ」は、生徒たちの卒業によって解散しましたが、海洋ゴミ問題をめぐる活動は現在の下級生たちにも受け継がれています。
座談会に参加してくれた長崎県立五島高校の2年生と3年生のみなさん。2年生 川本楓さん、橋本華さん、井上沙英さん3年生 小田寛人さん、谷川夏海さん、真鳥聖花さん
haru.:今日は、五島高校の有志のみんなに集まってもらって福江島のビーチで清掃活動をしました。私と川本さん、橋本さん、井上さんは同じチームで、プラスチックゴミの担当でしたけど、3人は海ゴミの活動に参加したのは初めてだったんですよね?
橋本華(以下、橋本):学校に「総合的な探究の時間」という科目(※文部科学省が新たに改定した学習指導要領。生徒が主体的に課題を設定し、情報の収集や整理・分析をしてまとめる能力の育成のための科目)があるんです。その科目のテーマのひとつに「地元の課題に取り組む」というのがあって、チームを組んでそれぞれ研究テーマを決めるんです。私は、高齢者福祉を選択したのですが、環境問題を扱うチームが海ゴミについて取り組んでいました。
haru.:その研究結果を、みんなの前で発表し合うんですか?
橋本:そうです。
haru.:クラスメートの発表で聞いていたのと、実際に拾ってみるのとでは、何か違いはありましたか?
井上沙英(以下、井上):去年とその前の年の先輩たちが海ゴミの活動をしているというのを知ったときは、「自分もゴミを見つけたら拾おう」とは思いました。私は、普段はあまり海には行かないんです。でも、今日ゴミ拾いに参加して久しぶりに海を見たら、やっぱりきれいだなとは思ったけど、ゴミがいっぱい打ち上げられていて。対照的な光景を目にすると、話を聞いただけではわからないことがたくさんあるんだと気づきました。
川本楓(以下、川本):私も海のゴミ拾いをするのは初めてだったんですけど、道路を掃除することはあって、道路にはタバコの吸い殻がすごく多いんです。でも、海岸にはヨーグルトやお菓子のパッケージみたいな、普通の生活に使うものがたくさん流れてきたので、どうやってここに流れ着いたのか不思議に思いました。
haru.:点滴の管なんかもありましたよね。あと、最初は大きなものを拾っていて、それが何なのかが見てわかるものだったのが、だんだん奥にいくにつれて、もとの形状もわからない細々したプラスチックの破片みたいなものが大量にでてきて……。植物に複雑に絡まって岩の奥のほうに引っかかっているようなのもあった。3年生のみんなは、今年は受験勉強の年だから、あまり活動ができなくなっていると聞いたんですけど、去年は積極的に取り組んでいたんですよね?
小田寛人(以下、小田):僕らのさらに一つ上の先輩たちが、マイクロプラスチックの調査活動を始めて、僕らはそれを受け継ぐ形で始めたんです。僕自身も初めて参加したときは、子どもの頃からずっと五島の海はきれいだと思ってきたけど、それは誰かの手によってきれいにしてもらっていたからだったんだと知ることができました。五島は、観光客もたくさん来るので、観光シーズン目前になると清掃するんだそうです。でも、少し外れた観光客の来ないようなビーチは、すごい量のゴミが打ち上げられたままになっている。そうした五島の海の背景を知れば知るほど、僕らは自分でも気づかないうちに、この問題から目を背けてきていたんじゃないかって。ここに暮らしている僕らがきれいにし続けていくべきだと感じました。
haru.:今日、福江島のビーチでゴミ拾いを始める前に、五島市の行政プロジェクトの一環として、ドローンで海洋ゴミの調査をされているという新木仁士さんが実情を説明してくれましたよね。漂着するゴミの内訳としては、日本と中国と韓国、どれも同じくらいの割合で、五島列島の場合は、漁業に使われている漁具のゴミも多いそうで……。それに、日本のゴミの1/3くらいは地元からでたゴミだと聞いて驚きました。私たちの世代って、ゴミをポイ捨てしないというのが普通の常識になっていると思うんだけど、もっと上の世代の漁師さんたちの中には、使えなくなった漁具を海に捨ててしまう習慣がついてしまっている人もいるんだと聞いて、ずいぶん世代で意識が違うんだなと……、みんなはどう感じてますか?
谷川夏美(以下、谷川):私は、環境問題については、大人よりも中学生や高校生の方が、まだ関心を持って取り組んでくれているなと感じます。大人の参加がないわけではないんですけど、私たちの世代ほどの積極性は感じられなくて。でも、私たち3年生は受験勉強に縛られていたり、コロナで思うように動けない時期でもあって、ゴミ拾い活動があっても去年のように頻繁には参加できないので、大人の方にももっとゴミを拾ってもらいたいなと思うんです。
小田:漁師さんだけじゃなくて、島では軽トラを運転しながらタバコをポイ捨てするおじさんもよく見かけます。
haru.:大人の人たちにも、環境問題に意識的になってもらうには、どうしたらいいんだろうね? 私自身も、自分と同世代や、さらに若い世代の人たちに「一緒に環境問題に取り組もう!」って呼びかけることは、今こうしてみんなと話をしているみたいにそんなにハードルが高いこととは思っていなくて。でも、自分の親やそのさらに上の世代の人たちに、「このままじゃ世界は危ない」って理解してもらうことに難しさを感じてしまう。どう伝えれば、わかってもらえるんだろう?
小田:去年、松本治樹さんという島内の20代の人が、ゲストにダンサーの菅原小春さんを呼んで、島外からもたくさん参加してくれるようなゴミ拾いの大きなイベントを企画してくれたんです。そのときに話していたことですが、上の世代の人たちが汚してしまった海を、次の世代である僕らがきれいに清掃することで、皮肉的ではあるけど気候危機について大人の人たちに啓発することができるんじゃないかって。
haru.:確かに。家に帰って、両親やおじいちゃんおばあちゃんに、「今日こういう活動をしてきたよ」って話をすることも、大事なひとつの方法かもしれないですね。
haru.:これは、五島に限らないことだと思うけど、若い人たちが大学進学を機に、島をどんどん出て行ってしまうという話も聞いて。これまでやってきた海ゴミ活動を継続させていくために考えているようなことってありますか? みんな卒業したら、島を出ていく予定なのかな?
真鳥聖花(以下、真鳥):私は、どの大学にするか、まだ決まっていないんですけど、マイクロプラスチックの影響を受けている海洋生物や植物について研究できる学科のある大学に行きたいと思っているんです。将来、五島に戻ってくるかどうかはわからないけれど、そこで研究したことを五島に還元できたらと。
谷川:私も、子どもの頃から五島の海はきれいだと思い込んできたけど、海ゴミの活動に参加するようになって、いろんな問題に気付くことができたので、環境の分野に進みたいと思うようになりました。
小田:でも、僕らと同世代の人たちの多くは、外に出たら戻ってこなくてもいいと思っていると思います。僕自身も、海ゴミの活動を始めるまでは、五島は嫌だ、早く都会に出たいと思っていましたから……。
haru.:それは、今日他の参加者の子たちも言ってた……。小田くんは、海ゴミ活動で五島のよさに気づけたんですね。
小田:去年はさっきお話したイベントのように、島外の人たちと活動できる機会がたくさんあったんです。島外の人たちのいろんな意見を聞いて、交流を重ねていくうちに、海のきれいさだったりとか、僕らがあたり前に思っていたことがすごく恵まれたことだったんだということに気づけて。五島を再発見することができたのは、自分の手でゴミを拾ったことだけではなくて、島外の人たちとの出会いも大きかったと思います。
haru.:みんなが海ゴミ活動から再発見できた五島のよさって、どんなことでしたか?
橋本:都会に旅行に行くと、初めはショッピングをするのが楽しいんですけど、欲しいものが買えたらすぐに飽きてしまうんです。それで、五島に戻ってきたら友だちもたくさんいて、すれ違う人がたいだい知り合いだから、ほっとして。それが、都会にはない良さなのかなと思います。何か活動するにしても、五島だと輪が広がりやすいと思うから。
小田:僕も、人とのつがながりが強くなるというのは、島ならではの強みだと思います。五島だと、ゴミ拾いで出会った人たちから、また別のプロジェクトに誘ってもらうこともあって。そういうのもすごくいいなと思います。
haru.:東京だと、何かの企画で出会ったとしても、その場限りということの方が多かったりもするから、コミュニティがつくりやすいというのは島ならではのよさかもしれないですね。その島ならではの結束の強さで、世代を越えてゴミ問題に取り組んで、島全体のゴミに対する常識が塗り替えられるところまで行けたらいいよね。みんなは、環境問題全体についてはどういう意識を持っているんですか?
谷川:去年まで、五島高校に環境問題にも取り組んでいるすごくアクティブな先生がいたんです。私も、その先生から声をかけてもらってゴミ拾いや環境学習を始めました。それまで、環境問題のことをそんなに深刻には捉えていなかったけど、100年後予想を見たら、もっともっと積極的に活動しないといけない状況なんだということがわかって……。
haru.:その100年後予想で一番ショックだったのは、どういうことだったんですか?
谷川:温暖化による海面上昇で、五島の誇りでもある砂浜が沈んでなくなってしまうということでした。
haru.:海面上昇によって、住めなくなってしまう生き物だって出てくるはず……。なんだか、悔しいですね。高校生のみんなが環境問題に関心を持って、さらに進学して知識を得て、島に還元したいという思いを抱いているなんて、素晴らしいことだと思うんだけど、逆に大人たちは何をしてきたの?って思ってしまう。五島に限らず大きな括りで見ても、私たちの世代に課せられていることってすごくたくさんあるでしょう? あまりにもいろんな問題を押し付けられていると思ってしまうよね。だからこそ、私たちが率先してやっていくべきだとは思うけど。
谷川:海ゴミ活動に参加したり環境問題について調べたりするうちに、五島でもいろんな環境活動があることを知ったんです。これを途切れさせたくないなとも思うようになって、理科を通じて環境にも興味をもってもらえるような先生になろうと決めました。海ゴミ活動に参加したことで、人生の目標がみつかったので、私たちより下の世代の人たちにも、環境問題って、生活や仕事、あらゆることとつながっているんだというのを伝えていきたいと思って。
小田:「ゴミ拾いって意味あるの?」「対処療法的で、根本解決にはならない」というような意見を耳にすることもあって。でも、僕は長期的に見たら、すごく意味のあることだと思うんです。僕らが、自分の目で見て、手で拾うことでそれまでの固定概念が取り払えて、たくさんのことに気づけたように、僕らが20代になったときに、次は10代の子たちとこれを一緒にやることで、また新たな気づきが生まれる。その循環をつくっていくことが大切なんじゃないかと思うから。
haru.:本当に、そうだよね。一人で解決できることじゃないから、「私たちはこうしていきたい、こんな世界がいい」という原点ともいえる思いに、その時々で立ち返りながらやっていかないといけない。ゴミ拾いは、それを繰り返し確認する作業でもあるんだなと、今日やってみて思いました。それに、自分と同じような思いを持った人たちと出会うこともパワーになるよね。「サスティナブル」に懐疑的な声もあるけど、やっぱりこれは「私たちは地球のことをどうでもいいなんて思っていない」っていう、ひとつの意思表示だと思います。
Profileharu. 『HIGH(er)magazine』編集長/「HUG」代表1995年、宮城県生まれ。小学生の頃から、ドイツと日本を行き来して暮らす。2015年、東京芸術大学入学。在学中に、編集長として同世代のアーティストたちとともにインディペンデント雑誌『HIGH(er)magazine』を創刊。これをきっかけに、多様なブランドとのタイアップコンテンツ制作を行うようになり、2019年6月に株式会社HUGを設立。取締役として、コンテンツプロデュースとアーティストマネジメントの事業を展開し、新しい価値を届けるというミッションに取り組んでいる。
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